LUNA SEAのSUGIZOとJが語る「ライブの真空パック」の凄さ パネルトークほぼ全文掲載

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LUNA SEAがヤマハの新技術「ライブの真空パック」のアンバサダーに就任した。録音や録画では不可能だった「ライブ演奏の空気感」を再現することの凄みについて、SUGIZOとJがパネル・トークで余すこと無く語ってくれた。

技術的なことは春先に収録したヤマハ 柘植秀幸氏のインタビューに譲り、今回は超一流アーティストの二人が感じたことをそのままお伝えしたい。それは本当に、録音の発明にも匹敵する歴史的なものになりうるのか?

(文:Musicman編集長 榎本幹朗 取材日:9月5日 ヤマハ銀座スタジオにて)

 

もしジミヘンやジョン・レノンが生きていた頃に「ライブの真空パック」があったら

MC(アナウンサー):「LUNA SEA Back in 鹿鳴館」の「ライブの真空パック」を体験した感想を聞かせて下さい。

SUGIZO:ライブのミュージシャンのタッチや息遣いがリアルに記録されて、それが体感できるというのは、今まであるようで無かったと思います。

本当に思うのがね、50年前にこれがあったら、ジミ・ヘンドリックスやフランク・ザッパ、ジョン・レノンのライブが今、体感できた。そういうことなんですよ。

僕ら演奏家としてはただただ感動しますし、この素晴らしい技術のアンバサダーにLUNA SEAを選んでいただいたことを光栄に思っています。

J:バンドサウンドにおいて低音はすごい重要なんですね。ベース担当として最初は「僕が演奏している音と違っていたら嫌だなあ」という不安があったのですが、僕が弾いたタッチと音色が完全に蘇っているのを聴いて「これは音楽にとってとんでもなく素晴らしいことが起きたのではないか」と思いました。

たぶん、みなさんもいろいろ説明を聞かれて「これは一体何なんだろう?」と思っているでしょうけど、本当に早く実際に聴いてほしいですね。

MC:ご自身のライブを客観的に観ることになって、どうお感じになりましたか?

J:そうなんですよ!僕ら、やり手が唯一叶わないことがあるとすれば、僕たちのライブは僕たちは観られない。でも今さっき、僕たち観てきたんですよ。いやもう、本当に何と言ったらいいのか…。

その生々しさ、演奏がこのままずっと未来に残っていくことの可能性。全ミュージシャンの夢を乗せた挑戦じゃないかと思っています。

MC:結成35周年を迎え、精力的に全国ツアーをなさっている最中、ご自身のライブを初めて客観的に観るというのは、とても意味のあったことではないでしょうか?

SUGIZO:35年間、ライブでうちらは叩き上げてきたので、ライブこそが自分たちの存在証明であり、ステージこそが自分たちの居場所だと思っています。

もちろん楽曲を作ること、音楽を生むことね。レコーディングをすることすべてがミュージシャンにとって自分のプロセスなんですけど、特にLUNA SEAはライブで始まってますからね。自分たちが産声を上げた場所です。

で、いつも思うことがあって。今回もそうですけど、どんどん新しいテクノロジーが出てくる。例えば、もうすぐほとんどの演奏はAIに取って代わられてしまうと思う。

これはこれですごいことだと思います。なんだけど、僕らみたいな生のロックバンドのライブの魅力や強さというのは、どんなに時代が変わってもおそらく永遠に必要とされるものだと思うんですね。

ライブは音楽家として、LUNA SEAとして産声を上げた場所であり、最後に行き着く場所です。だから35周年記念ツアーの最中にこうやって、この場に立てて良かったなと思っています。

MC:Jさんからも。LUNA SEAにとってライブとはどのような存在でしょうか?

J:もしこの世の中にそのライブというものが存在してなかったら、僕自身は音楽をやってなかっただろうなって思うぐらい、その活動の中で重要な部分を占めるものなんですよね。

演奏をして、バンドのメンバーとつながって、そしてその音楽が聴いているみなさんとつながって、そしてそれがものすごいエネルギーとなって、ポジティブなものを生んでいく。そんなものって、この世の中になかなか存在しないと思うんです。

そういう意味では、その僕たちはライブを通じていろいろな経験をしてきて、とんでもない景色も見てきていて。

なので、今回このライブの真空パック、夢のような企画だなって本当に感じてるんですけど。

MC:観ている私たちにとっても、ライブって本当に生きる活力なんですよね。そういったものって外に何かある?と訊かれたらパッと思いつかないくらい特別な体験です。

そして今回のコンセプトが「ライブの真空パック」ということなんですが、どのあたりに賛同されてアンバサダーを引き受けようと?

