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連載「未来は音楽が連れてくる」佐久間正英氏 × 榎本幹朗氏 特別対談 第二弾 【前編】

コラム 未来は音楽が連れてくる

佐久間 正英
佐久間 正英(さくま・まさひで)
 VITAMIN PUBLISHING INC. 代表
1952年3月 東京都文京区生まれ。和光大学在学中にフォーク・グループ「ノアの箱船」を茂木由多加(後に四人囃子等)、山下幸子と結成。1973年にKb.茂木由多加、Dr.宇都宮カズとキーボード・トリオ「MythTouch」結成。四人囃子、安全バンド等と共に”浦和ロックンロール・センター”を拠点として活動。和光大学卒業後、四人囃子にベーシストとして参加。以後作・編曲家、スタジオ・ミュージシャンとしてのインディペンデントな活動を開始。1980年同時期よりCM音楽作曲、アイドル・ポップスの作・編曲、映画音楽等を手掛け始める。1985年以降はBOØWYなど、多数のアーティストをプロデュースする。
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榎本 幹朗
榎本 幹朗(えのもと・みきろう)
1974年 東京都生
上智大学英文科出身。大学在学中から映像、音楽、ウェブのクリエイターとして仕事を開始。2000年、スペースシャワーTVとJ-Wave, FM802、ZIP-FM, North Wave, cross fmが連動した音楽ポータル「ビートリップ」にて、クロスメディア型のライブ・ストリーミング番組などを企画・制作。2003年、ぴあ社に入社。モバイル・メディアのプロデューサーを経て独立。現在は、エンタメ系の新規事業開発やメディア系のコンサルティングを中心に活動中。
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ーー前回の対談は時間切れになってしまって、今回はその続きということで、では、今後どうしたらいいのかを佐久間さんにお伺いできればと思っています。

榎本:前回に出たテーマに、「モノ作りとお金」というテーマがありました。作品は手間暇をかけてこそ、限界突破を迎えるのは、音楽に限ったことでないと思います。たとえば、音楽ビデオ。日本で最も利用されている音楽サービスがYouTubeとなり、音楽ビデオのクォリティはますます重要になっています。

僕は元々スペースシャワーTVの子会社にいたのですが、グループには音楽ビデオ制作最大手、SEPがありました。「制作費を半分、あるいは三分の一でやってくれと言われるようになったが考えてくれないか」と相談を受けたことがあります。

当時の音楽ビデオは300万円くらいが相場でした。しかし、そこから制作費を下げても、作ろうと思えば作れるんですよ。予算が50万円しかないとしたら、2カメぐらいで4〜5本か演奏を撮っても、編集すればビデオとして成立させられるんです。だけど、たいした物はできないというか、全然面白くないのです(笑)。

『PON! PON! PON!』のビデオを見たとき、初見の数秒で「これはとんでもないことが起こる」と直感しました。同時に「事を起こしたいなら、やっぱり手間は掛けるべきだよな」と。田向潤さんのような才能あふれる映像ディレクターさんが、寝ずに限界に挑戦している気迫が伝わってきたんだと思います。

ーー音楽以外のジャンルでも、よいモノ作りと手間暇は直結していると。

榎本:プロの写真家は、何十枚もシャッターを切って最高の瞬間を捉えようとします。コンデジのシャッター1発でもプロなら一線を画す写真を撮れるのでしょうが、その縛りが当たり前になったら、全体のクオリティは落ちると思います。

録音芸術というのは、音が最高に輝いた瞬間をパッケージするのが始まりだったと思います。特にバンドはその輝いた瞬間を捉えないといけないと思うので、そうなるとそれなりにスタジオを押さえないといけないのではないかと。いかがでしょうか。

