SUPER BEAVER
都会のラクダTOUR 2024 ~ セイハッ!ツーツーウラウラ ~
2024.12.4 日本武道館
「我々SUPER BEAVERはライブハウスのみならず、47都道府県、ホールも全制覇して、日本武道館に戻ってまいりました」
SUPER BEAVERが、今年2024年10月~12月に開催したツアー『都会のラクダTOUR 2024 ~ セイハッ!ツーツーウラウラ ~』で、47都道府県のホール公演全制覇を成し遂げた。SUPER BEAVERは、年中ライブを行っている現場至上主義のバンド。一度目のメジャー契約を終えたあと、自主活動となった2011年に年間100本以上のライブを行い、それ以降もバンドの軸足はライブに。自らの手と足を動かして確かめた初心が核心となり、バンドの活動に根付いた。彼らが音楽を鳴らす上で大事にしていることは、あの頃よりも活動規模が大きくなった現在でも変わっていない。実直な歩みの先に、今回の快挙があった。
この記事でレポートするのは、12月4日の日本武道館公演。ツアーの最終日で、SUPER BEAVERにとって今年5度目の武道館公演だった。MCによると、2024年に最も多く武道館のステージに立ったアーティストはSUPER BEAVERなのだそう。今やバンドシーンに特別詳しい人に限らず、多くのリスナーに支持されているSUPER BEAVER。彼らの鳴らすロックサウンドは、人の心を覆い曇らせるあらゆるラベルを引っ剥がし、心の根っこを見つけ、裸のあなたをエンパワーメントする。最初から順風満帆とはいかず冬の時代も経験したバンドマン=いち人間としての目線から、真面目な人の日々の頑張りを讃え、気持ちを引き上げる。そんな音楽を求める気持ちは、きっと誰の心にも訪れ得るものなのだろう。
会場に入ると、老若男女、様々な人たちがステージサイドを含む客席をびっしりと埋めていた。フロアにはライブを待ちきれない人たちの熱気が充満していて、開演時刻が近づくと自然と手拍子が起きる。メンバーがステージにやってきた時点では、客席からはシルエットしか見えない状態。やがて柳沢亮太(Gt)、上杉研太(Ba)、 藤原”36才”広明(Dr)が鳴らし始めたサウンド、渋谷龍太(Vo)の登場に、観客が声を上げて喜んだ。
渋谷龍太(Vo)
バンドの音はダイナミックで、1万人近く入る会場でも、ステージと客席がそう遠くないように感じる。“ライブハウス武道館”という先人の名フレーズがあるが、それって多分こういうこと。3人のセッションを経て柳沢のギターリフから、1曲目の「ひたむき」に突入した。バンドの音を背負いながら「お待たせ」と言った渋谷が「ご唱和いただけますか?」と投げかけると、客席から《いつだって今日が人生のピーク》と大合唱が。続いて、爆発音の特効、藤原の迫りくるような連打から「突破口」が始まると、この曲でも観客が拳を上げたり歌ったりしながらステージへエネルギーを送った。そんな中、渋谷が、ツアーを経て自分たちはやはり「その土地で生きている人の汗や涙とともにオンステージしている」と思ったと語る。「あなたがここに立ってるその意味を、存在を、しっかり見せてくれないと困るよ。最高の一日をあなたと作りに来ました。よろしくお願いします」。一人ひとりにそう伝え、次のブロックに差し掛かった。
おなじみの口上のうち、「ライブハウスから来ました」のフレーズを3回繰り返して「証明」がスタート。《抱きしめあって》という歌詞のところで柳沢が渋谷の肩を抱くなど微笑ましい場面もありつつ、バンドのサウンド、歌声は力強い。はちきれんばかりの熱量を孕んでいる。先ほど渋谷が自分で言っていたように、出会った人たちの想いを背負い、力に変えてステージに立っているのがSUPER BEAVERというバンド。渋谷が目の前にいる人を指差して歌い、歌詞にある《あなた》とは、正真正銘、今この曲を受け取っているあなたなのだと伝える。歌詞のない箇所でも、あなたの心で眠っている感情、ポテンシャルを引き出そうと声を掛け続ける。そして「ファンじゃなくて、お客さんじゃなくて、仲間だと思ってる。愛すべきあなたのお手を拝借」と、「美しい日」冒頭のシンガロング&クラップへ。バンドに活力をもらうオーディエンスと、オーディエンスに活力をもらうバンド。相乗効果によって奏でられる二者のアンサンブルだ。
柳沢亮太(Gt)
5~7曲目では、今年2月リリースのアルバム『音楽』の曲を連続で披露。カッティングギターとスラップベース、回るミラーボールが客席をダンスフロアに変えた「めくばせ」、映像演出でも男女のストーリーを描いたミディアムナンバー「リビング」で風を通したあとの「儚くない」では、スクリーンに歌詞を映しながら、まっすぐにメッセージを届けた。こう思うのはもう何度目か分からないが、改めて思う。渋谷龍太、めちゃくちゃ歌が上手いなと。倍音の豊かな歌声に、言葉尻の繊細なニュアンス。テクニックをひけらかさず、しかしこの歌を伝えるために持てるものは全部使おうという歌唱に、《歪でもいい 無様でもいい ごめん やっぱり思っちゃうよ/生きてこそって 生きていてって》と魂で訴えるラストセクション。自分という人間を歌に注いでいる。
