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連載「未来は音楽が連れてくる」佐久間正英氏 × 榎本幹朗氏 特別対談 【後編】

コラム 未来は音楽が連れてくる

音楽家が音楽を諦める時」が話題を集めた音楽プロデューサー佐久間正英氏と、『未来は音楽が連れてくる』の著者である榎本幹朗氏の対談が実現した。佐久間氏のプロデューサーとしての視点を交え、『未来は音楽が連れてくる』に対する印象や、Pandora・Spotifyの可能性、さらに日本人アーティストが海外で活躍しにくい理由などを語ってもらった。

佐久間 正英(さくま・まさひで) VITAMIN PUBLISHING INC. 代表
1952年3月 東京都文京区生まれ。和光大学在学中にフォーク・グループ「ノアの箱船」を茂木由多加(後に四人囃子等)、山下幸子と結成。1973年にKb.茂木由多加、Dr.宇都宮カズとキーボード・トリオ「MythTouch」結成。四人囃子、安全バンド等と共に”浦和ロックンロール・センター”を拠点として活動。和光大学卒業後、四人囃子にベーシストとして参加。以後作・編曲家、スタジオ・ミュージシャンとしてのインディペンデントな活動を開始。1980年同時期よりCM音楽作曲、アイドル・ポップスの作・編曲、映画音楽等を手掛け始める。1985年以降はBOØWYなど、多数のアーティストをプロデュースする。
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榎本 幹朗(えのもと・みきろう)
1974年 東京都生
上智大学英文科出身。大学在学中から映像、音楽、ウェブのクリエイターとして仕事を開始。2000年、スペースシャワーTVとJ-Wave, FM802、ZIP-FM, North Wave, cross fmが連動した音楽ポータル「ビートリップ」にて、クロスメディア型のライブ・ストリーミング番組などを企画・制作。2003年、ぴあ社に入社。モバイル・メディアのプロデューサーを経て独立。現在は、エンタメ系の新規事業開発やメディア系のコンサルティングを中心に活動中。
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ーー少なくとも私とか、佐久間さんとかの世代は、圧倒的にラジオから新しい音楽を知った。今、その文化が本当になくなりつつある。だから私は、Pandoraの日本版みたいなものがまず一番取っつきやすいんじゃないかと思います。みんなこれだけスマートフォンを持って歩いているわけですから。そこで好きなだけ曲が聴けたらどれだけ聴くのかという。

佐久間:でも今も、インターネットラジオ自体が日本でいくらでも聴けるじゃないですか? 色んなアプリでも聴けますし。でも聴いていないですよね。好きなジャンルをいくらでも聴ける。例えば、ハードロックを聴きたければハードロックをずっと聴いていられるけれど、そんなにみんな聴いていないんだろうなあと感じるんですよ。

榎本:Pandora以前からアメリカにも数百のインターネットラジオがありましたがおっしゃるようにニッチで、Pandoraの登場でようやくブレイクスルーが訪れました。その意味では、Pandoraのパーソナライズド放送と、既存のインターネットの多チャンネル放送は分けて考えた方がよいかと思います。

ただ、別の意味で難しいですね。例えば、Spotifyを使っていると、FacebookやTwitterのようなタイムラインみたいなものが横にあって、Facebookでお友達になっているみなさんが、Spotifyを使っていると出てくるんですよ。そこでずっと聴いている人たちというのが、やっぱり音楽業界の人たちなんですね(笑)。元々音楽大好きで仕事にしちゃうような人ばかりが、聴き放題をプライベートで使い倒しています。それ以外の人って、Spotifyに入っていてもそんなに使わないなという。

結局このまま持ってきても、少数の音楽好きしか聴き放題の世界に入ってこられない状態なので、ブレイクさせるには、相当むずかしいプロデュースになるだろうなあと思います。イギリスもライブシーンと直結した、Last.fmが盛り上がって、その時にSpotifyが来て、それで「Spotifyすごい」となって、それがヨーロッパに広がりました。つまり、土壌に日常的なライブのカルチャーがあったから、Last.fmやSpotifyのようなソーシャル・ミュージックがそこで育ったという側面が否めないのです。

佐久間:アメリカも元々ラジオをよく聴いていますものね。FMがあれだけ発達したのもそれが要因としてありますよね。

榎本:実はレコード産業よりもラジオ産業の方が世界では大きいんです。アメリカに至ってはレコード産業の4倍もある(連載第24回)。日本じゃ半分以下ですけど(笑)。ですから、恐らく音楽放送を日常的に長時間楽しむという文化からもう一度リスナーのみなさんと作っていくことになるんじゃないかと。だから、僕は「救世主が来てバラ色の未来がいきなり拓けるという風にはいかない」と初めから思っているのです。

ーーなるほど。それではどうしたら良いですかね?

