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新宿御苑にグランドオープンしたスタジオ「BLACKBOX³」内覧レポート&THECOO 代表取締役CEO 平良真人氏インタビュー

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スタジオ「BLACKBOX³」

「これはヤバい……」

足を踏み入れて、あたりを見回して、思わず声がもれてしまった。

4月8日、新宿御苑にグランドオープンしたスタジオ「BLACKBOX³(ブラックボックス)」。コミュニティ型ファンクラブ「Fanicon(ファニコン)」を運営するTHECOO株式会社が立ち上げた「ライブ配信時代の新たなクリエイティブ発信拠点」だ。

従来のライブハウスとも、レコーディングスタジオとも、撮影スタジオとも、根本から全く違う発想とビジネスモデルで生まれたこのスペース。地下2階のフロアには4面LEDパネルを常設した「BOX STUDIO」、地下1階にはアンティーク調の「BRICK STUDIO」という2つのスタジオが設けられている。照明、カメラ、映像などの配信設備も完備。しかも、この施設全体を、Fanicon、もしくは同社が運営するチケット制ライブ配信サービスを利用するアーティストやクリエイターならば無償で利用することができるという。

一体どういうことなのか。

スタジオの全貌をレポートすべく、BLACKBOX³を訪れ、THECOOの代表取締役CEO平良真人氏にインタビューを行った。

高さは4メートル、幅は9メートルの巨大な4面LEDを備えた「BOX STUDIO」

丸ノ内線「新宿御苑前駅」より徒歩1分。何の変哲もないビルの扉をあけ、地下に降りると、雰囲気のあるエントランスが出迎える。

数々の名盤が録音されたレコーディングスタジオ「スタジオグリーンバード」の跡地に作られたBLACKBOX³。ロビーはバーカウンターのような瀟洒な空間だ。

そして、地下2階の「BOX STUDIO」の扉を開けると、まず目に飛び込んでくるのは圧倒的な存在感の巨大な4面LEDだ。

高さは4メートル、幅は9メートル。背景だけでなく左右と床にもLEDビジョンがあり、照明も備えることで、XRや映像空間の中で演者がパフォーマンスするような表現が可能になる。

演者側に向けて70インチの大型モニターも用意され、そこにライブチャットのコメントなどを映し出すことで、オンラインライブの際には視聴者との双方向のやり取りもできる。

音響や照明、映像の操作はモニタールームで行われる。3D シュミレーション機能を持った高性能メディアサーバーdisguise vx2を国内で初めて常設。XR技術を駆使しリアルとバーチャルが融合したような映像表現も可能だ。

アコースティックライブやトークイベントにも使える「BRICK STUDIO」

一方、最先端のテクノロジーを惜しみなく投入した地下2階の「BOX STUDIO」に対し、地下1階の「BRICK STUDIO」はアンティーク調の落ち着いた雰囲気。こちらはアコースティックライブやトークイベントなどでの使用を想定している。

控室やドレッサールームなど、施設全体の内装もレトロモダンでお洒落な仕上げになっている。

BLACKBOX³をどんな場所として運営していこうとしているのか。そこにある狙いは何か。THECOOの代表取締役CEO平良真人氏に聞いた。

第三の選択肢としてのライブ配信をできる場所を作りたい

――まずはBLACKBOX³を作ろうと思ったきっかけから教えてください。

平良:最初のきっかけは新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて去年に始めた「#ライブを止めるな!」プロジェクトですね。ライブハウスか、もしくはレコーディングスタジオやリハーサルスタジオを借りる形で、僕らスタッフは無償で稼働してチケット制のライブ配信を始めました。でも、いかんせん、アリーナやスタジアムクラスのバンドじゃないと、ライブ配信はビジネス的に厳しいんです。コストが通常よりもかかるのに、チケットの販売枚数は半分から3分の2程度で、物販売上もない。アーティストがやりたい気持ちはあっても、ビジネスとしてなかなか成り立たない。それがだんだんわかってきました。とはいえ、ファンは喜んでいるわけだし、コロナ禍が終わった後も残っていくんじゃないかなと思ったんですね。それを成り立たせるべく、いい方法がないかを考えました。