「儚くない」演奏後には、渋谷が今年5本目の武道館公演であることに言及し、「10年前は音楽だけでは飯を食えなくて、6年前に初めて武道館に立ちました。日の丸の下に立ってるなんて、自分自身信じられない気持ちでした」と振り返った。その上で「今はやれて当然だと思ってます。だって、これだけ地に足つけて、音楽を紡いできた俺たちですから。負い目引け目を感じるのは変かなって」と語る。自分たちの活動に対する自負、SUPER BEAVERの歴史は“仲間”と一緒に作り上げてきたという感覚があるからこそ、謙遜はしないのだ。
上杉研太(Ba)
そんなMCのあと、「自分たちの歴史も長いので、今新たに聴いてもらえてたらいいんじゃないかと思って1曲用意してきました。歌ってもいいですか?」と披露されたのは、2012年リリースの「your song」。自主レーベルから出したアルバム『未来の始めかた』の曲を、電球の明かりだけを灯したシンプルなステージから届けた。そして露わになるバンドの骨組み。《君》にどう伝えようか、どんな言葉がいいだろうかと熟考する曲の主人公の姿が、リスナー一人ひとりと向き合ってきたSUPER BEAVERの在り方と重なった。そこに渋谷が絶え間なく連ねる言葉、27クラブをモチーフとした楽曲「27」が重なることで、バンドから“あなた”へと送られるメッセージはより切実さを増していく。バンドの演奏にも、観客が上げる声や拳にも、自然と力がこもった。
ライブ中盤のMCでは柳沢、上杉、藤原もマイクに向かい、和やかにトーク。そして「ここから先の時間、一緒にライブハウスしましょう」という渋谷の呼びかけに、地鳴りのような歓声で応えた観客とともに、ラストスパートをかけた。柳沢→上杉→藤原のソロ回しを観客の掛け声が引き継ぐ構成の「秘密」では、「俺たちとあなたでSUPER BEAVERです」と渋谷。続く「奪還」「切望」でも4人からロックスピリット全開の演奏が届けられ、観客は大いに熱狂した。初っ端から特大のシンガロングが起きた「最前線」では、柳沢はマイクを客席に向け、両手を広げながら観客の声を浴びている。花道に出て全力でベースを弾いたりコーラスをしたりしていた上杉も、ステージ最後方から笑顔を覗かせながらバシッとキメる藤原もとても嬉しそだ。この時点で残り4曲。観客に拍手を送った渋谷は「すごくいい日でした。ありがとうございます」と伝え、次のように語った。
藤原”36才”広明(Dr)
「今一緒に音楽作ってるけども、これからも一緒に頑張ろうとは口が裂けても言えないです。あなたの人生はあなたのものなので。俺とか柳沢とか上杉とか藤原とかSUPER BEAVERが、そのレールに乗っかることはできない。歯を食いしばる時は人それぞれだと思うし、踏ん張るのはあなたにしかできない。だから、その瞬間にSUPER BEAVERの音楽が鳴ったらいいなと思います。何で音楽やってるんだろう? 何で歌ってるんだろう?って思うこと、未だに、どうしてもあります。でも、この場であなたと一緒に音楽を作るためにやってるんだと思う。イコール、“生きててよかったな”と思わせてもらってるの」
「あなたにしか歩けない道、これから先もたくさんあると思います。でも、そこにSUPER BEAVERが鳴っていて、恩人であるあなたが苦しんでいるのなら助けたい。絶対に忘れないで。心の底から大事な仲間だと思ってます。“大丈夫”という言葉の代わりに、あなたの近くにいられる音楽を地に足つけて、腹括って、これからも精進して精一杯やるので、よろしくお願いします。改めてだけど、“あなたたち”じゃなくて“あなた”に歌います」
そんな言葉のあと、深くブレスをとって歌い始めたのは「人として」。さらにバンドの掻き回しを経て、場内が明るくなると、渋谷は一人ひとりの顔を見て、頷き、《愛してる》と歌い始めた。そう、「アイラヴユー」だ。《とにかく届けばいい》の一心で歌い鳴らすバンドも、オーディエンスも凄まじい熱量。歪むギターの余韻を柳沢が自らぶった切ると、藤原のビートに合わせて手拍子が起こる。曲間を繋ぐバンドのサウンドに乗っかって、「俺たちはこの2時間で、あなたがどれだけすごい人間か証明したの。自覚持って。今日を作ったの、あなたですよ。尊敬します」「本日の立役者、一番の貢献者、あなた自身に拍手ください」「控えめになるなよ。自分のためだけだぞ。もっと強く!」と渋谷。
「やってやろうぜ、これからも。あなたにはSUPER BEAVERがついてるし、俺らにはあなたがついてる。これからも、俺らでやってやろうぜ!」
そうしてラストには「小さな革命」、「青い春」が届けられた。シンガロングが響く中、祝福のテープキャノンが放たれ、ライブは終了。去り際には渋谷が「また会おうぜ! 日本全国どこでも行くからな!」と告げる。実際にSUPER BEAVERは日本全国でライブを行っているのだ。こんなにも信頼できる言葉はない。ライブバンドとしての彼らの矜持が、オーディエンスの日常を照らす光となっている。
また、渋谷は「アンコールはしないです。全部やったので。ただ、このあとちょっと……」とも言っていた。意味深な言葉にざわつく客席。そして終演後にはVTRが流れ、6月20・21日のZOZOマリンスタジアム単独公演が発表された。なお、このライブは20周年の第1弾企画らしく、第2弾、第3弾と続きそうな予感。2025年も楽しい年になりそうだ。
取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=青木カズロー
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