英BBC、音楽ストリーミングサービスを計画
英国BBCが音楽ストリーミングサービスの計画を発表。充実の独自コンテンツ、ライブ音源を活かした独自配信
英国BBCが独自の音楽ストリーミングサービスを立ち上げる計画を発表しました。
BBCは「新たな音楽発見サービス」(new music discovery service)を目指し、毎月BBCのラジオ局でオンエアされる楽曲5万曲を期間限定でストリーミング配信していく提案を、戦略レポート「British, Bold, Creative」の中で初めて公表しました。
新しい音楽ストリーミングサービスは、BBCが2013年から運営しているデジタル音楽プラットフォームBBC Playlisterと連動します。BBC PlaylisterはBBCの番組でプレイされた楽曲からリスナーが自由にプレイリストを作り、SpotifyやDeezer、iTunesなどにエクスポートして楽しめる、ラジオとデジタルの連携を強化する取り組みです。
BBCが目指す音楽ストリーミングサービスは、BBCが運営するテレビそしてラジオ番組でプレイされた楽曲に加えて、BBCが企画運営するライブレコーディングと過去のアーカイブ、さらにBBCが中継するフェスやイベントの音源も対象となる可能性があります。また「新しいUKミュージックの推進」をサービスのコアバリューとして、独自性ある音楽やキュレーターなどスペシャリスト、さらにインディーズ系レーベルやアーティストに注力すると語っています。
新サービスの役割について、「オーディエンスはBBCがキュレーションしたプレイリストを通じて音楽にアクセスができ、またBBCでプレイされた音楽から独自のプレイリストを作成できます。このデジタル音楽の取り組みによって私たちはオーディエンスそしてイギリスの音楽業界とのパートナーシップで信頼ある音楽のガイド役という私たちの役割を再定義していきます」と説明しています。
BBCは、現在の音楽サービスで常に議論の的となるライセンス契約問題に関して次のように答えています。
私たちはオーディエンスそしてアーティストの利益となるデジタル音楽サービスの提供を目指します。まだ無名のアーティストやレーベルに所属していないアーティストをオーディエンスに届けることや、ライセンス料を公平にアーティストへ分配するなどの目的を実現する方法として、今回の提案を音楽業界と協力して作成しました。
また興味深い戦略として、世界規模での音楽キュレーションを挙げています。これは世界レベルでデジタル音楽キュレーションを展開し、イギリスの音楽を世界のオーディエンスに届けることが狙いで、これはアップルがApple Musicのラジオステーション「Beats 1」で行っていることと交わる領域です。くしくもBeats 1のDJの1人、ゼイン・ロウ(Zane Lowe)は元BBC Radio 1のスターDJで、アップルがBeats 1立ち上げのために引きぬいた人気のラジオDJであり、幅広いジャンルに長けた音楽キュレーターでもあります。
BBCは若者をターゲットにした人気のラジオ局「Radio 1」を始め、Radio 2や6Musicなど、ジャンルレスな音楽をプレイする番組とDJを数多く揃えています。またBBCのラジオDJ達は、イギリスの才能あるアーティスト達を無名時代に発掘して、番組でプッシュする音楽キュレーターとしての影響力があり、アデルやアークティック・モンキーズ、M.I.A.など大物アーティスト達や、ダブステップなどのジャンルは、初期には必ずと言っていいほどBBCのDJ達がプレイしています。
BBCは音楽ストリーミングサービスをローンチするタイミングは決めていませんが、業界内ではすでに動き始めているアイデアです。
例えばRadio 1は、長年続いているダンスミュージックの看板番組「Essential Mix」とDJのピート・トン(Pete Tong)を始め、DiploやToddla T、Benji Bといった若手のDJ達がレギュラーを務め、毎週のように新しい音楽をプレイする局です。またジェイムズ・ブレイクやマーティン・ギャリックス、ジョン・ホプキンス、Flying LotusなどアーティストがゲストDJを努める「Radio 1 Residency」を立ち上げるように、他のラジオでは聴くことが出来ない多彩なジャンルの音楽をラジオを通じて発信しています。彼らの番組にフィーチャーされることがクリエイターとしても一つのステータスとなり、人気や知名度に関係無く世界中のオーディエンスに音楽を知ってもえる機会を創出するといったイギリスだけに留まらない影響力があります。
またBBCのラジオはグラストンベリー・フェスティバルなど、イギリスの大型フェスやイベントから中継を毎年行っています。さらにはBBCのスタジオMaida ValeでのライブやLive LoungeといったBBC限定のライブセッションも数多く収録しているため、他の音楽サービスに匹敵する規模の楽曲アーカイブを保有していることが大きな特徴です。
世界のメディア企業の売上規模
世界中では多くの人がスマホでの定額制音楽ストリーミングサービスを利用し始め、その数は毎年急速に伸びています。音楽ストリーミングの分野にはSpotifyやApple Musicなどすでに多くのサービスが競争を繰り広げています。BBCもラジオおよびテレビ運営といった古いメディアの形に取り残されないように、近年はテクノロジーを駆使したデジタル化を急速に進めて、コンテンツ配信とメディアのイノベーションを同時に進めています。
「British, Bold, Creative」の中でBBCは「イギリスのクリエイティブを支援するためのパートナー・プラットフォームとなる」と宣言して、よりオープンなプラットフォーム化がオーディエンスとコンテンツパートナーに与える価値について説明している箇所が印象的でした。ラジオ局という旧来のメディアが音楽ストリーミングサービスを作ることは、サイマル放送とは違って、ラジオ局本来のキュレーション力の活用、アーティストやクリエイターへの対価の支払い、そしてラジオDJを通じた音楽の聴き方や楽しみ方までも実現できるサイクルをメディア、クリエイター、オーディエンスの3者間で動かせる可能性を感じます。個人的にもBBC Radio 1で聴いたジャイルス・ピーターソンの番組が初めてのネットラジオ体験で、それ以来BBCは欠かさず聴いている音楽の情報ソースの一つとなるほど影響を受けたラジオ局ですので、新しい取り組みは応援していきたいです。
■記事元:http://jaykogami.com/2015/09/11992.html
記事提供:All Digital Music
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