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「『MUSIC AWARDS JAPAN』を世界進出の名刺代わりに」主催CEIPAがライブ・エンターテイメントEXPOで基調講演

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基調講演「世界へ発信する国内最大規模の国際音楽賞 “MUSIC AWARDS JAPAN” その狙いと日本の音楽産業の未来」

ライブ・エンターテイメントEXPOとイベント総合EXPOの2展で構成される総合展示会「LIVeNT2025(ライベント)」が、1月22〜24日に幕張メッセで開かれた。演出機材やグッズ、チケッティングサービスなど、ライブやフェスなどに関わる製品が出展。ライブ事業関係者らが来場した(※業界関係者のための商談展のため、一般は入場不可)。

初日の基調講演のテーマは、日本の音楽業界の主要5団体が垣根を越えて設立した一般社団法⼈カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA)が新設した、国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN(MAJ)」。日本レコード協会会長でCEIPA理事長の村松俊亮氏、日本音楽制作者連盟の理事長でMAJ実行委員会委員長の野村達矢氏、日本音楽出版社協会の会長でMAJ実行委員会副委員長の稲葉豊氏が登壇し、MAJの狙いと、日本の音楽業界の未来を語った。なお、部門など設計中のものもあるため、いずれも講演時点の情報となる。

◾️世界進出に向け「名刺代わりになる」アワードを

MAJ設立のきっかけの1つは「音楽を聴く環境の変化」だった。コロナ禍を経て、日本でも音楽を聴く環境がフィジカルからデジタルへ急速に移行。これまでファンはCD購入などにより個々のアーティスト(推し)を応援する形となっていたが、音楽がサブスクリプションで聴かれるようになったことで、個々のアーティストでなく、音楽全体に対して関心を持ってお金を使う格好となり、「ビジネスの構造が変わった」と野村氏は語った。その中で、「もっと音楽自体のファンになってもらい、日本の音楽のファン・リスナーを底上げして、マーケットを拡大する必要があるのでは」という考えが生まれ、5団体が協力し合い「もっと日本の音楽のことを考えていこう」という方向に進んだという。その手段の1つとして、米国のグラミー賞のようなアワードを日本で開催することで、音楽自体への関心と注目を集め、マーケットを広げられるのではと思い至った。同時に、ストリーミングにより瞬時に世界に届けられるようになったことで、日本の音楽を世界にどう広げていくかを考える必要があり、業界全体が1つになって積極的にアプローチすべきではという考えから、「これらを総括できるようなアワードができたら」という思いでスタートしたという。

村松氏は、音楽業界は今「チャンスとピンチのちょうど境界線上にいる」と指摘。エンタメの楽しみ方が2019年以降にガラッと変わり、ゲームや映画などさまざまなコンテンツが(ストリーミングで)ある中、いかにユーザーに音楽を選んでもらい、お金と時間(特に可処分時間)を獲得するかが重要だとした。少子化で国内市場が縮小していく中、ストリーミングにより国外市場が拡大し、音楽輸出が課題となっている。同氏は、自社に所属するCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」の世界的ヒットを間近で体験し「音楽の可能性を実感」。アーティストにとってはチャンスが訪れているとみている。一方で、「海外で今後活動していきたいというアーティストの事務所の人と話すと、海外のプロモーターやメディアと交渉する時に、履歴書に書けるものがない、名刺代わりになるものがないんですよねと言われて。確かにそうだよなと。海外にアーティストを輸出する時に「日本のミュージックアワードでこういう評価をされたアーティストだったら、こちらでもぜひ展開してみたいね」というビジネスパートナーが必ず出てくると思うので、そういう意味でもこのアワードをわれわれ音楽業界全体で権威にしていかなければいけない。時間はかかると思うが、世界の中で日本にこういうアワードがあるのだということを認知させていきたい」と意気込みを語った。

◾️透明性を確保したグローバルな音楽賞

MAJの投票メンバーは、アーティスト、クリエーター、レコード会社スタッフ、エンジニア、コンサートプロモーター、音楽出版社、ディストリビューター、ライター、メディア、海外音楽賞審査員など音楽関係者5,000人超で構成。厳正なる投票・集計を行ない、受賞作品/アーティストを決定する。表彰部門は60超以上と幅広く、これについて野村氏は「未来を担っていく、いろいろなジャンルの人たちが参加してアワードの対象になっていくことが非常に大事だと思っている。たくさんのアーティスト・クリエーターに関わってもらいたい」と述べた。主要6部門のうち、「最優秀楽曲賞」「最優秀アルバム賞」「最優秀アーティスト」「最優秀ニュー・アーティスト賞」の4つは比較的なじみがあるが、世界でヒットした国内楽曲を讃える「Top Global Hit from Japan」、アジアでヒットしたアジア楽曲を讃える「最優秀アジア楽曲賞(Best Song Asia)」といったグローバルを意識したものも組み込まれているのが特徴だ。また、Spotifyの投票機能を活用した、一般リスナーも参加できる投票部門も用意。Spotifyで公開されたプレイリストを通じて投票する仕様となる見通しで、「(この枠内の)部門が今後増える可能性もある。日本の楽曲を海外で聴いてもらいたいということもあり、仕かけ方を試行錯誤している」という。

