Tyrkouaz
2000年生まれ、ゲーム音楽とロックバンドで育ち、新世代のミクスチャーロックを志向する双子のデュオ。Tyrkouaz(ティルクアーズ)の名を一躍広めたのは、新人アーティストの登竜門「出れんの!?サマソニ!?」オーディションを勝ち抜いて手にした大舞台、「SONICMANIA 2024」での鮮烈パフォーマンスだ。ドラムンベースを軸にしたダンサブルなトラックにオルタナなギターとドラム、ポップなメロディの組み合わせからは、新しい時代の扉を叩く力強い音が確かに聴こえてくる。高まる期待と支持の声の中、2022年に自主制作したファースト・フルアルバムに新曲1曲を加えた『turquoise engine +』が初の全国流通盤CDとしてリリース中。そのアルバムと新曲について、二人のルーツと音楽遍歴について、そして来るべきライブについて、souta(Vo&G)とrent(Dr/Cho)に話を聞いてみた。
――2024年の最大のトピックというと、やはり「SONICMANIA 2024」出演になりますか。どんな経験でした?
souta:正直緊張はしていたんですけど、思いのほかお客さんの反応が良くて、どんどん楽しくなって、わりとハイテンションで出来たというか。自分としては、今年の中でもだいぶうまくいったというか、お客さんと一番遠いはずなのに、むしろ距離が近くて。
rent:とてもあたたかかったです。それまで色々なジャンルのイベントに出させていただきましたが、Tyrkouazはどこかいつも浮いているんじゃないかと思っていまして。SONICMANIAはお客さんも皆さん自由に踊りに来ていて、僕らの音楽を楽しんでくれていて嬉しかったです。
souta:自信に繋がったというか、「これでいいんだ」みたいな感覚でした。ちょうどライブの表現に悩んでいた時期でもあったので、とても自信に繋がりました。
――ソニマニのステージでは「双子のミクスチャーロックバンドです」って自己紹介してましたよね。ミクスチャーロックバンドという呼び方でいいですか。聴く人によって、いろんな捉え方があると思いますけど。
souta:それ、ちょうどさっき話してたんですけど、「ミクスチャーロックデュオ」にしました。
rent:元々「ネオミクスチャーロック」って言ってたんですけど、ミクスチャーロックっていうと往年のラップメタルというか、90年代のヒップホップとロックの感じを思い浮かべる人も多いのかなと思ってて。自分たちはミクスチャーロックと言いつつも、ドラムンベースを軸にして色々ジャンルを混ぜて、新しいことをやりたいという意味でネオミクスチャーロックと言ってたので。これからミクスチャーロックデュオでお願いします(笑)。
――soutaさんのアクションを見てると、ラッパーっぽい動きに見える時もあります。
souta:ロックバンドでもありつつ、本当はギターを手放したい時もあって。どっちもやりたいっていう気持ちがあって、結果的に今のスタイルになってます。独特な音階を取り入れつつ、それを大衆的に聴かせるスタンスに共感しています。自分たちも、マニアックで実験的なことをしながら、王道ポップスのような親しみやすさを持つ、その中間を目指しています。
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――そもそもの音楽的ルーツの話を聞いていいですか。双子だからずっと同じ時期に同じ音楽を聴いてきたわけですよね。
souta:そうですね。基本的には同じです。
rent:バンドで一番最初に入ったのはONE OK ROCKがきっかけだったんですけど。もっと遡ると、自分らの一番のルーツと言えるのはゲームの『ソニック』の音楽です。『ソニック』でロックも電子音楽も知ったというか、自分たちのロックの部分と、ドラムンベースとかダンスミュージックの部分も、どっちも『ソニック』には入ってて、当たり前のように吸収してたので。去年の「ソニックシンフォニー」の東京公演も見に行きました。
――ルーツであり、今も刺激を受ける音楽であり。
rent:『ファイナルファンタジー』の曲も好きですね。『turquoise engine』のアルバムのコンセプトでもある2000年代のゲーム音楽っていうところで、『FF』のゲーム音楽も結構好きで、ゲームやってないのにサントラを聴いてるみたいな時期が小学生ぐらいの時にあって。その中でも『FFⅦ』のスピンオフの『クライシス コア』っていうゲームのサントラをめっちゃ聴いてて、それが全体的にミクスチャーロックというか、結構重ためのギターと、それこそドラムンベースとか、アーメンブレイクのリズムとかも入ってきて、すごくいいなと思ってました。