――従来のライブハウスやレコーディングスタジオからライブ配信をやろうとすると、プラスアルファの機材が必要になったりして、どうしてもコストがかかってしまう。

平良:そうですね。ライブハウスには照明があるけれど撮影と配信の機材がない。レコーディングスタジオは音がいいけれど照明もないし演出が望むようにはできない。あとは、どうしても稼働が長くなるんです。朝11時くらいにスタッフが入って、セッティングとリハーサルをして、撤収して全部が終わったら夜11時ぐらいになってしまう。だから時短をしたいというのもあります。全てのコストを下げて、アーティストの満足度を上げて、ファンを望むものを作りたい。ライブ、パッケージのどちらかに寄せるのではなくて、新しい、第三の選択肢としてのライブ配信をできる場所を作りたい。それを考えたときに、思いついたのがこのスタジオですね。こういうものを作れば、アーティストの方が面白いものを作ってくれるんじゃないかなっていうのが発想の源です。

――オンラインライブという文化が本格的に始まったのは去年のことですからね。ライブ配信のための場所というもの自体がこれまではなかった。

平良:そうですね。やっぱり、ここを作る上で、何かを捨てないといけなかった。それが「お客を入れない」ということでした。お客を入れないということを選択したから、そもそもステージも上がっていない。配信専用というのはそういうことだと思います。放送スタジオに近いとも言えますね。

一握りのスターだけじゃなく、全てのアーティストにクリエイティブな機会を

――この場所はもともとレコーディングスタジオの「グリーンバードスタジオ」だったわけですが、ここに決めたのは?

平良:構想を考えてから、まずは天井の高い物件を探し始めました。倉庫、一軒家、屋内ゴルフ練習場と、いろいろ見たんですけれど、ここが見つかって即決しました。ただ、僕らはスタジオに関しては素人なので、まずは音楽プロデューサーの今井了介さんのところにお話をして、アコースティックエンジニアリングさんを紹介していただきました。そこから今井了介さんをスーパーバイザーに、音響、照明、内装とそれぞれのプロフェッショナルのパートナーにお願いをして、全く新しいものを作ろうと進めていきました。

――施設が完成したのは?

平良:始まったのが昨年の夏くらいで、完成したのが3月1日です。

――すでに何件か使用されているとのことですが、アーティストの反応は?

平良:みなさん「すごい!」って言いますね。まさに百聞は一見にしかずという感じで、資料よりも100倍くらいインパクトがあると仰る。そこの反応は一緒ですし、アーティストの方々はこれを見て「こんなことができる」とインスピレーションを膨らませる。それは嬉しいです。

――こういう4面LEDのスタジオがあれば、BTSやビリー・アイリッシュがやっていたようなXR技術を使ったオンラインライブも可能になるわけですね。

平良:ああいった方々はチケットが売れるので、コストがかけられるわけです。でも、一握りのスターだけじゃなくて、全てのアーティストにとってそういうクリエイティブなことをできる機会があるようにしたいと思ったんです。

――もう一つのスタジオはアンティーク調の雰囲気ですが、そういうものにした理由は?

BOX STUDIOは最新のテクノロジーなんですが、BRICK STUDIOは逆の方向性で、「タイニー・デスク・コンサート」のように、リラックスした雰囲気で演奏できる、落ち着いた場所をイメージしました。

配信ライブの最適解を見つけなきゃいけない

――Faniconを使っているアーティストやクリエイターは、このスタジオを無償で使えるということなんですよね?

平良:そうですね。あとは現在準備中ですが、我々の配信プラットフォームを使っていただければ無料です。

――無償というのは、どういうことなんでしょうか?

平良:僕らの会社がやっていることは、大きな意味で言うと、エンターテイメントをやってらっしゃる方が中心にいて、それの周りにあるテクノロジーで解決できる課題を全部やろうということなんですね。もちろんFaniconがコアにあるんですけど、他にも配信プラットフォーム、チケット、 eコマースと、使えるものが一杯ある。そういう中で、もともと僕らのオフィスにもイベントスペースがあったんです。コロナ前からそこのニーズはすごく高くて、3ヶ月先まで埋まってる状態でした。ここもそれと同じ位置づけですね。音楽ライブ配信もできるし、演劇やお笑いも、2.5次元のパフォーマンスもできる。今までのイベントスペースではできなかったことができる。そういう意味では、ハイスペックになっただけで、やっていることはブレていないんです。

