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アマゾンはレコード会社を目指すのか? 音楽とPrimeとAlexaがなぜ重要か、戦略担当者が語る

ビジネス

Amazon Echo
昨今、話題になっている音声認識機能を搭載するAI。その最右翼「Alexa」を搭載したスマートスピーカー「Amazon Echo」が好調なアマゾン。

スマホ時代から音声時代へ移行が始まったプラットフォーム戦争で優位な地位に立つアマゾンは、自社のビジネスの具体的な戦略を語ることは、ジェフ・ベゾスでも滅多になく、それは「音楽ストリーミング」や「スマートスピーカー」、「Alexa」など、比較的新しい分野でも徹底されてきたスタンスです。

ところが、5月15-17日に、テック系メディアのTechCrunchが主催するビジネスカンファレンス「TechCrunch Disrupt NY」にアマゾンでデジタル音楽の戦略を統括する、Amazon Music副社長のスティーブ・ブーム (Steve Boom)が登壇し、アマゾンが重要視する音楽戦略について語ったことは、驚きをもって受け止められました。

アマゾンの全世界における音楽戦略におけるスポークスパーソンでもあるスティーブ・ブームがイベントで自らが戦略について語ることは極めて珍しく、特にTechCrunchのように一般的に公開されるイベントであれば尚更。アマゾンの音楽戦略や、Spotifyやアップルへの見解が聞ける(かもしれない)貴重な機会となっています。

TechCrunch編集長ジョン・コンスティン(John Constine)によるインタビューはわずか20分と短く、アマゾンの戦略が語られるには不十分な時間ですが、動画が全編公開されているので、詳細まで見たい方にはオススメです。インタビューの中で、特に気になった発言を抜き出して紹介します。

アマゾンが考える音楽ビジネスとAmazonプライムとAlexa
 

 

Amazon EchoとAlexaの登場で、「バンド名は『検索しやすさ』よりも『発音しやすさ』が大事になってきますよね?」と、コンスティン編集長の冗談とも受け取れない質問で始まったインタビューで、ブームはアマゾンが注力する「アマゾンプライム」と「Alexa」の戦略において『音楽』は必要不可欠な存在であると言います。

 

「アマゾンは音楽ビジネスに長くいます」まずブームはステージで語ります。「アマゾン創業初期に書籍の次に販売を始めたのは、CDでした。音楽ビジネスは2018年で20年目を迎えます。2014年に音楽ストリーミングサービスを開始しましたが、音楽は「Amazonプライム」と「Alexa」というアマゾンが注力する2つの戦略において中心的役割を担っています」

 

Alexaの戦略といえば、Amazon Echoのスマートスピーカーと、Alexaの「スキル」と呼ばれるタスクの開発で生まれる音声によるユーザーとのやり取り(とデータ)の蓄積。スキルはアマゾン以外の第三者でも作成することができ、すでに数多くの企業がスキルを開発し公開しています。

 

「ビートルズを再生して」から「新作をかけて」「ピアノのジャズをかけて」と言った命令を、Alexaが認識、Amazon EchoがSpotifyやAmazon Prime Musicから楽曲を引っ張り再生する、音楽を出発点とした一連のやり取りが実現できるのです。あらゆる音楽の形式の中で音楽ストリーミングこそがAlexaを体験するための引き金であることにアマゾンの勝機がありました。

 

「プライム会員向けにオンデマンド型音楽ストリーミングサービスを提供することで、それまで音楽ストリーミングに関心が全く無かったユーザーを取り込むことに成功してきました。この次は、プレミアム音楽ストリーミングサービスに誘導させることをすでに進めています。Amazon EchoとAlexaがその導線になります。なぜなら、人はAmazon EchoとAlexaは毎日使うからです。Amazon Echoでフリーのトライアルを体験した人をプレミアムサービスの会員に変えるコンバージョン率は、音楽業界が目にしたこと無いレベルに達しています。その答えはシンプルです。毎日使えて、手軽な価格で、素晴らしい体験であれば、有料会員になるだけの価値があるとユーザーが判断しているからです」

