ソニー/ATV音楽出版とパンドラが引き起こした音楽著作権ビジネスの未来
先週17日(木曜日)、新聞ニューヨーク・ポストが音楽業界人があっと驚く記事を書いた。その余波が続いている。ビートルズ他の音楽著作権を管理するソニー/ATV音楽出版がインターネット・ラジオ最大手のパンドラと、著作権使用料を業界並に比べて25%も高い料率で契約した事だ。それに加え、作詞作曲者に対するラジオ局やTV局からの音楽著作権使用料を徴収する団体、ASCAPやBMIへのデジタルにかんする権利をソニー/ATV音楽出版は引きあげたからだ。デジタル時代のビジネスは自分たちで直接やるという事だ。
パンドラが音楽著作権の使用料が高すぎるとASCAPを裁判に訴えていた矢先だった。従来パンドラはASCAPやBMIに対して売り上げの4%を使用料として支払うという契約だった。それをソニー/ATV音楽出版はASCAP抜きに直接契約でパンドラから5%を勝ち取った。単純に25%ものアップだ。それもわずか1年契約だ。2014年には何%になるのかもわからない。高くなる事はあっても低くなる事はないだろう。
アメリカでは曲を書いた作詞作曲家にはレコード会社から著作権使用料が音楽出版社に支払われ、その後作詞作曲家に分配される。日本のJASRACのような団体はない。レコード会社から直接音楽出版社に支払われる。
アメリカには数多くのラジオ局やTV局がある。そこで使われる曲の権利は実演権と呼ばれ、ラジオ局は膨大な数の楽曲を使う場合、いちいち作詞作曲家から許可をとらなければならない。しかし現実的には不可能なので許諾や使用料の徴収を行うASCAPとBMIという実演権団体が生まれた。レコード会社の音楽を使える。そして音楽著作権の使用料はこの2団体にまとめて支払えばいい。この2団体とも非営利団体だ。集めた使用料はかかった経費を差し引いて直接作詞作曲家と音楽出版社に分けて支払われる。
しかしインターネット・ラジオが生まれたら、どのアーティストのどの曲がどのくらい流されたか、デジタル処理なので100%正確な数字が出る。そうなるとASCAPやBMIに頼まなくても自分たちで出来る。ラジオやTVやナイトクラブ等での使用楽曲や使用回数の集計はこの2団体に頼まないと無理だった。今後パンドラ他インターネット・ラジオ・サービスの会社は大手の音楽出版社と個別に交渉しなければならなくなるだろう。
ソニー/ATV音楽出版の会長兼最高経営責任者マーティン・バンディアーはビルボード誌のインタビューに答えて、「歴史的な出来事。作詞作曲家には大変な朗報。パンドラが誰に使用料を支払おうが、我々は作詞作曲家に分配する。ASCAPやBMIのシステムを従来通り使って作詞作曲家に支払うのかというのもまだ決めていない」と語った。今後ソニー/ATV音楽出版に続く業界大手のワーナー/チャペルも同様にパンドラと直接契約に持ち込むのだろう。そしてパンドラはまた5%を飲まなければならなくなる。
ところでパンドラのようなインターネット・ラジオがレコードをかけた場合、音楽著作権とは別に彼等は音源(原盤権)の使用料をサウンドエクスチェンジという公的な団体に支払う。サウンドエクスチェンジは原盤権を保有するレコード会社と実演家であるアーティストに徴収した使用料を分配している。
今週末からフランスのカンヌで恒例の音楽見本市MIDEMが開催される。ソニー/ATV音楽出版とパンドラの使用料5%が大きな話題になるのは間違いないだろう。業界の恩師、フジパシフィック音楽出版会長の朝妻一郎さんは今回の出来事を、投資会社をつのってEMIの音楽出版部門を買収したソニーは、投資会社に対し音楽出版ビジネスはますます富を生みますよというアピールもあると筆者に教えてくれた。
インターネット・ラジオ・サービスを始めようとしているアップル。株価が低迷する中、今後どう動くのだろう。大手音楽出版社は手ぐすねを引いて待っているかもしれない。
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