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Spotifyジャパンが語る。日本と世界の音楽についての15のデータ

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Spotifyジャパンが語る。日本と世界の音楽についての15のデータ
▲スポッティファイ・ジャパンの野本晶氏(左)とハネス・グレー日本代表(右)。グレー氏は自身も起業家だが、現在はSpotifyに参加。野本氏はソニーミュージックからAppleのアイチューンズ(株)へ、そして現在はスポッティファイ・ジャパンという経歴を持つ。

7月8日。沖縄に大型台風が差し迫るなか、世界の音楽業界で台風の目となっているSpotifyが沖縄コザでワークショップを開催した。プレゼンターは、Spotifyジャパン代表のハネス・グレイ氏と野本晶氏。会場となったミュージックタウン音市場には、悪天候をものとせず100人の音楽ファンが集まった。

『未来は音楽が連れてくる』を連載中の筆者も本イベントに招待された。Spotifyワークショップで語られたスリリングなデータを、本記事で解説させていただくこととなった。グレー氏と野本氏の語った中から、15のデータをチョイスしてみた。

(1) 音楽が趣味の人、56%で、趣味・娯楽でNo.1。

音楽はまだ帝王だった。「この1年でやった趣味・娯楽は?」という問いに対し、次の結果となったという。

1位:音楽 56% 2位:テレビ 48% 3位:読書 47% 4位:映画館 41% 5位 ゲーム 39%

「コンテンツがキングだ」とビル・ゲイツが言ったのは18年前だった。以来、音楽産業はビジネスモデルを見失っていたが、エンタメ・コンテンツにおいて「王の中の王」であることにかわりはないようだ。Spotifyは音楽産業のビジネスモデルに、エジソン以来の革命をもたらそうとしている。

(2) SpotifyからFacebookに毎月20億の投稿

SpotifyはFacebookの特別パートナーだが、「みんな音楽が好きなのだ」と考えさせられる。Facebookは人間関係で構築されたソーシャルグラフの上に、趣味・興味でつながるインタレストグラフを構築しようとしている。Spotifyはその中で最強のインタレストグラフを築き、全盛期にあるコミュニケーション・エンターテイメントから音楽の有料課金への導線をつくりあげようとしている。

(3) Spotifyで、6000万のプレイリストが先月(2014年6月)作成された

かつてWalkmanはMixテープ文化を作り上げた。自分が好きな音楽を1本のテープにまとめ、友だちと交換する文化だ。Spotifyのプレイリスト文化はMixテープのリバイバルだ。毎月作成される6000万本の半分以上が、作成者以外のひとたちが再生していると聞いている。

(4) Spotifyの平均利用時間、100+分/日

Spotifyを使っていると、毎日アルバム1枚よりちょっと多いぐらい音楽を聴くようになる。Spotifyの仕組みは、有料会員が増えるほどアーティストの収入が増える仕組み。毎日音楽を楽しむひとを増やすことが、アーティストの収入を上げることに繋がっている。

(5) 音楽を聴く人は89%、うち半数が家で聴き、3分の1の人が移動中に音楽を聴く

Spotifyのビジネスモデルをそのまま説明できる数値だ。Spotifyはフリー(無料)+プレミアム(有料)のフリーミアムモデル。まず「音楽、基本無料」で89%のひとを対象にできる。その半数がPCやタブレット上でSpotifyを普段使いしてくれればいい。

そして移動中にSpotifyで音楽を聴いてもらえれば、人口の3分の1が音楽に毎月アルバム1枚分のお金を払う仕組みができあがる算段だ。

(6) 57カ国でSpotifyが利用可能。ブラジルでサービスイン。

Spotifyが誕生して今年で6年になる。目まぐるしく変わるネットの世界では、けっこうな老舗サービスだ。

W杯で盛り上がるブラジルでも近日、サービスインした。ブラジルは音楽好きの国として知られるが「USB文化」の国でもある。mp3をファイル共有で落として、USBスティックに入れてカーステやラジカセに挿して楽しむ文化だ。結果、自国音楽のスタジオ録音は経済規模相応に比して小さく、ミュージシャンはライブでしか稼げないという新興国の典型的なスパイラルに陥っている。

Spotifyは先進国で違法ダウンロード・キラーとして評価を固めてきた。ノルウェーなどで違法ダウンロードを5分の1に減らしたSpotifyはブラジル音楽業界の希望になるか。世界の音楽業界が注目を集めている。