榎本:結局、それぞれの立ち位置の人が、自分の現場仕事だけじゃなくて、音楽文化全体のことを考えたアクションを積み重ねていくしかないんじゃないかと。僕が日本の中で与えられた役割としては、決定的な音楽メディアを何とか作っていくために、まずはこうして日本全体に、音楽メディアの革新をプレゼンすることですね。

ーークオリティとしてPandoraと同じものが日本で始まっても、アメリカほどうまくいかないということですか?

榎本:ラジオ文化という側面から考えても、アメリカより難航すると思います。実は日本でも、Pandora的なサービスは、様々な会社が水面下でいま推し進めているところです。そして担当のみなさん、同じ壁に当たっています。Pandoraに負けないレコメーンデーション、レーベルとの著作隣接権の交渉、そして、サービスを喜んでいただける音楽文化がはたして今あるのか、という三つの壁です。

佐久間:もちろん(PandoraやSpotifyが来て)喜ぶ人も少なくないでしょうが、そういう人は、音楽を一所懸命探してでも聴くようなタイプが多いんじゃないでしょうか。

榎本:そういう方々をもっと増やすのに、やはり文化というところを避けて通れません。例えばライブシーンだったら、大阪にMINAMI WHEELという素晴らしいショーケース・ライブ・イベントがありますよね。東京だとあれにあたるものというのがまだありません。

ああいう感じの大規模なショーケース・ライブというのを東京でも根付かせて、そこから日常的にライブへ行くようなカルチャーを作っていくとか、そういうところから今、全部やっていかないと(笑)。

ーーそれは途方もない話ですね(笑)。

佐久間:今までお話を聞いていると、現状の日本で手っ取り早くと言いますか、上手くいく可能性があるのは、先ほどのLast.fm方式で始めて、そこからスターを生むことですよね。そういったことをいくつか続けて、みんなが注目すれば、ちょっとは変わるかもしれない。

榎本:そうですね、特にバンドものがなかなか出てこられない状況になっちゃっていますからね。Last.fmは、最初インディーズを説得して音源を集めたんですよ。最初はふつうに、インディーズのインターネットの放送局と、インディーズの音源を売るサイトを作ったんです。当然ながら、佐久間さんが仰っているように、聴かれなかったんですよ(笑)。それじゃ何を聴いていいか分からないから。

佐久間:はい。

榎本:それをどうやってみんなが聴いてくれる形にするかというので、先ほどのLast.fmみたいなものを考えたんです。リスナーみんながオススメをしていくと出来上がっていく、みんながDJの、本当の意味でのソーシャルラジオをつくったんです。Pandoraと同じシード・ソング機能をメインに置き、かつPandoraにない音楽SNSを備えていました。Last.fmがきっかけでカップルが誕生するくらい元気な。それをもってLast.fmのマーティン・スティクセルたちはロンドンにいるインディーズレーベルのみなさんを説得していったんですね。

そもそもイギリスの場合インディーズって、日本のインディーズと全く意味が違います。アデルとかUnderworldとかがインディーズに入っちゃうくらいですから。インディーズは全体の25%くらいなんですが、Last.fmが幸運だったのは、「まずはインディーズから賛同を募る」というのがロンドンの場合、すばらしいコンテンツに直結していたことです。その25%には、本当に素晴らしいアーティストがたくさん入っていたから、最初にメジャーレーベルにご協力いただかなくても、上手くいったという。でもそれってそのまま日本でやるのは不可能なんですよ。ロンドンに活発なライブシーンと直結したインディーズシーンが育っていたから出来たことです。

佐久間:まあ、難しいですね。

榎本:じゃあどうすればいいか、という話にやはりなるんですが。デビューするかしないかくらいで、メジャーレーベルでも確保されている、接触されている方々って一定数、いらっしゃると思います。SMAのみなさんとか。そういった方々にパーソナライズド放送という、宣伝費のかからないメディア露出の機会を与え、注目ランキングで駆け上がって来た方々に、資金投入してゆく。EMIがArctic Monkeysでやった方式ですね。それで成功例を出していきましょうということで賛同を得ていけば、日本でも、Last.fm的な新しいA&Rの仕組みが現実味を帯びるのではないかと思っています。

佐久間:ただ、メジャーが働きかけているバンドを引っ張ってくるって現実にはできないと思うんですね。でも、そういう子たちの行き場はどんどんなくなっているから、そういう子たちをうまく見つけてきて始めたら、何かありそうですね。あとはそのサイトの認知度をどうやって上げるかですかね。

しかもその収益還元システムが明確で、インディーズの子が「あそこに関わっていると俺たち良いことあるな」って思い、あるいはその本人たちもそれを応援したい気持ちになる。日本って、人が動くのは結局そういう心情論じゃないですか(笑)。