 

アマゾンはすでにプライム会員向けに「Prime Music」の音楽ストリーミングサービスを提供中で、昨年には、それとは別の定額制音楽ストリーミングサービス「Amazon Music Unlimited」を提供して、異なるユーザーのニーズに対して、機能や価格を多層的に変えて提供してきました。

 

音楽ストリーミングを選ぶ場合、大抵のユーザーはどのサービスを選べばいいのか、迷ってしまいます。アマゾンの戦略では、この選択肢にAmazon EchoとAlexaを組み合わせて提供できることが、他社とは大きな違いです。

 

特に、日本にはまだ上陸していないAmazon EchoとAlexaの使い方として、音楽が導線になっている点には注目に値します。すでにAmazon Echoデバイスの売上は1000万台以上を突破したとの調査結果もあり、その成長速度は大きく他社を凌駕していくでしょう。

 

音声認識インターフェースのシンプルさは、リスナーのデモグラフィックに変化を生み出しています。音楽ストリーミングサービスは、なにもスマホ世代だけが使っているわけではありません。より幅広いユーザーに受け入れられているのです。Amazon EchoとAlexaは製品サイクルとして初期段階にあるが、通常はもっと後のフェーズで使い始めるようなユーザーにも受け入れられているのは特筆すべき点です。徹底的に使いやすさを追求することは、今後必須になるでしょう。

 

(中略)

 

子供はAmazon Echoで、Alexaに歌詞を言って、好きな曲をリクエストしています。人はアーティスト名や曲名を知らなくても、歌詞を覚えている時がありますよね。Alexaは歌詞の一部分を聞けば、その曲を再生してくれます。Alexaを軸にどんな音楽体験が提供できるかを常に考えています。グループリスニング、新たなリスナー層、アンビエント・リスニング、オンデマンドと、あらゆるチャンスが考えられるからです

 

関連記事 アマゾンが定額制音楽ストリーミング「Amazon Music Unlimited」を発表。「Echo」スピーカー連携で音楽配信はリビング進出を迎えるか?

 

 

音楽ストリーミングの統合化が進んでいる

 

SpotifyやApple Music、Tidal、グーグル/YouTubeなど、多数の企業が競合する音楽ストリーミングの業界で、アマゾンはいち早く「スマートスピーカー」に目をつけただけでなく、「Amazon Echo」「Echo Dot」などの製品化で大成功を収め、この分野を牽引してきました。

 

アップルの「HomePod」、グーグルの「Google Home」、日本でもLINEが発表した「WAVE」などが登場し、スマートスピーカーによるユーザーとサービスの連携、そして音声データを解析して一般ユーザーを理解する各社の動きは、スマホから音声へというプラットフォーム大移動が始まり、音楽ストリーミングビジネスも音声によるやりとりに考え直す時期が直ぐに訪れることを意味しています。

 

LINE「WAVE」

 

ブームは、音楽ビジネスについての言及で他社について語ることはありませんが、その代わりに、現在の音楽ストリーミング業界の状況は、世界規模の企業数社によって統合が進んでいると述べています。

 

「Spotifyについてコメントしたくはありません。ですが、今起きている音楽ストリーミングサービスの成長は、シリコンバレーやテック業界では長く存在してきましたが、現実はまだ始まりに過ぎません。有料会員が1億人を全世界で超えましたが、それは、ごくわずかなサイズです。私たちは巨大な成長の余地があると見ています。そして、現在すでに進んでいることは、音楽との出会いと再生を軸とした音楽ストリーミングサービスの市場は、グローバル規模のプラットフォームを持つ少数の企業を中心に、統合に向かっているということです。今後もその流れは続くでしょうし、消費者もそこに向かっています」

 

