「アナと雪の女王」が成功をおさめた音楽マーケティング戦略の秘密
「アナと雪の女王」が成功をおさめた音楽マーケティング戦略の秘密
ディズニー映画「アナと雪の女王」の勢いが止まりません。興行収入は120億円を超え、動員数は1000万以上の人が映画館に足を運んでいます。加えてサントラや「Let It Go」も大きく売上を伸ばしています。
まさに「アナと雪の女王」はブームとなり、「世の中ゴト化」を達成しました。「アナと雪の女王」から見る音楽マーケティングは多くの示唆を与えてくれます。
◆ 終わらないニュースと二次創作
「アナと雪の女王」がここまで大きなうねりになったのは、まさしく「終わらないニュース」と二次創作が核となっています。「終わらないニュース」とはPRからのニュースが各メディアを通して連続して起こることであり、かつその内容は主題を維持しながらも、多面的な内容が展開されることです。
「アナと雪の女王」で言えば、映画自体のニュース、興行収入のニュース、ソーシャルメディア上での「歌ってみた」や替え歌、風立ちぬを超えるか?などがニュースなど止めどなく流れます。
加えて、同時並行で先に述べたようなユーザー主導による二次創作です。替え歌やミュージカルを口パクで完全再現することや、「Let It Go歌いながら徐々に全裸になるの楽しすぎワロタwwwww」、コスプレ、イラストなどソーシャルメディアを中心に無数に存在します。
正直、あのディズニーがよく許容しています。まさに戦略的に音楽を解放していると考えることができます。音楽を解放することは、音楽を引き寄せます。
替え歌(一生・FAT・よー)
この歌の替え歌もただ「アナと雪の女王」の替え歌だから話題になったのではなく、そこに加え「無駄に歌がうまいw」や「デブの歌」など非常にTalk-ableな内容を含んだものでした。
さらにリアルでは「アナと雪の女王」のシング・アロング版公開を記念したイベント「みんなで歌おう! 『アナと雪の女王』」が東京・江東区のディファ有明で開催。北海道から沖縄まで約5000人の応募者の中から当選した約600人が参加したというニュースもあります。
ちなみに「一緒に歌おう♪『アナと雪の女王』「Let It Go<歌詞付Ver.>」のYouTube再生回数は2000万回を超えています。
「終わらないニュース」や二次創作の重要性は、「始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング」でも書きましたが、ブームやトレンド、ムーヴメントを形成する上ではエンターテインメントにおいて不可欠です。「アナと雪の女王」はまさにこれを実現したからこそ、「世の中ゴト化」を成し得たと考えられます。
現在の「アナと雪の女王」にまつわる盛り上がりの総称である「レリゴー現象」という社会記号が誕生しているのもムーヴメントへ変異する条件のひとつをおさえています。さらにここから否定的意見の発露がすでに始まっています。そこに肯定派/否定派の議論が巻き起こり、上映時期も伸びるなどの期間が加わっていけば、「アナと雪の女王」はムーヴメントへ成長するでしょう。
◆ 文脈が映画文脈の「アナと雪の女王」ではなく音楽文脈の「Let It Go」
今回の「アナと雪の女王」の特異点として、文脈性があげられます。もちろん、映画自体の文脈は存在しますが、それよりも大きな文脈が存在しました。それが音楽の「Let It Go」でした。
本来語られる文脈が映画である以上、映画が当たり前ですが、主語になるべきです。しかし、実際は「アナと雪の女王」の「Let It Go」ではなく、「Let It Go」の「アナと雪の女王」でした。主語が逆転していました。
それは「アナと雪の女王」の予告編からも意図的に音楽を主軸としたマーケティングであることが見て取れます。予告編では(いくつかパターンはありますが)主題歌である「Let It Go」を全面に打ち出した戦略でした。
映画のオフィシャルサイトを見てみても、「Let It Go」が強く打ち出されています。つまり、映画「アナと雪の女王」は全方位的に「Let It Go」の音楽文脈でマーケティングを実施しています。
二次創作は結果的かもしれません。しかし、ここまで音楽文脈である「Let It Go」にマーケティング施策を振り切ったからこそ実現できたといえるのではないでしょうか。
「アナと雪の女王」はミュージカルアニメーションです。だからこそ、音楽が重要な位置を占めます。音楽と映画の幸福な融合が「アナと雪の女王」の強みと言えます。
