そらる
歌い手、シンガーソングライターのそらるが、6thアルバム『ユメトキ』を2月12日にリリースした。アルバムのテーマである“夢”に沿った12曲が収録されている今作は、堀江晶太がトータルプロデュース、そしてアルバム全曲の作詞をそらる自身が手がけ、まふまふやNeruなどおなじみの作家に加え、サツキや星銀乃丈など新鋭作家も参加している。
「ふたりの主人公がいて、自分は語り部でしかない」と話すそらるの繊細な感受性や作家性があらためてあらわになったアルバム『ユメトキ』を紐解く。
――2月12日リリースの6thアルバム『ユメトキ』は、オリジナルアルバムとしては2022年10月1日リリースの『創空とメルヒェン讃歌』から2年以上ぶりとなる作品。その間、そらるさんになにかしらの変化は起こっていたのでしょうか。
大きくスタンスが変わったっていうことはないんですけど……多少の心境的な変化はやっぱりありました。 自分が年を重ねていくことにしても、インターネットを主拠点にする活動者界隈にしても、月日とともに移ろっていくものなんだなっていうのは感じますね。
――そうしたことも踏まえ、どんな想いが出発点となって『ユメトキ』の制作へと向かっていったのでしょう。
今回、テーマにしたかったのは“夢”なんです。夢って眠っている間の頭の中でしか起こっていないことで別に現実でなにかが起こっているわけではないけど、目覚めたときにすごく自分の精神に影響を与えていたりするな、というのは自分自身すごく感じていることだし、きっと多くの人にとって共有しやすいテーマなんじゃないかなと。その中でも注目したのが“継続夢”なんです。
――長期間何度も繰り返し見る、一貫した世界観や生活実感を伴う夢ですよね。
そうです。同じ夢を見続ける人がいる、それってすごく面白いなと思って。いつか“継続夢”をテーマにアルバムを作りたいなと思い始めたのがおそらく5年以上前のことで。十数曲収録することになるアルバムの場合、大きなテーマやコンセプトを決めても別のテーマで作ったタイアップ曲も含まれることになったりもするわけですけど、“夢”がテーマであれば、曲ごとに別々のストーリーがあってもアルバム1枚として成り立たせることができるんじゃないか、いろんな夢を見ながらも大きな流れの中で話を進めていけるんじゃないかなっていう道がだんだん見えてきたというか。今回、「アルバムを作りませんか」っていう打診があって、いい機会だからぜひそれを形にしてみたいなと思ったんです。
そらる
――『ユメトキ』はまさに、さまざまな夢が織り成す色彩豊かな作品になっています。盟友・まふまふさんや堀江晶太さん、白神真志朗さん、Neruさん、大歳祐介(yukkedoluce)さん、ゆーまお(ヒトリエ)さんといった方たちをはじめ、サツキさん、ZEROKUさん、是さん、星銀乃丈さんなど新鋭作家さんたちとの化学反応が起きているように感じます。
今回のアルバム制作にあたっては堀江晶太さんにアルバムのトータルプロデュースで入っていただけることになって。 クオリティコントロールだったり、作家さんの紹介だったりを結構堀江さんがやってくださったこともあり、今まで自分のアンテナが伸びていなかった方々にも作曲をお願いすることができました。
――絶大な信頼を置いている堀江さんとは、“夢”のほかに共有しているキーワードのようなものはあったのでしょうか。
堀江さんにアルバム全体のストーリーをお伝えして、最初に生まれたのが「オーロラ」という曲なんですけど……
――2024年7月開催の日本武道館公演で初披露された、壮大なロックナンバーですよね。
はい。あの「オーロラ」をもとに、アルバムにどんな立ち位置の楽曲が欲しいかを堀江さんと一緒に探りながら、作家さんそれぞれに対してどんなテイストの曲にしてほしいかをお伝えして、アルバム制作を進めていきました。
――いただいた曲から、想像以上の刺激や衝撃を受けたりもしたのでしょうか。
さすがだな、というのは楽曲を書いていただいたみなさんに対して感じたことなんですけど……今回初めてご一緒した方々からいただいた曲たちは、自分にとってすごく新鮮でもあって。あらかじめテーマを決めていますけど、やっぱ曲のイメージに合わせて出てくる言葉もあったんじゃないかな。
――楽曲それぞれに導かれて言葉を紡いでいったりもしたと。是さん作曲の「ユメマドイ」の、ひとりたたずむ<錆びたバス停一つ>で夢想する世界を描く歌詞も印象的です。
楽曲から感じた孤独感が、歌詞に影響を与えたとは思います。
――不思議さ不穏さもあるカオスなナンバー「不完全ワンダーランド」は、『不思議の国のアリス』を想起させる、ある意味過激な歌詞だと感じました。