音楽ストリーミングの統合路線は、興味深いトピックです。この1-2年の間にも、SoundCloudやPandora、Tidalに買収の噂が立ち、RdioやBeatportなどが事業破綻に追い込まれサービスを停止するほど、ライセンス料に巨額の分配料を支払わなければならない音楽ストリーミングサービスで継続的な運営を維持しつつ、サービスをスケールさせていくことは非常に難しくなりつつあります。

 

 

音声時代は、オンデマンドかつスマートであるべき

 

「Amazon Echo」

 

音声時代において、スマートスピーカーを軸とした時、音楽ビジネスは成り立つか、の問題では、オンデマンド型の音楽ストリーミングサービスがラジオ型に比べて、一日の長があることが、ブームの示す見解から伺えてきます。

 

「ラジオ型音楽ストリーミングサービスにも入り込む余地はあります。しかし、アマゾンが音楽業界を見る時、また私たちが音楽を消費者に届ける方法を考える時、音楽ストリーミング業界もまだ歴史が浅いですが、私たちは音声プラットフォームへの移行の初期段階に立ったにすぎません。今後はカジュアルなリスナーでも、好きな曲をオンデマンドで頻繁に聴きたいと感じる場面が増えてくるはずです。人々は音声AIにスマートな答えを期待するでしょう。それが音楽再生でも、天気予報でも、臨んだ答えを聞きたくなります。例えば『通勤の帰りにラジオで聴いたあの曲を再生して』と質問すれば、その答えに期待してしまう。だから、私はオンデマンド型が音声プラットフォームに適していると感じます。オンデマンドはより良い消費体験を提供できることに間違いありません」

 

ラジオ型の音楽ストリーミングサービスとは、ユーザーの音楽の好みに合わせたアーティストや曲を自動で再生してくれるモデル。だがユーザーは好きな曲を基本的には選ぶことはできないことが最大の欠点で、ここから音声時代には、欲しいコンテンツを「オンデマンド」かつスマートなやり方で提供できるかが注目されていくと予想されます。

 

 

アマゾンはレコード会社になるのか?

 

少し音楽業界に特化した質問で、特定のアーティストの新作をサービス1社が市場で優先的に配信する「独占配信」戦略が、音楽ストリーミングサービスでは導入されてきました。 各サービスは、あらゆるアーティストの新作を配信する権利を獲得できれば、世の中での話題が広がるだけでなく、新規ユーザーに魅力的なサービスであることをPRする機会にもなります。

 

この配信方法は、従来のアルバム流通モデルを根底から覆す方法に等しく、戦略的視点からこの手法には大きな投資と関係性構築が行われています。しかし、あまりにもリスナーを置き去りにし過ぎとの批判や、アーティストとレコード会社の契約を無視した手法が問題視され、世界最大のレコード会社、ユニバーサルミュージックの会長を務める業界の重鎮ルシアン・グランジ(Lucian Grainge)が同社の独占配信を全て禁止する強硬策を打ち出したことから、一気にその熱が下がっていっています。

 

「一般的な見解を言えば、音楽業界は「独占配信」から離れています。それは、消費者にとっては良いことですね。アマゾンはカントリーミュージックのガース・ブルックスと独占配信で契約を結んでいます。彼は音楽ストリーミングに着手していない、スターの一人だったが、昨年秋の解禁時には独占配信のパートナーを探していました。アマゾンは世界最大のCDストアでもあることから、ガース・ブルックスとアマゾンが手を結ぶのは運命だったと言えるでしょう。ガース・ブルックスのようなアーティストは、もはやそう多くありません。だから、アマゾンや他社のサービスで同じような独占配信は今後増えないでしょう。もちろん小規模な契約は今後も増えていくはず。だが、大きな戦略として続くことはないでしょう」

 

関連記事 米アマゾンの音楽配信「Amazon Music Unlimited」が始めた独占配信は、カントリーの巨匠ガース・ブルックスの配信解禁という意外な選択

 

ヤンキー・スタジアムを完売するほど、全米の一流スター、ガース・ブルックス。Amazon Music Unlimitedはツアーのスポンサーも務めている。

 

