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クラシック⾳楽演奏・鑑賞にともなう⾶沫感染リスク検証実験、報告書を公開

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クラシック⾳楽演奏・鑑賞にともなう⾶沫感染リスク検証実験 報告書

クラシック⾳楽公演運営推進協議会と日本管打・吹奏楽学会は8⽉17日、クラシック⾳楽演奏・鑑賞にともなう⾶沫感染リスク検証実験の報告書を公開した。

これは、クラシック⾳楽の鑑賞(咳・会話含む)および演奏に伴う新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染リスクを検証するために、⾶沫などの微粒⼦がどのくらい発⽣しているのか、実際に計測したもの。

クラシック⾳楽のコンサートは、演奏者間・客席ともにソーシャルディスタンスを取りながら、少しずつ再開している。このソーシャルディスタンスにより、演奏者は他の演奏者との意思疎通が難しくなるなど演奏に⽀障が出ており、演奏できる曲も限られている。また、コンサート主催者にとっては、聴衆の数が制限されることで、興⾏を成⽴させることが困難となっている。

2020年5⽉にベルリンの専⾨家達によって、弦楽器奏者間の距離1.5m、管楽器奏者間の距離2mを確保することが理論的かつ暫定的に提唱され、標準的安全距離(ソーシャルディスタンス)と認識されるようになった。しかし、演奏者間にこの距離を確保することは、⼀般に演奏の質を担保することを困難にし、多くの広く演奏される作品の演奏を不可能にしている。ウィーン・フィルをはじめ各種団体が楽器演奏時の⾶沫等の⾶散の可視化実験を⾏い、上記の安全距離は過⼤ではないかと疑問を投げかけている。

可視化実験では⾶沫等の⾶散する様⼦を⽴体的・経時的・定性的に捉えることは可能だが、隣接する演奏者の位置における⾶沫等の厳密なばく露の程度は、実際にその位置で微粒⼦の量を測定しなければ判断できない。日本国内でも、パーティクルカウンター(微粒⼦測定に⽤いられる機器)を⽤いて楽器演奏時の微粒⼦測定を⾏う試みは別途⾏われている。しかしながら環境中に多く存在する埃も微粒⼦として測定されているため、演奏による⾶沫等の影響を適切に把握することは難しい。そこでクリーンルーム環境において、パーティクルカウンターを⽤いた楽器演奏時の微粒⼦測定が⾏われた。

今回は客席と演奏者の2つの課題について実験を⾏った。鑑賞や発声、楽器演奏に伴って発⽣・⾶散する⾶沫などの微粒⼦数を計測することにより、ソーシャルディスタンスを取った時と従来の距離との、感染リスクを⽐較した。

新型コロナウイルス感染症は、感染者の⿐や⼝から出る⾶沫などに含まれるウイルスを⽬・⿐・⼝などの粘膜にばく露することが、主要な感染ルートとされている。ただ、⾶沫をどのくらい吸い込めば感染リスクとなるかという科学的根拠は存在しない。したがって、本実験の結果に基づいていわゆる「安全な距離」を明確にすることはできないが、前後左右の各測定点における微粒⼦の計測数を踏まえて感染リスクを下げる⽅法を考察する。なお、今回は換気が⾏われていないクリーンルームで実験を⾏っているため、⼗分な換気が⾏われているコンサートホールではこの実験結果よりもさらにリスクが低くなる想定とのこと。

実験の結果、演奏者は従来の間隔の場合でも、ソーシャルディスタンスを取った場合と⽐較して、⾶沫などを介する感染リスクが上昇することを⽰すデータは得られなかった。ただし、ホルンでは右側50cm、トランペット・トロンボーンでは前⽅75cmにおいて他の測定点よりもやや多い微粒⼦が観測された。

客席実験でも、マスク着⽤下であれば、「1席あけた着席」でも「連続する着席」でも、⾶沫などを介する感染のリスクに⼤きな差はないことが⽰唆された。しかし、現実には全聴衆が常に適切にマスクを着⽤し続けられるとは限らないため、マスクの適切な着⽤について適宜注意喚起を⾏うことが望ましい。

そして、マスクでは接触感染のリスクを低下させることができず、日常⽣活(公共交通機関で隣に座るなど)と同程度のリスクは残存する。着席間隔が近くなるほど接触感染のリスクが増加するほか、聴衆⼈数の増加は会場に無症状の感染者が存在する可能性を⾼めることになる。適切に⼿指衛⽣を⾏う、不⽤意に⾃分の⽬・⿐・⼝を触らないなど、接触感染を防ぐ対策は引き続き徹底する必要がある。演奏会後に感染者の存在が明らかになった場合に備え、濃厚接触者を追跡できる体制を整えておくことが望ましい。例えば、チケット購⼊時に来場者に関する情報提供を依頼する、厚⽣労働省新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の利⽤を求める、などが考えられる。

この実験を終えて「⾶沫などを介した感染リスクに限らず、⼈の直接・間接の接触がある限り感染のリスクをゼロにすることはできない。しかし、合理的な対策を組み合わせることによって感染リスクを下げること、そして仮に感染が⽣じてもできるだけ狭い範囲にとどめることは可能である。各団体が感染リスクを理解した上でそれを下げる⽅法を⼗分に検討し、⽅針を決定することが望ましい」としている。

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