アクセス・インダストリーズ、英EMIレコード部門の買収交渉から撤退
【EMIミュージックの売却話その10 交渉決裂】
EMIミュージックの売却・買収について、イギリスの経済新聞フィナンシャル・タイムズが日曜日(10月30日)、レン・ブラヴァトニク率いるアクセス・インダストリーズがEMIミュージックのレコード部門の買収交渉から撤退したと報じた。
フィナンシャル・タイムズは10月17日の紙面で、売り手であるシティグループと買い手の金額が合わず、売却・買収案件は中止か延期になりそうだと書いた。今回の記事は、ワーナーミュージックを保有するアクセス・インダストリーズのオファー金額が約1150億円(1$77円換算)で、シティグループは不満のようだ。交渉がこじれたのは途中でEMIミュージックの年金の債務が約460億円もあり、買収した場合アクセス・インダストリーズはこの年金の債務を引き継がなければならない。
新聞ニューヨーク・ポストも30日(日曜日)の電子版で、金額の折り合いがつかず交渉は決裂したと報じた。レン・ブラヴァトニクが最後に提示した買収金額は1150億円。それ以上払う気はないそうだ。
音楽業界誌ビルボードは30日の電子版で、先週レコード部門の買収交渉でユニバーサルミュージックは降りたと報じた。しかしアクセス・インダストリーズが降りるならユニバーサルミュージックは再び買収戦争に参加するかもしれないとも書いた。
1回目の入札で降りたのは殆ど投資ファンド。音楽産業の未来に明るさが見出せなかったのか。レコード会社や音楽出版社はEMIミュージックを買収したら大幅なコスト・カットが出来るが投資ファンドは容易じゃない。前のEMIミュージックの持ち主、ガイ・ハンズ率いる投資ファンド「テラ・ファーマ」は、売上を伸ばしコスト・カットをして第3者に高く売りつけようと考えた。
ガイ・ハンズの名言、「制作マン(A&R)にヒット曲がわかる耳は要らない。どうやって利益を出すかだ」で業界はあきれ果てた。今回投資ファンドは相も変わらず音楽業界を理解できず早々に撤退した。投資家のロン・パールマンがかろうじて残っている。化粧品レブロンのオーナーだ。だがロン・パールマンのオファー金額はアクセス・インダストリーズよりも低かったという。
音楽出版部門はまとまりそうだ。金額は約1500億円(1$77円換算)。レコード部門より高額だ。ドイツのBMGライツ・マネージメントが最も有力だという。BMGはドイツのメディア最大手。以前はレコード部門、ソニーとBMGの合弁会社ソニーBMGを持っていた。フィナンシャル・タイムズが有力だとする根拠はバックに投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)がついている事だ。資金調達が容易だそうだ。また音楽出版社として独禁法に抵触する恐れはないという。その点買収に手を挙げているソニーは独禁法の事も考慮しなければならないし、内部問題(多額の投資についての決済)や資金調達に問題点があるという。
音楽業界誌ヒッツは今回のアクセス・インダストリーズの撤退行動について、「シティグループに対する単なる脅し(ブラフ)。ロシア生まれのレン・ブラヴァトニクが仕掛けた『ロシアン・ルーレット』だ。拳銃に一発だけ弾丸を込め、こめかみに当てて引き金を引くゲーム。どちらが負けかすぐ分かる」
シティグループはレコード部門と音楽出版部門をバラ売りで、先に音楽出版部門を売却し、レコード部門は世界経済の復調の兆しが見えるまでは売却をしないという選択肢を持っているようだ。
イギリスの有力紙ガーディアンは消息筋の話として、11月に入ってからの交渉の進展次第、それまでは何も起こらないと報じた。いずれにせよ交渉関係者の情報がメディアに出まくっている。ワーナーミュージックのエドガー・ブロンフマン会長の永年の夢、EMIミュージックの買収はかなうのだろうか。
今年(2011年)のアメリカのレコード業界の市場シェアは以下だ。(10月11日現在。業界誌ヒッツより)
1位)ソニーミュージック 29.8%
2位)ユニバーサルミュージック 29.3%
3位)ワーナーミュージック 11.0%
4位)EMIミュージック 9.3%
EMIミュージックの看板グループ、コールドプレイは今週イギリスとアメリカでニュー・アルバム「マイロ・ザイロト」がアルバム・チャートの初登場1位に。
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