BUCK-TICK
BUCK-TICKが、2024年12月29日(日)に日本武道館で『ナイショの薔薇の下』を開催した。
BUCK-TICKが12月29日に行う日本武道館公演は、2019年に日本武道館の改修工事により会場を国立代々木競技場第一体育館に移しての開催となったものの、2000年以来、連続で行われてきた毎年恒例の特別な公演だ。
この度のライブは、4人でスタートした新体制での初武道館公演となった。ボーカルは、メンバーの今井寿(Gt)と星野英彦(Gt)の二人が務め、新作アルバム『スブロサ SUBROSA』の楽曲を中心に、これまでの楽曲も織り交ぜた新たなスタイルでのライブとなった。チケットは、瞬間ソールドアウト。約1万人のオーディエンスがこの日のライブを目撃した。
当日のオフィシャルレポートをお届けする。
「来年BUCK-TICKは、新曲を作ってアルバムを作ります。最新が最高のBUCK-TICKなんで、期待しててください」
一年前の2023年12月29日、東京・日本武道館のステージでそう宣言したBUCK-TICKは、言葉通りニューアルバム『スブロサ SUBROSA』を完成させ、2024年12月29日に日本武道館公演『ナイショの薔薇の下』を開催した。
ヴォーカリストとしてもバンドの顔としても絶対的な存在だった櫻井敦司が鬼籍に入り、4人でBUCK-TICKを続けること、ギタリストでありコンポーザーでもある今井寿と星野英彦の2人がヴォーカルをとることを宣言したBUCK-TICKが、どんな新作を作り、どんなステージを観せるのか。その注目度は高く、注釈付きのステージサイド席や2階立ち見席まで満員の状態だった。ステージセンターにはプリミティブなデザインの台が設置され、今井と星野が操るシンセサイザーやPCが置かれている。これまでとは違う舞台セットは、新しいBUCK-TICKの始まりを開演前からイメージさせた。
武道館の天井を見上げれば、大きな薔薇の花のような形状が広がっている。第二期BUCK-TICKのスタートを見届けに来た人、愛しい人の気配に会いに来た人、初めて観に来たBUCK-TICKに胸躍らせている人──ナイショの薔薇の下、さまざまな感情が入り混じったフロアは緊張感と期待感で満ちていた。そこに投下された第一声は、今井の〈俺たちは独りじゃない〉。一曲目の「百万那由多ノ塵SCUM」の歌い出しだ。イントロでギターを鳴らす今井を、一本のスポットライトが照らす。力強さと温もりのある歌声が、あらゆる感情を掬い上げ、浄化していった。そこに星野のギターが加わり、サビでは樋口豊のベースが、サビ終わりにヤガミ・トールのドラムが加わると、明るい光が会場を包み込んだ。バックスクリーンに映るメンバーの表情を見ながら、〈俺たちは独りじゃない〉というメッセージを反芻するのだった。曲終わりに天を仰いだ樋口の姿が、今も心に残っている。
「ハッハッハー、BUCK-TICKです。今夜は一緒に楽しみましょう」。今井の短いMCを合図に、アルバムタイトル曲の「スブロサ SUBROSA」が始まると、会場のボルテージは急上昇。ギターを置いた今井が、片手にハンドマイクを持って、左右に延びる花道を歌いながら闊歩し、同じく星野もギターを置いてコーラスをしながらメタルパーカッションを打ち鳴らす。これぞ新境地。ヴォーカリストとして扇動する今井の一挙手一投足に、観客は歓喜する。アウトロではセンターでピースサインを掲げ、「PEACE!」と高らかに声を張り上げた。続いてインダストリアルなポップロックチューンの「夢遊猫 SLEEP WALK」では、黒猫がインダストリアルな空間を悠々と散歩する映像が背景に流れる。猫の歩調のような軽やかなリズムが心地よく、シンセとギターでノイジーな展開を見せた間奏は鮮烈だった。「混ぜるな、危険だ」という前振りから始まったデジタルビートの「PINOA ICCHIO-踊るアトム-」や、「Les Enfants Terribles」の既存曲が今井ヴォーカルで投下されると、会場はますますヒートアップ。樋口も一段高い立ち位置から降りてきて花道に姿を見せた。重厚なリズムの上にギターの軽快なカッティングが乗り、英語詞による星野のヴォーカルが入る「From Now On」や、アンビエントなインストゥルメンタル「神経質な階段」は、BUCK-TICKの新しい面を見せてくれた楽曲。「神経質な階段」では、そのサウンドと世界観に集中するように、メンバーは逆光シルエットになっていて、背景にはシュルレアリスムな映像が流れていた。後半、ヤガミのシンバルが入ってくるライアブレンジは、音源とは違う華やかさがあった。
