the paddles/柄須賀皇司(Vo,Gt)
2024年のthe paddlesには飛躍の二文字がよく似合う。リリース、ライブ、フェスと絶え間なく動き続け、新しいリスナーにもしっかりとアピール。年末になって、長く休養していたドラムス・加賀屋航平の脱退という大ニュースはあったが、バンドはスピードを緩めない。12月11日リリースの最新CD『オールタイムラブユーE.P.』の、迷いなき音とメッセージを聴けばその覚悟は明白だ。
そして2025年早々、the paddlesは全国10ヵ所を回る対バンツアー『ふたり分の命がひとつになって生まれる愛の塊ツアー』で勝負をかける。ファイナルには「ヤバいお知らせ」があるとすでに公言している。大みそかまでの5日間で6本(!)という超ハードスケジュールにも関わらず元気いっぱい、新しい挑戦が待ちきれずにしゃべりまくる柄須賀皇司(Vo,Gt)の話を聞こう。
――2024年は、ライブばっかりやってた印象があるけれど。
今年1年間は、友達から誘われたライブとかは基本的に受ける、みたいな感じでライブしたんですよ。結局110本やりました。それは“100本超えてやろうぜ”とかではなくて、“これはやったほうがいいよな”っていうライブを受け続けたら110本。
――すごい。ほぼ3日に1回。
3日に1回酒飲んでるってことになりますね(笑)。でもほんまにやってよかったです。ちゃんと自分で全部選んで、全部やるべくしてやったんで。お客さんも心配してる感じではなくて、“the paddlesやってんな”ってみんな思ってくれてる感じなんで。the paddlesの動きをこっちが説明しなくても、お客さんがすごいわかってくれるようになった1年やったなって思いますね。
――つまり、いい1年だった。
めちゃくちゃいい1年でした!
10年一緒にやってきた仲間なんで正直寂しい気持ちもめっちゃあります。ある種ここはthe paddlesとしての一つの節目だと思っていて。
――年末にメンバー脱退という大ニュースがあったけど、航平くんはずっとライブはお休みしていたから、ある意味覚悟はできていたというか。
そうですね。実際全部が起こるべくして起こってるなっていう感じですね。すごいスピード感で行ってるし、立ち止まったら死ぬタイプなんで、それくらいがちょうどいいっす。ただ、10年一緒にやってきた仲間なんで正直寂しい気持ちもめっちゃあります。ある種ここはthe paddlesとしての一つの節目だと思っていて、そんな曲を書かなければという思いもあって。だから「余白を埋める」が書けたと思ってるんで。
――あれは2024年を象徴する1曲ですよ。仲間のバンドたちの名前をいっぱい歌詞に織り込んだアンセム。あれ、全員に聴かせました?
聴かせました。勝手に名前入れたんですけど、みんな喜んでくれましたし、バウンダリーのゆきちゃん(中道ゆき/Vo,Gt)とか、すぐ連絡くれました。Arakezuriのベースの(宇野)智紀くんも、リリースした直後に“この曲ヤバイ”って言って連絡くれました。Blue Mashの優斗(Vo,Gt)も、インスタのストーリーに歌詞のスクショを上げてたし。大袈裟じゃなかった感じはすごい良かったですよね。思い切ったことやったなっていうよりは、タイミングが来てやったんやな、みたいなことを、名前を入れた7バンドはみんな言ってくれたんで。
――そのエピソードは、ファンはもう知ってるんでしたっけ。
そうですね。この間Xで“「余白を埋める」にはthe paddlesの曲名と、仲間のバンドの名前と、カメラマンの「おがたく」の名前も入れてます”って書いたら、めっちゃ反響あったんで。そういうギミックに、お客さんも気づきたいって思ってくれてる感じは良かったなと思ってますね。
――その「余白を埋める」と、先行配信「愛の塊」も入った新しい『オールタイムラブユーE.P.』。リリース後のファンの反応は?
めっちゃいい気がしてます。俺的には普通に「愛の塊」とか「ワンスター」とか「倦怠モラトリアム」とか、the paddlesっぽい感じの曲が一番反応いいかな?と思ってたんですけど、結局「余白を埋める」への反響が今までで一番多いと思ったんですよ。前作の『ベリーハートビート』の時よりもみんな大騒ぎしてくれてて、中でも「余白を埋める」について色々書いてくれてたんで。元々「余白を埋める」は関係者というか、自分含めた仲間が納得すればいいやと思ってたんですけど、気づいたらお客さんも同じぐらいグッと来てくれてて、“あ、そうなんや”みたいな。それはさっき言ってたみたいな、2024年の1年間で自然とライブが増えたりとか、友達の気持ちに応え続けてるということが、気づいたらお客さんのところまで届いてた、みたいな感じっすね。
――間違いないですね。
歌詞にも書いたように、自分を奮い立たすためにやってるだけやのに、気づいたらお客さんが色々汲み取って、the paddlesというもので人生を豊かにしてくれてんねんなって、自然に思いましたね。
――「余白を埋める」はもうライブでやってますよね。
10月4日のO-crestのワンマンの時にやって、そのあと弾き語りでもちょこちょこやってます。
――EPでまだやってないのは?