榎本:そうですね。例えばPandora、あるいはSpotifyって、人が集まってきて「これ良いよ」ってオススメする感じじゃないんですよ。プロ集団の創ったレコメンデーションでおすすめする感じです。それはそれで革命的なのですが、ヒットを創っていくという観点から見ると、その仕組みはそんなに向いていないところがあります。Last.fmやMySpaceのようにみんなで盛り上げて言っている感が、感じられる機能を持っている音楽メディアが、ヒットの創出には向いているのです。

最近ダメになっちゃっいましたが、MySpaceってもともとインディーズ音楽用のSNSで、そこにR.E.M.がおもしろがって入ってきたら、メディアとしてドーンとブレイクしました(連載第4回)。それからアウル・シティーが、自寝室で作った曲をMySpaceに載せたら、みんながものすごくオススメしてくれて、メジャーデビューして、ミリオンセールスしたという流れがありました。やっぱりみんなで作っているような感じがあったから盛り上がったんですよ。だからMySpaceの崩壊は残念に思っています。

佐久間:私自身も実際にMySpaceでやってみて、一番の敗因だったのが、ミュージシャンがミュージシャンに対して売るしかなくなっていっちゃったということなんですよ。だから、何々出した、聴いてくださいというのは毎日怒濤のようにメールが入ってきて(笑)、「ミュージシャンがミュージシャンに売り込むな」みたいな状態になってしまって(笑)。

榎本:替わりに出てきた音声共有のSoundCloudもそんな感じになってきましたね。ミュージシャンだけが集まってしまった感が出て、音楽をみんなに紹介するメディアとしては苦しくなってきました。

逆にYouTubeなんかは、音楽好きが集まっているわけじゃないので、上げても「これ良いね」というのが逆に起こりにくい。音よりも、映像のインパクトが最優先するメディアになっています。MTVよりももっと極端に。

先ほどのLast.fmみたいなラジオだと、音楽ファンをかなり広く取り込めるというか、録音物を買って聴かない多数派の方も、音楽ファンとして参加してもらえる上に、みんなで作っている感じを通して、録音物を繰り返し聴くメインユーザー層になっていただける、という流れが作りやすかったんだけどなと思ってます。

佐久間:あともう1つは、日本の場合、現実は、出せるところがあったとして、聴かせる録音物をどうやって作るかっていう動きですね。誰もお金を持ってなくて(笑)、3万円のスタジオすら押さえられないと。押さえられても1日だね、みたいな。じゃあ1日で10曲録るか、みたいな子たちがいいものを出せるわけがなくて(笑)。私の書いたブログじゃないですが、今まではメジャーがいて、お金出して、お金かけてアーティストを育てられたけど、そうじゃなくても良い物を作って、良いアーティストを育てていかなきゃいけないと。それがネットだけでできるかというとできないだろうし、スポンサーを集める、あるいは投資システムというのは日本じゃ無理だというのは見えているんですよ。

ーーつまり、育成するシステムがない。

佐久間:そうなんですよね。それを誰がどうやるかということなんです。音を聴いたとき、みんなが「良い」「良いじゃん」と思える音を本当にどうやって作るか。ただアコギ一本で弾いて「ああ良い曲だね」というんじゃなくて、メジャーのものを聴いている人が普通に聴けるものであるべきで、インディーズだから音悪くていいやといったチャンネルでは駄目だと思うんですよね。

私はある意味自腹を切って、インディーズでも良い状態のものを作るというやり方でやっていますし、お金にならなくても良いのを作って売っていくしかないと言っているんですね。でも、そうやっていると良いアーティストって結構いてね、ちゃんと良くなるアーティストっていうのが。それに手をかけてあげなければ、多分この子たちはそのまんま良くはならないと思うんですよね。

榎本:そのまま埋もれちゃう。

ーーそうですよ。生活もありますし。

佐久間:そう。いつか体力がなくなって辞めちゃう。

ーー29歳の壁ですね。

佐久間:最近は長いですね。最近はしぶとくなってきていて、それはそれで痛いんですけどね。出すシステム、作るシステム、両方ともお金がかかることだから。それでお金がないからみんなライブをやるしかなくなる。

佐久間正英氏 × 榎本幹朗氏 特別対談

榎本:ライブと音楽ソフトの売上を合わせた金額というのをグラフ化してみたんですよ。確かにこうやって見るとライブが上がってきて、音楽ソフトを足すと何か上がっているように見えるんですが、利益率を言うと、音楽ソフトとライブだと全然違いますよね。