souta:だから知ってる人が聴くと、Tyrkouazのルーツがすぐバレる(笑)。
rent:『ソニック』の音楽を聴いたら大体わかるんじゃないかな?みたいな。瀬上(純)さんっていう『ソニック』の曲を作ってる人がいて、バンドサウンドを『ソニック』に持ち込んだ人で、自分たちは瀬上さんのギターとか曲がルーツと言っても過言じゃないです。ドラムンベースは、大谷(智哉)さんっていう方がいて、ドラムンベースを『ソニック』に持ち込んで。そういう音楽が好きっていうのがインプットされてて。中2ぐらいの頃に、「あれはドラムンベースっていうのか」って、初めて知った感じです。
souta:伏線回収みたいな。ロックのほうは瀬上さんで、ドラムンベースだったり、エレクトロのほうは大谷さんのお二方が、自分たちの世界観のルーツになってると思います。
――それがDNAレベルに刷り込まれて、Tyrkouazを聴いて「なんか知ってるかも」って思う世代もいるでしょうね。
rent:リスナーの方で、『ソニック』も好きでTyrkouazも好きという人も居たりしまして。それと、自分らは2000年生まれで24歳なんですけど、同い年のミュージシャンで『ソニック』が好きっていう人がちらほらいて、Mega Shinnosukeとか、CVLTEのボーカルのavielさんとか、二人とも同い年で、どっちも『ソニック』が好きって言ってるところに勝手にシンパシーを感じてたりとか。推論ですけど、『ソニック』が好きな人はミクスチャーをやりがちなんじゃないか?って思ったりしてます。
Tyrkouaz
――それ、すごく面白い考察かもしれない。『ソニック』とONE OK ROCKにハマった時代を経て、すぐにバンド結成に行くわけですか。
rent:同じ高校で同じ軽音部に入ったんだけど、バンドは別でした。
souta:元々どっちもドラマーだったんで。お互い、自分が作った曲で自分がドラムを叩くバンドをやってたんですけど、あんまりうまくいかず、「やっぱり一緒にやった方がいいかもね」みたいな感じになって。大学に入ってから組んで、他のメンバーを探したんですけど…。
rent:一瞬だけ(笑)。バンドメンバー募集サイトに音源を貼って、4、5人ぐらい集まって(音を)合わせたりしたんですけど、すぐ抜けたりして全然安定しなくて。最終的に「二人でやるか」みたいな感じで今の編成になりました。
souta:僕はこのバンドを組む時に初めてギターに転身したんですけど、そこでさらにギター&ボーカルに転身して(笑)。
rent:二人ともドラムだったんで、どっちかギターやる?みたいになった時に、soutaのほうがギターがうまかったからっていう理由で、ギターになって、そのあとボーカルになっちゃった。
souta:それがちょうどコロナ禍ぐらい。
rent:コロナ禍で、ボーカルを決める前にとりあえず音源を出そうと思って、ボーカロイドでYouTubeに曲を公開してる時期もありました。チャンネルをさかのぼったら残ってます。実はその時に、今のMV曲の大元をボカロの状態で出したりしてて。
souta:「windy surf」「Mellow Night Bass」「Deep Jungle」「月夜とシタール」あたりはもう出来てました。そう考えると、意外と長いかもしれない。最初の『sitÂr-ep.』(2022年)を出した頃には、二人でやることに馴染んできて、これで行こうって。
rent:それまではぽつぽつと、デモっぽい感じの音源をサブスクに出したりしてたんですけど、『sitÂr-ep.』の時に初めてちゃんとEPとMVと揃えて出そうと言って出した感じです。
――曲作りは、どんな役割分担でやってますか。
rent:曲作りは、完全に別々で作ってます。お互いに100%と100%で、作詞作曲編曲を全部自分が作ったやつと、全部soutaが作ったやつがあって、共作は実はしたことなくて。
――それはすごく意外。双子なのに。
rent:打ち込みも含めて、曲は完全に一人で作っちゃって、レコーディングとかライブの時に一応ギターを弾いてもらうみたいな。「こんなフレーズなんだけど」って。
――面白い。たとば「windy surf」はどっちの曲?
