Spotifyを日本に導入するベストな方法は、VEVOから学ぼう「未来は音楽が連れてくる」連載第21回
▲次世代音楽テレビ、VEVOのトップページ。機能的には「音楽ビデオ専門のYouTube」だがMTVのように特番やインタビューなどスペシャルコンテンツを持っており、視聴者数はYouTube、Yahoo動画に続く3位につけている。VEVOはさらに、メジャーレーベルの音楽ビデオをYouTube、facebook、MTVオンラインなどにシンジゲート(供給)しており、これらの企業はVEVOなしに音楽ビデオを配信できない
Spotifyと交渉する上で気をつけること
さて、Spotifyの章も終わりに近づいてきた。本節では踏み込んで、「日本にSpotifyを導入するとなると、日本側はどう対応していくことになるか」ということについてお話ししてゆく。課題の網羅はすっぱり諦め、筆者の考える最重要ポイントに絞らせていただこう。金額交渉の話だ。
iTunesの登場時、問題になったことがレコードメーカーの価格決定力だ。ダウンロード販売サービスをAppleが寡占したことで、価格と利益分配率の決定力をAppleが寡占した。
再販制度のない欧米では、CDよりiTunesの方がレーベルの実入りがよいケースが多い。だから、ジョブズは話をまとめられた。
Amazon.comを覗いてみればわかるが、欧米ではCDアルバムの値段と、デジタルアルバムの値段はほとんどかわらない。iTunesでは、Appleの取り分が30%とかなり高いが、CDだと小売・問屋・パッケージ代などで50%前後を抜かれる。デジタルと物理で販売価格に差がほぼないなら、Appleの取り分30%はフェアだ(もう少し安い方がいいが)。
が、欧米のロジックを、世界で唯一CDの再販制度が残っている日本にそのまま持って来られても、話が噛み合わなかった。当然ながら日本のコンテンツホルダー側から反発が起こり、国内シェアNo.1のSony MusicがiTunesへ不参加を決める不幸な結果となった。
だが、供給者側のごたごたは決して音楽ファンの目にはよく映らない。コンテンツの王様だった音楽産業は、ネットと携帯電話の登場以降、様々なコンテンツを競合に迎えており、内輪もめによるファンの流出は極力避けたいところだ。
今回、ダウンロード売上から、さらにストリーミング売上への移行が起きつつあるが、前回から教訓を得て対処し、流出した音楽ファンに、競合コンテンツから戻っていただけるよう、誠意をつくす必要があるだろう。民あっての王様ではないだろうか。
さて、Spotifyとの交渉において金額交渉力とは何を指すのだろうか。
ここまで「一回再生する毎に0.32セント」という数字を何度か紹介してきたが、連載第18回で断りをいれたように、その数字は流動的なもので、実際は、広告売上とサブスクリプション売上を再生回数で分割したのち、レベニューシェアしたものだ。
だから、実際の交渉では、
a レベニューシェアの主たる原資となる、『有料会員の月額使用料』
b 広告売上と有料会員売上の『レベニューシェア率』
c 『ミニマムギャランティ』の設定
この3つがポイントとなるだろう。
ここで、「あまり無料のところに人気が集まるとCDや着うたの売上を喰うから、無料の部分をもっと狭められないか」という話をしたい方もいるかと思うが、すでにアメリカ上陸時、レーベルとの交渉の結果、フリーの部分が大幅に制限しており(毎月20時間→10時間、再生回数無制限→毎月5回/曲)、その部分で交渉の余地が日本側に残っていない、つまり交渉材料にならない、と見ておいた方が無難だ。
そもそもフリーの部分を制限しすぎると、Spotifyの最大の強みである「フリーライダー層(ここで指すフリーライダー層は、違法ダウンローダーに加え、「音楽はYouTubeや地上波番組で十分」と考えているライト層も含む)のマネタイズ」が不可能になる。結果、Spotifyが欧州で発揮しだしたCDに勝る集金力を失ってしまう。
毎月のプレミアム会員料をCDアルバム一枚分に設定して、有料会員比率をとにかく「4人に1人」でキープすることが、Spotify流フリーミアム配信の、成功の方程式だ。
言葉を選ばずにいうと、平均ひとりあたりCDアルバム4枚分から8枚分のお金を年間で払っていただける仕組みを創って、「基本無料」をフックに、とにかくそこへライト層を含め大量に人を流し込んでゆく。それが、コンテンツホルダーがSpotifyを使って稼ぐ基本だ。