佐久間:安く作ろうと思えばもちろんできなくはなくて、それこそ一発録りで「三回以内に演奏しろ」と言って(笑)、それを切り貼りして作ることはもちろんできると思うんですが、例えば、丸一日掛けて一曲録るのと、2、3時間で一曲録るのでは、演奏しているバンドが得られるものが圧倒的に違うんですね。「よく分からないけど、こんなもんだろう」と自分たちが思っているところでOKが出て、「あ、こんなもんなんだな」と。その後エディットでこっちがどう苦労しようが、彼らは知らない。それとちゃんと自分たちが納得して「こういうところが駄目だ」「もっとこうしたほうがいい」といったことを一つずつ積み重ねていって、完成したときとでは得られるものがまるで違って、それがバンドの力というか、財産になっていくと思うんですね。

だから、80年代、90年代のバンド、BOφWYから始まってどのバンドもそうだったと思うんですが、ワンアルバムやると劇的に良くなるんですね。それが音楽業界全体に力を与えていくというか、良くなったバンドを人が見て、他のバンドも見て、それで他のバンドも良くなってという広がりがあったんですが、今のやり方をしているとアマチュアバンドから抜けきらないまま、例えば、アルバム制作に入る前と入った後と、少しは違うかもしれないけれど、あまり変われないままみたいなことになるんです。そういう意味でのレベルアップができないのが、やっていて一番歯がゆいところですね。

榎本:やはり自分の限界を突破するには何度も繰り返すしかないと。

佐久間:そうですね。ただ時間を掛けるということではないんですが、例えば、5回演奏して初めて「やっぱりこのスネア違うよね」と気づいて、スネアを取り替えることが大事なんです。もちろん「1回目で気づけよ」と思われるかもしれませんが(笑)、そうじゃないんですよね。演奏スタイルであったり、周りの音との兼ね合いで変わってきますから。それはギターであれ、パフォーマンスの種類であれ、それを詰めないままOKにして強引に出していかなくてはいけないというのは、不健全だと思いますね。

榎本:どうやって一千万円を作るかという問題は別にあるんですけどね。

佐久間:そうですね。一千万円は行かないにしても、数百万円どうやって作るかは課題ですよね。

榎本:だから、僕はミリオンの復活を願って書いています。

ーー新人も、メジャーなバンドも全般的に今、予算が厳しい?

佐久間:そうですね。今現在どのくらいかはわからないですけど、数年前、メジャーのロックバンドでも1万枚売れれば結構なヒットでしたが、1枚2,000円だと2千万円、普通の原盤制作費が15%とすると300万円ということですよね。そう考えるとギリギリ。メジャーの場合、1千万円、2千万円売れたとしても関わる人間のお給料だけで飛んじゃいますよね。

ーー音楽と同じように映画も洋画離れが進んでいますが、そもそも外国の文化に対する憧憬も薄れましたしね。

佐久間:あと留学を志したり、外国に行きたいという若者が減っているみたいですね。僕らの頃は外国に行きたくてしょうがなかったですよね。

榎本:音楽ライター、柴那典さんの『いつの間にロック少年は「洋楽」を聴かなくなったのか」』。このコラムの反響がすごかったんです。やっぱり音楽ファンのみなさんも「そういえばそうだな」と思っていたってことかなぁと。

僕は昔から洋楽ファンなんですが、2012年の洋楽チャートは楽しいなと思ってました。だけど柴さんが指摘したように、多分、そのチャートを普通の日本人が見たら「誰こいつら?」という状態になっているんですよね。

No.1のゴティエなんて日本語がペラペラなので、ちゃんと日本で紹介したらすごく売れると思うんですけど、あまり伝わってないし、アイドルでもカーリー・レイ・ジェプセンはものすごい日本人好みのルックスで、もっともっと売れるはずなんだけど、プロモーションをかける経営体力がレコード会社のみなさんは残ってないのかもなと心配になりました。

以前、某メジャーレーベルの社長さんとお話したときも、「洋楽をなんとかしたい」とおっしゃっていました。今は、ちょうど現役時代に洋楽のディレクターをなさっていて、洋楽で名を馳せた方がトップに立っているので、洋楽の現状に対し思うところは非常にあるのではと。

