『たとえばボクが踊ったら、#006』2024.9.16(MON)大阪・服部緑地野外音楽堂
2024年9月16日(月・祝)、大阪・服部緑地野外音楽堂にて野外音楽フェス『たとえばボクが踊ったら、#006』(以下、『ボク踊』)が開催された。「関西で魅力的なキモチいいフェスしたい」との想いから、2016年にスタートし、番外編を含めると今回で9回目。今年は「ピアノ」がテーマの開催となり、H ZETTRIO、SPECIAL OTHERS、Kan Sano(Band Set)、Mummy-D、luvが出演。この日だけのスペシャルセッションもアナウンスされていたこともあり、多くのオーディエンスが詰めかけた。SPICEでは、初年度から追いかけている『ボク踊』で、今年はいかなるドラマが生まれたのかをたっぷりのライブ写真とともに振り返る。
会場となる服部緑地野外音楽堂は、街中とは思えないほど自然豊かで開放的な公園にあり、新大阪から約15分、東京からでも日帰り可能な好立地。会場には、SAPPORO SOUP CURRY JACKやTAKUMEAT STORE、心斎橋和っかなど名店がそろいフードも充実。イベントのメインビジュアルを手がけるR̾U̾G̾O̾S̾N̾による似顔絵コーナーも設置され、開場と同時に大賑わいに。
毎年、MCを担当しているFM802 DJの加藤真樹子が『UPBEAT!』(月〜木・11:00-14:00)の生放送中のため、この日は主催・夢番地 大野氏が前説を担当。まだお昼過ぎのこの時点で、大野氏のことを知っている人もそうでない人も、ドリンクを掲げてすでに盛り上がっている。イベントの開催に先駆けて公開された、Mummy-DとKan Sanoの対談(https://spice.eplus.jp/articles/331547)でも語られていたが、『ボク踊』は「お客さんがフレンドリー」で、お客さん、アーティスト、スタッフにとっても「他のフェスに比べてホーム感が強い」ところが魅力である。Mummy-Dは「大野フェスだからね」と冗談交じりに称したが、実際にその通りだと思う。この日も加藤に代わって随所で登場した、大野氏の人柄や想いがひとりひとりに伝播して、イベントのフレンドリーでホーム感のある「気持ちいい」ムードが生まれていると言っても過言ではない。
この日、今年のイベントTシャツのほかに、アーカイブもディスカウントで販売されていた。これまでのTシャツを眺めながら「あの時は雨すごかったよなぁ」「この年はまだ出会ってなかったよね」など感想を語りあっている人もいたり、実際に過去開催時のTシャツを着ている観客もいて、常連のファンが多いのも『ボク踊』をホームに思っている人が多い証でもあるはず。
いつもの『ボク踊』らしいホーム感は入場時から変わらない。が、今年は趣向を変えてピアノにフィーチャーしての開催となるため、ステージの中央にはグランドピアノが設置されていた。どんな1日になるのか期待に胸を膨らませて、続々と会場入りする観客たちを迎え入れたのは、WELCOME ACTのluv。2023年6月より活動をスタートしたばかりで、メンバー全員が2003年生まれの現役大学生という新世代バンドだ。颯爽とステージに現れると「Motrr」「Jamlady」と立て続けに披露。さっそくグランドピアノを生かして美しくも力強い音色を響き渡らせる攻めの姿勢も見せるなど、卓越した演奏スキルによるライブで観客を引き込んでいく。
MCではHiyn(Vo.Gt)が「我々クソガキなんですけど、すごい面々と同じステージに立たせてもらって……」と謙遜しながらも、アグレッシブな姿勢は崩さず。その後も「luv’s FUNK」や「Fuwa Fuwa」と畳みかけ、鍵盤の効いた楽曲の数々で踊らせる。早くも服部緑地の熱気がグンと跳ね上がったほど、堂々たるアクトだった。