レコード産業とアーティストを守るために、集金力の高いSpotifyのフリーミアム配信を検討している、という話の始まりを忘れてはなるまい。
では、本題の『a 有料会員の月額使用料』に入ろう。
Spotifyの有料会員には、パソコンでのみ無制限で聴けるアンリミテッド会員と、加えてスマートフォンでも聴けるプレミアム会員の二種類がある。スマフォがフックとなって、プレミアム会員は85%程度と大多数らしいので、こちらに話を絞ろう。
Spotifyのプレミアム会員料は、アメリカでは月額9.99ドル、イギリスでは月額9.99ポンド。iTunesのデジタルアルバムの値段と同額だ。
日本円に直すと月額800円〜1240円ぐらいになる。
ここで日本側は「iTunesは日本で普及してないので、別の相場を基準に交渉したい」と述べ、別のロジックをもち出せばよい。
イギリスやアメリカの月額プレミアム会員料は、
1 米英の『CDアルバムの実売価格』に近く、
2 米英のレコード産業の『年間の一人あたりの売上』の約3分の2に相当する(レコード産業の年間売上:アメリカ人は14ドル/人、イギリス人は14.2ポンド/人 日本人は2,576円/人。IFPI2012のデータで統一した)。
「その結果としての、月額9.99ドル、9.99ポンドと我々は見ています」とやると、プレミアム会員料の価格目標を、1980円/月ぐらいにまで引っ張り上げられる。年間でCDアルバム11枚分だ。
1980円/月をドルベースに直すと24.75ドル/月となり、アメリカの2.5倍ぐらいになる。Spotifyサイドからすれば、高すぎるように見える。が、もともと日本人がレコード産業に使うお金は、ドルベースにすると、一人あたりでアメリカ人の2.3倍、使っている。日本のCDアルバムの平均小売価格は約2,200円(公取委の2008年度調査より)なので、それともかけ離れていない。
なお、1980円/月だと、連載第18回の計算式を使うと楽曲使用料の平均は、1.12円/再生ぐらいになる。欧米の2.5倍ぐらいだ。
次に『レベニューシェア率』だが、ここは全世界で一律でやっているようで、メジャーレーベルとインディーズの差別もない公平な契約のようだ。つまり、交渉余地はあまりない。だからこそ、先の有料会員の月額を上に引っ張るロジックが、交渉時、大事になると筆者は考えている。
日本の定額制配信は1480円/月ぐらいで収めてきていることを考えると、そこまで高くはもっていけないかもしれない。ただ、通常の定額制配信より若干、高い方がレーベルのみなさんが足並みを揃えやすいところはあるかもしれない。
筆者の個人的な感覚を申し上げれば、Spotifyなら1,980円でもよろこんで支払う。逆にSpotifyの磨き込まれたサービスを一度でも体験してしまうと、通常の定額制配信には1,480円でも「ちょっとなあ。Spotifyと違って音悪いし」という気分になる。サービスの完成度、音質ともにSpotifyと開きがあるからだ。
Spotifyはプレミアム会員になると、192〜320kbpsの音質で楽しめる。PCだと128〜255kbpsのiTunesで買うより音質がよい。「パイロットメディア」というごまかしじみた考え方は、Spotifyの設計思想には存在しないのだ。
では、最もヘヴィな議題、3番目のミニマムギャランティ(最低金額保証)に話を進めよう。
着うたの際も、ミニマムギャランティは交渉の目玉だったが、Spotifyのミニマムギャランティは着うた等と異なる部分がある。
ユニヴァーサル・ミュージック・インターナショナルのデジタル部門を率い、Spotifyとの交渉をまとめたロブ・ウェルズ(Rob Wells)がガーディアン紙のインタビューで説明したところによると、Spotifyはレベニューシェアの他に、曲が一回再生される毎にミニマムギャランティを支払っているという。
おそらくこういうことかと思われる。
まず、各社に支払うべきミニマムギャランティの原資がまとめてSpotifyにプールされている。
次に、一回再生される毎の最低補償額を交渉で決定する。
結果、楽曲の再生回数に応じてミニマムギャランティが各レーベルに分配される。
そんなイメージだろう。これに加えて、広告売上とサブスクリプション売上がレベニューシェアされる、という二段構えがSpotifyだ。呉越同舟をなしとげるために、公平を期してこうした仕組みが採用 されたと推測される。