「久しぶりです。元気でしたか? 俺は元気でした。この一年、僕らは曲作ってスタジオに入って、レコーディングしてアルバムを作りました。新しい4人のバンド、BUCK-TICKで『スブロサ SUBROSA』という、4人のBUCK-TICKの1stアルバムを作りました」と、今井は一年を振り返り、「周りのみんなに助けられてきた一年だったと思います。感謝してます」と語った。ひたすら前を向いて突き進み、みんなをここまで引っ張ってきたと、そんなふうに見えていた今井の本音の部分。こんなに素直に吐露することもあるのかと、いささか驚いたりもした。「雷神 風神 -レゾナンス #rising」では、樋口に合わせてクラップが会場中に響く。サビの演出で打ち上がった火の玉が、観客のハートに火をつけたところで、「冥王星で死ね」「paradeno mori」とアップチューンを連投。「冥王星で死ね」のエネルギッシュなアフロビートに拳を振り上げ、星野がハンドマイクでメインヴォーカルをとった「paradeno mori」では、ハートマークとピースサインが飛ぶ。今井ギターのインプロヴィゼーションから始まったインスト曲「ストレリチア」で空気を変え、星野が歌い上げるミディアムナンバー「絶望という名の君へ」。そっと背中を押してくれるような優しい歌を丁寧に届けた。「Madman Blues -ミナシ児ノ憂鬱-」、「TIKI TIKI BOOM」とアッパーソングで再び盛り上げると、「SANE -typeⅡ-」へ。櫻井と今井がツインヴォーカルをとっていたこの曲は、櫻井パート部分に歌がなくても成立するようなシンセアレンジが施されていたのが印象的だった。そして本編ラストは「まったく薔薇色だな」という今井の曲振りから、星野が「薔薇色の日々」を歌い上げた。この選曲には驚いた。櫻井を失ったことで“演奏できなくなる曲はあるだろう”とメンバー自身が語っていた中で、この甘美なミディアムナンバーにあえて挑んだことに。歌い継ぐことで、歌は生き続けるのだろう。このチャレンジは、第二期BUCK-TICKの可能性を広げたのではないだろうか。
ヤガミのドラムソロから始まったアンコールは、「次にやる曲は、歌詞がわかんないところはラララでいいので、みんなで歌ってください」と、「LOVE ME」を披露。歌と生演奏がずれてしまうというハプニングがあった2023年末の、リベンジ的な意味合いもあったのだろうか。ヴォーカルは観客に委ね、4人は演奏に徹する。スクリーンに映し出されたのは、会場に広がるたくさんの笑顔。メンバーが一番見たかった光景だろう。そして星野ヴォーカルで「狂気のデッドヒート」、今井ヴォーカルで「Villain」と続けた。「Villain」の最後は、原曲通りに残された櫻井のひずんだ声が会場に響いた。「来年BUCK-TICKはまた面白いことをやろうと思ってるんで、楽しみにしててください。今日は乾杯してください」と今井が告げ、「ICONOCLASM」で一体となってステージを締め括った。
終演後、ノイジーな「THEME OF B-T」に乗せて、BUCK-TICKの2025年の活動予定が一気に発表された。春ツアーの追加公演に、ドキュメンタリー映画「劇場版 BUCK-TICK バクチク現象 -New World-」の上映とBlu-ray&DVD『劇場版 BUCK-TICK バクチク現象 -New World-』のリリース、「BUCK-TICK展2025」の開催、さらに秋に全国ホールツアー、そして12月29日(月)に年末恒例の日本武道館公演を開催する。
ああ本当に、容赦ないなBUCK-TICKは。
終始ハイテンションを保っていたステージと、怒涛の告知を見てそう思った。変化を恐れず、新しいことに挑戦しながら立ち止まることなく突き進み、その先の未来を指し示してくれる。第二期BUCK-TICKのデビューライブを経て、この先またどんな変化を遂げるのか、その過程を見届けたいと思う。
文=大窪由香 撮影=田中聖太郎
広告・取材掲載