幕間には、「ナイスグルーヴ!」とluvの奮闘っぷりを讃えながらFM COCOLOのDJ マーキーが登場。大野氏の無茶振りもなんのそので、「たとえばボクが一生懸命やったら!」とフリートークが炸裂。関西が誇るレジェンドDJのサプライズ登場&トークで沸かせた。
温まりきったステージに満を持して登場したのは、関西では初のソロライブとなるMummy-DがDJ DAISHIZENと登場。大歓声と拍手に迎えられながら、「期待の大型新人です」と照れ笑い。RHYMESTERとしては『ボク踊 #002』から出演しているものの、ほぼ初めてのソロでのライブであることを前置きしつつ、「俺の歌い方はラップだけど、俺が文化として表現しようとしているのは……」の言葉から、<ラップじゃないんだ ヒップホップだ>のリリックになだれ込む「O.G.」でライブをスタート。さらに「マイク持つ者よ」と、春にリリースしたソロアルバム『Bars of My Life』から披露。キャリア35年のヒップホップライフが凝縮された、重厚なステージングに観客のテンションはぶち上げ。
しかし、曲が終わると再び照れ笑いをみせ、手持ち無沙汰な様子のMummy-D。するとフロアから「がんばってー!」なんてエールが飛んできて、「お母さんみたいな目で見ないで!(笑)」と振り払う場面も。「(RHYMESTERでは)35年の間、ステージの進行を相方・宇多丸に任せてきたから……」と自虐しつつ、「音楽っていいなって思える日。今日しか観ることができないライブをお届けできたら」と、この後に出演するKan Sanoを呼び込んで「Hardcore Hip Hop Star Part 3」「Spread Love」をコラボ。ラストは「虹色」で、会場をハッピーなムードで包み込んでステージを後にした。
『ボク踊』の醍醐味でもある、たっぷり50分のロングセットにバンドセットで挑んだKan Sano。『ボク踊 #003』から出演しているが、活動休止を経て久しぶりの出演となる。「I MA」から、「大阪でライブするのは久しぶりで。またここに立つことができて嬉しいです!」と喜びを伝えて、今度はアレンジを変えて披露された「Magic!」。Kan Sanoの音楽が持つパワー、ライブができる喜びを増幅させるようにバンドサウンドが鳴り響き、フロアに続々と手が上がる。そのまま「My Girl」が鳴らされた頃には、揺れるフロアの中にluvのメンバーも混じって踊っていた。
「みんなと踊りたい曲があるんです」と披露された「image」では、さらに一体感が生まれる。「Natsume」では手を振りながらハンドマイクで、ひとりひとりと顔を見合わせるように真摯に歌い届ける。バンドメンバーを見送り、グランドピアノに腰掛けるとイベントへの想いを語りはじめた。「大野さんとは10年ぐらいの付き合いなんです。「ピアノフェスやろうや」「Kan Sanoくん、仕切ってや!」とずっと言われてて。コロナ前だったので大昔のような感覚ですが、それが今日叶って感慨深いです。今日、ここでピアノが弾けて嬉しいです」と、格別の想いがあることを伝え、フィッシュマンズの「いかれたBaby」をカバー。みんな、うっとりと聴き耽る印象的な時間に。そして、児玉奈央との「瀬戸際のマーマレード」で、音楽の喜びに満ち溢れた時間を締め括った。
大人も子供も笑って踊れる、超絶技巧ピアノトリオ・H ZETTRIOは、「PARTY TIME」で本番さながらのリハからそのままスタート。なだれ込むように「Something Special」「夜に飛んでいく」を披露すると、緻密かつエネルギッシュな爆裂アンサンブルに大歓声が沸く。演奏だけでなく、ダンスやジェスチャー、椅子に乗り上げたりくるくる回ったりしながらプレイして、視覚的にも盛り上げるパフォーマンスは圧巻!
