広告・取材掲載

レコード・ストア・デイから考えるソーシャルインフルエンス

ビジネス

レコード・ストア・デイから考えるソーシャルインフルエンス

ソーシャルインフルエンスはソーシャルメディアと戦略PRを融合し、世の中に「短期的な話題化」と「中長期的なブランドコミュニケーション」を複合的に行っていく新しいコミュニケーションコンセプトである。そして、音楽であれば世の中にムーヴメントを起こすことだ。

今回はレコード・ストア・デイに見るソーシャルインフルエンスを考えてみたい。

◆戦略PRはカジュアル世論で「ニーズを掘り起こす」こと

ソーシャルインフルエンスを考える上で、戦略PRとは何なのかを改めて整理しておきたい。この部分はブルーカレント・ジャパン代表取締役社長本田哲也さんの著書「新版戦略PR〜空気を作る。世論で売る〜」(kindle版はコチラ)を教科書にする。

まずカジュアル世論とはなにか。それは「世の中に売れる空気を作り出す」ことになる。生活者に「気づき」を与えて、「買う理由」を生み出す。以前は広告を中心として宣伝、商品のパワーでモノは売れた。

いま、そのチカラがなくなったとはもちろん思わない。特に音楽のようなものはそもそもの商品力(あえて商品力とここでは言うが)がないと全く機能しないはずだ。

いま、「買う理由」から与えなければモノが売れない時代になっている中で、商品自体への気づきではなく、なぜその商品が必要かという「ニーズへの気づき」を与えることが重要になってきている。つまり、「空気をつくる」というのは、「それを買うべき理由」をつくるということになる。それがカジュアル世論である。

さて、このカジュアル世論を形成する上で大切な3つの要素がある。
1.おおやけ(公共性)
2.ばったり(偶然性)
3.おすみつき(信頼性)

おおやけとは「公」を意味し、公共的なメディアであるテレビや新聞などの公のものだ。また、ばったりとは偶然の出会いのことで、ここでは主にソーシャルメディアが寄与するところも多い。最後におすみつきとはその分野に対して見識のある方の言葉を持って発信することだ。(俗にいうインフルエンサーとは意味が違う)

この3つを持ってしてカジュアル世論を形成し、「売れる空気を作る」のが戦略PRである。かなり大雑把な説明になってしまったので興味を持たれた方は是非、ブルーカレント・ジャパン本田哲也代表取締役社長の著書「新版戦略PR〜空気を作る。世論で売る〜」(kindle版はコチラ)を読んで頂ければと思っている。

◆レコード・ストア・デイでカジュアル世論を起こすために

レコード・ストア・デイとは、毎年4月の第三土曜日に開催されている祭りで、オフィシャルサイトによると、
「全米の700を超え、海外に数百を数えるレコードショップとアーティストが一体となって近所のレコードショップに行き、 CDやアナログレコードを手にする面白さや音楽の楽しさを共有する、年に一度の祭典である。限定盤のアナログレコードやCD、グッズなどがリリースされ、多くのアーティストが全米各地、各国でライブを行ったり ファンと交流する日」
となっている。

日本でも開催されているが、大きなムーブメントには残念ながらなっていない。
CDが売れないなどよく聞く話はあるが、例えばここにソーシャルインフルエンスをからめてムーブメントを起こすことは可能かもしれない。(あくまでかもしれないだ。)

戦略PRはニーズを掘り起こすことだ。ただし、それだけではやはりチカラは弱くここで広告の登場である。ニーズを掘り起こしたあとの広告とニーズがそもそもない状況でのチカラは違う。「PR First,Advatising Second」といわれる所以である。

レコード・ストア・デイに「CDやアナログレコードを買いたくなる理由を作り出せるか」がポイントになる。いまのこの状況を振り返ったとき実は逆の理由ばかり作り出されていると気づく。つまり、「CDやアナログレコードを買いたくならない理由」だ。

音楽業界の動き、ランキング、ソーシャルメディア。
あらゆる点においてCDやアナログレコードを買いたくならない理由を作り出しているのが現状だ。ある意味では、逆戦略PR状態と言ってもいいかもしれない。

単純に著名なアーティストだったりがレコード・ストア・デイ限定の作品を発売すれば一定レベルで多くの人の目に耳に触れ、売上に寄与できるかもしれない。しかし、それだけではダメなのだ。

CDやアナログレコードを購入する理由を大きなレイヤーで作り出さねばならない。つまりは、「テーマ開発」だ。このテーマ開発を失敗するとそのあとも残念ながら失敗するだろう。そのためには以下の3つから紐解く必要がある。それは「トレンド」「新しい価値観」「問題」だ。