「倦怠モラトリアム」と「ワンスター」はまだやってないです。ツアーからガンガンやろうかな、みたいな感じですね。
――「ワンスター」、すごく聴きたい。ああいうスローな曲がライブのどの位置に入ってどんなふうに響くのか。
「予測変換から消えても」が、そういうちょっと聴かせる立ち位置にいたんですけど、あれもまあまあちゃんとしたビートがある曲なんで。いよいよバラードになったというか、「予測変換から消えても」と組み合わせてやりたいなとは思ってますね。
――おおー。それはグッとくる流れかも。
the paddlesって真っ昼間みたいな明るい曲とか、グッとくる曲でもビートはちゃんとあるみたいな曲ばっかりで。そういう曲で気持ちを入れてもらったりしてたんですけど、「ワンスター」がセットリストにあると、もう一段階深いところに飛び込めそうな気はしますね。でも歌うのがムズいっていう(笑)。
――確かに技巧的な歌ではありますね。
わざとファルセットを多用するサビにして、どうなるんだ?っていう感じですけどね。静かな曲で、 歌が自然と浮き出るようなアレンジにもなってると思うんで、ファルセットでいくほうがいいかな?と思ってあえてそうしました。男性ボーカルのファルセットって、ハッとするじゃないですか。ライブ観てても。
自分たちの責任で憧れの先輩とかを呼べるようになったら、俺自身がもっと自信を持っていろんなことをやれるようになるんじゃないかな。
――色気、出ますよね。
この間、大阪城ホールでMr.Childrenを観たんですよ。大阪のイベンターの、プラムチャウダーの20周年イベントで。GOING UNDERGROUNDの(松本)素生さんに招待してもらって行って、桜井(和寿)さんを初めて生で観たんですけど、「HERO」の1サビ、2サビでファルセットがスコーン!と抜けて聴こえる瞬間があって、それがめっちゃ良くて、最後は大サビで全部地声でいって“かっこいい~”ってなって。やっぱり男の人のファルセットっていいなと思ったんで、「ワンスター」もそういうふうにハッとする瞬間をライブで生み出せたらいいなって思いましたね。
――そういう話を聞くと、皇司くん、目線の位置が変わってきたんじゃないかと思う。ライブハウス界隈での憧れもありつつ、そういう日本のトップバンドからもヒントを得ようとしてるみたいな。
そうかもしれない。元々ライブハウスの中での憧れとかって本当になくて、だから友達の音源とかマジで聴かないんですよ。
――あはは。そんなこと言っていいのか。
ライブとかでも言ってるんでいいんです(笑)。それには二つぐらい理由があって、一個は影響されたくないっていうのと、あとは、やっぱりライブで見たほうがいいというのが大きくて。そういうこともありつつ、確かに今はライブハウスの中の憧れというよりは、大きいステージのアーティストに憧れるべきだとも思ってますし、最近は意図的にそういう人のライブを観たくて、宇多田ヒカルさんもさいたまスーパーアリーナで観たんですけど。俺が本当に憧れているボーカリストたちの姿をああいう場所で確認することによって、自分の進んでる大きい方向を定められた1年でもあった気はしますね。
――なるほど。
もちろんライブハウスも大好きで、この間もTHEイナズマ戦隊と対バンさせてもらったんですけど、ヤバかったんですよ。もう凄まじいライブで、俺、泣いてもうて。セックスマシーン!!も福岡で対バンさせてもらったんですけど、ヤバかったっすね。そういうライブハウスのレジェンドにも、2024年はたくさん出会えて良かったです。110本やったんで、たぶん2024年は半分以上ライブハウスにいたと思うんですよ。そういう意味での近い目標というか、ライブハウスにいると“自分は次にこうしよう”とか、足元固めれるみたいなイメージなんですけど、足元ばっかり見てたら、歩いてる方向がわからなくなったりもするじゃないですか。
――ですね。
それがMr.Childrenとか宇多田ヒカルさんのライブを観ることによって、もっと先の道がちゃんと見えるみたいな、どっちも意味があるなって思ってます。2024年は誘われることが多かったんで、2025年、26年は自分たちの責任でそういう憧れの先輩とかを呼べるようになったら、the paddlesがというか俺自身が、もっと自信を持っていろんなことをやれるようになるんじゃないかなっ?ていうのは思いましたね。
バンドを通じて俺の目の前に現れてくれた人たちの人生を変えてやろうと思ってます。関わってくれた人たち、お客さんも含めて、全員で“なんかヤバくね?”って言えたらいい。
――EPの中で、特に思い入れのある曲とかあります?