MAJは「世界とつながり、音楽の未来を灯す」というコンセプトの下、「透明性」「グローバル」「賞賛」「創造」の4つをテーマに掲げている。野村氏は「今まで日本にもいろいろな音楽賞があったが、世界を意識して音楽の未来を考えるという部分ではまず、音楽を支えるリスナーからどのように信用してもらえるか、透明性が大事だ」と主張。受賞者決定の経緯など、いろいろな情報を公開(見える化)し、さらに投票メンバーにも公平性のある投票を求めることで透明性を確保し、リスナーからの信頼を得たいとしている。また、投票メンバーの中心になるのは、アーティストとクリエーター(作詞作曲、アレンジメントに関わった人)で、「アーティストがアーティストを選ぶことは互いを賞賛するようなもので、音楽そのものの価値を高め合っていくことにつながっていく」と期待を寄せた。こういったアワードをやることで「音楽を、やってみたい。関わってみたい。作っていきたい」という人たちをどれだけ増やし、次の未来を創造していくかも重要だと述べている。

村松氏は「特に「賞賛」が大事だと思っている」とコメント。「透明性があるから賞賛され、グローバルから賞賛される。アーティスト、業界人、メディアといった5,000人を超える投票メンバーから選ばれるというだけで、ある種、全ての音楽業界人からリスペクトされることに繋がっていく。このアワードを受賞することがアーティストにとって夢や目標となるようにしていかなければ、何の意味もない。そういうアワードになるからこそ、世界に向けた名刺になっていくと思う」と述べた。その上で、「MAJを構成するアーティストや音楽業界人、そしてリスナーに長く支持され、信用されることが非常に大事だと考えている。信用が期待と関心に繋がる。いろいろなことを情報開示しながら、アワードの運営をやっていきたい」との方針を示した。

◾️授賞式以外もイベント開催 MAJウィーク

今後のスケジュールは、3月13日にエントリー作品/アーティストを発表。一次投票で、各部門5作品のノミネート作品を選出し、最終投票を経て、MAJウィーク(5月17〜23日)に授賞式(5月21・22日)を執り行う流れだ。MAJウィークは、授賞式を中心としながら、ジャンルごとのライブイベントや、授賞式で来日する海外の投票メンバー(約300人)を招いてのカンファレンスやセミナー、音楽テックのピッチイベントなどを散りばめ、授賞式をピークに持っていく構造になっている。稲葉氏は「音楽の授賞式のコンテンツにとどまらず、「日本の音楽(アーティスト)を世界に届ける」プラットフォームになってもらいたいとの思いがある」と語った。初回は京都での開催だが、将来的には東京なども視野に入れつつ、KCONのように、音楽を中心としながら、日本の文化全体を発信していく場となることを目指すという。

CEIPAが主催していることについて、村松氏は「「音楽業界が一丸となって」というと、何か非常にお堅い感じや、トップダウンのような感じがしてしまうので、あまりこういう言い方はしたくはないが、さまざまなコンテンツ業界がある中で、また音楽業界にしても、原盤や出版、マネジメント、ライブと、いろいろなビジネスがあり、それぞれ関係性も違う中で、「音楽のチャンスとピンチ」に対して業界全体が同じ方向を向いて、日本の音楽産業、アーティストを世界に発信していこうという意志でひとかたまりになっていることに、奇跡と頼もしさを感じている」とコメント。「みんなでやるというのはすごく意味合いがあるし、アーティストが海外展開するにはさまざまなお金がかかるので、われわれは良い意味で圧力団体になっていくべきだなと思うので、われわれ産業界と国が手を取り合ってやっていくために、われわれが1つになっていくというのは絶対に必要なことだと改めて思っている」と述べた。

▪️「チャンスとピンチの境界線上」にある業界 未来は明るい?