佐久間:そうですね。

榎本:それはエイベックスの利益率を使ってですね(笑)、公開しているのがエイベックスさんしかいないんで。ライブ事業の利益率が10.7%、パッケージ・ダウンロード事業の利益率が40.3%です(2012年3月期 連結業績説明資料を基に計算)。これを割り当てて、日本の音楽産業の営業利益をシミュレーションしたらとこうなったんですよ(笑)。

佐久間正英氏 × 榎本幹朗氏 特別対談

ライブの利益っていうのはこんなちょっとしかなくて、ほとんど何も変わってない。ずっと前から言われてますけど、「ライブだけで食っていければ良いじゃん」という風に、ここを消してしまったらどうなるかっていったら、こんなに(笑)。

佐久間正英氏 × 榎本幹朗氏 特別対談

榎本:「これ中国ですか?」って感じなんですけど(笑)。

ーーライブで食えるのはプロモーターだけで。

榎本:どこでどう変わったかは分からないんですが、僕たちの世代(団塊Jr.)までは録音物というのを1つの芸術の形式というか、そういうものとして楽しんできた文化がありました。極端から極端へブレるのが世間なので「CDがダメならライブだ!」と騒がれてますけど、元ぴあにいた人間がいうのも何ですが、「録音は録音で素晴らしい世界がある」というのがどこで途切れちゃったのかなと(笑)。

その原因のひとつには、よく言われていることですが、音だけどんどん劣化する方向にテクノロジーが進んでしまっている。そうしたらやはり録音文化というのが…

佐久間:終わってきてますよ。録音だけじゃなくて、それは曲のアレンジも演奏もすべてにおいて日本はもの凄い劣化してますよね。

榎本:こういうことを言うと大体、「歳をとったからだろう」と言われますし、1日2時間ぐらい音楽を聴いてますが、悲しいことに個人的に邦楽を聴く比率がどんどん落ちています。英米は売上落ちてますけど、新しい素晴らしいアルバムはどんどん出てきています。日本のサウンドレコーディングの文化なんですけど、やばくなったのって、2008年あたりだったかなあ…。そんなに遠い過去ではないですよね。

佐久間:そのくらいのタームですね。一気に劣化しましたね。

榎本:落ちましたよね。ですから2005〜2006年のあたりまで一緒に音楽メディアを作っていた人間に会っても「最近つまんない」って。で、僕が「そうですか?サカナクションとかすごくいいと思いますけど」と意地悪に反論すると、「あ!サカナクションはいいねぇ。でも玉数がホント減ったよ」と。そこで僕も「そうですよね」と(笑)。

佐久間:だからそれでレコードが売れるわけないんですよね。その中で聴けば、明らかにジャニーズはいつでも音が良いんですよ(笑)。

ーーそれはやはりお金がかかっているからですか?

佐久間:そうです。そしてAKB48も明らかにアイドルの中で音が良い方(笑)。アーティストだって徹底的に鍛えてやっているわけで。

榎本:売れてる子たちには一流の作家、一流のエンジニア、プレイヤー、アレンジャー、そして一流のサウンドプロデューサーがつき、一流のレコーディングスタジオで録音しますよね。そういう風に手間暇をかけてようやく伝わっていく文化があります。売り手の文化、買い手の文化だけで語れない、作り手の文化ですね。手間暇というのが、一部の人たちが馬鹿にする「お金」なんで…。文化史を学べば、結局は金が余ったところに文化が育っています。たぶん余計な手間暇が文化を創るという本質は、デジタル化が進んでも変わらないと思いますよ。

佐久間:そうですね。ものづくりなんだからね、良い材料で、良い職人がやって初めて良いものができる。

榎本:幸いというか、Spotifyにしても、Pandoraにしても、例えばSpotifyって、ビットストリームに表すと、320kbpsなんですよ。かつ、mp3より音質のいいOgg Vorbisというコーデックを使っていて、320kbps以上の出音は、CDほどいかないんですけど相当良いです。

佐久間正英氏 × 榎本幹朗氏 特別対談

個人的に「繰り返し聴ける音質は、320kbpsくらいから」と思ってるんですが、Pandoraも有料会員(3ドル/月)は192kbps(無料会員は128kbps)で、コーデックはMusic Unlimitedと同じHD-AACを使っています。これがかなり良い音で、ダウンロードよりもストリーミングの方が今、世界的には実は音が良くなり続けて、逆の流れになっちゃったという(笑)。これがもうちょっと進むと、ストリーミングでそんなに音が良かったらダウンロードは売れなくなりますね。そうしたら佐久間さんが仰っているようにDSDみたいな…。

