climbgrow
つくづくタフなバンドなのだと思う。メンバー全員が滋賀県在住の4人組ロックバンド、climbgrowは。
バンドがステップアップしようとするタイミングでコロナ禍に見舞われた時もライブを磨き上げるチャンスに変えてきた彼らは、その後もベーシストの脱退をはじめ、逆境に直面してきたが、決して活動を止めることはなかった。その理由はメンバーたちが語っているとおりだが、2023年7月に旧知の谷川将太朗を正式にメンバーに迎えると、早速、その翌月から3ヵ月連続で「瘋癲世界ノ少年少女」「罪ト罰」「KAEDE」という配信シングルをリリースした。それができたのはベーシスト不在の間も止めることなく、曲作りを続けていたからこそだろう。
そして、2024年5月にリリースした7thミニアルバム『LOVE CROWN』から10ヵ月というスピードでリリースするのが、フルアルバムとしては実に4年半ぶりとなる『EL-MAR』だ。
『EL-MAR』がどんな作品なのか、メンバーたちが語ってくれた。
ロックンロール、ハードコア、アンセミックなロックナンバーがライブを意識したことを思わせる一方で、ファンキーなダンスロックナンバーやバラードが新境地を印象づけているところは、基本編成にこだわらずに表現の幅を広げることに挑んだ『LOVE CROWN』を経たからこそのバンドの成長と言えそうだ。
――SPICEとしては3年ぶりのインタビューなので、今さらの質問かもしれませんが、いろいろ変化のあったこの3年のことを、アルバムの話の前に振り返らせてください。
杉野泰誠(Vo, Gt):はい、お願いします。
――早速ですが、コロナ禍を乗り越えたところで、レーベルを離れたり、ベーシストが変わったり、環境がいろいろ変化する中で、みなさんがどんなふうに考えていたのか、感じていたのかというところをまず聞かせてもらえないでしょうか?
杉野:そうっすね。コロナの期間中、ライブが制限されてたんで、それまで普通にやっていたライブのやり方を改めて考えさせられたこともあって、(コロナ禍が終わって)元に戻ってからもライブのやり方が変わったところはあります。
――どんなふうに変わりましたか?
杉野:お客さんが座ってる状態のことを、スタンディングじゃなくて何て言うんでしたっけ?
谷川将太朗(Ba):逆スタンディングね(苦笑)。
杉野:そう、それ。コロナの間、逆スタンディングが多かったんで。しかも、お客さんは声を出すのもダメだったじゃないですか。僕らも前に出たらあかんみたいな。だから、めっちゃていねいにライブするじゃないですけど、“聴かせる”というか、ライブを。コロナ期間中はそういうライブを意識してやってたんですけど、コロナが終わってからも、ちゃんと聴かせる音楽をやりつつ、ライブをするってことができてるのかなって思います。
――あー、なるほど。
杉野:新たに加わった将太朗もライブを見せるのがめっちゃうまいんで、そういうところを生かしたclimbgrowになってると思いますね。
――そこはすごくいい変化だったわけですね。
杉野:そうです。
杉野泰誠(Vo, Gt)
――その後、レーベルを離れたことや、谷川さんが正式加入するまで、複数のサポートベーシストを迎え、ライブを続けていたことは、バンドにとって逆境だと感じていましたか?
杉野:残ったメンバーが折れてたら、バンドは終わってたと思うんですけど、折れずにがんばって来られたのは、ファンのみんなのお陰でもあるし、メンバーのお陰でもあると思うし。
――今回の『EL-MAR』でも《心臓が何よりも正直に語るんだ終われないよと》(「音の音」)、《行き止まりでも僕等はまだ道があると探している》(「アダルト」)と歌っています。それがその時の気持ちなのかどうかはわからないですけど、そんなふうに思いながら歯を食いしばってやってきたんでしょうか。それとも淡々とできることを続けてきたんでしょうか?