もしブラジルでSpotifyが成功すれば、これまでCDではマネタイズできなかった新興国も音楽産業の大切な市場に生まれ変わるだろう。世界の経済成長と音楽産業はリンクできるようになるわけだ。音楽産業復活の一翼を担う社会実験と言えるだろう。

(7) Spotifyの有料ユーザーは50%以上が29歳以下。

音楽業界では現在の若年層を”ロストジェネレーション”と呼ぶことがある。動画共有とファイル共有を使いこなす彼らは、前世代に比べ(ライブを含めても)音楽にお金をはらわなくなっているからだ。しかし、Spotifyの有料ユーザーはロストジェネレーションが半数以上。YouTubeやファイル共有よりももっと便利で楽しいサービスを創れば、彼らも音楽にお金を払ってくれるのだ。

(8) Spotifyは、世界のデジタル売上でiTunesに次ぐ2位

世界ではデジタル売上がCD売上を2年以内に越えようとしている(日本ではCD等のシェアは80%超)。そのデジタルのなかでSpotifyの売上はiTunesに次ぐ地位となった。現在、iTunesのダウンロード売上はマイナス成長がはじまっているが、Spotifyのストリーミング売上は急成長を続けている。世界のミュージシャンにとってSpotifyが主たる収入源になる日は間近に迫っている。

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(9) アメリカの2013年、デジタル売上比率は64%、ストリーミング売上は全売上の21%で成長率は71%

RIAA(米レコ協)は昨年3月、アクセスモデルに関するレポートを発表した。CDやiTunesなど音源の複製を売るエジソン以来のビジネスモデルが衰退する一方、SpotifyやPandora、YouTubeなど、クラウド上の音源にアクセスする権利をマネタイズしたアクセスモデルが急成長しているという報告内容だ。

アクセスモデルはインターネットやスマートフォンと相性がよい。結果、世界No.1のアメリカ音楽業界でアクセスモデルの売上は5分の1を占めるまでになった。

(10) Spotifyが2013年、音楽業界に支払った額は500億円($5億)

これを多いと見るか少ないと見るかでSpotifyの評価は別れる。ちなみに日本の2013年のデジタル売上はSpotifyの総売上を下回る416億6100万円。前年比△23%だ。iTunesと並ぶ成功を収めた着うたがスマホの到来で調子を崩して以来、日本のデジタル音楽は総崩れの感がある。他の先進国にもれず、日本でも若年層はダウンロード販売ではなく、無料の動画共有に向かった。いっぽうSpotifyは、YouTube世代を有料会員に変えている。

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(11) 2013年、先進国の音楽ストリーミング売上はアメリカ前年比+32%、ドイツ+16%、イギリス+34%、フランス+4%、イタリア+182%、スウェーデン+30%、ノルウェー+60%、日本+518%

ガラパゴスと揶揄されることも多い日本だが、セクター別にトレンドを眺めると、日本も世界と同じ動きをしている。CD等物理売上はマイナス・トレンド。デジタルの内、ダウンロード売上はマイナス・トレンド。そしてストリーミング売上は大幅なプラス・トレンドだ。

日本の特異点は、ダウンロード売上のマイナストレンドが世界一であること。そしてストリーミング売上のプラストレンドが始まった時期が遅いことだ。答えはシンプルで、Spotifyのように有料会員を劇的に増やせるストリーミング配信を育てればよいことになる。それを示したのが下図だ。

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(12) 日本では32%がCDをレンタル(リッピング)、35%が動画共有で音楽を無料視聴。36%のみがCDを購入。有料ダウンロードはわずか5%

CD販売とSpotify。どちらがミュージシャンの助けになるか、議論の別れるところだ。CDの方が実入りがよいが、ネットの普及で複製ビジネスが毀損した今、世界的に機能不全に陥っている。Spotifyの実入はCDアルバムの黄金時代には及ばないが、時代に適合したビジネスモデルを提供している。

だがSpotifyとCDレンタル、動画共有、ダウンロード販売の三者とを比べた場合、Spotifyの方がアーティストの助けになる場合が多そうだ。

リッピングが普及したいま、CDレンタルはパイロットメディアではない。動画共有でプレイリストをつくればCDを買う必要はほとんどない。ダウンロードはもともとCDレンタルのリッピングに価格面で勝てず、人気がない。