正直言って「アナと雪の女王」がどんな映画かわからないけど、音楽は知っいるし、聴いたことがある。そんな人は今も多いはずです。しかし、「Let It Go」が非常に優れた楽曲であること、また、Talk-ableな音楽であることを武器にした音楽中心のマーケティングから派生して映画文脈へ落とすという戦略はPRを含め、極めて秀逸です。
そこに興行収入が紐づいた瞬間、文脈が並列で映画と音楽で発生します。すると、映画自体の内容やヒットの理由など、映画トライブ、ディズニートライブを超えて、拡張します。それは例えば、マーケティング分野などがまさにあてはまります。多方面で「アナと雪の女王」が「Let It Go」が語られます。そして、それはトライブを横断して広がっていきます。その結果、本来メインターゲット以外であった人も含め、接触頻度があがり、関与度が向上していきます。
「アナと雪の女王」は音楽文脈からいくつも文脈が生まれ、多くのトライブを獲得し、世の中が動きました。人が動きました。
「最近、アナと雪の女王のニュースよく見るなあ。そんなに人気なのか?」
「Let It Goがいたるところで聴こえる。そんなに流行ってるんだ」
「レリゴー!レリゴー!とわが子が歌ってる!」
上記のような状況的心理作用が働き、「これは見た方がいいのではないか」という空気が世の中を形作っていきます。
ウォルト・ディズニー・ジャパンの井原多美氏は日本での成功は、「大人の女性ターゲット」という独自戦略が大きく功を奏していると述べています。「大人の女性は娯楽に活発な志向があります。この層をつかめば、自ずとほかの層にも波及するだろうというのが狙いでした」とインタビューでおっしゃっています。
(参考:「アナと雪の女王」ヒットの裏に日本の独自戦略あり)
「アナと雪の女王」は大人の女性というセグメンテーションマーケティングから、音楽マーケティングで拡張させることで、メインターゲットだけでなく、多くの生活者を巻き込むことができました。
◆ 音楽を媒介としたマーケティングは加速する
「アナと雪の女王」は単なる主題歌やタイアップという今までのマーケティングを行いませんでした。
「アナと雪の女王」は音楽を媒介としたマーケティング戦略で世の中を動かしました。これは音楽がどんなものにも解け合えるという特性を十二分に活用した新しい音楽マーケティングといえます。
もちろん、映画と音楽の親和性やドラマティック・ミュージカルという映画の内容から実施できた背景は無視できません。
しかし、これがスポーツメーカーでも、飲料メーカーでも音楽を媒介としたマーケティングは可能なはずです。そして、そこに音楽マーケティングの未来はひとつあるのではないかと思っています。
「Let It Go」はサントラも配信も大きな売上を作りながら、本丸である映画自体も大成功をおさめています。CDが売れない、音楽が聴かれない。それを打ち破ることができました。
音楽マーケティングは音楽業界を中心としたやり方だけではなく、音楽に関係のない一般業界などが音楽を媒介としたマーケティングを実現することで双方に大きな価値をもたらします。
「アナと雪の女王」のような音楽マーケティングは、音楽を日常にする、音楽で世の中を動かす可能性を教えてくれます。「アナと雪の女王」だからできたのではありません。音楽を媒介としたマーケティング戦略だったからこそ、「アナと雪の女王」は成功したのではないでしょうか。
「アナと雪の女王」は音楽マーケティングの可能性を切り拓いてくれた素晴らしい戦略だと思います。届けたいもののクオリティと音楽が融合したとき、人が動き、世の中が動き、モノが動きます。
音楽のチカラで、マーケティングを。
音楽を媒介としたマーケティングは今後一層加速していくはずです。
それは音楽を利用するのではなく、音楽の素晴らしさを活用したマーケティングです。
その可能性を僕自身も挑戦していきたいと思います。もっと音楽が溢れる世の中になるように。
個人的に雪だるまのオラフがかわいすぎました。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
■記事元:http://takanoshuhei.com/2014/05/frozen/
記事提供:THE GREAT ESCAPE
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