トヨタが北米で音楽フェスに投資する意外な理由。107%ビュー数増加がもたらす効果
トヨタがGPUメーカー大手NVIDIAと提携を進め自動運転車へのAI導入を加速させるなど、アメリカでの先進的テクノロジー企業との連携を積極的に行っている話題は日本でもよく聞かれる。
しかし、トヨタが若者消費者にリーチするため、数万人規模を動員する音楽フェスティバルに積極的な投資を行っている事はあまり知られていない。
北米事業を統括するトヨタ・モーター・ノース・アメリカは、音楽フェスを無料で動画ライブ配信する取り組みを2016年から行っている。
トヨタと音楽フェスのライブ動画配信
彼らはVerizonが運営する、AOLとYahoo!を統合したメディアテクノロジー企業Oathと手を組み、Yahoo! Musicなどのプラットフォームを通じてライブ配信を行い着実に視聴数を伸ばし続けてきた。
トヨタとOathがライブ配信した音楽フェスは「Firefly Music Festival」「Panorama」「Life Is Beautiful Music & Art Festival」「Voodoo Music + Arts Experience」の4つだ。2018年には毎年カリフォルニア州インディオで開催される大型カントリーミュージック・フェス「Stagecoach Festival」も追加された。
例えば毎年ニューオーリーンズで開催されるVoodoo Music Experienceを例にあげてみたい。2017年にはヘッドライナーにケンドリック・ラマー、フー・ファイターズ、LCD Soundsystemが揃い、他にはPost Malone、Rich Brian、RL Grime、Kehlaniなどが出演した。
チケット価格を見てみると、Voodoo Music Experienceは3日通しチケットが155ドル、金/土曜日は70ドル、日曜日は80ドルと手の届きやすい価格に設定されている。
ライブ動画配信がもたらす効果
動員規模は9万〜14万人レベルで、音楽のジャンルも多様性に富む。なによりもミレニアル世代のコンテクストと文化を加味したアーティストのキュレーションで評価の高いフェスと組んでいることがこれらのフェスの特徴だ
2017年にトヨタとOathがライブ配信した音楽フェスの視聴数は8300万ビュー以上に達し、2016年から年比較で107%も増えており、平均視聴時間も前年から26%増えて15分に増加しているとのこと。
Oathとの提携により、トヨタはミレニアル世代に向けた広告ターゲティングを動画ライブ配信で行っている。音楽との結びつきを強めた結果、18-24歳の自動車の購入を検討する人が23%も増加したことが分かった。
2016年、2017年と続けてきた音楽フェスの動画ライブ配信がトヨタにプラスな結果をもたらしたことで、彼らは2018年に更なる改善を加え、ライブ配信におけるユーザー体験の向上を目指している。
その一つが、マルチステージの同時ライブ配信で、これはユーザーが一つのライブセットを見続けるよりも、いくつものステージをザッピングして視聴することが好きだと分かったからだった。
日本では今年のフジロックでYouTubeでの無料動画ライブ配信が発表された。日本では前例を見ないこのライブ配信をスポンサーするのはソフトバンクだ。
日本の音楽業界にとってフェスの動画ライブ配信がもたらす効果については未だに賛否両論ある。
ただその論点は、トヨタの事例やデータのような消費者とのエンゲージメントの側面から見た結果によって今後大きく変わるだろう。
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実際にトヨタが音楽フェスの動画ライブ配信をスポンサーすることは、企業やブランドにとって、費用対効果を向上させる目的でブランドや企業の広告活用に変わるものになる可能性が考えられる。アメリカで有数の音楽フェス、コーチェラ・フェスティバルで動画ライブ配信をスポンサーしていたのは、モバイルキャリアのT-Mobileだった。そして昨年ダンスミュージックフェス、Ultra Music Festivalをスポンサーしたのは、パラマウント・ピクチャーズとドリームワークスピクチャーズ(映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』の広告)に加えて、全米各地に展開するギター販売の小売チェーン最大手「ギターセンター」だ。
少なくとも、動画ライブ配信は、若者消費者や本物の音楽カルチャーを志向する世代に対するブランドのマーケティング手法として確立されていることが言える。
大規模な音楽フェスでの動画ライブ配信が音楽ファンや消費者、メディアにとって受け入れられた今、企業やブランドもこうした手法を効果的かつクリエイティブに活用し始めているのだ。
これまで音楽イベントに関連するマーケティングや広告の領域で大きな価値を企業に示してきた、音楽番組生中継の広告枠や、フェスの冠スポンサーなどの手法も、その存在意義が問い直される時期を迎えていると言える。
Photo: Facebook
記事提供:All Digital Music