「次世代の音楽レーベル」を目指すスタートアップAmuse、1550万ドルを調達
スウェーデンのストックホルムに拠点を置く音楽スタートアップ「Amuse」(アミューズ、日本の『アミューズ」とは別の会社)が、5月に1550万ドル(約17億円)の資金をシリーズAで調達しました。
Amuse最大の特徴はアーティストが無料でSpotifyやApple Music、Deezer、Tidalなど主要な音楽ストリーミングサービスへ楽曲を配信できる機能を搭載している点。iTunes、YouTube、Pandora、Shazamなど音楽サービスへの楽曲提供にも対応しています。
Amuseの開発したモバイルアプリは、音楽ストリーミングに楽曲を配信したい無名アーティストやDIYアーティストにとってコスト効率と利便性の高さで他社サービスとの差別化を図ります。
アーティストは、Amuseに登録後、ツールに楽曲データ(WAVまたはFLAC)と関連情報をアップすれば、各サービスへの配信作業はAmuseが行います。サービスから承認プロセスが完了すれば配信開始となり、Amuseアプリで提供されるデータ分析ダッシュボードによって、再生状況やダウンロード回数が随時確認できます。楽曲の原盤権はアーティストが保有し続けます。
また、Amuseはロイヤリティを100%アーティストやレーベルに還元します。ロイヤリティの支払いは、再生回数に応じて各自が回収することができる仕組みを取っています。
TuneCoreやCDBabyといった一般的な音楽ディストリビューションサービスやアグリゲーターは、レベニューシェアやサービス使用料を徴収するため、完全無料サービスはAmuseの強みの一つと言えます。
いち早く楽曲を聴いて欲しいアーティストやレーベルの支援を目指すAmuseは、無償の音楽ディストリビューションサービスと、新たに調達した資金で、ロサンゼルスに拠点を構え、欧米展開の拡大を目指します。
Amuseが公開している他社ディストリビューションサービスとの違いをチャート化したのがこちら。
ですが、Amuseはフリーのディストリビューターとしての将来性よりも、よりアーティストを直接支援する大きな音楽ビジネスモデルを目指しています。
音楽業界、アーティストが集まるスタートアップAmuse
2015年の創業以来、これまで個人投資家から資金を集めてきたAmuseですが、今回投資を行ったのはスイスの投資会社Lakestar、Raine VenturesのVC2社。
Lakestarは過去にSpotifyやMaker Studiosへの投資を行ってきたVCです。Raine Venturesのパートナーであるゴードン・ルビンスタインが取締役として参画します。
また、元ソニーミュージック・インターナショナルのCEOエドガー・バーガー(Edgar Berger)と、元ワーナーミュージックグループの取締役で、Access Industriesの投資家ヨルグ・モハプトが取締役会に座っています。
創業者は5人チームで、デザイン&UX責任者のクリスチアン・ウィルソン(Christian Wilson)はSpotifyでデザイン責任者を2010年から2016年まで務めた人物。マーケティングディレクターのアンドレアス・アーレニアス(Andreas Ahlenius)は、ユニバーサル・ミュージック・スウェーデンでデジタルセールス責任者まで努めてきました。
さらに2017年には、共同創業者として音楽グループ「ブラック・アイド・ピーズ」のリーダーでプロデューサー、起業家のwill.i.amが参画しています。
Amuseのビジネスモデル
Amuseは、無料の音楽ディストリビューションと分析機能の提供だけにとどまらない、ユニークなビジネスモデルを構築しています。その形式は「音楽レーベル」を進化させることにヒントがあります。
Amuseはアプリ利用者に提供しているデータを元に「無名の新人クリエイターたち」を発掘、有望株と思われる未知のタレントとパートナー契約を結び、ビジネスやマーケティング、ライセンシング、PRなど、クリエイター向けのサービスを音楽レーベルとして提供していきます。レーベルとライセンス契約を結んだアーティストを育てつつ、Amuseは彼らの楽曲がストリーミングおよびダウンロードで得た収益を50/50で分配します。
すでにライセンス契約では40組以上のアーティストがAmuseと契約を交わすほどに成長しています。
その中の一人、ストックホルムに拠点を置くラッパーのAdelは、Amuseの無料配信サービスを使って2017年に発表したトラック「Skina」がスウェーデンでプラチナム・ディスク認定(売上換算で3万枚セールス)されるという成功を収めます。その後AdelはAmuseとレーベル契約を結び活動を続けています。
CEOのディエゴ・ファリアス(Diego Farias)はBillboardの取材に対して「いまの若手アーティストたちは権利を他の誰かに売るというアイデアに賛成しない。私たちは、それは音楽ビジネスの未来ではないと考えて、その方法の追求は止めました。真に理解しないといけないのは、(データの)透明性と才能であって、アーティストのパートナーとなることであって、それが現代の多くのアーティストたちが求めていることだと考えています」と語っています。
アーティスト契約でもマネジメント契約とも違なるパートナーシップという形式こそが、Amuseが進めている新しい音楽ビジネスのスタイル。
DIYアーティストやインディーズアーティストが、音楽市場で自由に作品を発表できる環境作りを、フリーのディストリビューションサービスと、音楽レーベルのハイブリッド型モデルで発展させようと考えます。
それゆえにAmuseは「世界初モバイルレコード・レーベル」と呼ばれていますが、音楽業界の既存概念や構造が下げてきた透明性の改善を進めている点を踏まえても「次世代の音楽レーベル」として今後の活動に期待が高まります。
記事提供:All Digital Music