MIDiA創設者が語る、業界の力関係の変化とスーパーファンのエコシステム

英国の音楽専門コンサルティング・ファームであるMIDiA Reserchの創設者であるマーク・マリガン氏は、DSP(デジタル音楽配信事業者)のパワー・ダイナミクスが変化したことで、レーベル、特にメジャーは、ストリーミング収入の停滞を補うため、スーパーファンの機会とエクスパンデッド・ライツ収入の拡大にさらに注力する必要があると述べた。音楽業界メディア「Complete Music Update(CMU)」が伝えた。
マリガン氏は、ストリーミングの減速は長期的なビジネスシフトの始まりに過ぎず、いずれ分岐し、2つの異なる音楽ビジネスモデルが生まれると予想。ストリーミングビジネスは「より受動的なカタログ消費と、大手権利者向けの拡張可能な収益化の手段」になる一方、非DSPビジネスは「最終的にどのような形になるにせよ、より細分化。よりファン中心となり、単一の支配的なモデルは現れない」とみる。
スーパーファン戦略の成功には、レーベルはアーティストからよりエクスパンデッド・ライツ(拡張権利。グッズなどマーチャンダイジングやスポンサーシップ、ライブ演奏など)を確保し、ファンダム形成と収益化のバランスを取り、ファンが自分たちのアイデンティティーを表現できるような商品を作る必要があると指摘。大手が迅速に適応できるかは疑問で、勝者となるのは「ファンダムが単なる消費でなく、アイデンティティーとコミュニティーに関するものだと理解している者かもしれない」と述べた。
さらに「韓国と日本のレーベルは今でも最も優れたモデルとして際立っている」とした上で、「彼らは収穫するのと同じくらいに、ファンダム構築に力を注いでいる」と強調した。
2024年の収益成長率は、DSPが18.7%、レーベルが6.2%と大きく開いた。かつて優位な立場にあったレーベルだが、DSPがコンテンツの多様化などを進めるにつれ、DSPのアクセスを維持するため、より不利な条件を受け入れざるを得なくなる可能性がある。
(文:坂本 泉)
榎本編集長「2024年、レーベルの売上成長率は6.2%だったがSpotifyなど音楽配信事業者(DSP)は18.7%だった(MIDiA)。いくつか要因があるが、まず、例えばサブスク売上などでのSpotifyの取り分が25%から30%超に。Spotifyからすると2割以上取り分が増えている。欧州で著名なMIDiA社のマリガン氏は、レーベルが売上を頼るSpotifyなどに対し不利な条件を飲まざるを得なくなっていると背景を指摘。それとメジャーレーベルの売上は先進国が中心で、その先進国でサブスクの普及がほぼ終わり低成長に入った一方、新興国で依然としてサブスクが伸びているギャップがある。レーベルは対策としてスーパーファン・プラットフォーム(ファンクラブ・アプリ。アーティストごとに月額でファンが加入)や、チケットやグッズなど「拡張権利」を推し進めている。その部分は韓国と日本が模範になるとマリガン氏は言う。歴史的にファンクラブ運営は日本が、そのデジタル化とグローバル化は韓国が確立。他に中国テンセントがサブスク+カラオケ+投げ銭を組み合わせたソーシャルエンタメ売上、そして先行チケット+先行配信を組み合わせたVIPサブスクを軌道に載せている。4年前に出した拙著で書いたポストサブスクの予測通りだが、いよいよ現実となった一方、サブスク登場時と似ていて、答えは見えているのにそこへレーベルがアジャストしきれていない印象だ。」
ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)
フリーランスのライター/エディター。立教大学を卒業後、国外(ロンドン/シドニー/トロント)で日系メディアやPR会社に勤務した後、帰国。イベントレポートやインタビューを中心に、カルチャーから経済まで幅広い分野の取材や執筆、編集、撮影などを行う。
広告・取材掲載