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AI訓練の著作物使用、音楽業界とテック業界が真っ向から対立 米「AI行動計画」意見公募

ビジネス 海外

トランプ米政権が「AI行動計画」の策定に向けて実施した意見公募で、音楽業界団体やテック企業が相次ぎ提言を行った。AI訓練における著作物の使用は「まず許可を得るべき」とする音楽業界に対し、テック企業は著作権適用の除外を求めている。 

全米レコード協会(RIAA)、全米音楽出版社協会(NMPA)、米独立系音楽レーベル団体のA2IM、レコーディングアカデミーを含む業界10団体は共同で、「AIイノベーションの進展と強力な著作権保護は、相互に排他的なものではなく、ゼロサムゲーム(一方が得をすると他方が損をする)ではない。どちらも適切なインセンティブと保護によって奨励・促進されなければならない」とする文書を提出。著作権で保護された素材でAIモデルを訓練する能力を制限することは技術革新の妨げになるという一部のテック企業の主張を真っ向から否定するものだ。 

一方、グーグルは、「AIへの投資」「政府によるAI導入の加速化と近代化」「イノベーションを促進するアプローチを国際的に推進する」という3つの主要分野に注力するよう要請。OpenAIと似たトーンで、「AI訓練のために著作権で保護された、一般に利用可能な素材の使用を許可する」よう促した。特筆すべきは「著作権、プライバシー、特許の3つの法律が、最先端モデルの学習に必要なデータへの適切なアクセスを妨げる可能性がある」と強調していることだ。 

(文:坂本 泉)  

榎本編集長「英政府に続きトランプ米政権も、AIが著作権のある楽曲をアーティスト側の許可なしに学習できるよう法改正する提言をグーグル等AI企業から受け付けた。この状況に危機感を持つ音楽産業側も「AI企業側だけでなく音楽側にも学習のインセンティブを与えるべき」と当たり前の意見を提出したが、これは中国に対して危機感を持つAI企業側と真っ向から対立したものとなる。ディープシーク・ショックからも分かるように、中国は自国のAIが世界一になるためなら国外のあらゆる著作物やサービスを無断学習させることが既成事実化しており、アメリカのAI企業は著作権法に縛られて中国系AIに遅れを取ることに強い危機感を持っている。トランプ政権も長年の仮想敵国ロシアと手を組んででもNo.1の座を脅かす中国を叩く方針をもっているが、No.3と組んででもNo.2を叩くのはアメリカの伝統的な国家戦略でトランプが特殊だからともいいがたい。そしてシリコンバレーが共和党支持に回った一方、ハリウッドなどコンテンツ産業は民主党支持が強かったこともあり、AIと音楽を巡る著作権法改正の地合いは音楽側にとってよいものとはいいがたい状況だ。かつてネットの登場、ファイル共有の席巻に危機感を持った音楽産業は2001年にみずから音楽サブスクを創出。その後、iTunesやSpotifyを積極的に支援してテクノロジーから来た危機にみずから答えを出してきたが、今回のAI時代は大国のぶつかり合いが背景にあり、自分たちがテクノロジーに対して積極的に答えを出す姿勢だけでは解決できない、いっそう難しい状況だともいえる。毎日いろいろ書いてきたが、これも超重要な話だ」

ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)

フリーランスのライター/エディター。立教大学を卒業後、国外(ロンドン/シドニー/トロント)で日系メディアやPR会社に勤務した後、帰国。イベントレポートやインタビューを中心に、カルチャーから経済まで幅広い分野の取材や執筆、編集、撮影などを行う。