音楽ストリーミングサービスSpotifyの実績
スウェーデンで生まれた、音楽をストリーミングで聴くサービス会社「スポティファイ」の1年間の実績が出た。それによると米国で昨年7月14日からスタートした無料/有料のストリーミング・サービス。1年間で130億曲が聴かれた(単純に130億曲というよりも、様々な人達が様々な曲を合計130億回聴いたという方がわかりやすい)。
この数字が大きいのか小さいのか。音楽業界誌のビルボードは、インターネット・ラジオの「パンドラ」や音楽ビデオ専門サイトのVEVOと比較した。「パンドラ」は自分に合った局(ステーション)を作る事が出来る。アーティストや曲を指定すると以降、好きな曲や嫌いな曲をフィードバックすれば、リスナーの聴きたいような曲を流してくれる。ビルボード誌によると「パンドラ」は2011年5月から2012年4月迄の1年間で1661億曲が聴かれたという。「スポティファイ」の10倍以上だ。「パンドラ」は2000年にスタートしたので比較するのは酷だが。
VEVOとの比較だが、2011年7月から2012年6月迄の1年間、VEVOでは83億曲を人々はストーリーミングで楽しんだ。この数字だけを見ると「スポティファイ」が上回っていそうだが、ビルボード誌によるとVEVOにビデオを提供していないワーナーミュージックや他の小さなオンライン・ビデオ・サービスを加えると、「スポティファイ」の130億曲に並ぶという。これを見る限り「スポティファイ」の開始1年間が好調だとするのは少し難がある。
「スポティファイ」が立ち上がる前、インターネット・ラジオ「パンドラ」の好調には以下のような背景があった。今年(2012年)4月10日、ニールセンと並ぶ、ラジオやテレビの視聴率分析・調査会社アービトロンとエジソン・リサーチ社が、インターネット経由で既存のラジオ局を聴取している実態をまとめ、発表した。調査期間は今年の1月20日から2月19日迄で、2020人に電話インタビューで聞き取り調査を実施した。それによるとアメリカ人の実に29%がインターネット経由でラジオを聴取していて、1週間の聴取者は7600万人だそうだ。そして昨年(2011年)に比べると30%も伸びたという。以下が両社が調査した最近5年間の数字だ。
2008年 13%
2009年 17%
2010年 17%
2011年 22%
2012年 29%
この背景にはラジオが聴けるアプリが増えたスマートフォンの普及がある。両社の調査では、12歳以上のアメリカ人の44%がスマートフォンを保有している。スマートフォンの保有者は2年間で3倍になったという。このアービトロンの発表の直後に、調査会社「メディア・アダルト」がロサンゼルスのラジオ局で「パンドラ」が聴取率のトップになったと発表した。ロサンゼルスの54,000人に電話で聞き取り調査をした。従来1位だったKIISーFMの聴取者140万を抜いて、190万人を獲得して1位になったという。昨年(2011年)10月に実施した調査を今頃、アービトロンの直後に発表した。何か意図がある。
アービトロンによる今年3月のロサンゼルスのラジオ局聴取率は以下だ。カッコ内は「メディア・アダルト」調べ。
1位)KFI−AM(トーク局)(メディア・アダルトの5位以内に入っていない)
2位)KIIS−FM(TOP40局)(メディア・アダルトで2位)
3位)KOST−FM(AC局)(メディア・アダルトの5位以内に入っていない)
4位)KBIG−FM(ホットAC局)(メディア・アダルトの5位以内に入っていない)
5位)KPWR−FM(リズミック局)(メディア・アダルトの5位以内に入っていない)
全く現実の聴取率の実態と乖離している。メディア・アダルト社のデータは何の為に発表されたか。「パンドラ」社の業績が良くないからだ。ロサンゼルス・タイムズによると通期の売り上げは約219億円(1$80円換算)で13億円の赤字だった。「パンドラ」は昨年(2011年)6月にニューヨーク証券取引所に上場した。上場直後株価は20ドルの高値を付けたが今現在は8〜9ドル台を低迷している。ウォール街向けには材料が欲しい。
「パンドラ」のロサンゼルス地区の聴取率1位を業界関係者は誰も信じていないし、相手にもしていない。「パンドラ」はでっかいだけのジュークボックスだと言い切る関係者もいる。ラジオ局の編成や制作やパーソナリティーは、自分達のリスナーがどんな年齢か、肌の色は、年収は、今日は何曜日か、今何時か、天気はどうだ、嬉しいことや悲しいことが地元であったか、様々な事を考えて番組を作る。テレビはネイション・ワイドだが、ラジオはローカルだ。地元密着の媒体なのだ。地元からオリンピック選手が出ていたら大応援する。それらは「パンドラ」が逆立ちしても出来ない事。また新人アーティストを見つけ出すのもラジオ局の制作陣の嗅覚。「パンドラ」が有望新人を見つけ出したという話は聞いたことがない。そんなつもりもないだろうが。結論として、ラジオ局とインターネット・ラジオは全くの別物という事だ。
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