杉野:割と淡々とのほうですね。「音の音」「アダルト」の歌詞は、常にそういう気持ちを持っておきたいっていう表れやと思います。
近藤和嗣(Gt):むしろ悲壮感は全然なかったです。結果的に自分らに決定権があることが増えたというか、最初に自分らが動かんと誰も動かしてくれないんで、全員がいい方向に向いたっていうふうに感じてたと思います。僕自身も楽しくなりましたし。
――自分たちに決定権が増えたことで、バンド活動が楽しくなったわけですね。
近藤:そうです。このタイミングでリリースしたいとか、ここでイベントを打ちたいとか、自分らのペースで決められるから、スケジュールに余裕を持たせることもできるし、逆に詰めることもできるし、自分らでそういうことを考えながらできるからいい感じやと思います。
――谷口さんも同じ考えでしたか?
谷口元夢(Dr):和嗣が言ったように何でも自分らで決めて、好きなようにできるのは楽しかったですけど、前のベースが抜けた時は、ライブを絶対止めたくなかったんでけっこう無理やりライブしながら、新しいベース早く決めなあかんなっていう焦りもありました。でも、将太朗がサポートで助けてくれて、それがけっこう僕ら3人の中ででかかったと思うんですよ。(将太朗は)昔からの友達っていうこともあって、空気感的にもやりやすい。ここまで来られたのは、やっぱり将太朗が入ってくれたからやと思うんですよね。
谷川将太朗(Ba)
――最初サポートだった谷川さんはどんな経緯で正式メンバーに?
谷川:実は4人集まって、話し合いっていうのはほんまにしてなくて。ただ、僕、サポートしながらずっとジャブを打ってたんですよ。
――ジャブというのは?
谷川:入りたいっていう。いや、入りたいとは直接は言ってないですよ。でも、僕ができないとき、別の人がサポートすると、「それ、許せへんわ」みたいなことを冗談交じりに言って、ジャブを打ってたんですけど。ある時、僕が正式メンバーだったバンドのほうで。
――MOTHERですよね。
谷川:そうです。MOTHERというバンドを東京でやりながら、climbgrowのサポートをやってたんですけど、先にMOTHERのほうでこれからの人生どうするかみたいな話をすることになって。だから、climbgrowに入るからやめたっていうわけではないんですけど、その時、僕自身はclimbgrowをやりたいという気持ちがもう強かったんで、MOTHERのメンバーも「それやったらclimbgrowでやったほうがいいんじゃないか」って言ってくれて。だから、僕がMOTHERをやめることが先に決まって、それをもっくん(谷口)には言いましたけど、泰誠には「MOTHERをやめるからclimbgrowに入らせて」とは1回も言ってない。勝手に入ってるっすね(笑)。
――おもしろい。詳しく聞かせてもらってもいいですか?
谷川:「MOTHERを抜けんねん」、「そうなんや」、みたいな話はたぶんしたと思うんですけど、「入らせて」とか「じゃあ正式に」とかみたいな話は1回もせずに当たり前のように入ってました。その頃、毎月『DROP DROP DROP』っていうワンマン企画を、climbgrowが滋賀のB-FLATっていうライブハウスでやっていたんですけど、毎回、何かしらのコンセプトを設けていて。2023年7月の『DROP DROP DROP』は何する?ってなったとき、じゃあ将太朗の加入ライブでいいんちゃう?ってノリでなって、正式に入る入らへんみたいな話はしてなかったんですけど、新ベーシスト発表ワンマンみたいなライブにして、その時に入りましたね。
――確認なんですけど、入ってくれとは言われていない?
谷川:言われてません。
杉野:一度も言ってないです。
谷川:でも、お互いにやんわりとは。想像ですけど、たぶんclimbgrowからしたら「MOTHERを抜けてよ」とは言えなかっただろうし、僕もMOTHERをやってる時は、もちろん力にはなりたいけど、climbgrowは誰か別の人を考えているのかもしれないと思ってたんで。でも、他の人がclimbgrowで弾くの許せへん、みたいにも思っていて。
――なぜ、谷川さんはそこまでclimbgrowで弾きたかったんですか?
