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Nulbarich 破格のミュージシャンシップに高揚、“物語”の続きを待望させた活動休止前ライブ『CLOSE A CHAPTER』レポート

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Nulbarich

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Nulbarich 『CLOSE A CHAPTER』 at BUDOKAN
2024.12.5 日本武道館

彼らのアリーナクラスのライブで最もバンド感が打ち出されたのが休止前最後のライブだということに、Nulbarichの本質を見た思いがする。2010年代後半の日本の音楽シーンにヒップホップやネオソウル、新しいR&Bなど海外のリアルタイムの音楽と並走する作品を浸透させ、メッセージ以前に音楽そのものでリスナーを揺さぶってきたNulbarich。中心人物でソングライティングを手がけるJQが、バンドメンバーのアンサンブルの数だけユニークな曲を生み出してきた。

コロナ禍でライブ活動が制限され、メンバーやスタッフと会えない中で、自然とそれぞれが別の方向を見つめる時期があった。その間、メンバーはそれぞれ個別の活動に集中し、JQがL.A.に拠点を移すなど、スタイルにも変化が生まれ、次のステップに向けた修行期間として活動休止に踏み切った。

それぞれがミュージシャンとして存在感を増したというポジティブな側面も大きい。そのせいか武道館に集まったオーディエンスに悲壮感はなく、Nulbarichのグッドバイブスをとことん楽しんでやろうという気概の方が大きそうだ。

会場に入ると、横に異常にワイドなステージと12人分のおびただしい楽器やアンプに“本当に12人同時に演奏するんだ”という現実が押し寄せる。クアトロギター、トリプルベース、マニピュレーター、ツインキーボード、ツインドラムがインストでセッションし、背景のワイドLEDには太陽フレアが燃え盛り、スモークも焚かれたSF的な演出を伴い鳴らされた1曲目は、まさにここに降り立った感が際立つ「TOKYO」。ちょっと呆気に取られるスケール感ですかさず「Stop Us Dreaming」へ。JQは広いステージの端から端までオーディエンスとコミュニケーションをとるように歩く、歩く。また、総勢13名のアンサンブルを濁らせず抜群のバランスで出力するPAにも驚かされる。揺れる炎の背景が映し出され、イントロが鳴らされると大きな歓声が上がり長く愛される「NEW ERA」のカラッとしたメロディにクラップもどんどん大きくなり、エレピのソロに拍手が湧き起こる。この日、たびたびメンバーのソロがフィーチャーされ、その度に大きな声援と拍手が起きたのだが、その見せ方もリアクションもまさにバンドならではのダイナミックな見せ場だったのだ。

「鳴り止まないねえ」と、拍手の小ささを煽るJQ。その後も「声ちいさくねぇ」と、オーディエンスに火をつける発言をしていた彼には自身はもちろん、オーディエンスもこんなので休みに入っちゃ後悔するだろうという気持ちがあったんじゃなかろうか。実際、その後は覚醒したようにグルーヴが高まっていたのだから。時間を巻き戻すと、オーディエンスのクラップもパーカッションと化す「Handcuffed」、グッとギターソロを長めにライブアレンジした「Backyard Party」はアメリカンロック色の強い8ビートが豪快。ギタリスト4人のプレイの駆け引きも佇まいも、どこか古のバンドムービーを見ている気分だ。馴染み深い曲たちに続き、まだ新鮮に響く「Lucky」、オールディーズテイストの「SMILE」の映像もアメリカの50年代を思わせるリビング。モノクロのテレビにリアルタイムのJQの姿が映し出され、初めて表情を見ることに。生音のライブアレンジが映える曲ばかりなのだが、意外にジャンルも幅広い。演奏される曲ごとに新しいリズムに体が反応する。

渋めのギターのオブリに乗って煙に見立てたスモークが滑り込む「Cigarette Butt」は演奏も相まってフィルムノワールな雰囲気。そしてアメリカのハイウェイ沿いのレストランがそこにあるような映像演出はワイドな背景を活かし切って見事。このバンドの十八番と言えるレイドバックしたビートの「Spread Butter On My Bread」のノリに最高に合う。ギター、ベースとソロプレイもふんだんに盛り込み、演奏と音に酔う。1曲ごとに映画のシーン並みの情報量と豊穣なアンサンブルが到来し、体を揺らしながらそれらを全身で浴びる体験は実に贅沢だ。JQがドラムをプレイしながらの「JUICE」は心なしかスネアのボリュームがアップしている。小編成のライブではドラム&ボーカルも披露するJQだが、武道館でまさか見られるとは!と、オーディエンスの歓声もひときわ大きくなる。さらに「In Your Pocket」ではバンドのグルーヴにも厚みが出てきた。そこへ馴染みのSEが放たれるとひときわ大きな拍手が起き、グッとタフなライブアレンジになった「Super Sonic」に合わせて誰もが自由に体を動かす。ジャジーなピアノソロに会場中がエネルギーを送るような熱が生まれていた。

