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Maroon 5のPayphoneで学ぶSpotifyを使った上手な稼ぎ方「未来は音楽が連れてくる」連載第19回

コラム 未来は音楽が連れてくる

Maroon 5のPayphoneで学ぶSpotifyを使った上手な稼ぎ方

▲Maroon 5のPayphone。リリース時、A&MレーベルはSpotifyMaroon 5の全曲プレイリストを宣伝するCFを、Spotifyで集中的に配信。No.1を5週連続で得ると共に、Payphoneに惹かれたリスナーがMaroon 5のカタログをSpotifyでずっと聴くように誘導した。再生回数が売上を決めるアクセス権ビジネス時代のプロモーション手法だ

「Pandora RadioやSpotifyがヒットを創れるのか」

というところも、プロなら気になるところだと思う。答えはYESでありNOだ。というのは、その質問は、「アマゾンでミリオンセラーが創れるか」と訊いているのに等しいからだ。

そもそもPandora RadioやSpotifyのレコメンデーションは、ロングテール志向で売上を伸ばしてゆく方に向いている。その意味では答えはNOだ。

だからといって、アマゾンの売れ筋や高評価が、購買行動に無影響かといえば全く逆であるように、Pandora RadioやSpotifyでも、高評価で再生回数の高い曲は、必然的に様々なリスナーにお勧めされる機会が増える。その意味ではYESだ。

感動を呼ぶ音楽ができたら、地道にライブ活動をしてソーシャルグラフの基礎を創る。次にコアファンの共感をソーシャルマーケティングで広げていき、マスマーケティングで一気にリーチを広げる。

基礎的な話だが、こうしたソーシャルメディア時代の音楽プロモーションをかけていれば、自然とPandora RadioやSpotifyのレコメンデーションも反応し、再生回数が最大化していくだろう。

では、Spotifyはマーケティングに使えないのか、といえば、それも間違いになる。Spotifyのスポット広告には独特の効果がある。

例えば最近、Maroon 5のPayphoneがシングルチャートで1位を取った。

当然ながらSpotifyチャートでも1位を取ったが、この時A&Mレーベルは、Spotifyで音声&バナー広告を使って、Maroon 5の全曲プレイリストを集中的に宣伝した。音声に用いたのはもちろんPayphoneだ。

結果、Payphoneは、UKチャートの公式ストリーミングチャートで5週連続No.1を獲得。同時に、MTVや地上波ラジオで耳にしてPayphoneをSpotifyで聴きにやってきたリスナーを捕まえて、Maroon 5のカタログを1ヶ月以上、聴いてもらうことに成功した。

シングルヒットだけなら再生回数は瞬発的だ。が、カタログへも誘導する形でシングルを宣伝すれば、シングルヒットのつくった爆発力を他のカタログに広げることができるし、カタログが絡めば、アーティストの注目期間を長期化することもできる。

同時にそれは、Maroon 5のにわかファンをコアファンに変えてゆくプロセスにもなっている。昔だったらアルバムを何枚も買ってもらってようやく出来上がったコア・ファン層を、スムースに拡大することができるわけだ。Maroon 5のスポットの打ち方は、Spotifyの「聴き放題」という特性を活かしたマスマーケティングの王道だろう。

ストリーミング時代の到来で、レコード産業のビジネスモデルは複製権ビジネスからアクセス権ビジネスへ移行し、売上枚数から「再生回数の最大化」へ焦点が移りつつある。メジャーレーベルの一角、ワーナーミュージックは2012年の第二四半期(4〜6月)、デジタルの売上増が物理の売上減を上回ったが、デジタル売上(41.5%)の四分の一(10.4%)がストリーミング売上だった(デジタルと物理の合計ではプラスだったが、ライブ売上の下降が響き、レコードビジネス部門は若干のマイナスだった)。
(※ デジタルと物理の合計ではプラスだったが、ライブ売上の下降が響き、レコードビジネス部門は若干のマイナスだった。

ワーナーは、アメリカ証券取引委員会(SEC)に提出した報告書で「ストリーミング・サービスの継続的な成功により」というフレーズを7回も使っている。Pandora、Spotify、VEVOのことだ。

シングルヒットとカタログの聴き込みを同時に仕掛けられるSpotifyを使えば、レーベルやアーティストにとって、シングル主体のYouTubeだけだった時代と比べて、何倍も稼げるエコシステムになるだろう。

Spotifyは、ラジオ機能の充実で、音楽放送の立ち位置も手に入れた。コミュニケーションを促すSpotifyプラットフォームで、ソーシャルグラフやインタレストグラフを、Spotifyの中で構築できるようにもなった。

Spotifyラジオのスポット広告に加えて、コミュニケーションを促すSoundropのようなアプリにバンドの特設コーナーをおけば、Spotify上で共感を広げてゆくソーシャル・マーケティングも同時に行うことができる。

Spotifyはソーシャル・メディアとしても類のない世界を創り上げつつある。アマゾンのようなものだ、と先に説明したが、この説明はまもなく用を終えるだろう。

現時点では、YouTubeや音楽放送のシングルヒットからSpotifyへ導線を張り、いかにたくさんの曲を長期的に聴き込んでもらう企画を立てるか。それが再生回数、すなわちレコード産業の新しい稼ぎ頭、ストリーミング売上を最大化するポイントとなりそうだ。


著者プロフィール
榎本 幹朗(えのもと・みきろう)

 榎本幹朗

1974年、東京都生まれ。音楽配信の専門家。作家。京都精華大学講師。上智大学英文科中退。在学中からウェブ、映像の制作活動を続ける。2000年に音楽TV局スペースシャワーネットワークの子会社に入社し制作ディレクターに。ライブやフェスの同時送信を毎週手がけ、草創期から音楽ストリーミングの専門家となった。2003年ライブ時代を予見しチケット会社ぴあに移籍後、2005年YouTubeの登場とPandoraの人工知能に衝撃を受け独立。

2012年より『未来は音楽を連れてくる』を連載・刊行している。Spotify、Pandoraをドキュメンタリーとインフォグラフィックの技法を使って詳細に描き、 日本の音楽業界に新しいビジネスモデル、アクセスモデルを提示することになった。 音楽の産業史に詳しく、ラジオの登場でアメリカのレコード産業売上が25分の1になった歴史とインターネット登場時の類似点 や、ソニーやアップルが世界の音楽産業に与えた歴史的影響 を紹介し、経済界にも反響を得た。

寄稿先はYahoo!ニュース、Wired、文藝春秋、プレジデント、NewsPicksなど。取材協力は朝日新聞、Bloomberg、週刊ダイヤモンドなど。ゲスト出演はNHK、テレビ朝日、日本テレビなど。音楽配信、音楽レーベル、オーディオメーカー、広告代理店を顧客に持つコンサルタントとしても活動している 。

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