「永遠になればいいのに!」にはいろんなエピソードがあって。ネヤガワドライビングスクールっていう教習所があって、名前もぜひ書いてほしいんですけど、阪口さんっていう、副所長なのかな、めちゃくちゃ偉いさんなんですけど、僕たちの地元のライブハウス・寝屋川VINTAGEをすごく愛してくれてて、高校生イベントとかを“ネヤドラプレゼンツ”でやったりするんですよ。たぶん高校生が教習所に通ってくれるからっていう理由もあると思うんですけど、そんなこと関係なく“ライブハウスが好き”っていう顔をしてる人なんですね。阪口さんは。
――会ったことないけど、知ってるような気がしてきた(笑)。
それで1年前ぐらいに阪口さんから急に連絡があって、“皇司くん、今度ネヤガワドライビングスクールでPV(プロモーションビデオ)を作るんだけど、その曲を書き下ろしてほしい”って言われて。教習所のPVの曲って何?と思ったんですけど。しかも“2週間ぐらいで音源もらえますか”って。でも僕はそういう時の瞬発力だけはあるんで“書きます!”って言って書いたのが「永遠になればいいのに!」やったんですよ。マジで2日とかで書きましたよ。
――さすが。
ネヤドラさんの教習所のコンセプトが“卒業したくない教習所”で、結構パンチあるんですよ。教習所って大体卒業したいじゃないですか(笑)。
――あはは。そりゃそうだ。
でもね、僕もそこに通ってたんですけど、コマとコマの間に、カフェスペースみたいなところで卒論書いてたりしたんですよ。それぐらいのんびりできるというか、確かに“卒業したくない”があるぞみたいな場所だから、言い換えたら「永遠になればいいのに」かな?みたいことで書いたんですよ。しかもネヤドラのPVと同時にthe paddlesのMVも撮ってもらって、3月ぐらいに出したんすよね。それをネヤドラさんがブログに書いてくれて、“今回のPVはthe paddlesさんのおかげです”みたいな。それとは全く別件で4月の1週目にFM802のディレクターの方から連絡が来て、木曜夜中に『RADIO∞INFINITY』っていうインディーズバンドを応援してくれてる番組があって、ハタノ(ユウスケ)くんっていうメインDJの子が4月の1週目と3週目は出られないから“皇司くん、3時間生放送やってくれませんか”って言われたんですよ。3日前に。なんでみんなそんな急やねん!と思ったんですけど(笑)。これも瞬発力で“やります!”って言ってやったんですよ。
――すごい展開だなぁ。
好きな曲かけていいって言われたんで、「永遠になればいいのに!」をかけたんです。それをネヤドラさんが聴いてて、“ラジオでもかけてくれました”ってブログに書いたのを見て、FM802のスタッフがネヤドラさんのところに行って、“皇司くんをDJにしてコーナー持ちませんか?”って言ってくれて、コーナーが始まったんですよ。それが『ネヤドラ BLUEBERRY GUYS』なんですけど。
――わらしべ長者の物語を聞いてるみたいな気持ちになってきた(笑)。
そうなんですよ。最初は一本のわらだったのに、ラジオのコーナーにまでなっちゃって(笑)。最終的に、9月にネヤガワドライビングスクールの中でフェスやったんですよ。たぶん世界初ですね、教習所のフェスって。そこでBlue Mashに出てもらって――寝屋川って4年おきにバンドが出てきてるんですよ。Blue Mashの優斗が俺の4個下で、その4個下にgrating hunnyっていうバンドがいて、彼らにも出てもらって。で、俺の4つ上がyonigeなんですよ。その4つ上に、今活動休止中ですけどUnblockっていうバンドがいて、謎の4年周期、変なオリンピックがずっと続いてて。
――寝屋川オリンピックが。
そうそう。あとは猫背のネイビーセゾンとアルコサイトも呼んで、フェスやるところまでたどり着いたんで。2024年はそういう繋がりがいっぱいできた年で、先日、阪口さんと飲みに行ったんですけど、最終的に阪口さんが“皇司くん、来年の目標決まりました”って言うから、“なんですか?”って聞いたら、“FM802のヘビーローテーション取りましょう!”って。誰が何を言うてんねんっていう(笑)。
――教習所の偉い人が(笑)。最高じゃないですか。