佐久間:(DSDを)ストリーミングできるのが一番。

榎本:そこまで技術が発達するまでは、取り敢えずダウンロードを、ストリーミングに負けないようにDSDにするとか。確かiTunesがもうちょっとしたらハイクオリティな音のサービスを出してくるんですよ。それはすごく良い傾向だなと思っていて、そうするとその後はパッケージどうするかということになるんですけど(笑)。パッケージも一応、SACDって、何かもう死んだかなと思ってたら若干盛り返してきたところがあるみたいなんですよ。

佐久間:あ、そうなんですか。まだ作っているんだ(笑)。でも、それは大事なところです。

榎本:ようやく流れが変わってきたと感じています。若者でも高級ヘッドフォンがすごく流行ってますよね。アメリカだとBeats by Dreっていうドクター・ドレーが作った高級ヘッドフォンメーカーがあるんですが、経営的に絶好調です。日本でも結構入ってきていて、それこそ2ちゃんねるとかで高級ヘッドフォンスレが盛り上がっているんですよ。

佐久間:私、ソニーのヘッドフォンアンプの新製品、それの試聴をしてくださいと電話がきて、そうしたらソニーってヘッドフォンアンプを作ったのが初めてなんですってね。しかもiPhoneとかと直接繋げられるようになっているんだけど、4万いくらするらしい。

ーー高い…。

佐久間:その値段聞くと「無理じゃないですか」って言っちゃったんですけど、でも流れとしては実はその良い音が聴きたいというのが復活してきているっぽいですね。

榎本:そうですね。

ーー流行ってますよね。若い人たちが確かに3万、4万のを買ってますよ。なんでヘッドフォンなんだろうとは思いますけど(笑)。

佐久間:でも今、オーディオの前で椅子に座って聴く文化ってなくなっちゃったから。

ーーない…ですよね。

佐久間:オーディオマニアしかいないですよね(笑)。

榎本:住環境もありますし。今の若年層はマナーのいい世代ですし。

ーー実際にSpotifyとかが日本に進出しようと水面下で動いてはいるんです。でもやっぱり大手レーベルがノーだったり、そういう技術的な問題とか以前に、なかなか進まない。

榎本:その大手レーベルさんは、Pandoraには好意的とも聞いています。逆にSpotify推進派の会社がPandoraのことは嫌いだったりと、交渉している方々は大変ですよ(笑)。

それと「音楽産業の危機」ということで、売上の数字ばかりが取り沙汰されてますけど、メジャーレーベルが潰れることは絶対にないです。積み上げたカタログ資産がありますから、潰れそうになっても経営的にはどこかで盛り返せます。だけど、音楽文化の方は別です。作り手、聴き手の文化が廃れて断絶が起こってしまったら、復興に何年かかるかわかりません。

先ほどの図で説明しましたが、10代〜20代が、15年前と比べてもう半分が音楽離れを起こしています。このトレンドが続く中で、この層がどんどん30〜40代へスライドしていくと、いずれ終わりますね。

佐久間:これが30代でまた一気に落ちるわけですね。そうしたらほぼゼロですね。

榎本:そんなに時間が残っていないと思うんですよ。

ーー少子高齢化の少子がさらに聴かなくなるわけでしょう? そもそも人が少なくなっていくのに。

佐久間:でも、更に恐いのがみんな音楽聴かないのに、音楽ファンだということです。例えば『けいおん!』がすごい流行っちゃったりとか。でも音楽聴かないわけですよね(笑)。聴く文化がないのにやりたがる子は多いというところ。もちろんやるのは楽しいけど聴かないのは問題があると思います。

ーーというか、何でもうちょっと日常に音楽を溢れさせようとしないのかなあというのは業界も考えなくてはいけないところだと思います。

佐久間:日常から離れたものとして楽しむんじゃないですかね。例えば、週末のゴルフとか、月1回のゴルフみたいな形。月1回音楽やって楽しいけど、他の日はいらないという(笑)。

榎本:フェスがこんなにも行かれているのはそうですよね。非日常を感じるために行っている。

ーー日常に音楽があるのは邪魔だっていうことですか?

佐久間:もしかすると音楽って非日常になりつつあるのかもしれない。今まで考えたことなかったけれど(笑)。

ーー非日常だからライブはまだそこそこウケていると。

佐久間:そうですね。非日常の楽しみのためにみんな高いお金払って行きますもんね。まあライブハウスはまた違いますけど。

ーーまあでもやっぱりそれは見たくなるようなアーティストが、どうして見たくなるかというと、それはそのアーティストの音楽をいっぱい聴いたからですよね? 知らないアーティストの音楽をわざわざライブへ見に行くわけがない。ということは、ビッグアーティストはともかくとして、新しい人がライブやるチャンスもどんどん減っていくっていうことですよね。