過激……確かにそうかもしれないですね。さつきさんの「不完全ワンダーランド」は、歌詞を書くのが難しいな、今まであんまり書いたことがないタイプの曲だな、って感じたりもしたんですけど。昔の童話とか児童小説をオマージュしつつ、不思議な世界にふたりが迷い込む話を描いてみました。「ユメマドイ」とか「不完全ワンダーランド」なんかは、聴き手側の想像力に委ねる形になっているんじゃないかな。いっぽうで、yukkedoluce(大歳祐介)さんの「空腹の怪物」とかはわりとわかりやすく物語を読み取れるように歌詞を書いたつもりです。
――<怪物>が<君の笑顔>を願い心を取り戻していく物語、絵本にもしてほしいくらいです。あと、「レヴェノイド」はまるで近未来SFの短編小説を読んでいるようで、映像が脳裏に浮かびます。
“レヴェノイド”というのは“作られた命”“命のようなもの”という意味を持つ言葉をもじった造語で。そういうテーマに対して、自分なりの物語を紡いだつもりではあります。
そらる
――アルバムとしては『ワンダー』ぶりに全曲の作詞をご自身が手がける中で、壁にぶつかることはなかったのでしょうか。
ひとつのテーマに沿っていくつも歌詞を書いていく、それはそれで大変ではあるんですけど、今回みたいに1曲1曲をバラバラで聴いても楽しめるし、アルバム通して全曲聴けばつながっているという、それを両立させるというのもなかなか難しいんだなということは感じました。
――結果、口当たり軽やかな入り口から奥深くへといざない、楽曲それぞれの色鮮やかさで惹きこむ見事な構成になっています。
どうすればアルバムとして聴きやすいかということに重きを置いて、堀江さんにアドバイスしてもらいながら本当に手探りで組み立てていきました。アルバムを手に取った人にもそう感じてもらえたらいいんですけど。
――解けた夢を結い直していくふたりの物語、そのふたりはそらるさんとリスナーさんでもあるという重ね方もできそうですが……。
自分から出てきている言葉だから、もしかしたら重なっている部分はあるのかもしれないけど、自分としてはそういう意識はしていないんですよ。
――あくまでも曲それぞれを物語として書いていると。
そう。ふたりの主人公がいて、自分は語り部でしかないというか。この子たちならどうするかなっていう視点で歌詞を書いているので。でも、人それぞれ受け取り方は違うだろうし、自由に解釈してもらうのも作品の楽しみ方だなとは思います。
そらる
――これまでも数多くの歌詞を書き、さまざまな楽曲を歌ってきたそらるさんですが、『ユメトキ』で瑞々しく繊細な感受性、純度の高さ、作家性があらためてあらわになったなと感じます。ご自身でも手応えは大きいですか。
年を重ねるごとにやっぱり新しいものはどうしても減っていってしまうし、情緒も安定していくし、中高生のときのような感情の大きな動きみたいなものは失われてしまうとは思うんですけど、その代わりにやっぱり経験してきたものが積み重なっていったり、学びを得たりするんですよね。だからそのときなりの自分を表現できているとは思っているし、創作を続けていく上で昔より出したいものが引っかからずに表現ができるようになってきていると感じてはいます。『ユメトキ』も妥協なくすべての楽曲に向き合ってとてもいい曲たちになってくれたなとは思うので、あとはリスナーさんがどう受け取ってくれるか、ですね。
――『ユメトキ』の制作を通して得たもの、気づきもあったりするのでしょうか。
これまでやったことないアルバムの考え方というか作り方だったので、新鮮ではありました。自分がどういう曲の表現が得意なのか、逆に難しいと感じるのか、そういう初歩的な部分はより鮮明に見えたっていう感じはありますね。アルバム6作目にしてそういう気づきがあったっていうことを大事にしたいし、これからもいろんなことをやってみたいということもあらためて思いました。
――ちなみに、そらるさんは寝ているときによく夢を見るのでしょうか。
どうだろう……時期によるかもしれないですね。どんな夢かは抽象的でちょっと説明をしづらいな(笑)。いい夢でも悪い夢でも、現実とは違う世界を体験できる時間って特別だなとは思います。
――5月に開催の東名阪を巡る『SORARU LIVE TOUR 2025 -ユメユイ-』、そのライブタイトルは「ユメトキ」の歌詞<夢結い>ですね。どんな公演になりそうですか。
ライブをやってそこで物語として完成すると思っているので。アルバムとライブをセットで楽しんでもらいたいです。
――『ユメトキ』の曲たちはすべて……
そうですね、全曲歌いたいなと思っています。ライブでやるには難しい曲もあるんですけど、ライブまでにとにかく練習を重ねるしかないですね……。
そらる
取材・文=杉江優花
撮影=大塚秀美
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