前述の通り、音楽ストリーミングサービスで新規にユーザーを獲得するために、独占配信が有効だった時期がありました。ただ、アマゾンの場合、音楽サービスへの入り口がAmazonプライムとAmazon Echoと、楽曲とは全く異なるチャネルが用意されていることと、これまでの購買履歴からどのアーティストが消費者に好まれるかという膨大に蓄積されたデータを持っていることが、大きな特徴ではないでしょうか。

 

さらに、アマゾンの戦略としては、音楽サービスにおける有料ユーザーは、1つの価格帯に縛る必要は無いという、他社とは全く違った発想でサービスをデザインしている点に独自性を感じます。

 

「アマゾンはプレミアム・ウィンドウ戦略に賛成だ。それは、新しい音楽がリリースされた時、有料会員のみが期間限定で聴くことができることだ。だが、あらゆるアーティストは、一人一人違うということを忘れてはならない。ある戦略が成功しても、それが他に適応できるわけではない」

 

インタビューでは、アマゾンがレコード会社になるつもりがあるか、という興味深い質問もありました。

 

「動画配信用にAmazon Studiosを運営しているだけに、よく質問を受ける。アマゾンはレコード会社になるつもりはありません。動画配信業界と音楽業界を分析するが、コンテンツの制作、消費、配信、マーケティングなどあらゆる面で異なっています。これまでアマゾンはたくさんのアーティストと、オリジナルコンテンツのプロジェクトで協力しあってきました。そこでは、アマゾンユーザーに向けてプレイリストをレコメンドするなどして、アーティスト自らの力では届かないユーザーまでリーチを最大化して、アーティストの成長に寄与しているのです。レコード会社は彼らの領域で重要な役割を担っています。アマゾンがレコード会社に取って代わる存在になることはないですよ」

 

オリジナル動画コンテンツのドラマを製作し流通させるプラットフォームAmazon Studiosによって、動画配信のプロデューサー的地位を得たアマゾンですが、さすがにレコード会社化を目指すことは現在はない模様。ただ、可能性は否定したものの、音楽コンテンツ製作を独自に行うことは否定をしていない回答で、もしかしたらオリジナル作品を音楽ストリーミングサービス、MP3、CD、映像パッケージ、グッズ販売、チケット・ライブビジネスなど、エコシステムをアマゾン内で確立させるシステムを始めてもおかしくないでしょう。

 

すでにレコード会社の買収まで検討したのでは、と考えてしまうほど、もはや音楽業界で無視できない存在のアマゾン。その先進性と影響力は音楽ストリーミングにとどまらず、スマートスピーカーと音声AIという一歩先を見据えた未来のビジネスをすでに目指しています。2017年に入っても「Amazon Echo Look」「Amazon Echo Show」と2種類の新製品を発売開始し、Echoの勢いは衰えを知りません。

 

スマホ時代から音声時代へ、AIに後押しされたプラットフォームで、人の行動はより直接的となり、声を使って簡単に欲しいコンテンツを引き出せる生活が実現可能になった時、これまで音楽を聴いていた人たちは一体どんな音楽体験に期待するのでしょうか。

 

「ユーザーが求める形」を追求し続けるアマゾンの戦略。日々忙しい中で、大量にあふれる音楽を再生させるためのAIの導入も始まった技術戦争とマネタイズ戦略に活路を見出す音楽ストリーミングサービスが音楽業界を再編しているとの見方が高まる中で、「人の声」と「スピーカー」と”ローテク”で独自性を貫いてきたアマゾンが、静かに音楽業界の方向性を定めています。それは、優れたテクノロジーだけでは、人々を魅了する体験を生み出すことはできない音楽業界の現状を物語っているもので、近い将来に「声で音楽が再生できてよかった」と思われるような音声時代へのレースがさらに大きく拡大していくことへ期待が高まります。

 

■記事元http://jaykogami.com/2017/06/14140.html