rent:「windy surf」は僕が作りました。
――「Crush Core」は?
souta:は、自分です。なんとなくオートチューンが入ってたり、自分がハンドマイクになったりするのは自分の曲です。
rent:自分のほうがもうちょっとオルタナ寄りなのかな?っていう感じがしてます。ライブのセットリストとかアルバムとか、今のところ半々ぐらいですかね。
souta:確かに、全然バンド的な作り方ではないかもしれないです。二人のトラックメーカーがいて、スタジオに入った時に初めて合わせるみたいな。で、「やばい、全然できない」みたいな(笑)。
rent:生演奏を想定してしないで曲を作ってるんで。感覚としては、ソロ活動×2みたいな感じというか、ソロ活動でやってる人で、バンドを組もうとして、うまくいかなくて一人でやり始めた人もいると思うんですけど、自分らも似たような感じというか、たまたま双子で二人いたからバンドっぽい形になってるけど、それぞれが完成された曲を作って、二人でやる形です。
Tyrkouaz
――それでミクスチャーロックデュオ。そして今回のトピックが、2023年に出した配信アルバムが全国流通になって、新曲1曲を加えて新しい形になったという、『turquoise engine +』。ここで初めて聴く人も結構いると思うので、どんな作品なのか、紹介をしてくれますか。
rent:元々自主制作で作った時から、自分たちの名刺代わりになるようなアルバムにしたいと思ってたので。初の全国流通っていうタイミングでこのアルバムを持っていけるのは、自分としてもしっくり来るというか、納得かなっていう感じですね。新曲の「Emit Light」は一番新しく作った曲で、『turquoise engine』は、自分たちが今まで作りためてきたものの集大成みたいなアルバムなんですけど、「Emit Light」は逆に現在進行形の感覚で作った曲で。新曲『Emit Light』は、『turquoise engine』の音楽的な一貫性を保ちながら、同時に現在の感覚で新たな要素を取り入れた楽曲です。9月にリリースしたEP『NEW GADGETS』で挑戦した新たな音楽との融合を発展させつつ、よりエッヂの尖った仕上がりになっています。『turquoise engine +』の中で過去の集大成であると同時に、進化を象徴する作品といえます。
souta:僕らの癖というか、ストック曲をすごい溜めこんで、その中から今出すのはどれかな?みたいな、選定していくスタイルを取ってきていたんですけど。「Emit Light」は『turquoise engine +』の全国流通が決まってから作ったので、真の意味で新しい曲かなって思います。
――「Emit Light」はどっちの曲ですか。
rent:僕が作りました。
souta:一応二人ともそのタイミングで曲は作ったんですけど、「こっちで行こう」って。曲の立ち位置が合ってたというか、『NEW GADGETS』を経た後の『turquoise engine』的なものとして、「今これを出すべきだ」って。
rent:自分としては、『turquoise engine』でやりたかった方向性ではあるけど、その時の自分の感覚ではまだやりきれてなかった部分を補うという意味合いもあるかなって思ってます。曲調としては、オルタナとかグランジ寄りで、レディオヘッドとかスマパンとか、自分の中にあるルーツをごちゃ混ぜにしてブレイクコアにしました、みたいな感じの曲です。ブレイクコアはドラムンベースの大きなジャンルの一種ではあるんですけど、最近生まれてるドラムンベースの流れというか、数年前ぐらいにネットで盛り上がってたような、ちょっとナードだったり、落ち着いてるんだけどビートは激しいみたいな、そういうブレイクコアの感じも踏襲したというか。そこにグランジを合わせた感じです。
souta:自分の見解なんですけど、そういうネットカルチャーから出てきたクラブミュージックって、コロナも影響もあるのかなと思ってるんですけど。コロナ禍以降に急に現れたものって、クラブで盛り上がるものが中心というよりは、自分が思ってるものを描き出す、ある種グランジのようなテンションというか。
rent:その暗さというか、内面性みたいなところで、グランジとブレイクコアはすごい合うなと思ってたので。Tyrkouazなりのそういう曲を早く作りたいなと思ってたので、このタイミングで「よし作ろう」と思って出しました。
――よくわかります。ただリリックは、グランジっぽい内面の暗さというよりは、外に向けて呼びかける感じというか、ポジティブな印象は受けるんですよね。