佐久間:そういうことになりますね。だから友だちを呼ぶしかない。

ーー劇を見に来てる人は、演劇をやっている人でもあって、お互いに見に行って終わっているみたいな。

佐久間:例えば今、東京のバンドが地方でワンマンやるためにそこまで持っていく努力、それまでのツアー回数、年数、すごいですよ。すごい長いことさんざんやってやっと地方でワンマン。それもちっちゃいライブハウスでね。

佐久間正英

ーーせいぜい200人とかですか。

佐久間:せいぜい200人、100人とかね。

榎本:あと、先進国全体に言えることなんですが、昔は20代っておこずかい、可処分所得を持っていたんですね。家賃も子育て代も出す必要がなかったから。そこが音楽産業のお得意で、そこへ向けてスポンサーもつけられて、バッチリだった。だけど、今進んでいるグローバリゼーションって、結局は先進国の若者から新興国の若者への所得移転なんですよ(笑)。あとは極一部の人たちがお金が集まるという仕組みです。

このグローバリゼーションの圧力は、今後もずっと日本にかかってくる訳です。すると20代のところだけ考えていてもだめだし、人口縮小がありますから、30代の卒業もなんとかする必要があるし、あと40代以降も音楽ファンをキープしてもらえるように考えなくてはいけないし。そもそも10代で音楽ファンを創れなかったら、彼らが40代になったとき「エルダリー」なんてぶつけても何も起こりません。現場のみなさんが売上のキープで精一杯なのは、すごく分かるんですが、今現在の日本市場だけを考えていると、現在の文化すらキープできなくなる。遠からずそれが、現実になります。

だから、僕も何度も書いてますが、ストリーミングを上手く使って、アジア市場に日本の音楽を認知できような仕組みがあった方が良いと思います。アジアのインターネット放送でJ-Popを使ってもらえるような法的なインフラ作りですね。

ただし、現実問題、今、もうそのアジアの音楽放送の中で、J-Popの比率って10年前と比べかなり下がっていますね。当時はスペシャから香港などへ番組供給してましたが、今は韓国のMnetがアジアの音楽番組の中心になってます。

佐久間:全然相手にされていないんですよ。私も調べたり人から聞いたりしましたけど、もう日本の持ってこうとしても始めから相手にされない。要らないって言われる(笑)。

榎本:それこそGLAYとかL’Arc-en-Cielの後が続いていない。

佐久間:そうですね。

榎本:今、クールジャパンで色々喋られてますけど、実際に主力になる音楽で、一番強いものって言ったら、やっぱり本来はJ-Rockだと思うんですよ。今、サブカルチャーって色んな物が伝わってます。それはそれですばらしいことです。だけど、「大規模なライブツアーを向こうでも開いていけるもの、日本の最高品質を持って行けるのはJ-Rockだ」という確信は、自分も放送メディアの片隅にいたときからずっと思っているんです。

佐久間:私もそれは思っています。アジアだけに行った場合でも、彼らに一番できないのはロックだけなんですよね。明らかに。

榎本:K-PopもC-Popも、バンドやシンガーソングライターはちゃんとやれてない。できてるのは、日本だけです。

佐久間:韓国のバンドも頑張ってはきているけれど、やっぱりまだまだ。だからそう思うと本当にロックを出していくのは一番良いとは思うんですが、たまたまここ数日、本当につい最近なんですが、ちょっと色々考えていて、日本のロックは何でこう特殊なドメスティックなものになったんだろうと。

それで、ふと思い当たったのは、これはヤンキー文化の流れだということでした。これに気付いて、ニューロックの流れと、ヤンキーはカミナリ族からの流れが、とてもシンクロしていて、BOOWYもそうですよね。BOOWYが群馬のバンドだったというのは確かにかなり象徴的なヤンキー文化であって、ヤンキー文化っていうのはこれは残念なから諸外国には出しようがない(笑)。一番出せないものなんじゃないかなと思うんです。

ーー理解して貰いにくい。

佐久間:そう。私たちの時代のロックというのは、確かに反体制であったりするんだけれど、今の日本のロックになってからは反体制でもなんでもなくて、パンクでも大人は嫌いとか文句は言うけど、欧米のパンクとは全く意味が違って、実はあれは暴走族的な意味でのパンクであって。

ーー矢沢さんなどもそのくくりに入るのですか?

