ラテン音楽レーベルのFANIAレコード、3000万ドルで買収。権利ビジネスに勝算
1964年にニューヨークで設立された、ラテン音楽専門のレコードレーベル「ファニア・レコード」(Fania Records)が、独立系レーベル/音楽出版社のコンコード・ミュージック(Concord Music)によって買収された。
買収金額は推定3000万ドル(約33億円)。コンコード・ミュージックは3000枚のアルバムおよび8000曲の原盤権と著作権を取得する。
ファニア・レコードは、1970年代で世界的人気を博したサルサやラテン・ジャズ、ブーガルーのアーティストたちの楽曲を数多く保有している。その中にはウィリー・コローン(Willie Colon)、セリア・クルース(Celia Cruz)、エクトル・ラボー(Hector Lavoe)、エディ・パルミエリ(Eddie Palmieri)、ファニア・オールスターズなど、アメリカ音楽史に大きな功績を残した音楽家たちが含まれる。
しかし、コンコード・ミュージックの狙いは、若者の音楽層へのリーチにあるようだ。そのヒントは世界的な大ヒット曲となったカーディ・Bの「I Like It」だ。
若者音楽市場向けの音楽権利ビジネス
プエルトリコ出身のBad Bunnyと、コロンビア出身のレゲトン・シンガーのJ Balvinをフィーチャーしたラテン・トラップ「I Like It」は、4月にアトランティック・レコードからリリースされたカーディ・Bのデビュー・アルバム「Invasion of Privacy」に収録され、BillboardのHot100で1位を獲得するほど2018年を代表する大ヒットとなり、Apple MusicやSpotifyなど音楽ストリーミングサービスや、iTunesストア、YouTube、ラジオと、あらゆる場所で人気を集めている。
この曲がサンプルしたのが、1967年にピート・ロドリゲスがリリースしたサルサレコード「I Like It Like That」である。そして、同曲の権利を保有しているのがファニア・レコードだ。
2017年に世界的ヒットとなったルイス・フォンシの「Despacito」や、カミラ・カベロの「Havana」、今年リリースされたジェニファー・ロペスとDJキャレッドの「Dinero」に代表されるように、ラテン音楽の人気はジャンルや国都市を超えて拡大している。この勢いを後押ししているのは、音楽ストリーミングの力だ。
Nielsen Musicのデータによれば、ラテン音楽の消費は82%が音楽ストリーミングサービスで起きている。この傾向は音楽ジャンルの中で最大で、ヒップホップやダンスミュージックの消費は79%だ。
またラテン音楽の人気拡大の背景には、カーディ・Bの「I Like It」に見られるように、世界規模の音楽トレンドを取り込んだサウンドプロダクションの変化も影響している。
近年の音楽で人気を集めているレゲトンやダンスホール、トロピカルハウスのアーティストたちが、ヒップホップ、トラップ、R&Bのアーティストたちとラテンのトラックでコラボレーションし、複数のジャンルをクロスオーバーする楽曲でチャート入りを狙う戦略が盛んだ。また、J Balvinのようにスペイン語のみでラップするアーティストとのコラボも増えるなど、スペイン語のリリックを前面に打ち出したトラックにも抵抗感が低い。
世界のトレンドをいち早く取り入れるK-POPでもラテン音楽への注目は高まる。BTSが最新アルバム『Love Yourself: Tear』でラテントラック「Airplane pt.2」を収録し、Super Juniorが「Lo Siento」をリリースしている。
コンコード・ミュージックのCEOスコット・パスクッチ(Scott Pascucci)はインタビューで、「今回の買収は、今ポップチャートでヒットしている音楽だけに注力しないというコンコードの戦略を継続させます。チャートをクロスオーバーする曲を作ることには常に満足していますが、それ以上に私たちはメジャーレーベルが見落としているジャンルに注力していきます」と語っている。
コンコード・ミュージックは、近年の音楽出版業界で積極的に楽曲カタログの権利ビジネスを拡大している。2017年には、ダフト・パンクやマーク・ロンソンなどのヒット曲の権利を持つ音楽出版社Imagem Music Groupを5億ドルで買収した。
ファニア・レコードとは
ファニア・レコードは、1964年にニューヨークでアメリカ人弁護士のジェリー・マスッチ(Jerry Masucci)と、ドミニカ共和国出身の音楽家ジョニー・パチェーコ(Johnny Pacheco)によって設立された。
レーベル設立当初、二人はハーレムでトラックの荷台からレコードを手売りしていた。その一方で、ニューヨーク出身の若手アーティストたちを見出しレコーディングの機会を与え、プエルトリコやキューバ、ドミニカなどのスタイルを取り入れたラテン音楽で注目を集めていく。
1973年にヤンキースタジアムで行われたファニア・オールスターズの野外コンサートでは、ニューヨークに住むプエルトリコ人4万人以上が大挙して押し寄せ、大成功を収めた。
この伝説的なコンサートは「Live At Yankee Stadium, Volumes 1 & 2」として1976年にファニア・レコードからリリースされている。
しかし1980年代後半以降、ファニア・レコードの活動は縮小していった。2009年に投資ファンドのSignal Equity partnersがレーベルの資産を買い取り、運営会社であるCodigo Entertainmentを設立、カタログのデジタル化や再盤化に着手し出したことで、DJやアナログレコード愛好家、レコードストアを中心に再び注目を集め始めていた。
記事提供:All Digital Music