rent:自分はあんまりネガティブな歌詞にはしたくないっていうか、しないようにはしてます。なんて言うか、悟りみたいなものに近いのかなって。自分は自然体でいたいし、いろんなものに飲まれつつも、枠にとらわれずに自然体でいよう、みたいな思いの曲が多いですかね。
――そのアティテュードは、他の曲からも感じ取れる気がしてます。
rent:抽象的な歌詞も多いんですけど、自分の思ってる理想の世界というか、自分の思いに従って動いていきたいというか。
souta:心の声みたいな。メッセージ性で、どういうことを言いたいか?みたいなところは、実は藤井風さんに結構影響を受けていて。スピリチュアルというか、しがらみとか常識、エゴとかに引っ張られがちだった人間の元々の感性があって、心の声で「本当はこうしたいんだ」とか、眠ってるものに呼びかけてあげたいなっていう感じはわりとあります。
rent:目に見えないものを大事にしていきたいっていうのは、結構ありますね。心の声とか、そういうものに従って生きていこうという内容の歌詞が多いかもしれない。で、そういう目に見えない自分の心の世界と、ゲーム音楽とか、ゲーム的なコンセプトを合わせるのが面白いなと思っていて、そこもリンクさせつつ、ある種のバーチャル世界に生きてる感覚として、「もっと自由にしていこうよ」っていう感じのメッセージが多いかもしれないです。
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――見事に繋がりましたね。ゲーム音楽のルーツから始まって、今言いたいメッセージ性の話まで。音楽に目覚めた頃から現在に至るまで、すごく一貫してる。
souta:自分の中にいる子供の頃の自分がワクワクできるようなものを作りたいなっていうのが、根底にある感じがします。
――名言ですね。これをきっかけにTyrkouazの音楽を、どういう人たちに届けていきたいですか。
souta:老若男女に行きたいなとは思ってます。なんて言うか、メタな話だと、若者から火が付くみたいなのがあるのかなとは思うんですけど、基本的に「大衆」の意識はいつもなんとなくあるので。音楽好きだったり、なんでも知っちゃってるような専門的な方がうなるようなものでもありつつ、全然そういうのを知らない一般的なリスナーだったり、子供とかにも直感的に届くようなものにしたいなっていうのもはすごいあります。
rent:自分は根底に驚かせたいとか、衝撃を与えたいという思いがあって。今まで全く聴いたことがなかった新しいものに出会う衝撃というか、自分が音楽にハマって一番のめり込んで聴いてた中学の時とかも、そういう感じの聴き方をしてたので。そういう衝撃とか出会いみたいなものを与えたいというか、ワクワクさせたいっていう気持ちがあります。
――いい締めの言葉。ありがとうございます。近々、ライブを見に行きます。
rent:12月20日に大阪のYogibo HOLY MOUNTAINでやります。その後は年末のサーキットイベントが二つあって、28、29日と呼ばれてるんですけど、自分たちの自主企画としてツアーの最後は20日の大阪です。12月6日に自主企画で東京公演をやったんですけど、僕らは自主企画もレコ発もツアーも全部初めてで。今まではライブ活動に無頓着というか、音源を出すことしかしてなかったんですけど、今回色々な協力もあって、やっと踏み出せたことだったんですけど、やってみないとわかんないことってすごいあるなと思ってて。それはほとんどプラスの話なんですけど、まずこんなに自分たちの音楽を聴きたいと思ってくれてる人がいたんだっていうことと、ライブも本当にすごい盛り上がって、さっきソニマニがすごい盛り上がったって言いましたけど、ソニマニ以来に一番盛り上がったなっていう体感があって。今までライブハウスで細々と、呼ばれたライブに出てたりしたんですけど、それだとわからなかったみんなの期待感というか、すごい盛り上がりを感じられて、すごい自信になりました。
――来年もやりたいですね。自主企画のライブやツアーを。
rent:やりたいです。これからのライブは、それを経た後の自分たちというか、今までと違う自信というか、感覚を持ってライブができるんじゃないかなと思っているので、今後のライブに期待しててください。
取材・文=宮本英夫 撮影=大橋祐希
Tyrkouaz
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