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JASRAC、文化庁の「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に対して意見を提出

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日本音楽著作権協会(JASRAC)

日本音楽著作権協会(JASRAC)は2月9日、文化審議会著作権分科会法制度小委員会がとりまとめた「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集について意見を提出した。

JASRACは、「文化芸術とコンテンツビジネスの持続的発展のためには、クリエイターが安心して創作に専念できる環境を確保することが重要であると考えています。創造のサイクルとの調和がとれたAI利活用の枠組みの実現に向けて、引き続き検討や提言を行ってまいります」と伝えている。


文化庁へ提出した意見

1 「1.はじめに」に対する意見

 「1 はじめに」では、生成AIをめぐって著作権者、AI開発事業者、AI利用者等から懸念の声が上がっていることを紹介した上で、「上記のような・・・懸念を解消するためには、判例及び裁判例の蓄積をただ待つのみでなく、解釈に当たっての一定の考え方を示すことも有益である」と述べています(2頁)。

 しかし、実際に示されている「一定の考え方」の多くは両論併記的な内容になっており、これによって法解釈の予見可能性が高まるとはいえないため、「懸念」の解消に向けた効果は限定的なものにならざるを得ないと思料します。

 生成AIが急速に高性能化し普及していく中で生じる様々な懸念を解消するためには、現時点の条文の解釈論のみならず、立法論も含めた本格的な検討を早急に行う必要があると考えます。

2 「2.(1)従来の著作権法の考え方との整合性について」に対する意見

 第2段落に「特に、AIについての議論が、人がAIを使わずに行う創作活動についての考え方と矛盾しないように留意する必要がある」という記載がありますが(4頁)、議論の土台を明確にしておく必要があると考えます。

 すなわち、従来の著作権法の考え方との整合性を重視するのであれば、「AIについての議論」においても、著作権制度は人間の個性の発露としての創作を奨励するためのものであって、機械による生成を奨励するためのものではない、という原点を見失わないようにすべきです。

 この原点との関係では、既存の著作物を学習して表現を作成する場合に、人間が学習して表現活動を行うのとAIが機械的な生成を行う場合とで保護の範囲・在り方とが異なるとしても「矛盾」と捉えるべきではなく、むしろ、著作権制度の存在意義に照らして自然なことであると考えます。

3 「5.(1)エ(イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて」に対する意見

 ア 本素案は、「表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有している」(17頁)、「作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり」(20頁)といった記載に見られるように、「アイデア」と「創作的表現(表現上の本質的特徴)」との二分論に立った上で、作風はアイデアに属するものであり、「著作権法が保護する利益でない」と整理しています(同頁)。

 イ そして、このような前提の下、著作権法30条の4ただし書の解釈について、「著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの、当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。」と結論付けています(20頁)。

 ウ しかし、作風がアイデアに属するという整理は、創作の現場を顧みない空論と言わざるを得ません。同じアイデア(例えば「泣ける要素を盛り込みつつも未来への希望を感じさせる卒業ソングを作る」)で創作をしても、クリエイターによって具体的な表現(歌詞・楽曲)が異なるのは、アイデアを表現へと昇華させる際に大きな役割を果たす個性が異なるからであり、具体的な表現の特徴を決定付ける個性こそが作風の本質です。したがって、作風はアイデアに属するものではなく、アイデアと表現との中間領域に位置するもの捉えるべきです(「アイデア→作風→具体的な表現」というイメージ)。

 エ そもそも、具体的な表現のみを保護するものとして著作権制度を設計してきたのは、人間の個性の発露としての創作を奨励するためであったはずです。そうであるならば、個性の発露としての創作ではなく機械的な生成を行うにすぎない生成AIに対する関係では、具体的な表現のみならず、クリエイターの個性そのものというべき作風も保護することとした方が著作権制度の存在意義に即しているといえます。

 オ また、創作的表現、作風等の類似性の有無にかかわらず、クリエイターの著作物のおかげで学習をした生成AIが、クリエイターよりもはるかに早く低コストで生成物を大量に出力することによって、クリエイターの生計を害することとなるという懸念を、CISAC(著作権協会国際連合)等が指摘していることも無視すべきではありません。

 カ また、仮に、作風がアイデア(思想又は感情)に属するとした場合であっても、著作権法30条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」を対象とする権利制限規定ですから、作風その他の「表現された思想又は感情」の享受(類似する作風の生成物を出力させるなどした上での享受)を目的(の一部)とする情報解析(AI学習)には適用されないと解すべきです。