谷川:僕は高校時代からclimbgrowを知っていて、曲もめっちゃ好きやし、ライブも好きやし、人も好きやし、ほんまに全部好きやったんで。ずっと違うバンドをやってたけど、climbgrowが売れへんのは正義じゃないって、その時から僕はほんまに思ってました。だからメジャーに行くってなったとき、これはもう売れるだろうって感覚やったんです。いや、遅いぐらいに感じてました。それくらい、ずっとかっこいいと思ってたんですけど、最初のベーシストが抜ける時も、だったら俺が弾きたいっていう感覚でもないっていうか、別のバンドもやってたから、他にふさわしい人がいるだろうって。でも、2人目のベーシストが抜けたタイミングでサポートが回ってきたとき、僕、東京にいたから、正直、やらへん選択もあったし、climbgrowのライブの数とか楽曲のレベルとかから言っても、全曲弾ける自信はなかったから、サポートしても足をひっぱっちゃうんじゃないかってほんまに思ってたんですよ。でも、これを逃したらっていう気持ちもちょっとあって。それはclimbgrowに入るとか入らないとか、そういうことじゃなくて、自分のベーシスト的な人生を考えたとき、ここで逃げたら一生うまくならへん気がしたんで、がんばってみるかって。それでサポートしてみたら、全部の時間が楽しくて、これを他の人がやるのは耐えられへんなって思いました。
――climbgrowに入ってから滋賀に戻ったんですか?
谷川:はい。正式に入ってからちょっとして戻ってきました。
近藤和嗣(Gt)
――climbgrowの3人はもちろん谷川さんに入ってほしいと思っていたんですよね?
近藤:思ってました。ただ、やっぱりMOTHERのメンバーやったから、引き抜こうなんていう考えはほんまになかったんですけど、将ちゃんが入ってくれたらなとは思ってました。
――なぜ谷川さんがよかったんですか?
近藤:一番しっくりきたんですよ。これまでベーシストが交代したり、サポートに入ってもらったりした中で。ライブのプレイスタイルやったりキャラクターやったり、あとビジュアルもそうですし。ハマってる部分が多すぎて。
谷川:パーフェクトいただきました(笑)。
――そんなふうにベストと言える4人が揃って、2024年5月にリリースした『LOVE CROWN』を経て、今回、フルアルバムとしては4年半ぶりとなる『EL-MAR』をリリースするわけですが。実験的なことや新境地もありつつ、タフなロックはさらにタフになった印象があって、とても聴きごたえがありました。『LOVE CROWN』は長い期間にわたって作った曲をまとめた作品だったそうですが、『EL-MAR』の曲は『LOVE CROWN』の後に作ったものばかりなんですか?
近藤:ほとんどがそうです。「モラトリアム」だけ『LOVE CROWN』の時に作ったんですけど、その後、アレンジがかなり変わってやっとしっくりきたんで、今回入れました。それ以外の曲はほんまに『LOVE CROWN』のツアーが終わって、秋ぐらいから作り始めたんで、制作期間はかなり短かったですね。
――その時にはもう、フルアルバムを作るという前提で曲を作っていたんですか?
近藤:最初は何も決めずに作り始めたんですけど、作り出したら、あれ、意外とポンポンできるなってなってきて、ツアーが終わってそんなに時間を空けずにフルアルバムに行けたらかっこいいよねって話になったんですよ。
――なぜ、ポンポンと曲が作れたんだと思いますか?
近藤:なんででしょうね。楽しくなっちゃったっていうのはあると思うんですけど、ツアー中、いろいろな音楽を聴いて、吸収したものが多かったっていうのが大きかったのかな。移動が多くなると、自然と音楽を聴く時間も増えるんで、そこで溜めたものをだーっと吐き出せた感じがあって、それが思ったより多かったっていう印象ですね。
――『LOVE CROWN』ではけっこう同期も使っていたので、今回、さらに増えるのかなと思ったら、そんなことはなかったですね。
近藤:そうですね。同期は「アダルト」だけか。『LOVE CROWN』はかなり冒険しにいったというか、今までとはまた違う方向性をいろいろ試してみたんですけど、今回はそこで得たものを踏まえた上で、これまでやってきたものをまとめていったアルバムになってると思います。前作からさらに進化するっていうよりは、いったん地に足の着いたものを作りたいというイメージでやってました。
――なるほど。近藤さんはそういう印象がある、と。3人はいかがですか? 今回のアルバムにどんな手応えを感じているか聞かせてください。
杉野:いいアルバムだと思います。
谷川:おまえ、サボんなよ(笑)。
杉野:(笑)いや、和嗣が言うとおり、地に足の着いた、いいアルバムになったと思ってます。
谷川:和嗣がいっぱい喋ってくれたからええかちゃうねんぞ(笑)。
――谷川さんはどんな手応えがありますか?