SUGIZO:なんか夢の塊じゃないですか? 僕のあのライブ演奏が、息遣いが百年後500年後に残る。そこにとてもロマンを感じて「ぜひご一緒させていただきたいな」と思いました。

先ほども申し上げたように、もしジミヘンやジョンレノンの時代にこの技術があったら、今の世の中どんなに素敵だったんだろうと思うし、50年後、100年後、500年後、僕らの音楽をちゃんと残しておきたい。

ヤマハさんの言い方としては「無形文化遺産」。音楽ってそういう価値があるなと思っていますので、もうロマンですね。ミュージシャンとしては。

MC:私自身もLUNA SEAのライブを数多く観ていて、本当に文化遺産として残すべき音楽をやっているのがLUNA SEAだと思っていますとSUGIZOさんに話したことがあります。そして、遂にそれが実現した。LUNA SEAの音楽ライブが未来永劫残っていく。本当にロマンのあることだと思います。

「LUNA SEA Back in 鹿鳴館」も当日、見に行ったんですけど、先ほどその再現ライブを観て本当にびっくりしました。にわかに信じられない体験がこの後待っていますので(※当日、この後にあった取材者向けの再現ライブ)、みなさまぜひ体感してみて下さい。

 

音楽がデータ化される時代に「魂が残っていくってことの凄さ」

MC:お二人にお伺いしたいのですが、この「ライブの真空パック」を使って実現してみたい試みは?

J:そうですね。僕らミュージシャンの演奏というのは、本当にそれぞれ個性が存在するんですよね。楽譜にしてしまうと音符なんですけれども、その音符をどうやって鳴らしていくかっていうのは、本当にミュージシャンそれぞれ。

その音符が怒っている音だったり、泣いていたり、もっと言えばね、どんな形をしているの?っていうのが本当にプレイヤーのそれぞれの個性に変わっていく。そんなものが音楽なんですよ。

ライブのプレイが残っていくというのは、僕たちミュージシャンの魂が未来に残っていくっていうことなんですよね。僕らが存在しなくなっても、その魂が残っていくってことの凄さ?

今、音楽がデータ化していってますけども、楽器を演奏するというのは本来、超アナログな、原始ですよね。でも、その元にあるエネルギーを未来に向けて残していくっていうのはすごいことです。さっきから「すごい」しか言ってないんですけど(笑)。

MC:(再現ライブは)ステージに誰も人がいないのに、熱量が伝わってくるんですよね。

 

「録音技術や蓄音機が生まれたのに匹敵する衝撃」

SUGIZO:ちょっと話が飛んじゃうんですけど、ベートーヴェンやバッハの時代はまだ録音ができなかったじゃないですか。彼らの魂っていうのは譜面という形でしか残ってないんですよ。百年前に録音がやってきました。この1世紀間はみんな魂を録音物に残せる。「ライブの真空パック」はその次のラインに来たと思いますね。演奏してライブをそのまま残せる。

これは多分、あの録音技術や蓄音機が生まれたのに匹敵する衝撃だと僕は思いますよ。すべてが音楽家、ミュージシャンの魂を残すための手段なんですよね。

MC:SUGIZOさんがこの技術を使って実現したいことは?

SUGIZO:やっぱり映像を作る人が要るんですね。今までだったら、例えば、これもYamahaさんの技術ですけど、ボーカロイドのシンガーがステージ上のスクリーンに投影されていたと思います。そういう技術のさらに先へ。

僕らの演奏と、僕らの残像がドームクラスでも体験できるようになったら、百年後にLUNA SEAの東京ドーム公演ができるかもしれない。それってすごくドキドキしますよね。

 

質疑応答:音楽に魂をかけているのは「次の世代に伝えたい」から

Q. 子どもたちに向けた取り組みについて

SUGIZO:LUNA SEAはアンダー18(18歳以下)でチケットの金額をお求めやすくしたり、ファミリーチケットも長くやってきましたが、個人的なことを言わせてもらうと、魂をかけて音楽をやっている一番の理由は「次の世代に伝えたい」ってことなんですね。

じぶんたちは正直、人生の中間地点をとっくに過ぎていて、今これだけ魂をかけて音楽をやっているのは次の世代にバトンを渡したいからなんです。自分たちの子どもの世代、その下の世代のためでもある。僕らの音楽の存在がきっかけになって、新しい世代、子どもたちが夢や希望や光を音楽に見出してくれたなら、これほど光栄なことはないし、そのためにすべての活動をやっていると僕は思っています。

J:僕自身も若い時、教科書に載っている音楽だけでは全く満足できず、自分の好きな音楽に出会ってから人生が変わりました。本当にもし音楽がなかったら、こんな場所にもいないでしょうし、人生も全然変わってたと思うんです。

音楽に触れて、いろんな仲間が増えたり、いろんなことを経験したり、世界を見たりした実体験があるので、若い子たちがそうした何かに触れられるチャンスを僕らが作るのであれば、そんなに素晴らしいことはないだろう、と。

で、今回の「ライブの真空パック」も、将来的に家でも再現できるようになった時に、本当に飛び出してくるような音楽をその子が触れたら、その子の人生にどう影響していくんだろう?