ーーその年代の方は洋楽ファンですよね。

榎本:まずは洋楽からだけでも新しいメディアを導入したい主旨のことを、おっしゃっていました。ただ、そこでも申し上げたんですが、日本では、洋楽だけで成功したメディアはないんですよ。ナップスターも洋楽メインで厳しい思いをしましたし、僕の好きなInterFMも洋楽中心なので経営はずっと厳しいです。日本のMTVも、当初洋楽中心だったため、邦楽中心のスペースシャワーには適いませんでした。

ですから、新しいメディアをやるんだったら洋楽プラスちょっとでもいいから邦楽を入れないと成功しないという現実があります。

J-WAVEが出てきた頃って、FMは洋楽をけっこう流していて、僕なんかそれを聴いて、音楽の世界に行きたいなと思った世代なんですけど、洋楽多めで、そこに邦楽を混ぜるのも、すごくかっこよかったと思うんですよね。負けてないぞというのが伝わってきました。

ーーCDだけでなく音楽メディアも見直す時期に来たのではないでしょうか。

榎本:はい。動画ならVEVO、ラジオならPandoraのような新しいメディアがこれから登場してくると思います。けど、新しいものを導入するだけでなく、やり直すべきこともあるかもなぁ、と。洋楽を刺激にして、邦楽を作っていたところも含めてですね。

ーー2012年は久しぶりにCD売上が前年比より増えたと言われていますね。ただそれはAKB48など、特に売れた作品があったからで、それを除いたらどれほど落ちているのかと。

榎本:あるアンケートだと、AKB48ファンの4割は1枚もCD買ってないんですよ。「ファンです」と言うだけで買ってない。これは昔からそういうものだと思うんです。昔と違うのは、約1パーセントが100枚以上買って、もう2パーセントくらいが50枚以上買う。このアンケだと平均で8.3枚くらい。

2012年のシングル売上1位はAKB48『真夏のSounds Good!』で182万枚。それを8.3で割ると、22万枚になります。23位だったMr.Childrenのシングル(27.5万枚)に及びません(オリコン調べ。つまり、シングルのミリオンは事実上なくなっているのではないかと。アルバムの年間1、2位はミスチルで、ともにミリオンでした。

佐久間:見方によってAKB48が音楽業界にとどめを刺すという感じもしますしね。AKB48が一番売れたものになっちゃうと、さらに聴く人は減るという。

榎本:UKチャートのようにCDだけじゃなく、オンエアやストリーミング、ダウンロードも反映していれば聴く人は減らないと思うんですけどね。2012年の日本ですが、CD売上は好調でした。「CD離れが起きていて、いずれ音楽離れが起きる」というより、「CD離れは起きてないけど、裏で音楽離れが進行中」ということではないかと。録音文化の話に繋がるトピックスですね。

ーー本当に一度壊滅的なことにならないとだめなのかなと思いますね。残念ながら今のところからどうやって立ち直っていいのか、みんなわからない可能性がありますよね。

佐久間:対処療法ではどっちみちダメでしょうね。

ーー音楽産業に限ったことではないじゃないですか。日本の色んな産業も、企業も、政治も、1回リセットボタンが…。

佐久間:実際、今はリセットボタン押すわけにはいかないというのもあるんじゃないですか? すごいことになっちゃいますからね。

榎本:僕もソフト・ランディング派です。

ーー例えば佐久間さんが、「自分が力を貸せば劇的に生まれ変わるのに」みたいな若いアーティストの作品に参加して、佐久間さんのノウハウをつぎ込んで納得のいく制作をしたとします。そうすると出来上がったものは劇的に変化すると思うんですね。そういう例をご自身で、「俺の言ってることはこういうことなんだ」というのを示す必要があるんじゃないかと。

佐久間:うーん、でもそれではなかなか分からないね。

ーー難しい?