――アーティストやクリエイターがここを無償で使えるということは、THECOOとしてのビジネスにはどうプラスになるんでしょうか。

平良:シンプルに言えば、これをきっかけにFaniconに興味を持ってくれたり、我々の配信プラットフォームを使う人が増えれば、すごく嬉しい。それは目的の一つではあります。ただ、もう一つはもっと大きいビジョンを見ているんです。今はみなさん配信ライブに少しずつ飽きてきて、チケットの販売も落ちてきている。でも、だからこそ、配信ライブの最適解を見つけなきゃいけないと思うんですね。ライブに行くのか、パッケージを買うのかという2択じゃなくて、もう一つの選択肢をポジティブに選ぶというもの、コロナ禍が終わってもこっちを選ぶという人がいるようなものを見つけておかなきゃいけない。それを、ここで見つけたい。僕の考えでは、テクノロジーではなく、インターネットの原則に近づいていくことで何かが見つけられるんじゃないかと思っています。

――インターネットの原則に近づいていく、というと?

平良:例えば、グローバル、即時性、双方向性、民主性、そしてオープンであること等。そういう、インターネットが持っているポジティブな側面のどこかを深掘りしていくと、新しい何かが見つけられるんじゃないかと思っています。でも、正直、僕にはまだ解はないんです。アーティストと一緒に、ファンの反応を見ながら探っていくことで、これだったら面白いし、ビジネスとしても成り立つというものが見つけられるんじゃないかと思う。それを見つけるのが、僕らの最大の目的です。

――たしかに、数万人規模のチケットを売れる人、沢山の予算をかけられる人じゃなくても、クリエイティブの幅が広がるというのはポイントになりそうですね。

平良:そこも大きいですね。Faniconがそもそもそういうプラットフォームですし。僕らとしてはトップスターだけでなく、全てのアーティストがここを上手くクリエイティブに使ってくれる機会を提供したいと思っています。

――Fanicon自体も急成長をしているそうですが、2020年はどんな状況でしょうか。

平良:去年は250%くらい成長してきます。毎年2倍以上ですけども、かなり大きくなりました。

――成長の理由については、どう分析していますか。

平良:簡単に言うと、いわゆる DX 化が進んだというところの一つがFaniconだったということだと思います。それは我々だけじゃなくて他の業種においても同じように進んだんじゃないかなと思います。

――昨年にはACIDMANの大木伸夫さんなどが出演したオンライン音楽フェス「Fanicon Private Fes. 2020」も開催されました。コロナ禍以前にはファンコミュニティを持つという発想がなかったバンドやアーティストにも、だんだんと広がってきている感があります。

平良:3年やってきた中で、少しずつ広まってきた感触ですね。僕自身はロックが大好きなんですが、他にもプロレス団体など、いろいろなところに広がっている。それは面白いし、嬉しいですね。

「ハコ貸し」という発想ではない理由

――BLACKBOX³の今後のビジョンは?

平良:そもそも「BLACKBOX³」という名前にした由来がありまして。一つは建築途中のBOX STUDIOが真っ黒な四角い立方体だったのがきっかけだったんですが、もうひとつは、地下にあって、もともとレコーディングスタジオで、「何やってるんだろう?」みたいな感じを出したかったんです。ちょっと悪巧みをしているというか、試行錯誤しながら面白いものを作っているというか。イメージにあったのはアンディー・ウォーホルがニューヨークに作ったスタジオの「ファクトリー」ですね。ジャン=ミシェル・バスキアやヴェルヴェット・アンダーグラウンドがあそこから出てきたように、いろんな人が集まって、新しい表現手段に挑んでいく場所にしたい。だからこそ、「ハコ貸し」という発想はないんです。レンタルにすると、その日は誰かが占有する場所になる。そうではなくて、ふらっと来て「これやれる?」みたいなほうがイメージに近い。そういう場所が新宿のど真ん中にあるのがいいなと思います。

――将来的にはBLACKBOX³がクリエイターのコミュニティを生むきっかけになる。

平良:そうしたいなと思います。Faniconのアイコンさんがここを自由に使うことで、自然とそうなっていくことを期待していますね。単に同じものを作ろうとしたら、作れると思うんです。でも、同じ思いは作れない。そこはすごく大事にしてます。

(取材・文=柴那典)

 

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