想像すればするほどワクワクします。

 

Q. 開発中にLUNA SEAがアドバイスした楽器演奏の再現性について

ヤマハ 柘植秀幸氏:まず私の方から説明させていただきます。プロトタイプの試奏でLUNA SEAさんから「ギター・ピックが弦の巻き毛に当たった時のギャリっとする音が欠けちゃってる」というコメントをいただいて、高い周波数で元のレベルを維持できていないことが分かって、そこを改善して大幅に再現性を高めることが出来ました。

SUGIZO:最初からドラム(演奏の再現性)はすごいと思ってて。

J:映像ではなくてリアルで楽器の演奏が再現されているのは初めて見ました。まるでその場に透明人間がいるみたい。

SUGIZO:90年代に僕はピアノの自動演奏、ディスクラビアを見た時、まさにそうだったんですけど、ただの自動演奏じゃなくて、その演奏家のもう息遣いがそこにある感じ。

ギター、ベースはあと少しかなと思っているのですが、最初の頃からはかなり進化しました。リアンプのクオリティがすごく上がったということですね。人間の弾いたベースの新号の、数値の再現がほぼ100%に近い状態があると認識しています。

 

Q. 「ライブの真空パック」に対するアーティストのメリットについて

J:やはりライブっていうのは、その瞬間で、ミュージシャン同士がぶつかり合って、観に来てくれたみなさんがぶつかり合って出来上がっていく、形があってないようなものではあるんですよ。その場の空気もありますし、その日のなんですか?うねりみたいなもの。そういったものが未来に向かって残っていくっていうのは、僕たちが今までやってきた経験からするとちょっと想像を超えるんですよね。何でも可能になっていくのも想像できるんですよ。

その意味では間違いも永遠に残る。でもその間違いがとんでもなく愛おしくなった。どの時代に聞かれるかによっては「いいよね」なのか「ダメじゃん、これ」なのかわからないんですけども、そういったものが今まで音楽の中になかったわけじゃないですか。それが生まれてくる瞬間を僕らは見てるっていうのは、もう感激でしかないですね。

SUGIZO:本当に同感で今すごい瞬間に僕らいると思いますよ。先ほども言ったみたいに録音が開発されたのと同じような状況だと思う。だからワクワクしかないんですよ。

僕らのコンサートが50年後に体験できる想像してください。あるいは例えば1969年のウッドストックでのジミヘンの伝説のライブが今体験できる、どう思いますかね? みんなチケット買っていきたいですよね。そういうことなんですよ。

伝説のライブがこの技術をもって記録されていれば、それが永遠に残るっていうのは、もちろん間違いとかトラブルもあって、その時には「畜生!」と思うんだけど、多分50年だったらトラブルとかミスも味になるんですよね。

いずれにしても僕らミュージシャンにとっても、ライブを体験するお客さんにとっても、これはまさに夢が一つ叶った。そういう技術なんじゃないかなとワクワクしています。

 

Q. 「ライブの真空パック」でじぶんの演奏を観たときの感情について

J:照れますよ(笑)。僕自身が弾いているのを見て、幼馴染のメンバーが弾いているのを見て、それをまじまじと見ている僕がいて、SUGIZOがいて。一体この瞬間は何なんだろうって。でもそれぐらい想像を超えた経験だった。

冷静に見ると「いや、まだまだ俺たちいけるな」ていう部分と「おお、俺たちすごいな」っていう部分とね、いろんなことを感じさせてもらいました。

SUGIZO:僕はどちらかというと「恥ずかしいなあ」と(笑)。「それはこうしてよかったな」とか、そういうのが多いんですけど。

でも、感動はします。Jも言ったように、自分のライブを外から見ることは基本的に不可能なことだったので。

そういう意味では初めての体験ですし、もう一つ言うと今日まだ質疑応答の中では話題になってないんですけど、実は照明やレーザーも同時に再現ができるので。僕らが見たかったあの明かりね。あの映像、あのレーザーが客観的に体験できたのは、とても感動的でした。(了)

取材者・プロフィール

榎本幹朗(えのもと・みきろう)

1974年東京生。Musicman編集長・作家・音楽産業を専門とするコンサルタント。上智大学に在学中から仕事を始め、草創期のライヴ・ストリーミング番組のディレクターとなる。ぴあに転職後、音楽配信の専門家として独立。2017年まで京都精華大学講師。寄稿先はWIRED、文藝春秋、週刊ダイヤモンド、プレジデントなど。朝日新聞、ブルームバーグに取材協力。NHK、テレビ朝日、日本テレビにゲスト出演。著書に「音楽が未来を連れてくる」「THE NEXT BIG THING スティーブ・ジョブズと日本の環太平洋創作戦記」(DU BOOKS)。現在『新潮』にて「AIが音楽を変える日」を連載中。