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yonige『I’m Back』日比谷野音で示したバンドの歩み、リスナーと深めた幸福な絆

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yonige『I’m Back』2025.3.15(SAT)東京・日比谷公園大音楽堂

yonigeが2025年3月15日(土)に日比谷公園大音楽堂でワンマンライブ『I’m Back』を開催した。『I’m Back』というタイトルが示唆していたように、この日yonigeは、新旧交えたセットリストを披露した。しかし、そこにあったのはノスタルジーではない。今の自分として過去を捉え直し、あるがままの姿で未来へ進もうというバンドの意思である。

2022年に独立し、現在は新しい事務所に所属しているyonige=牛丸ありさ(Vo.Gt)、ごっきん(Ba.Cho)は、サポートメンバーの土器大洋(Gt)、ホリエマム(Dr)ら信頼できる人たちに囲まれながら、インディペンデントな活動を通じて、純度の高い作品づくりとコミュニティづくりに勤しんできた。かつてyonigeには、忙しい日々の中で「売れたい」「キャッチーな曲を書かなければ」「そうしないとごはんを食べていけなくなる」という思考に陥り、身動きがとれなくなってしまった時期があった。一方、今の2人は、理想の音像を獲得した手応えから、あの頃よりも自信を持って「売れたい」という意思を外に発信している。満を持してオーバーグラウンドへの“帰還”を宣言できるようになったからこそ、『I’m Back』というフレーズを掲げたのだろう。

この日の東京は、雨が降ったり止んだりと安定しない天気。定刻をやや過ぎた頃、レインコートを着てスタンバイする観客の前にメンバーが現れた。1曲目は「トーキョーサンセットクルーズ」。歌い出しは牛丸の弾き語りだ。〈トーキョーサンセットクルーズ/ぼくらは狂ったふりをして/いつでも悲しい目をしている/みんな変わってしまったのさ/変われずにいるのはぼくだけだ〉ーー聴く人の心をむやみに波立たせない、牛丸の持ち味であるニュートラルな歌声によって、歌詞の一言一言が届けられる。涙をためた雨雲の下、日々の喧騒から離れ、ライブにやってきた人たちの緊張が、するりするりとほどけていく。そして、ドラムのビートをキッカケにバンドイン。東京の狭い空を貫くオルタナティブロックサウンドは気高く、美しく、yonigeというバンドの在り方と重なるようであった。

次のブロックでは「ワンルーム」「さよならプリズナー」「アボカド」とインディーズ~メジャー初期の楽曲が続けて披露された。〈あげっぱなしの便器がやけにリアルで恥ずかしくなった〉という「ワンルーム」の出だしは今聴いても凄まじいなと思うが、牛丸の卓越したソングライティング力によって、yonigeはデビュー後瞬く間に注目を集め、“次なる名作”を各方面から求められた。これら3曲は、周りからヒット曲を求められる空気にメンバーが疲弊していた頃の曲。おそらくメンバーにとっては苦い記憶とセットになっていた曲で、特に「アボカド」はライブで3年近く披露されない時期もあったが、今、野音で演奏する2人はとても楽しそうだ。バンドは苦しい時期をとっくに乗り越えたのだということ、そして新たなフェーズに差し掛かっていることを感じさせてくれた。また、ごっきんが「今日までついてきてくれた屈強なファンはアボカドで『キャー!』とか言わない。粛々と受け入れてくれる」と言っていたように、変わらずそばにいてくれたファンの存在も、2人のポジティブな変化に影響をもたらしたはずだ。

なお、「アボカド」がセットリスト入りした理由については、MCで牛丸から説明があった。今年2月にオーストラリアへ行き、父と28年ぶりの再会を果たした際、父の自宅の庭にアボカドの木が生えていたことから、この日演奏しようと思ったそうだ。感動的な話だが、ごっきんによると、当の本人と父はなんでもなさそうな様子だったらしく、「なんで?」とツッコミつつ血の繋がりを感じたとのこと。そこまで含めて、yonigeらしいエピソードだ。

そして「ここからはゲストを迎え入れます」という牛丸の紹介から、古舘佑太郎(Gt)、DAIKI_AWSM.(Key)が加わって6名編成に。ちょうど日が落ちた頃に演奏された「催眠療法」のオリエンタルな音像から、セットリスト中最もディープなゾーンに突入した。続く「Exorcist」は、ハードロックさながらのバンドサウンドと淡々としたボーカルのコントラストが印象的で、スケールとぶつかる音をあえて使用したキーボードのフレージングが、楽曲の異質な存在感をより際立たせている。名前のない感情に輪郭を与えるようなベースラインが印象的な「Club Night」までを終えると、音に呑まれてステージに集中していた観客から熱量の高い拍手が。そこからさらに、春風のように温かな「a familiar empire」、ロマンティックなキーボードソロ、かつてなくピュアな音像で鳴らされた「沙希」とハイライトが続いた。

4人編成に戻ってからの「対岸の彼女」も最高。火花を散らすようなバンドの演奏を受けて、客席には飲んでいたビールの缶を衝動的に掲げている人も、微動だにせずグッと噛み締めている人も、曲終わりに「フゥ―!」と叫び出している人もいる。盛り上がり方は人それぞれだが、みんな高ぶっているのだということはよく伝わってきた。ここで、「まだリリースしてない曲をやろうと思います」と新曲「ストラテラ」へ。歪むギターに、バチバチと点滅する照明。心の中で思わずガッツポーズをしてしまうようなゴリゴリのオルタナソングが聴けたところで、今度は「スクールカースト」「DRIVE」「walk walk」といったアッパーチューンが投下される。観客のテンションは上がる一方だ。

極めつけは、6人編成かつトリプルギターで鳴らした「Without you」。コードやフレーズが繊細に絡み合う序盤を経て、分厚いシューゲイザーへと展開するサウンドは、“現時点での集大成”と言いたくなるほどの美しさだ。紆余曲折を経て、充実の季節を迎えるに至ったバンドの歩みが、ここに結実している。自分の心や体を過去の出来事から切り離さず、携えて進もうと歌うボーカルにも気持ちが込められている。メンバー全員が楽器を掻き鳴らし、バンドの熱量がピークに達する中、牛丸が毅然とした声で〈わたしはここからは/弱いままで強くあるよ〉と歌ったシーンは、間違いなく、この日一番の名場面だった。

「Super Express」で本編を締め括るも、アンコールを求める声に呼ばれて再登場したyonige。この日誕生日を迎えたごっきんは、観客からの「おめでとう!」を受け取りながら、「あったかい。自己肯定感、爆上がりしてる」と噛み締め、「みんなのこと大好きです」とファンに伝えていた。一方、牛丸は「楽しかった」と同調しつつ、寒空の下にいる観客を気遣って、体に張っていたカイロを1つ剥がして客席に投げる。それぞれの愛の形が微笑ましい。

さらに、5月から47都道府県ツアーをまわるという嬉しい発表も。ライブが好きではないと公言している牛丸が「そんな私が腹を括ってやるので。道連れやで」と笑ったり、ごっきんが「マジでみんな、地獄までついてきてください。よろしくお願いします!」と付け加えたりといった飾らない言い回しからも、ファンとの気の置けない関係性が伺えた。それにしても、客席からの「最高!」「ワンモー!」といった声に応え、ダブルアンコールまで行うとは、愛情以外の何物でもないではないか。yonigeとリスナーの幸福な絆は、これからますます深まっていくことだろう。そして、もっと多くの人がバンドの魅力に気づく日もそう遠くないはずだ。

取材・文=蜂須賀ちなみ

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