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ヨエコ “ニューヨエコ”の誕生を改めて分かち合う祝祭の2時間、活動再開後初のホールワンマンをレポート

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ヨエコ

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ニューヨエコショー2025~ラプソディ~
2025年2月22日(土) 東京・大手町三井ホール

シンガーソングライターのヨエコが、2025年2月22日(土) 大手町三井ホールにてワンマンライブ『ニューヨエコショー2025~ラプソディ~』を開催。新曲初披露もあり、満員の観客と共に“ニューヨエコ”の誕生を改めて分かち合う、祝祭の2時間となった。

倉橋ヨエコとしてのアーティスト廃業宣言から15年の時を経て、2023年に現在のアーティスト名義で活動を再開したヨエコ。この日のライブは、2024年4月に吉祥寺で行われた15年ぶりのライブ、7月に高円寺で行われたファンミーティングに続いて行われる、ホールでの待望のワンマンライブだ。2024年9月20日発売された新名義としての2ndアルバム『ニューヨエコ Ⅱ~ラプソディ~』発売記念として10人編成で“ニューヨエコ”の世界観をたっぷり堪能できるライブとの触れ込みもあり、チケットは早々にソールドアウトとなった。

開演前にはホワイエで特別企画も行なわれていた。Tシャツ、バングルライトなどのライブ記念グッズから、ヨエコお気に入りの「焼き菓子komugi」によるスコーンの販売、ヨエコが長年愛用し、1stアルバムのイラストジャケットの元写真で着用しているデニムブランド「Cepo」とのコラボによる春の新作ショップコートの販売が行われ、大行列となっていた。また、祝い花とファンレターを兼ねた応援広告「推し花」がモニターにて披露されており、ヨエコへの思い思いのメッセージが寄せられていた。さらに、同時にインストカルテット・ササニシカ(川崎綾子[per]、笹沢早織[Key]、西広樹[Gt]、野地智啓[Ba])によるライブも行われており、多くの人が演奏に耳を傾けていた。ライブ本番開演前から会場を取り巻く熱気に、どれだけの人がヨエコのライブを心待ちにしていたのかが表れていた。15年間の活動休止期間中にファンになった人もたくさんいるようで、男女比も半々ぐらい、年齢層もさまざまで、幅広い音楽ファンの関心と期待が伺える。

開演予定時間の17時を過ぎて暗転すると、ステージにジャズトリオ・Re-Trickの3人、菅原敏(Pf)、井上亮(Ba)、渡邊雅之(Dr)と柴田奈穂(Vn)、葛岡みち(Cho)、渡部沙智子(Cho)が登場した。しばしの静寂の後、下手からヨエコが靴音を響かせながらステージに上がり、盛大な拍手で迎えられた。菅原のピアノの導入から渡邊がスティックでカウントを取ると、3声によるスキャットから「盗られ系」でライブがスタートした。譜面台を前に、ピアノとコーラス2人の方向を向いて歌うヨエコ。タイトなリズムに乗せて、流麗なヴァイオリンを纏い明るく闊歩するように歌われるのは、《盗られちゃいました かわいいあの子は きっと今は誰かに 膝枕》と、恋愛の失意というにはあまりにもリアルな歌詞。歌い終わり「ありがとうございます!」と客席にひと声発してから、ピアノに合わせて歌い出したのは「ままごと」。爽快なメロディを軽快なコーラスワークで歌うと、曲の終わりで見事なスキャットを披露。その圧倒的な歌唱力と表現力で、オープニングから強烈な印象を残した。MCを挟んで阿部美緒(Vn)が加わり「人間辞めても」へ。スリリングなマイナー調の旋律をソウルフルに歌うと、会場中が手拍子で盛り立てる。終盤に転調してさらに興奮を掻き立てられた。

MCでは、Cepoとの“ヨエコラボ”により提供されたという衣装の詳細を説明しながら、感謝を伝えた。ステージに田中景子(Vla)、橋本歩(Vc)が加わると、今回のライブが10人編成のオーケストラならぬ“ヨエケストラ”として行われることを改めて伝えて、メンバーのミュージシャンたちを紹介した。かつてはピアノ弾き語りライブをしていたヨエコだが、ピアノが弾けなくなり落ち込んでいたという。だがそのガッカリ感を払拭する素晴らしいメンバーと出会えたことで、今は幸せを噛みしめて歌っていると心境を吐露した。「今日は私の歌だけでなく、素晴らしいヨエケストラの演奏も、全身で楽しんでいってください」。

「久々に歌う曲を」と紹介して「昼の月」でライブ再開。《ずるい波》と連呼する歌い出しがインパクト大だ。ダークで緊迫した序盤と、淀みなく流れるような三拍子で夢を見るように歌われる中盤の展開には、ヨエコの才気溢れる作家性とヨエケストラの表現力豊かな演奏技術が存分に発揮されていた。続く「流星」でもヨエコを中心にしたグルーヴが広がり、うごめくライティングも相まってエキサイティングなパフォーマンスとなった。