谷川:和嗣がさっきほんまに言ってたんですけど。
杉野:おまえなー。
谷川:『LOVE CROWN』は幅を広げたイメージがあるんですけど、今回はほんまに深くっていう感じがしますね。こんなんするんやって言うよりかは、もっと鋭くなってるイメージって言ったらいいのかな。あと、ライブ映えするって言うか、ライブをイメージしやすい曲が多い気がします。もちろん、『LOVE CROWN』もめっちゃいいんですけどね。僕らは演奏している側なんで、ライブのイメージって自然に湧きますけど、普通に聴いてるリスナーとかお客さんとかも、ライブが楽しくなるだろうなってイメージしてくれるんじゃないかって思います。
谷口元夢(Dr)
――谷口さんは?
谷口:climbgrowの今までの総集編じゃないですけど、ベストな曲が詰まってると思います。将太朗が言ったようにライブをイメージしやすいというか、僕らからしたらライブで使いやすい曲が多い。特に「アダルト」なんて、ライブで一番使いやすいんちゃうかな。そういう曲もある一方でバラードもあって、そういうclimbgrowのすべてが詰め込まれてるベストなアルバムになってると思います。
――今、おふたりからライブをイメージしやすいという言葉が出ましたが、確かにその通りだと思いました。曲順もライブのセットリストを意識しているんじゃないですか?
近藤:曲の色合いがけっこうバラバラではあるんで。これまでの作品もそうなんですけど、いかつい曲があったり、優しい歌い方の曲があったり、使ってるコード感も全然違ったりするから、突飛な並べ方も含め何パターンも考えて、曲順は決めていきました。
――1曲目の「音の音」の1番のAメロのブレイクが強烈で、いきなりぐっとひきこまれました。
近藤:あー、あれはなんでそうしたんだっけな。奇抜なことをしようと考えたわけではないから、最初からそうだったとしか言えないんですけど、曲の展開も含めスムーズにできましたね。僕らの曲で再生数が一番伸びてるのが「極彩色の夜へ」なんですけど、いまだにそれを超えられへんって言われることもあるんですよ。でも、求められてるってことでもあるじゃないですか。そういう曲調を。だったら、そういう曲は、ずっとやっていきたと思って、「音の音」を作るとき、「極彩色の夜へ」のセルフオマージュというか、「極彩色の夜へ」をイメージしたせいか、割とすらすらと書けたんですよ。
――「音の音」と書いて、オトノネと読ませるタイトルがおもしろいと思って、音をネと読む時の意味を調べたら、鳴き声あるいは心に訴える音とあって、なるほどと思いました。
杉野:「音の音」だと読み方がわからないから、表記には悩みましたけど、カタカナにするとかわいくなっちゃうんで、言っても造語だから、俺ららしくていいだろうって「音の音」にしました。
――ところで、今回のリード曲は?
近藤:2曲目の「ワンダーランド」と3曲目の「アダルト」がMV撮影予定です。
――ファンキーな「ワンダーランド」は新境地をアピールしつつ、ダンサブルなアプローチをさらに追求しているという印象がありますが。
近藤:そうですね。今作の冒険枠の一つやと思うんですけど、最初はもっとファンキーに作っていて、ブラスも入れてたんですよ。割と回り道しながら作ったんですけど、あんまり突飛なことをしすぎてもなって思い始めて、最終的に、さっき言った地に足の着いた形に落ち着きました。アウトロのフレーズとイントロのフレーズが一緒なんですけど、最初はイントロに激しいカッティングを入れてたんです。でも、なんか情緒が足りひんなと思って、アウトロのフレーズをイントロに持ってきたら、イントロとアウトロの印象がまた変わってくるというか、同じフレーズなんですけど、朝から夜になる感じというか。作りながら、ふっと思いついたアイデアが次々にハマっていっておもしろかったです。
――「ワンダーランド」は中盤、バンドの演奏が白熱するところがあるんですけど、バスドラはツインペダルを使ってますよね?