この仕組みはレーベルに、ボーナスと安定収入の両方を提供する仕組みでもある。ミニマムギャランティにあたる、再生あたりの最低補償額のおかげで安定収入が得られる。ヒット曲が出て爆発的に再生されると、レベニューシェアが優先されて、大きなボーナスがゲットできる。(2012年1月21日 レベニューシェアと最低保障額が入れ替わってたので修正)
このふたつにメリットを感じてユニヴァーサルミュージックはSpotifyとパートナーシップを組んだ、と先のロブ・ウェルズはインタビューで答えている。
つまり、Spotifyとミニマムギャランティを交渉する際は、レベニューシェアとは別に、楽曲の再生毎に支払われる最低保障金をどれくらい高めに設定できるか、という交渉になりそうだ。着うたのように年度ごとの契約金もあったのかもしれないが、筆者の情報網には具体的な話は来ていない。
ミニマムギャランティ交渉には、SpotifyがCD売上やダウンロード売上を喰うことへの損失補償の意味合いがあるかもしれない。だがミニマムギャランティの原資のとなる、レベニューシェアにおけるSpotifyの取り分には限りがある。現実には、金額は一定以上に行かない。
だから、筆者なら金額の話だけでは終わらせない。交渉で金額の上限に到達したら、畳みかけるように、SpotifyをフックにCDやDLの売上を増やすアイデアをぶつけると思う。その話は章末(第22回)でしよう。
なお、欧米の記事を読んでいると、ミニマムギャランティの部分はレーベルからアーティストへの分配がいまいち不明だ。更なる情報を待ちたい。
以上、Spotifyと価格交渉する際の、筆者の考える重要点を述べた。これを踏まえた上で、Spotifyに対し価格交渉力を上げるスキームを、VEVOを題材にして、さらに考察しよう。
日本のレコード産業は、VEVOの交渉力からシンジゲーションビジネスを学びとろう
▲VEVOを立ち上げたレコード産業の重鎮、ダグ・モリス。孫がYahoo!動画でDr Dreの音楽ビデオを見ているのを眺めていて閃き、すぐさまGoogleのシュミットCEOに携帯で電話して話をまとめたという。三大メジャーの音楽ビデオを握るVEVOの許諾なくば、YouTubeやFacebook動画も立ちゆかなくなる。
出典:flickr, Some Rights Reserved by Sharon Graphics
「レーベルの価格交渉力」において、ベストプラクティスとして挙げたいのが『次世代音楽テレビ』、VEVOだ。
YouTubeの6割の視聴が音楽ビデオだと繰り返し紹介したが、この音楽ビデオの大半を動画サイトに供給しているのが、ユニヴァーサル、ソニーミュージック、EMIとGoogleの創ったこのVEVOである。
2012年度、VEVOの売上は推定で2億8,000万ドル(約223億4,400万円 2012.7.7 79.8ドル/円)。Pandora Radioと同程度の規模と成長速度を持っている。
VEVOのビジネスモデルはふたつだ。
ひとつは、自前の音楽ビデオ専門サイトVEVO.COMの運営。『次世代音楽テレビ』と呼ばれるのがこれだ。VEVO.COMの視聴者数は、アメリカでYouTube、Yahoo!動画に続く3位だ。4位にはFacebook動画がつけている。
そしてVEVOのもうひとつのビジネスモデルは、音楽ビデオをYouTubeやfacebook、Yahoo!、MTVオンラインなどへ配給すること、すなわちシンジゲーション(コンテンツ供給)・ビジネスだ。
メジャーな動画共有サイトは、どこもVEVOのコンテンツ供給がなければサービスが成り立たない。音楽ビデオは、動画視聴の6割を占める王様だからだ。
VEVOはソニー・ミュージックのCEOダグ・モリスが、ユニヴァーサル・ミュージックのCEOをしていた頃に直々の指揮で立ち上げた。
MTVが登場したとき、音楽ビデオにまつわるビジネスモデルをMTVが全て握ってしまったことを反省してモリスが着想したのが、VEVOというシンジゲーション・ビジネスだ。
MTVの登場時、音楽ビデオは「プロモーションビデオ」だった。一本数百万円の制作費をレーベルが払って作った音楽ビデオを、MTVにプロモーションの一環として差し出す。場合によっては宣伝費を払ってオンエアしてもらう。MTVはそれを使って莫大な広告売上とサブスクリプション売上を稼いだが、レーベルへのバックは映像同期権料ぐらいで、大した額は還ってこなかった。
だが、孫がDr Dreの音楽ビデオをYahoo! Musicで見ている側で、モリスは閃いた。「インターネット動画の時代が来れば、音楽ビデオの使用料を払ってもらう立場に立てる」と。モリスはすぐさまGoogleのシュミットCEOの携帯に電話をかけて話をまとめた、という。