1つ目のトレンドは「今、これが流行っている」ことを活用する。2つ目の新しい価値観は例えば、少し前に「農ギャル」という言葉が流行ったが、若い女性が農業に取り組んでいるということが話題になれば、農業に対する見方、価値観が変わってくるようなことだ。3つ目の問題は、気づきを与えることである。紙おむつを例に取ろう。

スリム化して吸収力がアップした新商品を発売することになった。その時とった戦略が、「赤ちゃんの睡眠時間」の問題化である。そのころ、赤ちゃんの睡眠時間が不規則なことが社会問題になり始めていたことを活用し、まず、そういう問題に気づいてもらうことを目的に、調査結果の発表や専門家の意見として情報を発信。新聞の生活面で取り上げられるなど情報が十分に拡散した上で、スリムで吸収力が高く、赤ちゃんに良い睡眠環境を提供するという商品特性を訴求した事例だ。

例えば、レコード・ストア・デイを戦略PRで仕掛ける場合は、このように「トレンド」「新しい価値観」「問題」をどう開発するかが肝になる。

◆ソーシャルメディアと戦略PRを掛け合わせるソーシャルインフルエンス

ここまでは主に戦略PRを中心に話してきたが、ここにソーシャルメディアが加わることでさらなるチカラを発揮する。

上記テーマ開発を生み出し、カジュアル世論を作り出す。その際、Webニュースやテレビなどのマスメディアで「自分ゴト化」される文脈のニュースを発信する。ここで大事なのは、ニュースになることではなく、「ソーシャルメディアで話題になるニュースを作る」ということ。キーワードは、ここでも何度も述べているTalk-able(話したくなる要素)、Buzz-able(話題になる要素)、Shar-able(共有のされやすさ)の3つである。

戦略PRによって自分ゴト化と仲間ゴト化が進み、世の中ゴト化の一歩手前まできたときが広告の出番だ(PR First, Advertising Second.)。戦略PRによるカジュアル世論の形成によってニーズを掘り起こし、広告によって解決策を示す。戦略PRは、広告を打つ前のお膳立てのようなものだ。また、このようなある一日をフィーチャーするような記念日マーケティングは有効のような気がしている。(例えば、11月11日はポッキー&プリッツの日として毎年マスメディア、ソーシャルメディアなどを複合させてプロモーションやキャンペーンを実施している江崎グリコなど)

しかし、ここで終わってはソーシャルインフルエンスでもなんでもない。話題にしてくれている多くの人たちに、ブランドサイト(キャンペーンサイト)に来てもらい、より深いブランド体験をしてもらう。この際、当然だが、戦略PRとサイトは文脈やメッセージが統一されていることが大切だ。

レコード・ストア・デイから考えるソーシャルインフルエンス

そして、前回の記事である「ソーシャルインフルエンスは一過性だけではない中長期的な関係を作り出せる」ことにつながっていく。一般的に99%〜99.9%の人は、コンバージョンせずに離脱してしまう中で、その人たちとの再接触の場を作り出す場のことが重要だ。

いかに計画的に話題を起こし、世の中を動かすか。みんなが話題にし、人が動く。店舗にお客さんが来る。商品が動く。検索経由のコンバージョンレート向上ではなく、検索(ニーズ)そのものを生み出す方法。それがソーシャルインフルエンスだ。

まだまだ未開拓の部分ですが、考えていきたいと思う。

<関連ブログ>
第1回:ソーシャルメディアマーケティングのその先を考える

第2回:ブリットポップはソーシャルインフルエンスだったのか?

第3回:ソーシャルインフルエンスは一過性だけではない中長期的な関係を作り出せる

■記事元http://groundcolor.sakura.ne.jp/ground/planet/2013/01/recordstoreday.html


高野修平氏 画像
記事提供:
高野修平 Blog「a day on the planet」

■高野修平 Twitterhttp://twitter.com/groundcolor
■高野修平 facebookhttp://www.facebook.com/takano.shuhei
■高野修平 Musicman-NETインタビューhttp://www.musicman-net.com/focus/27.html

高野修平:
a.k.a. groundcolor。東京出身、1983年生まれ。新卒で広告代理店セプテーニに入社。セプテーニ・ブロードキャスティングの立ち上げに参加。その後、WEB会社プランナーを経て、ソーシャルメディアマーケティング支援会社、トライバルメディアハウスに所属。

関連タグ