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TOMOO one-man live“Anchor” at PACIFICO YOKOHAMA 2024.12.13(fri)パシフィコ横浜
およそ5000枚のチケットは完全ソールドアウト。2024年12月13日、パシフィコ横浜、『TOMOO one-man live“Anchor” at PACIFICO YOKOHAMA』。流行りとかラッキーとかでバズった訳ではなく、ただ歌の力でここまで来た。観客は落ち着いた大人の音楽ファンに支えられたTOMOOの世界。
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暗闇の中、ピアノの前に座るTOMOOをスポットライトが照らし出す。1曲目は一番新しいバラード「エンドレス」だ。豊かな低音が良く伸びる声、静かに流れるスモークの海。メンバーが一人ずつ入って来る。バンドが4人、ストリングスが4人、ホーンが4人。静かなバラードがいつのまにかアップテンポのダンスナンバーに転じて、「Super Ball」が始まった。ハンドマイクで軽やかに歌い踊るTOMOO。七色にきらめくライトと分厚い音圧のバンド。大会場に合わせ、冒頭からよく練られた演出が楽しい。楽しい夜になりそうだ。
「こんばんは、TOMOOです。今日はいい夜にしましょう」
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ホーンとストリングスのメンバーも、手振りに加わって盛り上げる「酔ひもせす」。キーボードを弾きながら歌う「Friday」と、アップテンポのハッピーな曲が続く。広い会場ゆえ、2階席の最前列にいても表情はよく見えない。でも気持ちが入っていることは、はずんだ声を聴けばわかる。
「外は寒かったでしょう? あたたかい飲み物を渡すように、時には暖炉のそばでアイスクリームを食べていただくように、じっくりとお届けしたいと思います」
「レモン」はTOMOOの中で、灯りが恋しい12月の時期に似合う曲らしい。なんとなく、わかる。散歩するようなゆっくりテンポ、フルートの音色が心地よい。「あわいに」はぐっとスピードを上げ、満場のクラップと共に明るく華やかに。力強いバンドサウンドに乗せられて、間奏でカウベルをひっぱたく姿が可愛い。優れたメロディメイカー・TOMOOの人懐っこいポップセンスが発揮された、心躍る曲が続く。
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ここからは、切ない思いをまっすぐに伝えるミドルバラードのセクション。花言葉に込めた思いが愛おしい「ネリネ」は、こんな寒い季節にぴったりのセンチメンタルな1曲。同じく冬のラブソング「雪だった」、そして「ベーコンエピ」は、深夜バスの中や駅までの道や、歌詞の情景がくっきりと目の前に浮かんでくるドラマチックな2曲。
ライブタイトルのAnchor=アンカー=船のいかりには、港町・横浜からの連想と、水のイメージと、1年を締めくくるアンカーの月、12月のイメージがあるらしい。そしてもう一つ、今は遠くへ旅に出るよりも、この場所にいかりを下ろしたいという思いがあるらしい。MCの、TOMOO語のワードセンスは独特だが、なんとなく、わかる。
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「まばたき」ではアコースティックギターとチェロを加え、「ロマンスをこえよう」ではストリングスのロマンチックな音で飾ってみせる。TOMOOの歌詞、ことにバラードの歌詞の、切なすぎるリアリティは誰もが知るところ。二つの心と心、体と体のふれあいとすれ違いを描く、鮮烈な言葉使いは本当に絶品。ライブで聴くと特に心に沁みる。切ないにも程がある。
切ない曲がさらに続く。星空のような照明とスモークに飾られた、追憶のバラード「Cinderella」。オレンジ色の灯りに染められ、迫力あるホーンが躍動するエモーショナルな「Grapefruit Moon」。大所帯のバンドならではの、1曲ごとに変わる豊かなアレンジが、とてもゴージャスでハートフル。
「冬は空気が澄んでいて、星が近く見える気がします」
何気なく話し出したMCが、音楽を生み出す不思議の話へと発展する。遠くの星が消えても、その光は目に届く。音楽の本質は見えなくても、存在を受け取ることができる。なんとなく、わかる。あたたかく包み込まれるピアノポップ「スーパースター」、さらにテンポを上げて「Should be」へ。広い会場がよく似合う、開放感いっぱいのポップソング。気持ちが上がってきた。
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「そろそろもう一つ気温を、体温を上げたくないですか? 立ってもいいんですよ」
ここまで行儀よく座って聴いていた、5000人が一斉に立ち上がる壮観。手拍子で盛り上がるファンキーなダンスナンバー「オセロ」、ソウルフルなホーンの音色がかっこいい「Ginger」と、ライブのキラーチューン連発で波に乗る。客席にマイクを向け、「3階席!2階席!1階席!」と、全員の声をもらって盛り上がる。5000人のクラップに後押しされた「Present」は、ホーン隊がステージ前に飛び出して賑やかに吹きまくる。タンバリンを叩き、くるくる回り、足を蹴り上げてぴょんぴょん跳ねる。小さな体からほとばしるエナジーが、広い空間をハッピーなヴァイブスで満たしていく。もう残すは1曲だ。
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「上へ向かいたい時こそ、下を意識します。広いところへ向かう時こそ、小さな景色を思います。開けた場所に行こうと思う時こそ、誰にも分かち合えない自分の心の真ん中を思います」
音楽について、生き方について、しみじみと語るTOMOO。なんとなく、わかる。「ここが帰りたい場所であるような、そんな思いを持って帰ってもらえたら」と前置きして、ラストチューン「高台」を歌う。はずむピアノ、寄り添うバンド、支えるホーンとストリングス。ポケットの中のカイロのように、かじかんだ手をそっと温めるような絶妙な温度感。
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盛大な手拍子に呼び戻され、アンコールの1曲目に披露したのはまっさらな新曲だった。「近々嬉しいお知らせができると思うので」と、期待を煽る言葉がはずんでる。自信作だろう。さらにもう1曲、フルバンドのゴージャスなサウンドに乗せて「夢はさめても」を歌い、大団円のムードの中でライブは終了。楽しかった。切なさもいっぱいあったけど、楽しかった。
と思ったら、まだ続きがあった。背後のビジョンに映し出される、TOMOOのこれまでの歩みを振り返る映像とモノローグ。一人でステージに戻ってきたTOMOOが話し出す。「来年5月23日、日本武道館でライブをします」。湧き上がる今日一番の歓声、拍手、感情。誰もが自分のことのように、心からの喜びを感じているのがわかる。TOMOOはとうとうここまで来た。
「どんな場所に行ったとしても、私はいつも、歌の中で近くにいたいなと思ってます。5月23日、よろしくお願いします」
さらにもう1曲、フルメンバーで「夜明けの君へ」を披露して、2時間半に及ぶライブを締めくくる。ステージの端から端まで歩きながら、一人一人に手を振る姿が大きく見える。武道館もきっと、この自然体でステージに立つだろう。ただ歌の力でここまで来た。TOMOOの世界は広がり続ける。
取材・文=宮本英夫 撮影=Kana Tarumi
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