ライブ・ネイションのマイケル・ラピーノCEOが契約更新、2022年まで異例の長期政権
世界最大のライブプロモーション会社「ライブ・ネイション」(Live Nation)のCEOであり、ライブビジネス業界で最も影響力がある人物の一人として知られる、マイケル・ラピーノ (Michael Rapino)が契約を更新し、2022年までCEO職に留まることが明らかになりました。
契約期間は2017年11月1日から2022年12月31日で、基本給は年俸300万ドル(約3億4000万円)。さらに600万ドル(約6億7000万円)の年次ボーナスを受け取ることができます。
またライブ・ネイションは、ラピーノを取り巻く取締役との契約更新にも成功。最高執行責任者のジョー・バーチトールド(Joe Berchtold)はラピーノが兼務していた社長に昇格。法務顧問のマイケル・ロウレス(Michael Rowles)、最高財務責任者のキャシー・ウィラード(Kathy Willard)もそれぞれ2022年まで契約を延長しました。
ラピーノの長期政権が続くライブ・ネイション
51歳のラピーノは、2005年にライブ・ネイションのCEOに就任して以来、異例の長期政権を築いてきました。
「ライブ・ネイション」という会社組織は複雑で、複数のグループ会社から成り立っています。ラピーノは「ライブ・ネイション・エンターテインメント」(Live Nation Entertainment)のCEO兼社長を2010年から務めており、2022年まで歴任すれば17年に及び、世界のライブビジネスの頂点に君臨することとなるでしょう。
2010年以前、彼は「ライブ・ネイション」が設立された2005年にCEOに就任しました。ライブ・ネイションは、元はアメリカにあるメディア企業大手「クリア・チャンネル・コミュニケーション」の傘下にいたイベントプロモーション会社で、2005年12月にスピンオフし、独立企業として同月にNYSEでIPOを実現させました。
クリア・チャンネル・コミュニケーションという大手企業も、現在は全米で人気のラジオ型音楽ストリーミングサービス「iHeartRadio」を運営するiHeartMediaの親会社「iHeartCommunications」と社名が変わっています。この辺りの音楽業界の再編は移り変わりが早いですね。
ラピーノ就任後のライブ・ネイションは、コンサートビジネスの領域で、会場の直接運営と海外展開を強化。ロンドンのウェンブリー・スタジアムの運営権15年分を獲得したことを皮切りに、「House of Blues」など世界各地のスタジアムやアリーナの運営権を獲得し始め、アーティストのツアーやコンサートの運営で有利な立場に立ってきました。
音楽業界を震撼させたライブ・ネイションのもう一つの戦略は、アーティストとの直接契約。マドンナやU2、ジェイ・Zといったアーティストたちと巨額の契約金で契約、ライブやツアーだけでなく、グッズ販売や、マドンナの著作権まで、ビジネスにおけるパートナーとしてアーティストの活動のマネジメントに参入していきます。現在、ライブ・ネイション・エンターテインメントではマネジメント会社「アーティスト・ネイション」(Artist Nation)が事業4本柱の一つとして機能しています。
ラピーノ下で最も重要な功績といえば、2009年のチケット販売最大手の「チケットマスター」(Ticketmaster)の買収ですね。これによって2社が合併し「ライブ・ネイション・エンターテインメント」設立となり、ライブプロモーションとチケット販売、アーティストマネジメントのビジネスを傘下に収めたグループのトップに、ラピーノがCEOとして就任することとなりました。
こうした歴史と組織編成によってライブ・ネイションは、現代のライブ・ビジネスにおいてあらゆるビジネスにいち早く進出し、競合他社に競り勝ってきた歴史があり、マイケル・ラピーノを音楽業界の中で最もパワフルなビジネスパーソンと呼ぶ者が後を絶ちません。
2010年代に入り、ライブ・ネイションは、テクノロジーを駆使したライブビジネスのIT化を促進、チケットの転売プラットフォームの開発や、音楽フェスとITの連携、さらに人気音楽フェスプロモーターの買収や提携を進め、EDMなど人気ジャンルのフェスビジネスに参入。時代に沿った音楽体験をファンに届けるため常に一歩先を読んだ戦略を描くことから、ラピーノがライブビジネスのゲームチェンジャーであることに異論の余地はなく、彼とライブ・ネイションの動向からは、グローバルスタンダードなライブビジネスの世界が見えてくるはずです。
記事提供:All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
音楽ビジネスとデジタルテクノロジー専門メディア「All Digital Music」を立ち上げ編集長を務める。「世界のデジタル音楽」をテーマに、音楽とデジタル・エンターテイメントを取り巻くテクノロジー、ビジネストレンド、音楽スタートアップなどに特化した執筆・取材・リサーチ活動を行う。音楽ビジネスジャーナリストとして、「Sonar+D」(バルセロナ)や「MUTEK」(モントリオール)など、海外の音楽カンファレンスや業界イベントを現地で取材するなど、グローバルな視点から、クリエイティブとビジネスを横断した取材を国内外で数多く行っている。これまで「WIRED.jp」「オリコン」「Real Sound」「BLOGOS」「ワールドビジネスサテライト」など、オンラインメディアや経済メディアでクリエイターから経営者、起業家までの幅広いインタビューや、音楽ビジネスやテクノロジーに関する寄稿記事を手がける他、業界向けの講演や、企業コンサルティングを幅広く行う。
プロフィール
Twitter
Facebook