Pandora、訴訟敗訴で楽曲カタログを失う可能性も
米音楽サービスPandora、著作権団体BMIとの配信料をめぐる訴訟で敗訴:楽曲カタログを失う可能性が発生し窮地に立たされる
音楽出版ビジネスも変革の時ですね
日本でも期待する声が一部で聞こえる、アメリカで圧倒的なユーザー規模を誇るネットラジオ「Pandora」が窮地に立たされいます。
Pandoraは、2013年12月米大手著作権管理団体のBMI(Broadcast Music, Inc.)とのライセンス契約に関する訴訟で敗訴が確定しました。これによってPandoraは人気の楽曲が配信できなくなる可能性が出てきました。
BMIはテレビやラジオ、ネット/デジタル衛星ラジオや公共の場などで流れた音楽に対する著作権を徴収し、ロイヤリティを権利者に分配する団体です。PandoraはBMIのような著作権管理団体と包括契約(Blanket License)で合意してロイヤリティ料を支払うことで、BMIなどが管理する大手レコード会社の楽曲ライブラリーにアクセスしてサービスを展開してきました。
米国ではBMIの他に、「ASCAP」(The American Society of Composers, Authors and Publishers)と「SESAC」(Society of European Stage Authors and Composers)という著作権徴収団体が存在します。
今回米地方裁判所は、BMIが管理する全ての楽曲は包括契約に含まれるというPandoraの主張を却下しました。
この決定によって、1月1日よりBMIに所属するレコード会社やパブリッシャーはネットサービス向けのデジタル・ライセンスを徴収団体へ委託する代わりに、BMIからライセンスを引き上げ、そして個別にPandoraと配信について交渉することが可能になりました。
ユニバーサルミュージック・パブリッシング・グループ、BMG、Kobaltなど大手パブリッシャーは、1月1日にデジタル配信のライセンスを取り下げる予定だとBMIに伝えています。つまりBMIはこれらのパブリッシャーの楽曲はPandoraなど包括契約を結んでいる音楽サービスには、楽曲使用をライセンスすることはできなくなります。この引き下げが実際に行われれば、1月からPandoraは前途のパブリッシャーが管理する楽曲を配信すると著作権違反となる可能性があるため、楽曲をサービスから撤去しなければなりません。
今回の判決がPandoraにとってどのような影響があるかというと、大手パブリッシャーの楽曲を配信するためには、個別にライセンス料を交渉しなければならず、恐らく支払う場合にはBMIが徴収するレートよりも高額なレートになる可能性が高まってきます。
Pandoraは上場企業ですが赤字経営を続けており、収益の大部分をコンテンツ獲得(ライセンス料)の支払いに費やしています。今後BMIから大手パブリッシャーがカタログを引き下げ、個別に高額なレートで契約できれば、ワーナー/チャペルなど業界大手のパブリッシャーも同じ道を行くと考えられるので、Pandoraにとってはこれまで以上にコスト面での赤字が拡大し経営に大きく響くことが予想されます。
BMIは現在約850万の作品と60万以上の作曲家、作詞家、パブリッシャーの権利を管理しています。参考までに、上記の大手パブリッシャーが管理するアーティストは、
ユニバーサルミュージック・パブリッシング・グループ:
エミネム、アデル、ジャスティン・ティンバーレイク、ジャスティン・ビーバー、コールドプレイ
BMG:
ブルーノ・マーズ、ジョン・レジェンド、キングス・オブ・レオン、ミック・ジャガー/キース・リチャーズ、ローリング・ストーン(カタログ)
Kobalt:
Bon Iver、Grimes、LMFAO、トレント・レズナー、SKrillex、Maroom 5、ポール・マッカートニー
偶然にも1月1日は、PandoraとBMIとの間で5年の新契約が始まる日でもありました。これを書いている段階(1月5日)は、まだ上記の楽曲は再生可能のようですので、まだ引き下げは行われていないようですね。Pandoraと著作権徴収団体そしてパブリッシャーの動きは、今後もチェックしていきたいと思います。
BMIはPandoraをロイヤリティ料の引き下げを行っているとして、2013年6月に提訴しています。Pandoraは2012年収益の4.1%をパブリッシャーに支払っています。
米音楽著作権管理会社のBMI、使用料めぐりパンドラ提訴(6/14 ウォール・ストリート・ジャーナル)
Pandoraはロイヤリティ料引下げを狙い、サウスダコタ州の小さな衛星ラジオ局を買収するなどアプローチを仕掛けてきました。また、2013年9月にもう一つの著作権徴収団体ASCAPとの訴訟に勝ち、ASCAPが管理する楽曲は包括契約の対象になるという決定を受けました。今回の訴訟は同じ内容で、全く逆の決定となりました。詳しくは下のブログをご覧ください。
今週のインターネット・ラジオの出来事(9/20 高橋裕二の洋楽天国)
一部で「日本にも欲しい」みたいな意見があるPandoraなのですが、僕はどうしてもアーティストやクリエイターへ対価を還元しようとする動きに逆行しているように見えて、好きになれません。凄い手前味噌なんですが、自分は昨年の今ごろ、Pandoraに対して全く同じようなことを言ってたようです。
Pandoraは、「アーティストと音楽サービス」の関係を無視し始めている気がします。アーティストをリスペクトしクリエイティブに対して評価しているなら、正当な対価を支払うという関係を築くのではなく、自社サービスの永続を目指し収益化への道を走りだしている、それが今のPandoraだと感じていますし、音楽サービスの収益化の難しさを意味しているとも思えます。
著作権やPandoraについて、詳しい方がもしお読みになっているなら、ぜひこの辺りにコメントをいただければ嬉しいです。ぜひよろしくお願いいたします。
一方ではPandoraよりも好条件を提示してパブリッシャーと契約しているアップルなどの企業もあり、今後の音楽出版ビジネスはデジタル音楽サービスの普及に伴って大きく変化していくかもしれません。
■記事元:http://jaykogami.com/2014/01/5470.html
記事提供:All Digital Music
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