佐久間:矢沢はまだモダンで外国に憧れてやっているんだけれど、その受け取られ方がそうなったというだけではあると思うんですけど。

ーー横浜銀蝿ですか(笑)。

佐久間:そう、横浜銀蝿(笑)。そこから流れて氣志團とかね。BOOWYから始まったヴィジュアル系の流れもそう。日本のパンクのアナーキーとか、最初はナイフで漢字で書いてましたものね。それで特攻服で。アナーキーから始まった日本のパンクの系譜。マキシマムザホルモンとかもいわゆるヒップホップヤンキーですよね。

ーーなるほど(笑)。

佐久間:それで私はヤンキーの系譜をずっと調べていたんですけど、そうすると今のヤンキーって格好も含めてオラオラ系っていうらしいんですけど、それが何かというとEXILEの格好なんですね。

ーーはい。あれが現代のヤンキーですよね。

佐久間:私はそのヤンキーバンドを長年プロデュースしてきていて、この日本から持ち出せない感じは一体なんだろうってずっと思っていたら実はそれが…

ーーヤンキーの要素がはいっているから。

佐久間:アジアに出すのも案外難しい。

ーーなるほど。

榎本:うーん、なるほど。都心で育った弱点というか、自分には盲点でした。

佐久間:GLAYとかL’Arc-en-Cielとかソフィスティケイトされたものはもちろん良いんですけど。その根深いところはあんまり多分難しい。だから出せるとしたらくるりみたいなものとか、全く別の文脈かもしれません。くるりとかは中国で受けていたりとかしていますけれども。そういう日本のロックシーンの上澄み(笑)的なところしか、出しにくいんだろうなあと。

ーー昔、聞いたことがある説なのですが、基本的に地方にはヤンキーとガリ勉しかいないというんですよ。比率の根拠はわかりませんが、ヤンキーが8割で、ガリ勉が1割。残りの1割はオタクみたいな。だからそのヤンキーが理解できないと…

佐久間:日本の文化を実は理解できない。私が今、茨城に住んでいるんですけど、茨城へ移って6年くらいかな?それで初めてヤンキー文化を目の当たりにして、これは一体なんなんだろうとずっと疑問だったんですよ。なんで若者はみんなヤンキーになっちゃうんだろうと。確かにヤンキーとガリ勉タイプしかいなくて(笑)、ほとんどはヤンキーなんですね。それで、これは一体なんなんだろうなあとずっと思ってて…

ーー家の近所にヤンキーが生息しているということですか?

佐久間:ああ、もうヤンキーしかいないですよ。

ーーヤンキーしか…。

佐久間:ヤンママは大体、元ヤンキーですよね。極端に言わなければ、現実的にウチの娘が幼稚園なもんで、幼稚園仲間のお母さんたちは多分、3分の1〜4分の1は元ヤンキーですね。凄いのは、ヤンキーというのは言ってしまえば高校中退とかで、ホワイトカラーは少ないじゃないですか。そうすると田舎にいてももちろん、肉体労働か職人的な仕事に就く人が多いんだけれど、仕事に就いてもヤンキーはヤンキーのままで、トップになりたい、みたいなものすごい願望がある。そうすると10代で働き始めて20代前半で普通のサラリーマンの何倍も稼げるようになっている。だからウチの近所なんかは20〜30代前半くらいまでに、大体みんな家を建てちゃう。持ち家。

それで不思議に思っていて、ここ数日真面目に考えてみて、ああそういうことなんだなあと思って。それで私は日本のロックを自分で見ることにしているけれど、言ってしまえばずっと違和感を持っていて(笑)。これのせいなんだと思って(笑)。

ーー(笑)。ということは、日本のロックはヤンキーロックだから海外で評価されにくい?

佐久間:そうじゃないかなという分析が突然できてしまって。

ーーゾッとする分析ですね。あまり嬉しくないですね(笑)。

佐久間:私はBOOWY以降、ずっと感じてました。BOOWYでブレイクしちゃったから。それは日本のせいじゃないなというのをずっと感じていて。

ーーまさにDNAの中で。

佐久間:もちろん、そうじゃない素晴らしいものは出せるんだけど。メインストリームはヤンキー。Xとかもスタート時の格好から何から完全にヤンキーじゃないですか。

ーーヤンキーっぽくないのは、桑田さんとか、達郎さん、ユーミン…

佐久間:そうそうそう。その辺というのは私の世代じゃないですか。年寄りですよね(笑)。それがヤンキーじゃないんだけど。

榎本:でもまあ、海外に出る感じというと、仰るように上澄みの方になっちゃいますね。

佐久間:そうですよね。そういうきれいどころは出せる。

ーーきれいどころ(笑)。

佐久間:きれいどころと言ったら悪いけれど(笑)。

ーー確かに海外の飛行場とかでヤンキーファッションそのままジャージ上下でいる一家とかね、やっぱりいますよね。ヤンキーなんだろうなとは思うけど、外国人はみんな一種異様な目で見てますよね。何なんだか分からないんだろうなあ、一言で言うと田舎くさいってことですかね?