近藤:僕が作ったデモの段階では使ってなかったですけど、もっくんがツインペダルを踏み出したな。
谷口:和嗣からドラムの打ち込みをもらった時点で、打ち込み直させてもらってるんですけど、前作か前々作からツインペダルを使ってたから、「ワンダーランド」も入れたらおもしろいんじゃないかって入れてみました。
――そんなところも聴きどころではないかと思います。その「ワンダーランド」から7曲目の「モラトリアム」まで、ほぼ曲間を空けずにゴリゴリの曲が続くところがすごいなと思わせつつ、「モラトリアム」の次のバラード「アメージング・グレイス」でギターにディレイを掛けて、さらに新境地を見せるという。なかなか心憎い構成になっているんですけど、スペイン語で海を意味する『EL-MAR』というアルバムタイトルは、「アメージング・グレイス」の《海の様だと僕が笑う》という歌詞から来ているんでしょうか?
杉野:来ていると言えば来ているとも言えるけど、その歌詞が『EL-MAR』というタイトルに直結するかと言ったら、そんなことはないと思います。
――そうでしたか。「アメージング・グレイス」は《海の様な》寛大な心を持っている友との別れを歌っているようにも聴こえるのですが、どんな背景がある曲なんでしょうか?
杉野:これは弾き語りで和嗣に送ったんですよ。こんな感じに曲を作りたいって。そしたら無茶苦茶ディレイが掛かって返ってきたんです(笑)。和嗣に送った時はメロディーだけで、歌詞もほとんど付いてなかったんですけど、そのディレイの掛かった和嗣のリフを聴いているうちに使いたいワードが湧いてきて、海みたいな曲を作りたいと思いました。海というか、海ぐらいでかいというか、壮大な曲にしたくて。歌詞の内容も含め。あと、せつなさも感じられる曲にしたかったです。海を見てると、僕、いろいろな感情が湧くんですよ。
――「アメージング・グレイス」の《君》にはモデルがいるんですか? というのは、最後から2曲目の「STEADY」にも《世界中の悪い奴の優しさを集めても君にはならないな》というふうに《君》が出てきて、「アメージング・グレイス」の《君》と「STEADY」の《君》が僕には同一人物のように思えたんですけど。
杉野:あー、そうっすね。一緒ですね。
――やはりそうなんだ。それが誰なのかはさておき、杉野さんはその人からどんな影響を受けているんでしょうか?
杉野:たぶん、いなかったらもっといろいろな人を傷つけてるんやと思います。
――なるほど。ありがとうございます。ところで、「STEADY」の終盤、合唱パートが加えられていて、そこから曲調ががらっと変わるじゃないですか。そういうところもclimbgrowらしくておもしろいんですけど、どんな発想やきっかけから合唱パートを加えることになったんですか?
杉野:曲を作ってる段階で、この歌詞とメロディーを入れたいって無理やりぶちこんだ気がします。
近藤:「STEADY」も「アメージング・グレイス」同様、最初、泰誠が弾き語りしたワンコーラスだけあったんですけど、バラードの場合、同じ繰り返しだけじゃ飽きちゃうような気がして、最後に何か仕掛けたくなっちゃうんですよ。それで、Cメロという位置付けでコードを変えて付け足したリフレインに泰誠が追加で乗っけて。なんで合唱にしたかって言うと、レコーディングが始まってからやったよな? 合唱にしようってなったの。
杉野:うん、なんか合唱っぽいじゃないですか。《Everything gonna be alright》って言葉は。みんなで歌ったほうがうまくいく感じが出るっていうか。
――あー、確かに。
杉野:気づいたら、みんなで歌ってましたよ。
近藤:いやいやいや、泰誠が急に言い出したんやと思う。それでコーラスのメロディーを作って、みんなに振り分けたんですけど、全員、歌が下手すぎて、すごい地味な合唱になっちゃって(笑)。慌てて、エンジニアさんとか、マネージャーとか、あとレコスタの近くにWOMCADOLEのボーカルの樋口(侑希)さんが住んでるから、泰誠が電話して来てもらって、ゲスト参加みたいな感じで。そんなこんなで最終的には肉厚な感じにはできましたけど。
――たぶん、ライブで「STEADY」を演奏する時は、お客さんもそこに加わってもらうわけですね?