ここで重要なポイントがある。VEVOはメジャーレーベルのジョイントベンチャーだ。GoogleのYouTubeに音楽ビデオを供給するかわりに、Googleからシステム面のサポートを得た。Googleに主導権はない(2012年1月21日修正)。そう、モリスが話をまとめた。Googleにとってメジャーレーベルの代わりはいないが、メジャーレーベルにとってはGoogleのかわりは他にもあったことで引き出せた条件だろう。
「レーベルの取り分が低いなあ。Facebookはもっと払ってくれてるんだけどな。なんなら、YouTubeに音楽ビデオを供給するのを止めてもいいんだけど」
と後々、ちらつかせることが目的だった。そして実際、こうした言葉がモリスの口から漏れる度にニュースになるようになった。
VEVOの事例から学べる戦略はふたつある。
株主になって主導権をとること。そして、シンジゲーション・ビジネスをやることで競合を複数育て、かつ競合をすべて顧客にしてしまうことだ。順を追って解説しよう。
1 Spotifyの株主になること
以下の話は「Spotifyを正しく導入すれば、CDの売上が減ってもレコード産業の売上は上がる」という前提で、忌憚なく申し上げる。まず、自らの手でSpotifyクローンを創り、Spotifyを閉め出すのも手だろうが、おいしくない。
自社サービスが国内の音楽ファンにウケなくなったら、そこでビジネスが終わってしまう。そもそも開始時点に設計をミスって劣化版ができてしまったら、ポンコツ・フリーミアム配信になってしまう。
Spotifyがなぜ儲かるか、その鍵は「有料会員が4人に1人」という圧倒的なコンヴァージョン・レートにある。ポンコツのフリーミアム配信は、既存のCD市場とダウンロード市場を喰ったあげく、iMeemのように倒産するという最悪のシナリオを描くことになるだろう。
自社サービスの不調が直接、国内全体のストリーミング売上の不調につながる事態は本末転倒だ。それならいっそやらないほうがよい。むしろ、Spotifyを使って儲ける立場に、確実に立つ方を選んだ方が堅実だ。
そのためには、四大メジャーレーベルや、欧州インディーズレーベル連合MerlinのようにSpotifyの株主になってしまうことだ。株主比率、キャピタルゲインの小ささ、国外への売上の流出が不満とおっしゃるかもしれない。ならば、Yahoo! Japanのように、日本法人を別途設ける方向に交渉するのも手だ。
だが、株主になるだけでは不十分だ。Spotifyが寡占状態になった場合、事実上、Spotifyに対する価格交渉力を失ってしまうことがひとつ。Spotifyの調子が崩れたとき、そのまま国内のストリーミング売上が不調になってしまうことが理由のふたつめだ。
2 楽曲のシンジゲーションも始めること
そこで同時に打つべき手がこれになる。楽曲のストリーミング配信権を供給するシンジゲーション・ビジネスを同時に立ち上げて、Spotifyクローンを育てるのだ。
まず、シンジゲーションを通してSpotifyのライバルが育てば、Spotifyに対する交渉力が上がる。「気に入らないなら最悪、向こうにだけ出しますよ」と出来るようになる。
次に、エコシステムの観点からもメリットがある。
Myspace Musicなどの教訓を思い出していただきたい。ITの世界から次々と押し寄せてくる革新的なサービスのせいで、もはやレコード産業が自分で設計したサービスが生き残る保証は全くない。そういう時代に我々はいる。
それならば、様々なサービスが育つことで音楽のエコシステムが育っていくほど儲かる立場を選んだ方が合理的だ。
それが、VEVOのようにシンジゲーション・ビジネスを太陽にして、様々な他社サービスを衛星にし、自社サービスはその衛星のひとつとして配置するやり方だ。
シンジゲーションを併設してそこからSpotifyに楽曲を供給する形をとれば、Spotifyクローンが勝とうと、Spotifyが勝とうと、どちらもOKな強い立場に立つことができる。その上で、自社メディアを構える分には問題ない。自社メディアが落ちぶれる日が来ても、別に成長した競合メディアがお客様となって楽曲使用料を運んできてくれるからだ。
「僕はSpotifyの大ファンだよ」
VEVOのCEOを任されたユニヴァーサル・ミュージック出身のリオ・キャラフ(Rio Caraeff)はインタビューにそう答えた。キャラフはもしかしたら、Spotifyにも音楽ビデオを扱ってもらいたいのかもしれない。供給先が増えるほど売上は増えるし、顧客への価格交渉力が上がるからだ。