佐久間:言ってしまえばそうなんですよね。

ーーエイベックスはついこの前ヤンキーアイドルオーディションってやっていましたよ。浜崎あゆみ〜倖田來未の系譜を辿るということなんでしょうけど。

佐久間:確かに、ヤンキーの感覚がある子の方が多分その自意識が強いんですよね。

ーー根性あるし。頑張るし。

佐久間:はい。成功しやすい。縦社会に慣れているから、ガンガン言われても平気だし、自分もガンガン下から言うし。なかなか、話が暗くなったんですけど(笑)。

ーー一同:(笑)。

佐久間:こういう問題と、さらに根深いところに。

ーー(笑)。音楽自体の問題として。

佐久間:USTREAMとかそういうのに、出る杭は打たれるじゃないけれど、出る杭はなくなるっていう状況(笑)。

ーーそれでは、日本の音楽はますますドメスティックなところに潜り込んでいきそうですか?

佐久間:多くはそうなってしまいそうだけど、それじゃ困っちゃうんでどうにかしなきゃいけない感じで。

ーーわかりました。どうまとめたらいいのかな?この話は(笑)。

佐久間:暗い話で(笑)。

ーー難しいということか。

佐久間:せっかくこんなに明るい未来がね、方やあるのに。

ーー洋楽だけでもやりたいですね。

榎本:輸出の方も僕は希望を捨ててません。インドネシアとか、親日度も非常に高く、かつミリオンがあるほど音楽が育っている国もあります。そうした国の音楽産業としっかり連携を取っていければ、アジアというのもそれなりの市場規模を持ちうると思います。Orange Pekoeや平井堅さんをやっているサウンドプロデューサーのURUさんが、「今インドネシアでしかけようとしてる」と話してて、「実行に移しちゃう人もいるんだな」と。

あと、日本のコンテンツ産業でも優等生のゲーム産業に、音楽産業はもっと学んでゆくべきです。今、まともに輸出が出来ているコンテンツ産業はゲームだけなので。アニメやマンガは売り切りになってて、人気の割に外貨を稼げてません。一方、ゲーム産業がうまくやっている秘訣は二点あって、元々その海外ユーザーをマーケティングして、それに合わせて制作しているということがひとつめ。ふたつめはプラットフォームを世界で構築していることです。

K-Popが進出先の日本のマーケットに徹底的に合わせて制作して来たことが、よくいわれますが、アジア史上に日本の音楽を輸出したいなら、ターゲット先の国と密に制作することと、あとは何らかのプラットフォームを自分らでも創ることです。そのプラットフォームは、SpotifyやPandoraのようなサービスということも考えられますが、SoundExchangeのような法的なプラットフォームを国際的にしたものを日本が創ることも考えられます。

他にもいろいろ課題がありますが、みんなでそこまで考えてアジアにプロデュースしていかないと、難しいんじゃないかなと。

佐久間:そういう風にちゃんとやる力を誰も持っていないからね。

榎本:本当に技術的なところもそうなんですけど、アジアの耳まで考えられるサウンド・プロデューサーさんがやっぱり、これから色々と出てこないと…

佐久間:プロデューサーはいると思うんですけど、ここに(笑)。

榎本:失礼しました(笑)。

佐久間:そのプロデューサーにお金を出す人間がいないっていう(笑)。

ーーそれは減ってますか(笑)。

佐久間:明らかに。だってみんな出せないから。

ーーそれは激減と言っていいレベルですか?

佐久間:激減ですね。

著者プロフィール
榎本 幹朗(えのもと・みきろう)

 榎本幹朗

1974年、東京都生まれ。音楽配信の専門家。作家。京都精華大学講師。上智大学英文科中退。在学中からウェブ、映像の制作活動を続ける。2000年に音楽TV局スペースシャワーネットワークの子会社に入社し制作ディレクターに。ライブやフェスの同時送信を毎週手がけ、草創期から音楽ストリーミングの専門家となった。2003年ライブ時代を予見しチケット会社ぴあに移籍後、2005年YouTubeの登場とPandoraの人工知能に衝撃を受け独立。

2012年より『未来は音楽を連れてくる』を連載・刊行している。Spotify、Pandoraをドキュメンタリーとインフォグラフィックの技法を使って詳細に描き、 日本の音楽業界に新しいビジネスモデル、アクセスモデルを提示することになった。 音楽の産業史に詳しく、ラジオの登場でアメリカのレコード産業売上が25分の1になった歴史とインターネット登場時の類似点 や、ソニーやアップルが世界の音楽産業に与えた歴史的影響 を紹介し、経済界にも反響を得た。

寄稿先はYahoo!ニュース、Wired、文藝春秋、プレジデント、NewsPicksなど。取材協力は朝日新聞、Bloomberg、週刊ダイヤモンドなど。ゲスト出演はNHK、テレビ朝日、日本テレビなど。音楽配信、音楽レーベル、オーディオメーカー、広告代理店を顧客に持つコンサルタントとしても活動している 。

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