「AWA」にユニバーサルが資本参加。世界標準化するレーベルの投資戦略が意味するもの
エイベックスとサイバーエージェントが運営する、定額制音楽配信「AWA」に、ユニバーサルミュージック合同会社が資本参加しました。
2015年5月から国内展開を開始したAWAは、サイバーエージェントとエイベックスの子会社エイベックス・デジタルが開始した本格派の定額制音楽配信サービス。スマホを中心に、オンデマンドでの楽曲検索から、プレイリストによるレコメンド、さらにリスナーが作るプレイリストの共有によって、音楽を見つけて楽しむサービスです。
今回ユニバーサルミュージック合同会社が資本参加するに辺り第三者割等増資を実施、これにより持分比率はサイバーエージェントが48.5%、エイベックス・デジタルが48.5%、ユニバーサルミュージック合同会社が3%となります。
日本の定額制音楽配信サービスでは、「LINE MUSIC」にエイベックス・デジタル、ソニーミュージックエンタテインメント、LINE、ユニバーサルミュージック合同会社が出資している関係にあります。
音楽テクノロジーへの投資が世界標準
音楽レーベル特にメジャーレーベルによる音楽テクノロジーへの盛んな投資は近年増加する一方で、世界ではクリエイターの作品や新人発掘をデジタル情報の世界で支援し価値相乗を生み出すための重要な戦略として位置づけられるまでになりました。
具体的には、アーティストのプロモーションをデジタルやモバイルで攻めるために、特殊な技術やアルゴリズム、機能を駆使することで、新規リスナーへのリーチ、リスナーコミュニティの育成、アーティストとファンのエンゲージメント醸成が結果的に生み出すことを目指す動きが盛んです。
海外に目を向けると、3大メジャーレーベルと云われる、ユニバーサルミュージック、ソニーミュージック、ワーナーミュージックが、積極的に音楽サービスへ投資を行っています。
2008年にサービスを開始し現在最大ユーザー数を誇る「Spotify」には2009年の段階で3大メジャーが資本参加しています。さらにインディーズレーベルの団体Merlinも小規模の株式を保有しています。
フランスを拠点に世界180ヶ国以上に展開する「Deezer」にも、3大メジャーがそれぞれ出資して各社20%の株式を保有しています。Deezer最大の株主はワーナーミュージックの親会社で、ロシア人の投資家レン・ブラヴァトニック(Len Blavatnik)率いる投資会社Access Industriesです。
定額制音楽配信サービス以外では、音楽認識アプリ「Shazam」に3大メジャーレーベルは資本参加していおり、2014年に各社300万ドルのShazam株式を取得しました。
ワーナーミュージックはベルリンのSoundCloudに出資し株式を5%所有しています。
変わったところでは、ユニバーサル・ミュージック・グループは、アップルが2014年に30億ドルで買収したBeats ElectronicsおよびBeats Musicに投資していたことが、後に判明。保有していた13%の株式を売却し4億ドル以上を手にしたことが明らかになっています。
何がこれまでと大きく違うかというと、レコード会社の役割はアーティストの発掘から作品のプロモーションとファンの育成を促進するためのR&Dやマーケティングという基本的な軸に変わりはないものの、その手法がテクノロジーへの「投資」という形に変化しているということが言えます。
レーベルが「投資」するなんて、音楽の会社らしくない!という意見も、今の日本ならあるかもしれません。ですが、デジタル音楽プラットフォームを媒介にしたリスナーのコンテンツ消費がスタンダードになり、これまでのようなマスメディアを使ったプロモーション戦略が変化している現代の音楽ビジネスの世界では、デジタル音楽サービスがレーベルにとっては新しいマーケティングのプラットフォームでありA&Rの場所となり始めています。
特に定額制音楽配信に代表される「音楽ストリーミング」が世界的に普及することによって、音楽コンテンツから利益を上げるまでのサイクルが、「アルバム売上」から中長期的に音楽を体験してもらうモデルへと変わったことがビジネスをするレーベル側として最も大きな影響となっています。音楽サービスへの投資は、音楽産業が次世代のリスナーを作り、アーティストを育てるために必要不可欠と考えるメジャーレーベルも存在するほどに、業界内でも意識が変化し始めました。
したがって、AWAにユニバーサルミュージックが資本参加することも、世界的な音楽ビジネスの流れから見れば標準と考えられ、当然の流れとも言えます。
レーベルのコンテンツとプラットフォームが連携することは、ビッグデータ活用やデジタルマーケティング、新人育成の分野でも、これまでのメディアでは実現できない施策が実施できる可能性が高まりリスナーに音楽と新しい関係(触れ合い方)を提供できるという、お互いにとってWin-Winな関係が、日本でも生まれ始めているその第一歩を進みだしたのが、AWAやLINE MUSICと言えるかもしれません。定額制音楽サービスが日本でも確実に勢いを増して広がる中で、音楽ビジネスはどうリスナーの環境に適応して変われるのかが、今後市場が拡大していくために考えられる可能性の一つであるはずです。今後も世界や日本での音楽サービスとレーベルの関係は注目していきたいです。
■記事元:http://jaykogami.com/2016/02/12724.html
記事提供:All Digital Music