谷川:一緒に歌ってほしいですけど、みんな、照れ屋なんでね。
――いやぁ、これまでのclimbgrowのライブを見るかぎり、みんな歌ってくれるんじゃないですか。それはさておきですけど、今回のアルバムの歌詞は、さらに文学的になった印象がある一方で、9曲目の「心臓」で《ナイフの様な言葉を胸に刺して》と歌っているように正直な気持ちを突然ずばっと差し込んでくるところがすごく印象的でした。
杉野:ドキッとする言葉っていうか、自分自身がっていうのを散りばめられてるなとは思います。それもいいタイミングで。それを感じてくれる人がいたらうれしいですね。
――メンバーは今回の歌詞を、どんなふうに受け止めていますか?
近藤:歌詞で言ったら、「ワンダーランド」がすごい好きですね。新境地やなとか思いつつ、何やろ……“泰誠、大人になったんやな”とかも感じますね(笑)。僕ら、中学から一緒なんで、泰誠の変化みたいなものが見えて、ええ歌詞書くなっていう印象がありますね。
杉野:ずるいですよね(苦笑)。
谷川:何がずるいの?
杉野:ボーカルって心境を見られるんでね。恥ずかしくて。
――あー、歌詞のことを細かく尋ねるインタビュアーもいるし(笑)。
杉野:僕、それがちょっと苦手で。
谷川:濁しちゃうんやな。
杉野:濁しちゃうんですけど、どうしてもほんまのこと言っちゃうというか。ええんけど、その人の感じ方を教えてほしい、みたいなところはありますよ。
――そうですよね。「ワンダーランド」の《帰り道 子供の頃に 集団で歌う ガンダーラ》という歌詞があって、この《ガンダーラ》はゴダイゴの「ガンダーラ」ですよね?
杉野:そうです。
――「ガンダーラ」って、僕が中学生の頃、ヒットした曲だから懐かしいと思いつつ、杉野さんの世代でも集団で歌うんだって、ちょっと不思議だったんですよ。
杉野:僕のおとんがカラオケでよく歌っていて、これ、学校で流行ると思って、僕が小学校の頃、もう1回、流行らせたんですよ。
――へー。
杉野:その当時、友達の家の玄関にインディアンか何かの置物があったんですけど、それを見て、「ガンダーラや!」って言いながら、その友達の家の前で、その友達が玄関を開けるまで「ガンダーラ」をずっと歌ってたんです。大声で。っていうエピソードを歌詞の中に入れました。
――なるほど。そういうことだったわけですね。谷川さんと谷口さんも歌詞について、どんなふうに感じているか聞かせてください。
谷川:僕は「アダルト」の、泰誠がたまに使う《甘い苺のタルトは》みたいなかわいいやつが好きで。「MONT BLANC」でも《生クリーム》って言葉を使ってましたけど、そのギャップがめっちゃおしゃれやなと思いますね。「アダルト」は特に、あんなに激しい曲なのに、なんでそんなことを言うんやってドキッとさせられるんですよ。なんか好きっすね。あの感じは。
――「アダルト」は《苦いイチゴのタルト》と《甘い苺のタルト》の対比も何かしらの意味が込められているような気がしておもしろいですよね?
谷川:おしゃれなんですよね。
――谷口さんはいかがですか?
谷口:僕は「STEADY」を一番聴きますね。泰誠らしい歌詞だと思います。「アメージング・グレイス」もそうですけど、泰誠が作るバラード系の曲が歌詞的にも曲的に昔からすごく好きなんですよ。
――ありがとうございます。歌詞についてもう一つだけ聞かせてください。今回のアルバムには、なぜ自分は歌うのかということについて、改めて考えたんじゃないかと思わせる言葉がいろいろなところに散りばめられていると思うのですが、そういう心境だったということなのでしょうか?
