撮影=浜村晴奈
「世界の共通言語になる音楽」。滋賀県発の4ピースミクスチャーバンド・Chim ChapのJesse(Vo)は、彼らが目指す道についてこう語ってくれた。彼らの野望達成の足がかりとなるべく2024年10月30日(水)にリリースされた1st EP「ORANGE」には、視線が交わり閃光が走るように恋に落ちた姿を描く1stシングル「スパンコール」をはじめ、「自分の中の何かを手放す歌」と話す全5曲が綴じられている。子どもと大人の過渡期において、何者かにならんとするChim Chapの等身大の姿。自分がガキなことは百も承知の上で、バラバラな4人が集まれば無敵になれる。喜びも苦悩も分かち合えるバンドの楽しさを抱きしめて、誰かの新たな音楽人生の入り口となるために。21歳の今だからこそ鳴らせるフレッシュネスが、ここに炸裂。
Chim Chapが目指す「世界の共通言語になる音楽」
――Jesseさんはスティーヴィー・ワンダーや山下達郎からの影響を受けていると拝見しました。そちらも含め、これまでどのような形で音楽と関わってきたのでしょうか。
両親がジャズミュージシャン、姉がサックスをやっていた影響で、最初はジャズや山下達郎、スティーヴィー・ワンダーで音楽に触れ始めて。とはいえ、様々なジャンルを聴く家族だったので、ジミ・ヘンドリックスやLed Zeppelinなど、ロックも聴ける環境にありました。その後、ドラマーだった父親の影響で3歳ぐらいの時にドラムを始め、どんどん音楽にのめり込んでいったんです。小1のころにはギターを弾き出して、次第にベースやボーカル、作詞作曲にも手を伸ばすようになりました。
――周囲の環境的にはジャズの道へ進むことも考えられると思うのですが、バンドを選んだ理由は何だったのでしょう。
自分で一通りの楽器を演奏できることもあって、当初はソロで活動していく予定だったんですよ。でも、高校で軽音楽部に入ったことで「バンドって良いな」と思った。バンドであれば、音楽をやっていく上で生じる喜びや苦悩も共有できる。それは凄く良いことだと感じていますし、メンバーと気持ちを分かち合うことでより深い音楽ができる気がするんです。
――Chim Chapは高校時代にスリーピースバンドとして結成したところから始動していますし、バンドを始めたことで方向性が定まったんですね。バンド名であるChim Chapは、世界のどの言語でも同じ発音になることから名付けたそうですが、なぜ発音にこだわったんですか?
僕たちは世界の共通言語になる音楽を発信していきたいと強く思っていて。そういう音楽を目指している限り、名前が翻訳されることなくどこへ行っても同じ形で聞こえてくるべきだと考えたんです。Chim Chapの発音は耳に残りますし、世界共通の音楽作りにとって大事なピースだと感じていますね。
ーー世界の共通言語になる音楽というスローガンは、どういったキッカケで生まれたのでしょう。
バンドを始めた当初は浮かびもしなかったんですが、Chim Chapの活動を1年ほど続ける中でパッとこの言葉が出てきたんです。僕はアメリカと日本のハーフで、様々な文化が混じり合った環境で育ってきたから、世界の音楽を融合させたいと感じていた。その思いが、このスローガンには表れているかな。
――世界の共通言語になる音楽は、広く愛されるポップスに近い存在なのかなと推測しました。
凄く難しいところです。ポップスと言えばポップスなんですが、ポップスが苦手な人だっているじゃないですか。だから、そこに限定しているわけではなく、数々の音楽やジャンルを集合させたもののイメージなんですよね。これまでポップスをずっと聴いてきた人がポップなジャズでジャズの魅力に気づくみたいな、何かのキッカケを与えられる音楽ができたらなと。
――ジャンルの入り口になる音楽。
そうですね。今はなかなか聴かれなくなってしまった音楽も、好きな音楽のフィルターを通すことによって、浸透させていきたい。僕のインプットした音楽がChim Chapに入れ込まれることで、僕たちを聴いてくれている人たちにも最初に僕が好きになった曲を好きになってもらえるのが、音楽の綺麗なところだと思うので。
「まだまだ世界を知らない21歳の僕にもできることはあるんじゃないか」
大人になる前に残した1st EP「ORANGE」
――2024年10月30日(水)には1st EP「ORANGE」をリリースされました。1st シングル「スパンコール」、2nd シングル「カシス」が収められていることも含め、切り口が無数に設けられたボリューミーな1枚だと感じています。改めて本作を振り返って、Jesseさんはどのような1枚になったと感じていらっしゃいますか。
初めてのEPなので、今の自分たちを詰め込んだ1枚になったと思っています。とはいえ、今の自分たちと言っても、僕はジャズ、Doiren(Dr)はアニソン、Ryoga(Miyamoto/Ba)はJ-POP、Ryo(Suzuki/Gt)はブルースやカントリーみたいに、それぞれ全く違うジャンルから集まってきているんですよね。そうやってバラバラな出自のメンバーと話し合う中で、メインストリームを狙った一番聴かせたい楽曲をセレクトしていきました。
――ここまでの活動で自信を持って提示できる5曲を詰め込んだ、言わば名刺代わりの1枚になっていると。
