「TDME」レポート前篇、日本・インド・中国におけるダンスミュージックシーンの現状
今年で2年目の開催となるダンス・ミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」が、11月30日、12月1日・2日の3日間に渡り、東京・渋谷ヒカリエを中心とした複数の会場にて開催された。
東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年。「TDME」は、世界中の注目が日本に集まるこの年に向けて、日本独自のダンスミュージック・カルチャーを東京から発信、日本の音楽シーンの活性化を目的に実施される。
本年は約100名の音楽業界のキーマン・アーティストが一同に集結。ストリーミングやブロックチェーンといった昨今の音楽業界で賑わいを見せているテクノロジーをテーマにしたカンファレンス、エレクトロニック・クリエイター募集オーディション「INTERLUDE from TDME」、日本初上陸となるオランダ発の音楽レーベル「SPINNIN’ RECORDS」のオフィシャルイベントを初開催するなど、新たな試みが行われた。
Musicman-netでは初日30日に実施されたカンファレンスより、アジア圏のダンス・ミュージックの現状をピックアップしレポートする。
<日本・インド・中国におけるダンスミュージックシーンの現状>
近年、ダンスミュージック・シーンはアジア諸国で大きな成長を見せている。この成長過程にある現在において、アジア諸国では一体どのような問題が起きており、解決するためにはどの様な方法があるのか。カンファレンスでは特に日本・インド・中国にフォーカスを当て、パネルディスカッションが行われた。
「インドと日本のダンスミュージックシーンのギャップ」
インドのダンスミュージックシーンで最もブレイクしたDJのひとりAnish Sood氏とプロデューサー・Prateek Pandey氏、WOMBにて2009年より海外アーティストのブッキング、海外でのブランディングパーティーを担当する初芝加奈氏を迎え、「インドと日本のダンスミュージックシーンのギャップ」を議題にディスカッションが行われた。
また、エレクトロニック・ダンス・ミュージックのシーンでビジネスを行う法人・個人が直面する共通の関心や、問題を代表して擁護する活動を主としている「Association For Electronic Music」の創始者・Mark Lawrence氏がMCを担当。
日本にはまだ馴染みのない13億人以上の人口を誇る大国・インドの音楽ビジネスを語り、アジアのダンスミュージックのギャップを埋めるにはどうすればよいのかを語り合った。
まず、両国においてダンスミュージックは2010年くらいまでアンダーグラウンドの立ち位置にあり、2012年頃に世界的なムーブメントを起こした“EDM(electronic dance music)”により転換期を迎える。
EDMは、若者を中心にダンスミュージックのメインストリームとしてライブシーンを形成。インドでは数百万人規模がEDMに目を向け、ここ日本においても「ULTRA JAPAN」等の巨大なダンスミュージックフェスが開催され、現在においても多くの若者に影響を与えている。
ここ5年程でメインストリームへと成長したダンスミュージックシーンだが、問題点もいくつか挙がっている。それはアジア諸国における“ローカルヒーロー”の輩出と、政府によるバックアップが行われていないことだ。
現在国内で巨大なダンスミュージックフェスを開催する場合、ヨーロッパ圏やアメリカのスーパースターをメインアクトに迎え、高額のギャランティの支払いとと共にチケットも高額化している。このような状態が続いていけばビジネスとして成り立たなくなっていき、シーンとしても下降の一途を辿ることになるだろう。
それを防ぐためにはローカルヒーローを生み出す環境を作り出すこと、プロモーターが自国にスーパースターを招待するのではなく、世界に向けたアーティストをプッシュしていかなければならないと語る。
また、これらの環境を作っていくには政府の協力が必要となる。例えばオランダでは、EDMシーンを受け入れてローカルヒーローが活躍できるように政府がバックアップを行っている。アジア諸国では、ダンスミュージックそのものがひとつのエンターテイメントの枠から出ておらず、サポートが行われていないのが現状といえる。
インド・日本においても、ローカルシーンでスターになりたいと思っているアーティストは多くいる。これからのダンスミュージックシーンを未来のためにも、アジア各国のプラットフォームを強固にし、自国のコンテンツの向上を図っていくことが今後の課題となっていくだろう。
「A2LiVEによる、中国のダンス・ミュージックシーンの現状」
過去5年間、アジアは世界的なダンスミュージックの成長をリードしてきた。特に中国本土では、アジアで最も急速な成長を遂げており、2012年以来28倍の市場拡大が見込まれている。
今回、中国でのライブエンターテイメントプロジェクトを促進する音楽エンターテインメント企業・A2LiVEのディレクター・Vlada Didenko氏が、この巨大成長の主要な要因、将来的にダンスミュージックの最大の市場となる中国のダンスミュージックの未来を語る。
まず中国のダンス・ミュージックシーンの現状を表すデータを紹介する。男女比は男性が56.8%、女性が43.2%。年齢比は20歳〜25歳までが24.4%、26歳〜30歳までが26.8%と他国と比べて若干年齢層が高く、給料が平均よりも高い傾向にある。また、中国では好きな音楽ジャンルとして1位のポップ・ミュージックに続き、2位にダンスミュージックがランクインしている。
さらに、2017年には年間86回のダンスミュージック・フェスティバルが開催されており、ライブイベント全体の20%を占めている。このデータの上昇比率から、2018年には年間150以上のダンスミュージック・フェスの開催が予想されている。
これは決して大きな数値ではないとVlada氏は語る。事例を挙げると、アムステルダムでは人口80万に対して年間2000回のフェスティバルが行われ、4000人に1人の割合で開催されている計算となる。これを中国に当てはめると320万のフェスが開催されることになり、フェス開催において大きな可能性があることを示していることがわかる。
これらのデータを元に5年後には1000以上のフェスが開催され、1000億ドル以上の経済効果を生み、中国はダンスミュージックにおいて最大のマーケットになるとA2LiVEは予想する。
ただ、中国においても日本・インドと同様に次世代のスターがいない状況であり、同じ課題を抱えている。また、ライブイベントにおける経済効果は非常に大きな割合を占めているが、プロモーション費用に掛ける割合はまだまだ小規模であるため、中国発信のダンスミュージック・レーベルが世界的なものになっていくのかにも注目だ。
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