ライブチケットの顔認証スタートアップ「Rival」が3300万ドルの資金調達。チケット転売市場の健全化を狙う
全米最大のチケット販売サービス「Ticketmaster」のCEOを務めたネイサン・ハバード(Nathan Hubbard)が、2年間ステルスモードで「顔認証」技術を活用したチケット流通のスタートアップ「Rival」を運営し、3300万ドル(約35億円)以上の資金を投資家から調達していたことが、ウォール・ストリート・ジャーナルによって明らかにされました。
ロサンゼルスを拠点にするRivalは現在ベータ状態ですが、出資しているのは、Twitterの元CEOディック・コストロ(Dick Costolo)、Slackのチーフ・プロダクト・オフィサーのエイプリル・アンダーウッド(April Underwood)、Stripeの共同創業者パトリック・コリソン (Patrick Collison)とジョン・コリソン(John Collison)、Andreessen Horowitz、Upfront Venturesなどが名を連ねます。
Rivalは米メジャーリーグスポーツや英サッカーチームがクライアント
興味深いことに、Rivalのクライアントの中には、ライブ会場となるスタジアムやアリーナに加えて、非公開ながらイギリスのプレミアリーグのチーム、アメリカのメジャースポーツリーグなど、スポーツビジネスのチームが名を連ねており、導入に期待が高まります。
Rivalは独自の顔認証技術をTicketmasterやAXSのような大手チケット販売サイトや、StubHubなどチケット転売サイトに連携させた、安全かつ最適化されたチケット販売と流通の手法を提案しようとしているのです。
https://www.stubhub.com/kendrick-lamar-tickets-kendrick-lamar-oakland-oracle-arena-5-9-2018/event/103431879/?sort=price+asc
(チケット転売大手StubHub。米オークランドのオラクル・アリーナで開催されるケンドリック・ラマーの転売チケットを選ぶ際、座席個別の価格やステージまでの景観写真まで提供してくれる)
昨今のライブビジネス業界は、世界中がイベントや音楽フェスで盛り上がりを見せる裏で、イベントプロモーターや会場運営者たち高額な価格を提示する転売サイトや違法なダフ屋によって起きるチケットの買い占めや不適切な流通価格に悩まされ続けています。
オンラインチケットと生体認証技術を組み合わせることで、チケットの購入者情報を把握するだけでなく、実際のチケット利用者に関するデータ、さらには転売サイトでチケットを購入した相手のデータ、といったチケット購入から実際の利用までチケット流通のデータを結びつけて、違法なダフ屋や転売ボットの介入を防ぎ、イベント会場やプロモーター、アーティストの悩みを軽減することがRivalのゴールです。
電子チケットや紙チケットの発行も、Rivalはオプションとして提供します。そうした物理的なチケット発券には、顔認証が「写真付きID」の代わりとしてイベント入場に最適化できます。
ライブ市場で広がる顔認証とセキュリティの意識
顔認証技術を導入することで、イベント会場やフェス運営のセキュリティを向上させることも、Rivalの狙いです。既存のチケット転売サイトでは誰が実際にライブ会場に来るか情報があやふやに成りがちな問題を、顔認証とデジタルIDで注意するべき人物の特定の確立を高めることにもつなげられるからです。
日本では浸透しつつある「写真ID」持参のイベント入場と違い、顔認証技術の導入は米国のメジャーなイベント会場でも始まっています。ニューヨークにある有名な会場「マディソン・スクエア・ガーデン」では今年3月に会場の安全確保の目的で、顔認証をゲートに採用して来場者をスキャンしていたことが報じられました。
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日本でも、ももいろクローバーのドームコンサートでNECの顔認証技術が導入された事例なども徐々に登場しています。
RivalのハバードCEOの古巣であるTicketmasterも、顔認証技術をライブビジネス業界向けに提供するスタートアップ「Blink Identity」に出資することを発表したばかりです。
2017年にアリアナ・グランデの英国マンチェスターでのライブ会場爆破事件や、2015年のフランス・パリでのDeagles of Death Metalのライブにおける虐殺事件、2016年の米オーランドのクラブでの発砲事件と、昨今のライブビジネス業界では、来場者の安全確保と運営上のセキュリティ管理へのニーズは高まるばかりです。
日本では海外で起きているライブ会場での銃乱射、爆破、暴動騒ぎといった大規模な犠牲者がでる事件とは無縁で、安全性確保への対策といえば、会場入口での荷物検査が主です。しかしながら、チケット購入者や転売チケットの購入者が今後も絶対安全である可能性はゼロではありません。
Rivalが目指すチケット転売市場の健全化
Rivalの提案は、チケット利用者を把握することは、イベントに参加したファンや消費者のデータを取得しながら、会場のセキュリティ向上につなげられるという、ライブ業界の課題を同時に解決しようとすることです。
特に、世界のライブビジネス市場では、違法なダフ屋行為やチケットボットに対する法的処置や対策を講じると同時に、合法かつ安全なチケット転売サービスの立ち上げを進めてきました。こうした取り組みによって、今やチケット転売市場(Secondary Ticket Market)と転売サービスの存在は、チケット販売市場とチケットプロバイダー(Primary Ticket Market)と同じほど、今後のライブビジネス業界で重要なビジネスとして注目されるまで、市場が変化してきました。
Rivalが狙う市場は、チケット転売市場の合理化の向上。特に、転売チケットの利用者までを把握できれば、特定のターゲットを対象とした座席のアップグレードや、飲食のディスカウント、チケット・パッケージの販売なども提供可能となり、さらなるイベントや会場での収益拡大が見込めます。
RivalのハバードCEOは、いつの日か、人がチケットを持つこと無く、顔認証でイベントに参加できる日が来ると語ります。
ユーザーの視聴行動をデータ化し最適なレコメンデーションに活用する音楽ストリーミングのように、ライブエンターテイメントも参加者の属性や行動データを重要なインサイトとして活用すれば、満足度の高いイベント運営と収益拡大に繋げることも可能なはずです。Rivalのようなサービスの出現は、チケット販売事業がもはや決まった枚数を捌くだけの構造から、質の高いデータを取得して利益拡大の可能性を探る構造へ進化していることを意味しています。
CC image by Exit Festival via Flickr
記事提供:All Digital Music