話題は、日本の音楽業界の未来にも広がった。レコーディングアカデミーが、2025年のJ-POPブームを予測したことを受け、村松氏は「ストリーミングの中で日本の楽曲のシェアが大きくなっているデータを基に予測しているのもあるが、日本のカルチャーに注目しているのだと思う」とコメント。ゲームやアニメ、漫画といった日本のカルチャーに必ず音楽は紐づいており、海外で昨年聴かれた日本の音楽のほぼ9割がアニメに関連していたというデータもあるという。「日本のカルチャーに非常に注目していて、そこに必ず存在する音楽というものをクローズアップしたいと考えているのだと思う」との見方を示した。また、英語曲のシェアが下がり、英語でなければ世界で通用しないという時代から変わってきているとした上で、「日本独自の音楽のクリエイティブ、特に「美メロ(美しいメロディー)」は今後、ヒップホップが下降線をたどり始めている中で、新しい音楽として注目されるのでは」とみている。「日本のクリエーターは、ネットクリエーターにしても、ボカロPにしても、非常に美しいメロディーを紡ぎ出す若手がどんどん出てきている。そういった才能をこのアワードを通じて、世界に広めていきたいと思っている」としている。

音楽産業における課題を問われると、野村氏は「これまでドメスティックな中でやってきたため、音源を含めて海外の人に行きわたらせるプロモーション手段については未熟」と指摘。村松氏もこれに賛同し、「海外のコミコンなどにも行くと、主題歌を担当しているアーティストがライブをしてファンが熱狂。それが音楽だが、まだその機会が少ない。単独だとマネタイズできず、躊躇することもあると思うので、やはり業界全体だったり、国のサポートも得ながら、全体で見せていく。日本のカルチャーを世界中の人たちに生でしっかり見てもらうことが大事で、ここに関してはまず投資フェーズとして、数年は赤字覚悟でいくべきだと思っている。業界としてのサポートをさらに強化していかなければならないと考えている」と話した。

稲葉氏は、CEIPAの役割には「国内の事業としてのMAJのほか、日本アーティストのグローバルショーケースの立ち上げがある」と説明。今年3月にロサンゼルスで開催予定で、年2回のペースで、次はタイ、ロンドン(英国)、ブラジルなど、もっと積極的に海外のファンのいるところに日本のアーティストを送り込んで、認知形成や関係構築を図っていくとしている。さらに、音楽出版社協会で常に著作権を前提として音楽ビジネスを見ている立場から「デジタルのプラットフォームに日本の音楽やアーティストを持っていくためには、データ整備も重要だと感じている」と指摘。アニメには非常に多様な情報が載っている多言語サイトがあり、海外のファンが同じ作家や映画監督が手がけた別の作品に繋がるといったことがスムーズにできているが、日本の音楽はグローバルの音楽ストリーミングで流行っても、タイトルや作家名がローマ字表記で、その作家の他の作品などにつながっていかない状況という。そういった基本的な海外に向けての条件整備を、音楽主要団体が集まっているCEIPAでやっていきたいとしている。

最後に日本の音楽産業の展望について、野村氏は「アーティストもビジネスサイドも続々と若い世代の人たちが出てきている。新しい世代の人たちが新時代を作っていくことを、われわれ上の世代がサポートしていけるかどうかが非常に大事。そういう意味では、未来は明るいかもしれない」とコメント。村松氏は「60年代のビートルズのように、1人のスーパースターや、1曲の世界的メガヒットが、業界や環境を変えてしまうこともある。日本において、今まで数々の才能あるアーティストたちがチャレンジしてきて、なかなかうまくいかなかったグローバルで大きな注目を集めることやヒット曲を生み出せるチャンスを感じている。1つの成功例を作ることが、その後に続く人たちやビジネスをガラッと変えていくと思うので、なんとかそのきっかけを作りたいと真摯に思っている」との思いを述べた。

稲葉氏は「日本の音楽産業の未来を、アーティストも音楽業界人も、このMAJに見てもらいたい」と主張。MAJの立ち上げ当初、「透明性や新しいスタイルを提示していくためには、放送局や国のサポートを得てやるより、まず自らの思いや意志を語りながらサポートしてもらえる企業を集めるところからスタートしていこう」という方針で、村松氏や野村氏と一致。制作著作も自分たちで持ち、自分たちが正しいと思うこれからの姿を提示するのだという思いの下、トヨタグループを筆頭に、さまざまな企業に考え方を理解・支援してもらい、1点の曇りもないような心でMAJを立ち上げることができたという。「このアワードで「新しい音楽のビジネススタイルは、こういうことではないか」ということを5団体が中心となって、アーティストやクリエーター、ビジネスサイドのみなさんに提示していきたい。それが未来になってくれればいいなと思う」と期待を示した。

会場内の様子(ライブ・エンターテイメントEXPO)

ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)

フリーランスのライター/エディター。立教大学を卒業後、国外(ロンドン/シドニー/トロント)で日系メディアやPR会社に勤務した後、帰国。イベントレポートやインタビューを中心に、カルチャーから経済まで幅広い分野の取材や執筆、編集、撮影などを行う。