そうですね。タイトルの「ORANGE」は、今のChim Chapのイメージカラーであるオレンジに由来していて。自分たちを色で例えたいと思った時に、直感的にオレンジが浮かんできたんですが、段々と色や果物のオレンジだけではない意味がある気がしてきたんです。それがEPに寄せたコメント(※Overthink. ああでもないこうでもないってばっかり。Realization. けど、ボロボロになった心のどっかで気付く。 Abnormalities. 狂ったんは目の前じゃないんやと。 Noise. 雑音しか聴こえへんくなっても、 Gloom. 暗い世の中しか見えへんくなっても、 Evolution. ストーリーは前に進むだけ。)に繋がったんですよね。読んでくれた方が気づいたかどうかは分からないですけど、それぞれのワードの頭文字を取ると“ORANGE“になっている。あのコメントには「環境が変わってしんどい思いをしながらであっても、メンバーとこの先を見つけていく」という思いを込めましたし、まだまだ世界を知らない21歳の僕にもできることはあるんじゃないかって気持ちが詰まっています。
――忘れられずに頭の中で反芻する記憶を味のしなくなったガムと重ねる「チューイングガム」や<幸せになる魔法 いつまでも解けないように 僕ら手繋ぎ合う>と幸福を綴る「マジック」をはじめ、本作には多数のラブソングが収められています。1枚を通じて、ここまでラブソングが登場してくるのは、なぜなのでしょう。
歌詞も曲調もラブソングになると思うんですけど、自分としてはラブソングだとは思っていなくて。もちろん、実体験を交えながら作ったから完全にラブソングじゃないと言い切ることはできないけれど、大好きな人を手放す歌ではなく自分の中の何かを手放す歌なんですよね。だから言ってしまえば、自分に向けてのラブソングなのかな。
――なるほど。今作の楽曲タイトルはいずれも名詞1単語で構成されていますが、それぞれの楽曲ではその名詞を切り口に喚起される情景や気持ちへ焦点を当てていると思うんです。こうした楽曲構成になっている理由は?
決して名詞にこだわっているわけではないんですが、僕はタイトルを付ける際に頭の中でその曲を見える形にするんですよ。例えば、「スパンコール」は視覚的なキラキラとしたイメージ、「Ice Tea」は涼しくてクールな雰囲気。こうやって直感的に名付けているので、おっしゃっていただいたように名詞が中心になっているのかもしれないです。
――今話していただいたことは、先ほどの「直感的にオレンジが浮かんできた」という内容とも繋がっていると感じました。Jesseさんはある対象を色や具体的な物体で想像しながら捉えることが多いんですかね。
確かに。僕は一言、二言話すのにも考えすぎてしまうタイプなので、そうやってグルグルと深くまで考えているうちに自然と視覚化されていくのだと思います。
――本作では<いつものガムをもうひと口>と紡がれた「チューイングガム」や<薄紅色のズルい唇は ぐうの音も出ない僕に気づかせた>と歌う「カシス」をはじめ、口や唇のモチーフが頻繁に登場すると思うんです。これらのキーワードが楽曲の持つ大人な雰囲気作りに一役買っていると感じているのですが、いかがでしょうか。
今おっしゃっていただいて気づいたんですが、曲作り、特に作詞ではエロさを常に追求しているというか。直接的な表現をするよりも間接的な表現で、より深い生の部分を表現したい。そういう直接的じゃないエロスを考えた際に、口が自然と登場してくるのかもしれないです。
――間接的な描写を積極的に取り入れようと思ったのは、なぜなんですか?
聴く人に考えさせたいんですよね。もちろん共感もしてもらいたいけれど、サウンドと合わせて考えてもらいたいとそれ以上に強く思っているんです。日本語の歌詞を書いていますが、最終的には世界の共通言語を目指しているから、きちんと引っ掛かるようなリリックにしなきゃいけない。それはサウンドの部分でも追及している点ですし、考えさせられる音楽を目指していった結果としてエロティックな雰囲気になっているんだと思います。
一緒に何かを見つけるツアーにしたい
――2025年1月11日(土)大阪・LIVE SQUARE 2nd LINEより、「ORANGE」を引っ提げたリリースツアー『THE “ORANGE” TOUR』がスタートします。大阪編にはPachaeとKADOMACHI、自主公演としては初となる東京編にはOchunismと春風レコードが出演しますが、どのような1日にしたいですか。
どのバンドもジャンルレスというか、良い意味でイメージがふわふわして定まらないバンドだと思っていて。そういう色々な側面がある部分に近しさを感じているので、僕らのことが好きだったり、最近見つけてくれた人が楽しんでもらえる1日になると思っています。あとは『THE “ORANGE” TOUR』をもって、コメントに書いた頭文字に込めた気持ちやまだまだガキな21歳を完結させたいんですよね。
――早く大人になりたいといった感覚?
大人なサウンドを出すために大人になりたいと考えている一方で、はっちゃけているサウンドを作るために子供っぽくもありたいと思っています。とはいえ、今は自分の気持ちに整理がついていない時期だと感じていますし、大人になるに向けて何かを見つけたい。若さを大切にしながらも、このツアーでその何かを確かめたいなと。
――本ツアーで「ORANGE」に込めた思いに区切りを付けたいとのことですが、次はどのようなチャプターになりそうでしょうか。
1つ大人になって、もっと自分をさらけ出したいです。大人になったものの残っている幼さや完成していない部分を表現することで、より沢山の人に聴いてもらいたいので。
ー―改めて、『THE “ORANGE” TOUR』に向けた意気込みをお願いします!
僕らが何かを見つけるのももちろんなんですが、僕らを見つけてくれた方がChim Chapの音楽を通じて、それぞれの探しているものを発見してほしいなと思っています。同世代の方も多いですし、一緒に何かを見つけるツアーにしたいです。
取材・文=横堀つばさ 撮影=浜村晴奈
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