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苦戦続きの音楽配信サービス「Tidal」CEOがわずか18カ月で退任、Spotify、Apple Musicと差は詰められるか

コラム All Digital Music

苦戦続きの音楽配信サービス「Tidal」CEOがわずか18カ月で退任、Spotify、Apple Musicと差は詰められるか

ヒップホップ・アーティストで起業家であるジェイ・Zが代表を務めている、定額制音楽ストリーミングサービス「Tidal」(タイダル)が苦戦しています。Tidalは、最高経営責任者(CEO)ジェフ・トイ(Jeff Toig)の退任を明らかにしました。SoundCloudのチーフ・ビジネス・オフィサーだったトイの在任期間はわずか18カ月と短命であったことも驚きですが、Tidalはわずか2年で3人もCEOが交代する先行きの見えない経営状況にあります。

2015年12月からCEOに就任したトイ以前には、2015年6月にピーター・トンスタッド(Peter Tonstad)がわずか2カ月でTIdalを去り、2015年4月にアンディ・チェン(Andy Chen)が買収の組織改編の煽りを受けて退任しました。またトイは、2017年3月の時点ですでにTidalを離れていたとも言われているだけに退任の謎が深まります。

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Billboardに対してトイの退任を明らかにしたTidalは、「数週間以内に新たなCEOを発表する予定」があることを明らかにしています。しかし、Tidalとジェイ・Zは、退任理由については何も語っていません。

TidalのCEO交代は、1月にソフトバンク傘下の米モバイル事業者スプリントがTidalの株式33%を獲得したことに関係するかもしれないとの見方があります。スプリントとの資本提携を受けて、Tidalは2億ドルの資金を企業価値6億ドルで調達し、スプリントCEOのマルセロ・クラウレ(Marcelo Claure)が取締役にも就任しました。トイの功績をあげるとすれば、この資本提携を実現させたことと見てとれますが、スプリントとの協力関係実現からわずか数カ月での退任となれば、両者のすれちがいを疑わざるを得ません。

先行き不透明なTidal

SpotifyやApple Music、Deezer、Google Play Musicなど定額制音楽ストリーミングサービスが成長を続け、新しい施策を打ち出して市場を盛り上げている中で、Tidalは世界52カ国に展開し2016年3月には、有料会員数は300万人を達成したと発表しましたが、後の調査でTidalが発表数値を水増ししていたことが明らかにされ、現状は120万人と言われています。

Spotifyは3月に5000万人の有料会員を達成したと発表、順調にユーザー規模を拡大しています。またアップルも2016年12月にApple Musicが2000万人を突破したことを明らかにして、6月のWWDCではまた新たな数値が発表されることに期待が集まっています。

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音質を差別化要因の一つと考えるTidalは、320kbps AAC圧縮音源の月額9.99ドルの「Tidalプレミアム」と、CD音質(FLAC 16ビット/44.1kHz)の月額19.99ドルの「Tidal HiFi」の2オプションに加えて、2017年1月にはスタジオマスターと同じ高音質を再現する音源フォーマット「MQA」(Master Quality Authenticated)に対応した「Tidal Masters」を発表しました。

参考記事:MQAの可能性 (MERIDIAN AUDIO メリディアン・オーディオ)

しかしライバルのSpotifyやApple Musicは、さらなる有料会員の獲得を目指して、プレイリストのレコメンデーションやキュレーションの最適化におけるアルゴリズムやプレイリスターの強化から、AI、スマートスピーカー連携への投資と、あらゆる策を取っています。Spotifyはニューヨーク・タイムズやTinderといったメディアやウェブサービスと連携するなど、音楽業界に縛られない領域への進出に積極的です。またアップルは昨年Tidal買収の噂が報じられるなど、すでに市場でのプレゼンスを確立した感があります。

SpotifyやAppleの動きが活発となり、SoundCloudやPandoraといったかつての大手音楽サービスが失速する中、後発のTidalには株主からかかるプレッシャーは相当大きいはずです。CEO退任は、Tidalの経営立て直しの一貫なのか、それとも身売りなど大胆な方向修正の始まりなのか、今後の動きに注目が集まります。

■記事元http://jaykogami.com/2017/05/14056.html


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Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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