「TDME」レポート中編、最先端のメディア技術・テクノロジーが音楽業界にもたらす可能性
11月30日から12月2日にわたり、東京・渋谷ヒカリエを中心とした複数の会場にて開催されたダンス・ミュージックの国際カンファレンス&イベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」。
前篇レポート(日本・インド・中国におけるダンスミュージックシーンの現状)に引き続き、VRの映像演出など多くの分野で創作活動を続けてきた水口哲也氏にフォーカスを当て、最先端のメディア技術・テクノロジーが音楽業界にもたらす可能性ついてピックアップし、レポートする。
<最先端のメディア技術・テクノロジーが音楽業界にもたらす可能性>
今年の「TDME」では、VR、8K、ブロックチェーン、AIスピーカーといった最新テクノロジー技術がキーワードとして挙がった。これらの最新テクノロジーが音楽業界にどのような可能性を与えるのか、また表現・エンターテイメントにおいてどのような発展をもたらすのか。これからの音楽の未来にフォーカスし、パネルディスカッションが行われた。
Dance Musicとゲームの出会い、そしてVR〜Rez Infiniteへ
「セガラリー」や「REZ」といったゲーム作品や音楽ユニット・元気ロケッツのプロデュース、作詞、映像演出など多くの分野で創作活動を続けてきた水口哲也氏が、ダンス・ミュージックとゲームの親和性やVRによるエンターテイメント体験について語った。
水口氏は、これまで「シナスタジア(共感覚)」をテーマに「新たな体験をエンターテイメントとして実現できるかをずっと考えてきた」と語る。
「REZ」のサウンドデザイナーを担当した友人が持ってきた、アフリカ旅行でのあるビデオを見たときに自身の感動体験としてインスピレーションを得たという水口氏。
ケニアで撮影されたそのビデオには、何もないところから誰かが楽器を演奏し始めると他の誰か別の楽器を演奏し始め、女性が立ち上がり歌い出すなど連鎖的にグルーヴが発生、3分後にはひとつの大きなグルーヴへと変化していく様子が映されていた。
その映像を見た時に大きな感動体験を味わい、この気持ち良さだけを抽出できる方法は何かないのかと試行錯誤を行うなかで「REZ」が完成。ダンスミュージックとゲームのインタラクティブ性に可能性を感じるようになったという。
その後も、VR等の新たな技術実験を繰り返し解像度の限界や、センサーの問題などフラストレーションを抱えながら制作を行っていたが、ついにVRの時代に突入。現代における“最高の体験”を作りたいと「VR〜Rez Infinite」を制作に取りかかる。
音楽とパーティクルの連動で新しい気持ちよさを追求し、VRでその“世界”に入ることができる新たな体験を味わい「ここまでこなきゃ駄目だったんだ、自分がどんだけ我慢して作ってきたのかがわかりました。」と笑い混じりに話した。
本作におけるVR体験は今までの反応とは全く違うものであり、感動のあまり言葉が出ない人や涙ぐむ人も多くいたのを見て、テクノロジーの新しい時代に突入したことを実感したとのこと。
また、本年に日本科学未来館で開催された「MUTEK」では、「REZ」の世界をドームシアターに4K映像でリアルタイムに投影し、その世界を約100人の観客とともに同時に体感できるインスタレーションを実施。ライブセッションを行ったケン・イシイ氏も新しい体験に感動した様子を見せていた。
プラネタリウムでのインタラクティブなドーム映像は、ライブ・エンターテイメント性が非常に高く、コンテンツ自体が少ないこともあって、一つの興業になり得る大きな可能性があるといえる。
こういった新たな体験は、映像の解像度は上がったことも大きく影響している。現在VRの解像度はフルHD(片目)であり、それが3年後には4Kに、10年後には8Kになると予想されている。
8K以上になると人間の目は現実と映像が判別できなくなるのでハード的な進化の必要はなくなり、これからは複合的な感覚体験が新しい感動を作っていくと水口氏は語る。
今後リアルとヴァーチャルは高い次元で融合していき、実在するものと実在しないものの境目がなくなってくる。その境目にある中で、新しい体験・表現を使ったクリエイティブが多く展開していくと予想する。
楽器からの音を目でみるといった共感覚体験が10年以内にリアルタイムに連動していくことを考えると、「“情報の送受信”から“体験の送受信”の時代へと突入していく」と、これからのテクノロジーがもたらす未来を語った。