佐久間:はい、音楽というのはそういうことを積み重ねて何か変わっていくようなことだから。「この例でどうだ」みたいなことは言えないんですよ。

ーーすごい逆風へ向かって、歩いていかなきゃいけないみたいな状況になっちゃっているということなんですかね。

佐久間:うん、そうですね。ただ、産業としては大変なんだけど、音楽自体として見たときには、ダメになっている部分と、ますます自由にどうにでもできる、面白くなっていく部分と両方があるので、私としては、面白くなっていく部分を期待しているんです。元々音楽なんていうのは、お金になるかどうかというのは後からついてくることであって、先にお金になる前提で人が動いていた時代がむしろちょっと特殊なわけで、例えば100人のミュージシャンがいて、その内でご飯が食べられるのは多分1人しかいないのは、いつの時代も変わらなくて、一人の売れたミュージシャンのために、さらにまた100人、業界関係含めて養ってもらえていた時代というのが、特殊だったと思います。

榎本:メジャーレーベルは搾取しているという話がときどき出てきますが、僕が思うに、実態は少し違うのではないかと。

メジャーレーベルの組織編成や契約の仕組みって、一定の枚数が売れて初めて効果を発揮するんだと思うんです。売上1万枚、2万枚でどうにかしなくてはいけない時代には厳しいものがありますよね。

ーーアメリカではミリオンが今でもふつうですね。

榎本: アメリカって売上は下がっているんですが、ダブルミリオンやトリプルミリオンが今もガンガン出てくるじゃないですか? あれって逆に言うと一部の上流階級のミュージシャンの作品しか買ってもらえないということなんですよね。

向こうのCDはウォールマートが一番売っています。車で買い出しに行く途中に、ラジオからアデルがかかって、ウォールマートについたら『21』がドカッと山積みされていて、それをみんながカートに入れて買っていくという仕組みです。究極のショートヘッドですね。ロングテール型のPandora経由で、ようやくミュージシャンの中堅層にお金が流れるようになってきたのです。

つまり、多様性のすばらしさは日本の方が残っているのかもしれないんです。しかし、日本の方は、ドンと売れるものがない。するとまとまった制作費が取れなくなり、最高のクオリティのスタジオワークが残しにくくなっているわけです。日本とアメリカを比べると、両極端に分かれてしまっているのかな?と思います。

佐久間:それとどこかから“歌の時代”になったと思うんですね。みんながカラオケに行くのもそうだけど、歌が一番大事な時代に入っちゃっていて、それ以降更に洋楽を聴かなくなったと思うんですね。日本語のロック以上に。それはなんでかと言うと、多くの人が英語の歌を聴いたって意味がわからない。音楽の種類とか、かっこいい悪いじゃなくて、歌として意味がわからないから聴かないという層がすごく増えたんじゃないかと思いますね。

著者プロフィール
榎本 幹朗(えのもと・みきろう)

 榎本幹朗

1974年、東京都生まれ。音楽配信の専門家。作家。京都精華大学講師。上智大学英文科中退。在学中からウェブ、映像の制作活動を続ける。2000年に音楽TV局スペースシャワーネットワークの子会社に入社し制作ディレクターに。ライブやフェスの同時送信を毎週手がけ、草創期から音楽ストリーミングの専門家となった。2003年ライブ時代を予見しチケット会社ぴあに移籍後、2005年YouTubeの登場とPandoraの人工知能に衝撃を受け独立。

2012年より『未来は音楽を連れてくる』を連載・刊行している。Spotify、Pandoraをドキュメンタリーとインフォグラフィックの技法を使って詳細に描き、 日本の音楽業界に新しいビジネスモデル、アクセスモデルを提示することになった。 音楽の産業史に詳しく、ラジオの登場でアメリカのレコード産業売上が25分の1になった歴史とインターネット登場時の類似点 や、ソニーやアップルが世界の音楽産業に与えた歴史的影響 を紹介し、経済界にも反響を得た。

寄稿先はYahoo!ニュース、Wired、文藝春秋、プレジデント、NewsPicksなど。取材協力は朝日新聞、Bloomberg、週刊ダイヤモンドなど。ゲスト出演はNHK、テレビ朝日、日本テレビなど。音楽配信、音楽レーベル、オーディオメーカー、広告代理店を顧客に持つコンサルタントとしても活動している 。

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