今度は、H ZETTRIOとおそろいの鼻を付けたMummy-D……ではなく、H ZETT-Dが登場。H ZETTRIOならぬ「H ZET “D” QUARTETTO」として、ライブで披露するのはまだ2回目だったMummy-Dのソロアルバム収録の「Free」をコラボ。「俺たちは自由だ!」と拳を掲げ、観客もそれぞれ好きなように身を揺らす。今度は、Mummy-Dが坂間大介として、ギターリスト・竹内朋康と活動していたユニット・マボロシのデビューシングル「SLOW DOWN!」を披露することを明かすと、会場がどよめく。
20年前の楽曲で、Mummy-Dもライブで披露するのは約10年ぶりだという。H ZETTRIOとは、椎名林檎の「流行」などでマボロシとも縁があることから、この曲が今回披露されることに。あまりにレアな展開に、ここでさらに会場の沸点は上昇。Mummy-Dを見送った後も勢いは衰えず……いや、むしろ勢いは増していく。H ZETT M(Key)がスティックを手に持ちハイハットを打ち鳴らしたり、爆発的な演奏を経て、ラストは「今日の日はさようなら」でフィニッシュ。国内のみならず海外のファンも魅了するライブ力を見せつけた。
そして、大トリを飾るSPECIAL OTHERSの時間が迫った頃、服部緑地に鉛色の空が迫ってくる。雷雨になった際の安全面を考慮して、急きょステージ後方の有料席エリアを開放することを、DJ 加藤真樹子からアナウンスされる。『ボク踊 #001』は2マンで、SPECIAL OTHERSの出演後の転換中に空が暗くなり、後攻のThe Birthdayは豪雨の中でライブを行ったという、歴史に残る伝説のステージがある。スタッフと空模様を見ながら、「チバ(ユウスケ)さんが来てるなって話してた」と加藤は言った。この日、イベントや出演バンドのTシャツのほかに、The BirthdayのTシャツを着ている観客もたくさんいた。『ボク踊』とは切っては切り離せない存在であるからこそ、The Birthdayへの行き場のない想いを抱えていた人もいたはず。だからこそ、加藤のこのMCは観客の心の内を代弁してくれたようで救われた。
日中の暑い日差しが嘘のように、曇天に包まれたが初回のように悪天とはならず、「Wait for The Sun」で最後の幕を開ける。イントロから歓声が起こり、フロアはみるみるうねっていく。暗くなった服部緑地の空に「ORION」の音色が輝き、後方の芝生では子どもたちが駆け回ったり飛び回りながら音を楽しんでいる。打ち鳴らされるメロディーに身を任せていると、悪天も今日までの抱えきれない想いも晴れるような心地に。頭を抱えながら「ずっと聴いていたい……」と息を漏らすようにつぶやく観客もいた。これについては、その場にいたみんなが同じ想いだったはず。まだまだスペアザのライブは序盤だが、「いつまでもずっと続いてほしい」という時間が流れる。
一心不乱に揺れ続けるフロア。「WAVE」から「Puzzle」のラストは爆踊り。ここでようやくのMCで、一息。宮原 “TOYIN” 良太(Dr)は「全部の曲で息が切れて……。めちゃくちゃエモい演奏ができたわ」と話し、芹澤 “REMI” 優真(Key)は「日が暮れてきたスペアザって最高だよね、って言われる。来年もこの場所で、この時期に」と約束をして、最後は「AIMS」で最高のフィナーレへ。
もちろん『ボク踊』はこのままでは終わらない。そのまま出演者全員が登場してのスペシャルセッションへと移行。luvのRosa(Key)がグランドピアノに、Kan Sano、H ZETT Mもキーボードの前に立ち、芹澤と4人の「ピアノで踊ったら、」目の前が滲む程の眩しいハイライト連発のジャムセッションに! それぞれがソロパートで魅せたり、芹澤がH ZETT Mと一緒にひとつのキーボードを奏でたり、Mummy-Dがリリックを紡いだり……フロアもステージも狂喜乱舞の盛り上がりに。自由で、開放的で、感情のままに音楽に身を委ねる、文字通り最高潮に。
いつもの『ボク踊』と同じように、会場を後にする観客ひとりひとりがゴミを拾って帰る様子が印象的だった。ピアノの可能性と、『ボク踊』の可能性をこれでもかと堪能させてくれた、今回の「たとえばピアノで踊ったら」。いつも通り最高に心地よい時間と、忘れられないような興奮の余韻を残して終幕。最後、来年も9月中旬にこの場所で開催を予定していることも発表された。
さらに、2025年2月24日(月祝)には『たとえばボクが踊ったら、#6.5 THANX “UNIVERSE“』が、大阪・味園ユニバースにて開催が決定。The Birthday(クハラカズユキ,ヒライハルキ,フジイケンジ)Guest:渋谷すばる、SPECIAL OTHERS、そしてGLIM SPANKYが出演することも発表された。来年5月をもって閉館が発表されている、大阪・ミナミのシンボル「味園ビル」のユニバースで、それぞれの歴史が交差し、新たなドラマが生まれる瞬間を目撃してほしい。
取材・文=大西健斗 写真=オフィシャル提供(撮影:ハヤシマコ)
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