(13) 日本人の26%が「ストリーミング音楽配信を使ってみたい」。でも実際に使っているのは1%以下

以下は音楽コンサルタントとしての筆者の感想だ。現在、Spotifyに近い定額制配信にはドコモのSonyのMusic Unlimited、レコチョクBEST、KKBOXなどがあるが、認知度は低い。理由はいくつかある。フリーミアムモデルではないため、無料の動画共有に競り勝つのがむずかしいこと。月額980円が、スマホ・アプリの相場100〜300円にマッチしてないこと。オリコン・チャートのチャートイン曲が揃っていないことなどだ。どれもクリティカルで、結果として期待値25%に対し、利用率が1%以下という状況になっている。

(14) 日本の音楽リスナーは無料層が38.1%、有料層が44.5%

いま動画共有やファイル共有を使って無料で音楽を楽しむ層が増えている。だが、もともとラジオ・テレビ時代から、お金を使わずテレビ・ラジオなどで音楽を楽しむリスナーは多数いた。

Spotifyが最も得意とするのは、無料リスナーを有料リスナーに変えることだと野本氏は強調した。無料聴取層を、動画共有のフリーモデルではなく、Spotifyのフリーミアムモデルに取り込むことがミュージシャンを扶けることになるとSpotifyは日本の音楽業界に訴えかけている。

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▲本ワークショップをオーガナイズした崎原徹氏。Orange RangeやCivilian Skunkを発掘したアーティスト事務所の運営経験者として、新人のプロモーションで発揮されてきた海外におけるSpoitfyのメディア・パワーを高く評価している。

(15) Spotifyで音楽を配信してみたい人へ。今年8月末まで、1000曲を無料で配信受付中

今回のSpotifyワークショップをオーガナイズしたのは、Orange RangeやCivilian Skunkを地元沖縄から発掘したことでも知られる崎原徹氏だ。沖縄市と沖縄観光ポータルKoza Webの協賛を崎原氏がとりまとめたことで、日本初ともいえるSpotify単独のワークショップが沖縄で実現した。

今回のイベントを記念して、崎原氏がボランティアで、あなたの音楽を1000曲限定でSpotifyに配信登録して下さるとのこと。詳細希望の方は、spotifyokinawa@gmail.comまで連絡されたい。

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本ワークショップでは沖縄アーティストのライブも楽しむことができた。沖縄らしい勢いの溢れるバンド、Civilian Skunk。ファンキーな演奏と女性ラッパーのユニット、AWICH。そして会場を透き通った声で包んでくれた神谷千尋さんの沖縄音楽のが聴けた。

さらに会場を訪れた100人には、Spotifyの特別アカウントが配布された。日本上陸を前にしてSpotifyを楽しめるのは幸運だ。音楽ファンには充実の一日となった。

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▲イベント協賛は沖縄観光ポータルサイトのKOZA WEB (http://www.kozaweb.jp/)

イベントの前日、北谷で七夕を祝う花火大会があった。Spotifyジャパンの短冊には「日本でSpotifyが無事ローンチできますように」と書かれていた。

ニュージーランドから突如あらわれた17歳の歌姫Lordeなど、Spotifyでの人気をきっかけにビルボードにチャートインするくミュージシャンが各国から現れてきた。短冊の願いが天の川に届いた暁には、Spotifyを通じて世界へ向けて天翔ける沖縄出身のミュージシャンが出てくるのかもしれない。風が強くなりだしたコザの夜空のもと、そう思った。

(榎本幹朗 人気連載『未来は音楽が連れてくる』が7月4日に書籍化。第一巻が発売中 http://otocoto.jp/otobon/mirai.html)

著者プロフィール
榎本幹朗氏
榎本 幹朗(えのもと・みきろう)


1974年、東京都生まれ。上智大学英文科出身。大学在学中から映像、音楽、ウェブ制作の仕事を始める。2000年、スペースシャワーネットワークの子会社ビートリップに入社し、放送とウェブに同時送信する音楽番組の編成・制作ディレクターに。ストリーミングの専門家となる。2003年、ぴあに入社。同社モバイル・メディア事業の運営を経て現在は独立。作家活動とともに、音楽メディア・音楽配信・音楽ハードの戦略策定やサービス設計を専門とするコンサルタントとして活動中。京都精華大学非常勤講師。東京都、自由が丘在住。本連載を書籍化した全六巻の大作「未来は音楽が音楽が連れてくる」( http://otocoto.jp/otobon/mirai.html )の刊行が始まっている。
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Twitter:http://twitter.com/miky_e

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