日本では違法ダウンロード対策に刑罰化を導入したが、売上の回復につながらないことが来年の今頃 (2013年8月)には数字に出ているだろう。その際、世界の動向から見て、日本が次に目指すべき戦略は アクセス権ビジネスの本格化であり、VEVOのようなシンジゲーション・ビジネスだ。
日本のレコード産業がシンジゲーション・ビジネスをやれば、副次的なメリットもある。アジア進出だ。
繰り返しになるが(連載第16回)、アジア主要国は合計で、日本の二倍の経済規模に到達している。それなのにアジアのレコード産業のマーケットが日本の5分の1に満たなかった最大の要因は、複製権に基礎を置く物理売上やダウンロード売上が海賊行為に弱かったためだ。
中国でユニヴァーサル、ソニーミュージック、EMIの合弁企業ワンストップ社がバイドゥに楽曲ストリーミングのシンジゲーション(権利の配給)を始めたように、複製権ではなくアクセス権に基礎を置くストリーミング・ビジネスなら、不毛だったアジアを開拓可能なフロンティアにかえることができる。
連載第18回で、「急成長するストリーミング売上を導入することが、レコード産業の売上回復の鍵」「物理売上のシェアの高い国ほど、売上のマイナス成長トレンドが強い」と申し上げた。つまり、(Spotifyのように儲かる形で)ストリーミング売上を早めに導入しなければ、日本のレコード産業はハードランディングに近づいていく、ということだ。本書は、日本のレコード産業がソフトランディングに近づく一助となることを願って執筆されたものである。
連載第20回では、「Spotifyがなかなか日本に入ってこない理由は四大メジャーレーベルのシェアが日本では小さいからだ」と申し上げた。だが、日本でドメスティックメジャーの比率が高いという事実自体は、悪いことではなく、むしろ素晴らしいことだ。
邦楽8割・洋楽2割という形で日本の音楽文化が花開き、アメリカに並ぶ音楽大国となったのは、ドメスティックメジャーのみなさんの活躍抜きには成しえなかったろう。だが、この時代の節目に限っては、それが裏目に出ている状況だ。
この状況は変わりうるものではないし、本質的には変えるべきものでもないような気もする。だから、この状況を逆に利用する道を考えてみたらいかがだろうか。ドメスティックメジャーのみなさんを含めたオールジャパンで、世界の一歩先に進んでしまうのだ。
「時代の節目でよい機会ですから、いっそ国内外の全部を相手に、オールジャパンでシンジゲーション・ビジネスをやったらいかがでしょう。自動的にSpotify対策にもiTunes対策にもなりますよ」という筆者の提案は、逆境を前向きに利用する一例だと考えていただきたい。
以上、日本にSpotifyを入れるのに筆者がベストと考えている方策を、本音でズバリ申し上げた。一部音楽ファンにはドン引きされてしまったかもしれないが、避けて通れないリアルな課題だとご理解いただければ幸いだ。
著者プロフィール
榎本 幹朗(えのもと・みきろう)
1974年、東京都生まれ。音楽配信の専門家。作家。京都精華大学講師。上智大学英文科中退。在学中からウェブ、映像の制作活動を続ける。2000年に音楽TV局スペースシャワーネットワークの子会社に入社し制作ディレクターに。ライブやフェスの同時送信を毎週手がけ、草創期から音楽ストリーミングの専門家となった。2003年ライブ時代を予見しチケット会社ぴあに移籍後、2005年YouTubeの登場とPandoraの人工知能に衝撃を受け独立。
2012年より『未来は音楽を連れてくる』を連載・刊行している。Spotify、Pandoraをドキュメンタリーとインフォグラフィックの技法を使って詳細に描き、 日本の音楽業界に新しいビジネスモデル、アクセスモデルを提示することになった。 音楽の産業史に詳しく、ラジオの登場でアメリカのレコード産業売上が25分の1になった歴史とインターネット登場時の類似点 や、ソニーやアップルが世界の音楽産業に与えた歴史的影響 を紹介し、経済界にも反響を得た。
寄稿先はYahoo!ニュース、Wired、文藝春秋、プレジデント、NewsPicksなど。取材協力は朝日新聞、Bloomberg、週刊ダイヤモンドなど。ゲスト出演はNHK、テレビ朝日、日本テレビなど。音楽配信、音楽レーベル、オーディオメーカー、広告代理店を顧客に持つコンサルタントとしても活動している 。
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