「レコード・ストア・デイ」が牽引するアナログレコードの売上成長
「アナログレコード」の人気復活を伝えるニュースが頻繁に聞かれるようになりましたが、Nielsen Musicが発表した最新の市場データが、プラス成長するレコード市場の動向を詳細に伝えています。
いまや音楽ビジネス市場において無視できない勢いで成長するアナログレコード。定額制音楽ストリーミングサービスが世界の音楽産業の主要ビジネスに取って代わり、日本以外の音楽市場では、CDとダウンロードが毎年売上低価に直面する中、アナログレコードの売上は全体的な割合は低いながらも、毎年着実にプラス成長を遂げてきました。その成長を支えている要因の一つ、それが毎年4月に世界各地で開催されるイベント「レコード・ストア・デイ」であり、このイベントがアナログレコード人気復活のムーブメントを牽引してきました。
HAPPY RECORD STORE DAY! #RSD17 pic.twitter.com/t8GSXcXUzK
— Record Store Day (@recordstoreday) 2017年4月22日
4月22日(土)に日本でも開催された「レコード・ストア・デイ」は(今年のジャパン・アンバサダーはスチャダラパーでした)、その様子は、Twitterのハッシュタグ「#RSD17」やFacebookに投稿されたストアの様子などで、どれだけ現在のアナログレコード人気が世界的なムーブメントになっているかを垣間見ることができます。 「レコード・ストア・デイ」は2008年にアメリカで開始から今年で10周年目。この日は、音楽の歴史やアナログレコードの歴史、アーティストの功績にまつわるアナログレコード文化を振り返る様々なイベントやライブが開催される日でもあり、また音楽業界では、一年で最もアナログレコードが購入される日としても知られています。ここ数年の人気に後押しされて、「レコード・ストア・デイ」でリリースされるレア盤や再発盤を求めて、レコードストアに列ができることも珍しい光景ではなくなってきました。
Happy #RecordStoreDay pic.twitter.com/vabeaW2ZB7
— Waterloo Records (@WaterlooRecords) 2017年4月22日
Record Store Day Puts the Focus on Music
Nielsen Musicが発表したデータに戻りましょう。2016年を振り返ると、アメリカ国内で「レコード・ストア・デイ」が開催される日を含めた1週間のアナログレコード売上枚数は過去最高記録となる38万3000枚のレコードが購入され、売上は前週から比較して321%も急上昇しました。
過去6年を振り返ると、アナログレコードの週間売上は「レコード・ストア・デイ」開催週で2011年は154%、2012年は129%、2013年は139%、2014年は175%、2015年は74%、2016年は321%と、どの年もプラス成長を遂げており、2015年以外は3桁の売上増加をもたらしてきました。
Nielsen Musicはまた「レコード・ストア・デイ」が過去にどれだけ成長してきたか、同イベントの市場への寄与度合いも分析しています。2008年の初年度は、「レコード・ストア・デイ」に参加する独立系レコードストアが少数だったこともあり、週間売上の変動はさほど大きくなかったものの、ニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッド・シーズやザ・ブラック・キーズなど、イベントに合わせてLPをリリースしたアーティストたちを売上チャートで押し上げる要因を与えてきました。そして、2009年を機に、風向きが変わり始めます。独立系レコードストアの週間売上がイベント開催によって21%増加、アナログレコードの売上のみだと週間で114%増加とポジティブな効果を発揮し、アナログレコード復活の兆候が見え始めます。
アナログレコードは、アメリカのフィジカル音楽市場で、わずか0.2%とほぼ存在しない状態だった2008年から、2016年には売上が11%以上を占めるまで成長したのも、「レコード・ストア・デイ」を中心に、独立系レコードストアの努力と戦略がアナログの需要を創出する上で重要な役割を担ってきました。RIAA(全米レコード協会)も、3月に発表した、アメリカ国内の2016年の音楽市場業績レポートで、アナログレコードは小売りと卸売を併せて、売上が前年比4%アップして4億3000万ドル(約470億円)を達成したと発表しており、ますます低価するフィジカル音楽市場を尻目に、アナログレコードが人気復活の波と共に音楽ファンを魅了しているのです。
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実際に、アナログレコードの復活は、オブジェクトとしてまたはトレンドとしてのクールさに焦点があたる時もありますが、近所のレコードショップに足を運ぶ、アルバム・ジャケットを吟味する、レコードをコレクションするといった、音楽に没頭する時間の過ごし方を蘇らせてくれるといった文化的に重要な価値を提供してくれます。さらに、ライナーノーツやクレジットを熟読できることで、アーティストや制作者たちのストーリーや、初めて聴く作品とその歴史を紐解くツールとしての出会いを演出する役割も担っていることも、DiscogsやAllmusicを掘る人は別として、デジタルメディアや音楽データではなかなか実現することできない音楽の楽しみ方であり、音楽ファンやコレクターに受け入れられる理由の一つではないでしょうか。
今、音楽の「所有からアクセス」モデルが進み、今後ますます加速するストリーミング時代において、革新的な音楽ストリーミングサービスも頻りと試行錯誤しながら完成させようとしている「音楽との出会い方」をどう最適化させるかの議論が耐えませんが、ライナーノーツやジャケ写を手にする所有感、さらには「ジャケ買い」「レーベル買い」「プロデューサー買い」といった、今では狂気じみたスタイル(に昂じたギャンブル)から満足感を創出してきたアナログレコードの世界を、アクセスモデルの音楽消費を促進してきた音楽ストリーミングサービスは、どう見ているのでしょうか?
■記事元:http://jaykogami.com/2017/04/13960.html