ライブ・エンタメ市場がコロナ前の水準に回復するのは最短で2023年、ぴあ総研が将来推計値を公表
ぴあ総合研究所は27日、「今後コロナ禍が収束にむかい、もし2022年3月までにイベント開催制限が完全撤廃されるならば、ライブ・エンタテインメント市場は早ければ2023年にコロナ前の水準に回復する可能性がある」との予測を公表した。
2020年のライブ・エンタテインメント市場規模は、数年続いていた増加トレンドから一転、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、前年比82.4%減の1,106億円となった。いまだコロナ禍の収束が見えない中、感染拡大防止対策を徹底した上で徐々に活動が再開されてきたとはいえ、2021年も低空飛行が続いている。
ライブエンタメ市場再浮上のカギを握るのは、イベント開催制限の完全撤廃であり、国民の行動制限の緩和だ。そのためには、ワクチン接種がさらに進み、「ワクチン・検査パッケージ」のような仕組みの導入により社会経済活動が活性化に向かうことに期待が寄せられている。
回復を後押しする主な要素として、以下が挙げられる。
- 緊急事態宣言下にあってなお、制限の範囲内で公演の供給と需要は既に緩やかな回復基調にある。
cf. 供給≒公演回数の月平均成長率 0.9%(2021年1月-7月)
需要≒動員数の月平均成長率 0.8%(2021年1月-7月) *いずれも速報値 - 上限人数の制限が完全に撤廃されないなかでの公演活動の継続は、入場料収入減と感染予防対策等の費用増を価格に転嫁せざる得ないケースも多く、平均単価の上昇傾向がみられる。価格上昇傾向は、今後しばらく不可逆となる可能性が高い。
cf. 平均単価 2019年=7,600円、2025年推計=7,866円 - コロナ禍で長きにわたり行動を抑制されたアーティストと観客コロナの両者ともに、イベント再開を待ち望む声がやまず、開催制限が解除された後はこれまでの反動増で、一気に市場が活性化することが見込まれる。
- 新たなアリーナやホール・劇場が相次ぎオープンする動きがある。コロナ前に深刻化していた「ライブ会場不足」問題が解消されれば、これまでの成長阻害要因がひとつ取り除かれる。
これらのプラス要因により、ライブ・エンタテインメント市場は、2022年から急速に再起し、2023年には、一気にコロナ前の水準にまで回復し、2023年以降、with/afterコロナ下での新たなビジネスモデルを描きながら、年平均成長率2.4%の安定した成長を実現すると推測されるとしている。
ただし、コロナ禍で財務基盤が傷んだライブエンタメ産業の再起は、J-LOD live(コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金)やARTS for the future!(コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)のような助成の存在なくしては困難であると考えられ、今回の推計は、政府の支援が2025年まで継続することを前提としているとのこと。
ぴあ総合研究所 所長 笹井裕子氏コメント
- コロナ禍により、集客エンタメ界のDXは否応なしに進み、オンラインライブなど新しいビジネスは不可逆に進むとみられる。また、人びとの価値観や生活様式も変化したが、集客エンタメの本質的価値そのものは揺らがない。
- 当分はwithコロナが続くと腹をくくらなければならない。withコロナの状況にあっても、感染症対策を徹底した上で、集客エンタメを当たり前に開催・鑑賞できる日常を早く取り戻したい。それは、コロナ禍で閉塞した人や社会のつながりの活性化にもつながるはずだ。ワクチン接種がさらに進み、「ワクチン・検査パッケージ」のような仕組みの導入により社会経済活動が活性化に向かうことに期待を寄せたい。
- 「市場規模がコロナ前の水準に戻る」というのは、集客エンタメ産業の回復を示すメルクマールとなるだろう。ただし、開催制限による売上げ減に加え、嵩む感染症対策費等が事業収益に影を落としており、コロナ前と全く同じビジネスモデルに戻るのは難しい。入場料収入に依存する割合が高いことや、横の連携が弱いこと、個人事業主やフリーランスの多さなど、集客エンタメ界の脆弱性がコロナ禍で浮き彫りになった。新たなビジネスモデルの構築や、同業他社との協業や他業種とのコラボ、行政との連携などを通したより足腰の強い産業構造への転換など、思い切った変革が求められる。
ぴあ総合研究所 論説委員・ぴあ 取締役 小林覚氏コメント
- 回復予測は、あくまでも開催制限の大幅な緩和と公的支援の継続を前提としたものであり、業界の体力が奪われ、個人事業主である人材の多くが疲弊した中での完全な復活には時間がかかる。
- 一方、イベントの開催とその観客は着実に増加傾向にあると同時に、ライブ・エンタテインメントは、SDG’sの掲げる持続可能な社会に向けて、人々の行動変容の有力なキーファクターになるものと考えられる。
- 環境に優しく、人々に活力を与えるライブエンタメ産業の価値は、今後より一層見直されるはずであり、社会全体からの期待値の高まりを実感している。コロナ下では不要不急のレッテルを貼られたが、むしろ21世紀の新たな「ライフライン」として成長するものと予測している。