武道館全体が生き物のようにうねり始めたところでJQの「飛べそ?」という投げかけから「STEP IT」へ。サビの《Step it, Step it》のリフレインではオーディエンスもバンドメンバーもジャンプ。こんな熱い「STEP IT」は後にも先にもお目にかかれないのでは。一気にクールな音像の最近の楽曲「Liberation」では生音でUKガラージを立体化するリズム隊の手腕に瞠目する。SF的なニュアンスはお馴染みの「Zero Gravity」のイントロを長めのシンセフレーズにアレンジしたことやエフェクトで空間を自在に操るギターで見事に繋げていく。これほどメンバーのプレイのキャラが立ったライブも初めてなんじゃないだろうか。「Zero Gravity」のセッション部分やギターソロパートの長さはまさにロックバンドのライブだ。ストリートを模した映像にカジュアルなJQの佇まいもハマる「Follow Me」と、2ndアルバム『H.O.T』からの選曲が続く。この日、25曲中6曲もこのアルバムからプレイされていたことも、バンド・Nulbarichを象徴している気がした。さらにおそらくギタリスト全員がストラト系のクリーンなカッティングを響かせる「VOICE」の心地よさったらない。

グッドグルーヴとメロディの波状攻撃に酔っていると、JQが「全部みんなのおかげで、全部みんなのせいです」と2回繰り返す。このニュアンスが彼らしい。そこに空気が変わる高らかなギターリフが響き、MCの意味が明かされるように「It’s All For Us」が披露される。《世界がどこに行こうが心配する方が馬鹿らしいや/この場所は変わらない》と歌われると、賛同するように手が挙がった。スケールの大きな音像は「Floatin’」に続き、珍しくステージ最前まで出てギターソロが披露されると、バンドのライブのダイナミズムに会場全体が突き動かされる。上昇を続ける熱が爆発するように、あのカッティングが鳴り響くと会場全体が明転、腹の底から湧き起こるような歓声が満たして「It’s Who We Are」の演奏が躍動する。《また笑顔で会えるそれだけで/It’s Who we are》、これはまさにNulbarichだし、メロディに乗るとこんなに洒脱な曲なのに涙腺が直撃されてしまう。それこそがNulbarichのオリジナリティなのだと改めて確信した。そしてクラップの大きさがより曲をプリミティブに強く響かせた「Kiss You Back」。大編成ならではの新しい体験でもあるし、Nulbarichがアリーナに似合うレパートリーもふんだんに持つことにも気づく。

21曲をほぼノンストップで歌ってきたJQはさすがにマイペースとは言えないようで、「ありがとう。もうわけわかんない感じになっちゃてるわ、こちとら」と本音を吐露。音源より土臭いビート感を漂わせた「A Roller Skating Tour」ではギタリストはセンスをぶつけ合い、JQは力を振り絞って走る。さらに「Almost There」ではステージ上のメンバーがスクリーンに映し出され、JQは「全部ぶちまけろ! 終わっちゃう、なんて気持ちはわかる」と、心の中をもうそのまま言葉として吐き出している感じだし、メンバーもこの会場に渦巻くグルーヴに突き動かされている感じだ。そしてメンバーもオーディエンスもシンガロングして曲のマインドを盛り上げていく「Skyline」で、ライブは一つの到達点を見せたように思えた。

ここまでMCらしいMCをしてこなかったJQが「ああ、もううんざりする。歌歌うのなんてもう飽きたわ。何曲やったっすか? 24曲ぶっ通しですね」と話すと、喜びと笑いが入り混じった歓声と拍手が起こる。飽きるほど歌えたのならいいじゃないかという気もする。曰く、2016年からここまでは一瞬だったと言い、いつも快く参加してくれるメンバーに感謝を述べる。そして今日ここまでの時間を「2時間同じ時間、寿命を共にしたんです。知ってた? 2時間寿命過ぎてますよ。こんな最高な時間の使い方ないよな」と、感傷的になれない表現がむしろNulbarichのライブに来たことを実感させる。「ちなみに次が最後なんだけど、人生悲しい時も楽しい時もあるし、またみんなとどんな時間を共有するかわかんないけど、いつか終わるなら、どうせなら酸っぱい味も甘い味もいっぱいあった方がいいでしょ? 思い出として」と、今ここで言える言葉を残してラストソングの「Sweet and Sour」が披露されたのだった。ここに来てこの曲の普遍性がグッと高まって響いたことはステージの光景とともにしばらく忘れないだろう。

メンバー同士がハグし合い、誰もステージを去らない様子を「見て見て、帰れなくなっちゃってる」と笑いを誘うJQ。ステージにマイクを置く仕草を見せたが「もったいないからやめた!」と、マイクを持ったまま走り去ったのはユーモアか、はたまた本音か。

その後、新曲と思しき「Lights Out feat. Jeremy Quartus」のMVが上映。JQの名前がフィーチャーされているし、MVの内容はバンド演奏もの。これは一体? と考えていたら、ニューアルバム『CLOSE A CHAPTER』のリリースが告知され、先ほどまでの興奮とは異質なざわめきが起こった。アルバムをもって完全に第一章が終わるのか? まだ解明できない嬉しい謎を残して武道館を後にした。

取材・文=石角友香 撮影=岸田哲平

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