Huluが教えてくれた生活者とマーケティングメッセージとのギャップ
Huluが教えてくれた生活者とマーケティングメッセージとのギャップ
VODサービスのHuluが日本テレビに事業譲渡したニュースが先日話題になりました。このニュースは音楽の中でも特にサブスクリプションサービスに深い学びを与えてくれます。
◆定額制とコンテンツ量では響かなかった生活者
1万本の映画、ドラマ見放題、月額980円で始まったHuluは大きな期待が寄せられていました。僕自身もサービス当初から今に至るまでかなり楽しく利用させてもらっています。いうたら、超ヘビーユーザーです。
日本ではまだまだレンタル市場が強いものの、アメリカでは完全にレンタル市場からVODサービスヘとシフトし、Netflixなども凄まじい勢いで成長しています。
そこで、日本では海外映画ファンやITリテラシーが高めのターゲットを中心にマーケティングを行いました。マスメディアも活用し、深夜帯を中心にベッキーがイメージキャラクターとなり、定額制とコンテンツ量を全面に出して会員獲得を増やすべくCMも打っていました。
しかし、Huluは会員数を公表していませんが、おそらくそこまで大きな会員数は確保できなかったのではないでしょうか。つまり、Huluが打ち出した定額制とコンテンツ量をメインに据えたマーケティングメッセージは生活者には響かなかったのです。
もちろん、これは仮説であり、実際は全く異なる事実かもしれません。ですので、あくまで想定として書かせていただいます。
さて、ユーザーインサイトにそぐわないマーケティングメッセージでは、どんなに広告を展開しても刺さりません。定額制やコンテンツ量は生活者にとってイノベーションではないからでした。
そして、いま全く同じ戦略で実行しているのが、音楽サブスクリプションサービスです。
◆フリーミアムも一定の武器にしかならない
Huluはサービス当初からフリーミアムを実施し、2週間無料で見られる期間を設けました。確かにフリーミアムは有効な手段であることは間違いありません。フリーミアムとマーケティング戦略が合致して、会員数が大きく伸びた時期もあったはずです。
フリーミアムはサブスクリプションサービスで重要なポイントです。フリーミアムなしの戦略ではコアファンは獲得できても、潜在層、顕在層は獲得できません。よって、フリーミアムはサービス拡張のためにはマストですが、フリーミアムの中身によっても大きく同じフリーミアムでも異なります。
海外のSpotifyのように時期を定めず、フリーミアムを実現できるのが理想ですが、日本の場合はそう簡単に行きません。長くて2週間、一般的には1週間は通常ではないでしょうか。
例えば、Spotifyは、これまでいくつかのマーケットでは無料ユーザーはSpotifyで利用開始から6カ月経過した後、ウェブでの視聴は毎週2.5時間に限定されてきました。しかし、今は運営するすべての国での時間制限がなくなり、無料ユーザーも有料ユーザーと同様にウェブでの音楽視聴が無制限に楽しめるようになっています。
安直にフリーミアムと声高々に叫ぶのではなく、フリーミアムの詳細設計こそが要です。フリーミアムにすればサービスが多くの人に遣われることなんてないのです。
同時にもしもフリーミアムを実施し且つ1週間や2週間の期間ならば、ここで初めてコンテンツ量というのがポイントになります。
サービスにおいて重要なのは、ユーザーの「成功体験の連続」なのです。音楽サブスクリプションサービスであれば、聴きたい曲が聴けた。新しい音楽に出会えた。いつでもどこでも聴けた。ストレスなくサービスをいじれた。こういった「成功体験の連続」がサービス継続の大切な部分です。
フリーミアムの期間とコンテンツ量がマッチして初めて大きな武器になります。そういった意味では、Huluはサービス当初はまだまだコンテンツが足りませんでした。
少し前にTBSやNHKからコンテンツ提供を受け、コンテンツ量は充実しました。しかし、それでもなかなか会員数は増えていきづらかったのかもしれません。つまり、最初にフリーミアム×コンテンツ量が整備されていなかったことが初速をブーストできなかった原因かもしれません。
◆聴き放題ではない、新しい価値を訴求
音楽ファン以外に音楽サブスクリプションサービスを利用してもらうためには、聴き放題や2000万曲、月額980円などは異なるマーケティングメッセージを打ち出すべきです。
なぜなら、音楽ファン以外の多くの生活者にとって聴き放題じゃなくても知っている曲だけ聴ければいいし、2000万曲も必要ないし、月額980円も払うよりは、YouTubeで十分なのです。
それでも、そのハードルを突破していくために、必要なのは「サブスクリプションサービスは音楽の聴き方として新しいスタンダードになる」というパーセプションチェンジと「音楽の新しい聴き方の素晴らしさや面白さ」をセットで提供すべきマーケティングではないでしょうか。
必要と思っていないものを、マーケティングメッセージとして訴求されても音楽ファン以外の生活者には、興味は湧きません。「MUSIC DISCOVERY」を必要とする、面白いと感じる生活者のマインドチェンジを行わなければ、音楽ファンの中で楽しまれているだけになってしまいます。
音楽を掘る喜びを、音楽を広げる楽しさを、新しい音楽に出会うワクワクを、音楽ファン以外に伝え、伝わる。まさしく「MUSIC DISCOVERY」によって、音楽が趣味と言える人々を増やしていける可能性を音楽サブスクリプションサービスは秘めています。
Huluが今後、日本テレビ傘下に入ることでどうなるかはわかりません。別にHuluは日本から撤退したわけではありません。むしろ、これから一層浸透していってほしいとHuluユーザーとして強く思います。
「業界ゴト」を越えていく。その先に広がる未来はきっと明るいと僕は思います。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
■記事元:http://takanoshuhei.com/2014/03/marketingmessage/
記事提供:THE GREAT ESCAPE
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