でもそういうようなことを周りで言ってくれる人がたくさん今年はできたんで。そして最終的に、年末にFM802主催の『レディクレ(RADIO CRAZY)』にも出ることが決まったんで、自分でも意味がわかんないですけど、全部ついてきてくれて良かったなって思ってます。だから本当に、バンドを通じて俺の目の前に今年現れてくれた人たちの人生を変えてやろうと思ってやってます。今年1年間はずっと、今までいろんな人に助けてもらってきたからこそ、俺はそういう存在になりたいと思ったし、そうやっていこうってすごく思った1年でしたね。
――素晴らしい。
結局関わってくれた人たち、お客さんも含めて、全員で“なんかヤバくね?”って言えたらいいかなみたいな。みんながご機嫌なほうがいいじゃないですか。俺も、周りにいてくれてるスタッフたちも、今日のインタビューで関わってくれた人たちも、“あの時ヤバかったですよね”とか、そういうふうになれたら楽しいじゃないですか。だから今回の『オールタイムラブユーE.P.』でも、もっともっと切り拓けるものがあると思うし、たくさんの人に出会いたいなって思ってますね。
――みなさんぜひチェックを。12月11日にもう出てるけど、賞味期限は長い作品なので。
長いですよ。俺が伸ばしまくるんで(笑)。
――1回聴いて飽きちゃうような曲たちじゃないので。なんたってオールタイムラブユーだから。
オールタイムです。このままずっとこの感じで、マンネリはたぶんないだろうなっていう感覚は自分の中でずっとあって。このままいろんな人を巻き込みながら、たまには事故したりしながら、やっていけたらと思いますね。
”the paddlesのあのツアーめっちゃヤバかったよね”って、2025年の年末になった時に“今年の中で一番良かった”って、記憶に残るものにしたいですね!
――そして、すでに公言してる通り、次のツアー『ふたり分の命がひとつになって生まれる愛の塊ツアー』はバンドにとってとても大きなものになると。新しい変化の予感がする。
来てくれたお客さんの人生も変えちゃおう、みたいな感じです。“人生変えたんねん!”って感じじゃなくて、“変えちゃお♪”っていう感じ。
――わりと余裕あるスケジュールですよね。連チャンも1回しかないし。
ただやっぱりカロリー高いっすね。自分で決めといてアレなんですけど。全部俺がブッキングして“ツアーやるから出て”って言って、みんな“はいはい!”って感じで決めてくれたんですけど、マジで早かった。心意気だけでみんなやってくれてんなって、すごい思います。
――年末の時点で、神戸、大阪、名古屋はソールドアウト。いい感じじゃないですか。
福岡もあとちょっと。東京も、あと一息頑張ったら売り切れそうです。マジでライブ観てほしいです。なにより”the paddlesのあのツアーめっちゃヤバかったよね”って、2025年の年末になった時に“今年の中で一番良かった”って、記憶に残るものにしたいですね! 特にファイナルの東京、bokula.とのツーマンの日は、ヤバいお知らせが三つか四つぐらいあるんで、楽しみにしててください。
――楽しみ。もちろん行きますよ。
ここまで自分たちで全部やってきて、“自分たち”の中にはいろんな人がいるんですけど、そういう感じでやれてるのはすごく健康的やなってめっちゃ思ってます。全部自分の責任でやってる感じがあるのがいいですよね。それも“俺が責任取るから”っていう感じではなくて、“責任取っちゃお”って感じです。
――人生変えちゃお♪のノリで。
ほんとにもうその感じなんですよ。ゴキゲンでやってるだけなんで。お客さんもいろんなものをたぶん抱えて来てくれると思うんですけど、“いいもの観ちゃお”ぐらいの感じで来てくれたらいいなっていう。みんながゴキゲンに楽しく人生を過ごせるような手助けが、the paddlesでできたらいいなっていう中に、一番にもちろんお客さんがいて、the paddlesのチームがいて、ライブハウスの人がいて、対バンがいて、こうやって媒体とかで出会うみなさんがいて、“みんなでおもろいことやりません?”みたいな感じなんで。この音源のおかげで、このツアーのおかげで、俺も含めて“人生変わっちゃお”みたいな人がいっぱいいればいいなって感じです。
取材・文=宮本英夫 撮影=高田梓
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