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作曲家がロイヤリティ支払額を把握できる専用アプリ、音楽出版大手のBMGが作曲家と共同開発

コラム All Digital Music

世界の音楽出版社たちが、アーティストや作曲家の「ロイヤリティ料」を受け取る環境を改善するため動き出しています。

 

大手音楽出版社のBMGは、作曲家と共同で開発したロイヤリティ料トラッキングアプリ「MyBMG」を一般公開しました。アプリはiOSAndroid向けに提供されます。

 

MyBMGではロイヤリティ料に関する詳細な情報が提供され、国別、曲別、配信先別の収益額や、ロイヤリティ分配の推移などを把握することが可能になっています。BMGは今年3月に作曲家やレーベル、マネージャー向けにデザインされたロイヤリティ料管理専用ウェブポータル「MyBMG」を公開しており、アプリはその取組みの一貫となっています。

 

ロイヤリティ料管理専用ウェブポータル「MyBMG」

 

アプリ開発には、イギリス出身のユニット「ユーリズミックス」のデイヴ・スチュワート(Dave Stewart)、2016年にグラミー賞最優秀R&Bアルバム賞にノミネートされた作曲家のジェン・デシルヴェオ(Jenn Decilveo)、ミュージカル『ファントム』『NINE』の作曲家モウリー・イエストン(Maury Yeston)がコンサルタントとして参加していることもあり、BMGはアプリが作曲家の意向を反映したアプリであることを強調しています。

 

 

ロイヤリティ料管理専用ウェブポータル「MyBMG」

 

 

 

利益分配システムに求められる透明性

 

BMGの戦略では、2017年内にポータルとアプリを作曲家や権利関係者だけでなく、BMGと契約するアーティスト向けに拡張する予定で、世界中で配信する楽曲からの収益情報を正確かつ詳細に把握する環境を整えていきます。テクノロジーを活用して、クリエイター視点で複雑なロイヤリティ料分配に関する情報に「透明性」(Transparency)をより高めていこうとするBMGの動きは、音楽業界全体で近年問題視され解決を目指している大きな課題の一つとなっています。

 

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音楽ストリーミングサービスが世界的に普及しつつある現代では、これまでのCDやダウンロードとは全く違うスピードでコンテンツの流通量が急増するため、楽曲再生からの利益分配を把握するためのアプリやツールの必要性がより高まっています。特に、作曲家やアーティスト、レーベルの担当者、マネジメント会社やマネージャーからは、クリエイターたちに与えられた「権利」で約束された利益をいかにして最大化できるかという過程への情報開示を要求する声を挙げてきたこともあり、音楽ストリーミングサービス各社やロイヤリティ徴収団体は”ブラックボックス”だった利益分配のシステムにさらなる透明性を高めるため対策が求められています。

 

アプリ共同開発に関してスチュワートは次のようにコメントしています。

 

このアプリは素晴らしいツールであると同時に、著作権が誕生して以来のどから手が出るほど求められてきた、多くの作曲家が置かれている立場を理解するための手助けをする優れた戦略です。

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なぜ音楽出版社がテクノロジーを活用したアプリ開発の取り組むのでしょうか? それは、デジタル音楽、特に音楽ストリーミングサービスの台頭によって生まれた、収益分配の公平なシステムを目指す音楽業界全体の動きと密接に関連しているからです。

 

2015年には、低迷するパッケージ・ビジネスを尻目に、デジタル音楽ビジネスが世界の音楽業界で売上の50%以上を占める状態へと移り変わる中、特にダウンロードから音楽ストリーミングへと音楽消費が急変する潮流が起きたことで、収益構造に亀裂が生まれ始めたことが、アーティストや作曲家の将来に影を指す問題が浮上してきました。

 

世界の音楽業界を代表する業界団体「国際レコード産業連盟」(IFPI)では、ソングライターやクリエイターへの公平な利益分配を主張し続けるスタンスを取り続け、2016年には音楽ストリーミングによって生まれる不均等な利益分配の問題を「バリューギャップ」(利益の乖離)と名付け、状況の改善を音楽サービスや政治レベルで行うよう訴え続けてきました。

 

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急速に発展する音楽ストリーミングサービスや、モバイルデバイスでの音楽再生により、音楽史上類を見ない勢いで伸び続ける音楽コンテンツ消費量に対して、対等な利益がクリエイティブコミュニティに分配される仕組みが整っていない現在のクリエイティブの環境を変えるべく、2016年には1000人以上のアーティストや作曲家が連名でEUにアクションを要求する書簡を提出するなどして、世界的に音楽業界が利益分配に透明性と公平性を求める動きが強まっています。

 

この運動はアーティストだけに留まらず、作曲家や作詞家レベルにも広がり始め、より透明なロイヤリティ料支払いプロセスを求める動きが高まり、音楽出版業界もテクノロジーを活用したビッグデータ・モニタリングツールや解析ツールの開発に注力するなど、既存のシステムを刷新する新たな取組みを始めています。

 

TuneCoreなどデジタルディストリビューターや、BMIASCAPなどデジタルロイヤリティ徴収団体も、利益分配に関する情報を積極的に開示するだけでなく、サービスを利用する作曲家向けのロイヤリティ管理ツールを提供するなどして透明性を促し、音楽業界全体の動きを活性化する一端を担ってきました。

 

こうした動きが、中小規模の音楽出版社だけでなく、大手の企業にアクションを起こすキッカケとなり、アーティストや作曲家への利益を最大化する目的を果たすためデジタルテクノロジーの導入は必要不可欠な段階にまで来ていると言えるでしょう。音楽ビジネスがグローバル化するのは、何も音楽ストリーミングサービスだけではなく、今やレーベルや音楽出版社もかつてないほどの勢いで「グローバル化」と「デジタル化」の波に直面しています。音楽出版社がどのように音楽ストリーミングサービスと共存し、向き合うかは、音楽ビジネスの未来のカギと言っても過言ではないでしょう。

jaykogami
記事提供All Digital Music

Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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