杉野:『LOVE CROWN』の「27」を作ったとき、自分は歌うことが何よりも好きなんだって改めて思ったんですよ。自分の歌っていうのがいつまで歌えるかわからないですけど、死ぬまで歌っていたい的な要素というか、自分の歌に対する思いはけっこう出ちゃってるかなと思いますね。
――すみません。歌詞についてもう一つ。5曲目の「キ43」というタイトルは何かと思ったら、第二次世界大戦の時の日本の一式戦闘機 隼のことだったんですね。
杉野:荒鷲とも言うらしくて、そっから取りましたね。歌詞の中で、《荒鷲と酷い雲》っていう表現でたとえているんですけど、過去のことにせえへんというか、やっぱ生きてるというか、そういうことを曲の中で出していけたらいいなと思って作りましたね。
――戦闘機が好きなんですか?
杉野:いや、好きというか、いろいろ調べてったら、そこに辿りついたぐらいのことなんですけど。
――そうでしたか。いや、そんなところも興味深かったです。さて、興味深いと言えば、「STEADY」でアルバムを終えても全然いいのに、なぜ最後に「OBAKA TACHI NO RARABAI」という30秒のショートチューンを加えたのしょうか?
谷川:あれ、イヤでした? この曲、邪魔やなって思いました?(笑)
――いや、邪魔だとは思わなかったですけど。
谷川:でも、マジでそうっすよね。
――ライブのアンコール的な位置付けなのかなとか、「STEADY」で終わったらきれいすぎて、ちょっと照れ臭いのかなとか、いろいろ想像しました。でも、照れ臭いと思ったのだとしたら、climbgrowらしくていいなと思いますけど。
近藤:それ、いいですね。照れ臭かったってことにしてください(笑)。
谷川:別の曲を和嗣の家で作ってる時に和嗣が「どんな曲が欲しい?」って僕に聞いてきたから、「ライブで何回もできるめっちゃ短いやつ欲しいよな」って答えたら、ガチに1分ぐらいで作ってくれたんですよ。
杉野:将ちゃんへのプレゼントみたいな感じで。
谷川:僕ら、短い曲は他にもあるんですけど、ライブで連発するにはちょっと長いとか、Aメロでちょっと落ち着くしとかあって、ほんまにぶわーって駆け抜けられる曲がなかったんですよ。たとえば、フェスで1分余った時にできるような曲が。メロコアバンドがよくやるんですけど。
――はいはい。
谷川:そういうのが欲しいなって言ったら作ってくれて、泰誠も秒で歌を入れて、ほんまにその日のうちにできちゃったんですよ。もうライブで死ぬほどやってるんです。この間のツアーの時は、なぜか東京だけたまたまやってないんですけど、名古屋では8回ぐらいやって、大阪も6回ぐらいしてんのかな。それぐらいやっても、お客さんも喜んでくれてるというか、伝わってる感じがあるんですよ。だから、最後に入れたのは、僕らがやりたいことだからなんですけど、でも、そうかもしれないですね、照れ臭いのかもしれないです。
――最後に、アルバムのリリースツアーの意気込みと2025年の抱負を聞かせてください。
杉野:2025年の抱負ですか。うわ、むずいっすね。シンプルにむずい。頭に浮かんだのは、僕は歌、歌声でした。
――そのココロは?
杉野:歌、歌声を磨こうと思ってます。
谷川:ほんまかいな?
杉野:将太朗どうぞ。
谷川:抱負か。僕、曲作ってないですけど、あわよくば、また何か出したいですけどね。曲は出し続けたいです。リリースツアーも多めに回るんで、ちゃんとステップアップしたいですね。がむしゃらにがんばりたいって思ってます。
谷口:アルバムの良さを伝えるのは当たり前なんですけど、将太朗が言ったとおり、リリースツアーは前回のツアーよりも回る本数は多くなると思うんで、ライブ力を上げたいです。
――今回のアルバムのドラム、かなり忙しいですよね。
谷口:そうですね。ぎゅって詰まった曲が多い気がします。
――最後に近藤さん、お願いします。
近藤:曲を出すことも含め、動き続けたいです。今回は急に思いついてフルアルバムまで駆け抜けたんで、忙しかったというか、レコーディングのスケジュールもけっこう詰まってたから、計画性を持ってやっていきたいですね。見通しを立てながら動いていきたいと思います。次の作品がどういう規模になるかまだわからないですけど、ツアーが始まる前から取り掛かりたいとは考えてますね。
取材・文=山口智男 撮影=ミワカナコ
広告・取材掲載