「生きているとつい、私は神様の失敗作かなあとか、社会のお荷物かなとかいろいろ考えちゃうんですけど、音楽活動を一度辞めて、いろんな職種で自分なりに一生懸命働きました。でも、何も役に立っていないなとか、むしろ足を引っ張ってるなっていう気持ちでずっと働いてました。そんな私を救ってくれたのは、廃業した音楽しかなかったということがよくわかりました。活動を再開して、“やはり自分は音楽しかないなあ”と気付かせてくれたのは、ファンのみなさんの存在です。こんな私を求めてくださるみなさんには、感謝してもしきれないぐらいです。本当にありがとうございます」。そう言って客席に一礼すると、スタッフにも感謝を伝えるヨエコ。そんなMCから続いたのは、「感謝的生活」。ピアノの軽やかな響きから演奏が始まり歌い出すと、自然に手拍子が沸き起こった。バイオリンの美しいソロから《ありがとうを忘れた子は 1人では生きられません ありがとうを思い出すまで 幸せは来ない》と繰り返し歌われるフレーズが、キャッチーで聴き心地とは裏腹に耳に痛く胸に刺さる。

ここで、観客が手首に付けたバングルライトを黄色にするように呼び掛ける。「黄色といえば何の曲でしょう?」「卵とじ!」「正解!」とお客さんとやり取りして、「卵とじ」を歌い出して手を大きく振るヨエコに応えて、客席は揺らめく黄色いライトで埋め尽くされた。ひと際ポップで明るいムードの中歌い終えるとステージを後にするヨエコ。Re-Trickの短いながらも白熱したセッションから第1部は終了となった。

20分間の休憩を挟んでの第2部では「お色直ししてきました!」と、廃業中もいつか着てライブをしたいと思い描いていたというデニムドレスを着てステージへ。ドレスの制作者やメイク担当者、カメラマンに感謝を伝え、ホワイエでライブを行ったササニシカ、スコーンを販売していた焼き菓子komugiへも感謝を述べた。

バングルを水色にするように求めると、「今日も雨」で2部がスタート。ピアノの清廉な音色から雷鳴のようなドラムがフィルインして曲が始まると、サビのリフレインに合わせて水色のライトが揺れ、客席も雨空のようなライトに照らされた。「夜な夜な夜な」では、《夜は自己嫌悪で忙しい 夜は自己嫌悪で忙しい》と3人の声が重なりながら繰り返し、アウトロでテンポアップしてベースが走り出すとヨエコがソロでスキャットを披露。その迫力は鳥肌もので、曲が終わると場内大喝采となった。MCを挟みアカペラのスキャットから「後半もよろしくー!」と歌い出した「友達のうた」では、弾む演奏と歌声、コーラスのラップパートに観客がクラップで応えて盛り上がる。バングルを赤にすることを呼び掛けると客席からすぐに「ドーパミン」と曲名が挙がった。みんな前のめりでライブを楽しんでいるファンばかりだ。復帰後初のオリジナル曲として1stアルバムに収録されたこの曲を、グッと重心の低いミディアムテンポで歌い上げ、会場はゴスペルチックなムードに包まれた。

ここで、6月15日に東京渋谷の伝承ホールにてファンミーティングが行われることが告知された。昼はファンクラブ限定、夜は一般参加も可能とのこと。「最後はこのコンビでお別れしたいと思います」と告げて、「ラジオ」「楯」が続けて歌われた。ピアノとコーラスの2人だけがステージに残り少ない音数に乗せて歌う、内面の葛藤を赤裸々に明かすような切実な2曲に、場内は静まり返りじっとステージに視線が注がれる。ヨエコを照らしていたスポットライトが消えて行くと、万雷の拍手に包まれた。

アンコールに応えてステージに戻ったヨエコは、ファンミーティング決定に続くグッドニュース第2弾として、4月に「Country Color」「Doremi Song」の2曲入りシングルをリリースすることを発表した。廃業中に中国のドキュメンタリー番組を作っている竹内亮監督から依頼されて作り、飼っていたウサギの名前由来の「machi」名義で発表した曲とのこと。発売に先駆けて、2曲ともライブで初披露された。「Doremi Song」はマイナー調に始まり、コーラス、スキャットから《ドレミファソラシド~》と明るく輪唱する展開の、歌詞はドレミファソラシドだけのユニークかつ豪快な曲。「Country Color」では春に発売する曲ということでバングルをピンク色に。大陸的なストリングスの音色、和風テイストのこみあげるメロディが耳に残るエモーショナルな曲だった。

ステージを降りたヨエコに再びアンコールの声が飛ぶと、Tシャツを重ね着したスタイルでWアンコールへ。「まだ歌ってない、大事な曲が残ってますもんね」と、復帰後のオリジナル曲第2弾として2ndアルバムに収録された「music」へ。《タントンタン タントンタン》と歌うと観客からビシッと揃った合いの手が入る。《音楽でお喋りしよう》と歌うヨエコに、手拍子と合唱でこの日一番の熱い盛り上がりとなり、《音楽で今日から 人間をやり直そう 人間をやり直そう》と歌い曲を締めくくると、ステージのヨエコ、バンドメンバーに盛大な拍手が贈られて、大団円のエンディングとなった。

「ありがとうございました! またお会いしましょう!」

全16曲、2時間にわたるライブは、言葉の一つひとつが刺さるヨエコの渾身の歌唱、ヨエケストラの卓越した演奏とコーラスで、時間があっという間に過ぎて行った。ライブ序盤のMCでヨエコは、喉が本調子ではなく100点満点の声は出ないかもしれないと語っていたが、観る側からしたら100点どころじゃないとてつもなく素晴らしいライブだった。余韻に浸りつつ、そういえばXで言っていたおにぎりクイズの答えはなんだったんだろうか?と想像しながら、楽しい気分で会場を後にした。

取材・文=岡本貴之 撮影=金丸雅代

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