消費者目線の価格戦略が、音楽との関与度を高める
ビジネス目線でなく消費者目線の価格戦略が、音楽との関与度を高める
今の時代、音楽にお金を落としてもらうことは並大抵のことではありません。
特に若い世代を中心に音楽にお金を払うという意識や行動は減少しています。
しかし、多くの人は音楽を聴いているのです。お金を払う払わない関係なく。
昔から言っているように、音楽にお金を支払ってもらう前に、いかに音楽への関与度を引き上げるかが重要だと述べてきました。
それは音楽にお金を支払うという習慣づくりではありません。習慣づくりは生活者に対してとても上から目線になります。習慣づくりではなく、きっかけづくりを生み出すことが大切だと思います。それが生まれた果てに「やっぱりこれがあってよかった」と思える満足度を提供する必要があります。
そういった意味では音楽における価格帯のあり方というのは大きく変わっていく必要性を感じますし、そこに可能性もあるのではないでしょうか。
◆Spotifyの大学生マーケティング
Spotifyは大学生向けにプレミアムプランを半額にする施策を開始しました。
好きなだけ音楽が聴けるサービスを月額9.99ドルと利用時に広告が入る無料プランで提供していますが、今回の新しいプランではアメリカの大学生であればSpotifyのプレミアムプランを月額4.99ドルで購入が可能になりました。
また、広告に邪魔されずスマホやタブレット,PC、デジタル家電などで利用できるようになります。
参考:All Digital Music/定額制音楽サービスSpotify、大学生だけにプレミアムプランを半額にするディスカウント価格を提供開始
大学生はお金がありません。だからこそ、音楽にお金を払うハードルは圧倒的に高まります。しかし、ターゲットに併せた価格戦略を行うことで、少しでもそのハードルは下がりますし、新しい顧客開拓のチャンスが生まれます。
ジェイ・コウガミさんのブログの中でも述べられているとおり、この価格戦略により若者の音楽体験の幅が広がります。YouTubeでも、iPodでもいいですが、音楽を聴くツールの選択肢にSpotifyが含まれることになります。
これは案に値下げという短絡的なマーケティングではありません。適切なターゲットに対して、適切な価格で、訴求するという極めてまっとうな戦略です。
◆音楽は価格戦略が苦手?
音源を購入する上ではCDパッケージ購入以外にも、単曲買いやレンタル含め価格設定は違います。しかし、意外に今まで通り変わらずなのが、ライブチケットです。
海外の来日公演では、席ごとの価格設定が行われていますが、こと日本のアーティストのライブになると多くが一律料金の値段です。それはつまり最前列であろうが、スタンドのはるか後方席だろうと同じ価格です。
海外では当たり前のように席にグレードがあります。近くで見たいから価格は上がる。見たいけど、遠くでいいなら価格は下がる。といった具合にです。
同時に行われないのが、当日券などの価格です。むしろ、当日券は値段が上がることさえあります。例えば、6000円のライブ代なら興味はあったけど行けない子が、仮に当日券が4000円になったなら足を運んでくれるかもしれません。
つまり、ライブにおいての一律価格料金設定は見込顧客がこぼれていっている可能性があるということです。
音楽においてライブがファンの深度をもっとも高めることができます。だからこそ、重要なのは、コアファンはもちろんですが、顕在層やライトファンがどうやってライブへ足を運んでくれるかという戦略なのです。
ここで懸念される点はファンクラブなどに入会している圧倒的コアファンとの公平性です。
「私は前売り定価で購入したのに、当日券で安く見れるなんてずるい!」
こんな声が聞こえてきそうだからこそ、座席の価格設定が重要になります。当日券で安くなおかつ前で見れたなら、それは不公平です。しかし、座席価格設定をきっちりと細分化しておくことで、コアファンも顕在層やライトファンもハッピーになれる方法論があるのではないでしょうか。
◆プロ野球チームを参考にする
日本のプロ野球は価格設定がしっかりとなれています。
内野席S席、内野席A席、外野席などそれぞれ見れるフィールドによって価格帯は異なります。
つまり、ニーズに併せた価格戦略です。これによって球場への来場をコアファン以外にも拡張させています。例えばプロ野球の試合を外野席1400円で会社の仲間7人と見に行くことはあっても、ライブに6000円払って仲間7人と行くことは稀です。
適切な価格戦略はエヴァンジェリストがソーシャルグラフを巻き込みやすいメリットももたらします。そして結果、プロ野球も音楽のライブもリアルというもっとも魅力を伝えられる場へ人を動かすことができます。
そして、そこから物販など(プロ野球なら飲食、グッズなど)チケット以外へのお金の落とし方をしてくれます。なぜなら、【共鳴】すればするほど、人は記憶を形に残したくなるからです。
同時にソーシャルメディアへの【共有】によって、新しいファンを生み出す可能性があります。しかし、それが一律6000円ならどんなにソーシャルグラフ上の友人が興味をもっても二の足を踏んでしまうでしょう。
また、プロ野球チームはファンクラブにもグレード制を設け、ターゲット別の戦略を実施しています。数万円もする年間シートは豪華なインセンティブやおもてなしがある半面、3000円のファンクラブは内野席S席2枚とグッズをプレゼントなど、狙うべきターゲットごとの欲求とお得感を用意しています。
音楽の場合は、ファンクラブの多くが一律年会費5000円などで圧倒的コアファン以外は入ることはないでしょう。しかし、年間3000円なら?年間1500円なら?ファンの熱量に応じたファンクラブのグレード制は意味をなすはずです。それは見込顧客も内包した大きなデータベースを構築できますし、コアファン以外のファンを取りこぼすどころかステップアップさせていけます。
このようにファンクラブのあり方も変わっていくことで、音楽にお金を支払ってくれる人たちを増やすことが出来ると思います。
難しいこともたくさんあるはずです。そういう風に思っててもなかなか実現できないことも多いと思います。しかし、音楽へのお金の投下量は減少し、そもそもの音楽への関与度が下がってきている今、時間はあまり残されていないかもしれません。
プロ野球を始めとした他業界からも学べることは数多くあります。
音楽という素晴らしいものをもっと多くの人へ広げられる手段はまだきっとあるはずです。
だって、ライブやファンクラブのようにアーティストが日常に組み込まれるって素晴らしいじゃないですか。僕はもっと多くの人が来てほしいと心から願っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
■記事元:http://takanoshuhei.com/2014/03/price/
記事提供:THE GREAT ESCAPE
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