 キ 以上を踏まえると、少なくとも、作風の類似するAI生成物が大量に出力されることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合については、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」に該当し、当該生成AIが開発・学習段階で行う複製等の利用行為は権利制限の対象とならないことを本素案に明記すべきです。

 ク そして、生成・利用段階における類似性の判断においても、同様に、生成AIに対する関係では、作風の類似も重要な要素になり得ることを明記すべきです。

4 「5.(2)イ(イ)依拠性の考え方について」に対する意見

 ア 「AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと推認され、著作権侵害になりうると考えられる」(30頁)という考え方に賛同します。

 イ この考え方を実効的なものにするためには、自らの著作物等が学習された場合にその事実を権利者が容易に確認・主張し得る仕組みの整備など、学習素材に関する透明性の確保が必要です。「法第114条の3(書類の提出等)や、民事訴訟法上の文書提出命令(同法第223条第1項)、文書送付嘱託(同法第226条)等」(34頁)にどの程度実効性があるのかを検証した上で、必要に応じて新たな立法措置も視野に入れた検討を継続すべきです。

 ウ 他方、「開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において生成されることはないといえるような技術的な措置が講じられている」場合等には、「当該生成AIの開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合であっても、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる」(30頁)という考え方には賛同できません。「開発・学習段階において学習に用いられた著作物をAIが過去に学習した以上、このような措置が取られていたとしても依拠性は否定され」ない(30頁脚注37)と考えるべきです。

5 「5.(4)その他の論点について」に対する意見

 ア 「著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為については、著作物のライセンス契約のような取引の場面においてこれを行った場合、契約上の債務不履行責任を生じさせるほか、取引の相手方を欺いて利用の対価等の財物を交付させた詐欺行為として、民法上の不法行為責任を問われることや、刑法上の詐欺罪に該当する可能性が考えられる。この点に関して、著作権法による保護が適切かどうかなど、著作権との関係については、引き続き議論が必要であると考えられる。」(36頁)との記載がありますが、著作権法による対応を積極的に検討すべきです。

 イ 不法行為責任の追及は原告の負担が重いため実効性が高いとはいえませんし、詐欺罪の構成要件(1.欺罔行為、2.相手方の錯誤、3.錯誤に基づく処分行為、4.財物・利益の移転)の一部(特に3.4.)を欠く事案であっても抑止する必要があります。実効性を高める観点、国民にとっての分かりやすさの観点等から、最も関係の深い著作権法で対応することには大きな意義があると考えます。

 ウ 著作権法に罰則規定を新設することも含め、実効的な抑止策を検討すべきです。

6 「6.最後に」に対する意見

 ア 生成AIの開発・学習のための著作物の利用については、クリエイター等の権利者から様々な懸念が示されています(12頁・13頁)。こうした懸念の多くは、著作権制度が保護・奨励すべきは人間の個性の発露としての創作であってAIによる機械的な生成ではない、という原点が揺らいでいることに起因するものです。

 イ この点、本素案は、現行著作権法30条の4本文の規定(権利制限規定)が生成AIの開発・学習における著作物の利用に適用されることを前提として、その範囲等を整理しようとするものですから(15頁)、どのように整理したとしても、クリエイター等の権利者の懸念を根本的に解消することはできません。

 ウ 人間の個性の発露として創作された著作物は、生成AIのために単なるデータとして取り扱われるべきではありません。少なくとも、学習素材として利用されることの可否をクリエイター等の権利者が判断する機会を設けるべきです(選択の機会の確保)。特に、営利目的の生成AI開発に伴う著作物利用についてまで原則として自由に行うことが認められるかに読める現行法の規定は、多くのクリエイターの努力と才能と労力へのフリーライド(ただ乗り)に誘引するものであり、フェアではありません。

 エ 「AIと著作権の関係については、今後、著作権侵害等に関する判例・裁判例をはじめとした具体的な事例の蓄積、AIやこれに関連する技術の発展、諸外国における検討状況の進展等が予想され、これらを踏まえて引き続き検討を行っていく必要がある。」「AIをはじめとする新たな技術への対応については、著作権法の基本原理や、法第30条の4をはじめとする各規定の立法趣旨といった観点からの総論的な課題を含め、中長期的に議論を行っていくことが必要と考えられる。」といった記載がありますが(37頁)、現行著作権法を前提とした解釈論に終始することなく、立法論(30条の4の改正等)も含む議論が早急に行われることを強く望みます。