第15回東京国際ミュージック・マーケット開催、昨年を大きく上回る来場者数を記録
日本音楽の海外進出・交流を目的とした「第15回東京国際ミュージック・マーケット(15th TIMM)」が、10月22日から24日まで渋谷にて開催された。
10月22日・23日には商談会およびビジネスセミナーが渋谷エクセルホテル東急にて、また、22日から24日には、渋谷TSUTAYA O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、渋谷CONTACTの3会場にて計5本のショーケースライブが行われた。3日間の来場者数は5,710名(マーケット参加:2,915名、ライブ・パーティ参加:2,795名)を記録した。
商談会には38の企業や団体等が出展。世界15か国以上から集まった100名以上の海外バイヤーや日本の音楽関係者らと商談が行われた。
ビジネスセミナーでは、フジパシフィックミュージック代表取締役会長の朝妻一郎氏とアミューズ代表取締役会長の大里洋吉氏のキーノートをはじめ、日本アーティストの中国マーケット進出の可能性や課題、AI時代の音楽ビジネスなど、多岐にわたるテーマでセミナーが開かれた。
セミナー「アジアにおけるフェスティバルの可能性と現状」では、中国、韓国で開催されている最大級の音楽フェスティバルをオーガナイズするキーマンを招いてパネルディスカッションが行われた。中国をはじめ、近年増加し続けているアジア圏の大規模音楽フェスティバルには、多くのグローバルアーティストもブッキングされており、毎年日本からのアーティストも出演している。中国は、ラウド系やシティ・ポップ、ポストロックなどのアーティストにとくに興味が向いているようで、邦楽ロックは大物でないとむずかしいだろうとのこと。また、韓国の2018年現在のフェスパワーは、EDM系、ヒップホップ系、バンド系という序列で、バンド系は2012年から2013年にフェスが乱立したことにより、現在インターナショナルとしては減少しているとのことだ。中国・韓国ともに、オンラインによる音楽消費がほとんどであり、プロモーションにおいては、その国でよく使われているツール(アプリ)を把握し、音楽情報を登録しておくことが非常に重要だという。
「中国コピーラインのフロントライン―現在と今後」では、第一部にて、ジェトロのコーディネーターも務め、おもに中国の知的財産に関する法務ビジネス(海賊版対策)に従事している弁護士・弁理士より、中国の音楽市場と著作権管理制度の実態についての解説がなされ、第二部にて、中国で活躍するクリエイターより現地業界の慣習などが語られた。以前の中国は著作権ビジネスにおいては海賊版によりビジネスが成り立つ余地はなかったが、ここ6、7年くらいで中国のライセンス市場が整備されてきたという。コンテンツ産業(文化産業)の規模や影響が非常に大きくなってきたため、政府も慎重な審査の必要性を感じ、現在、関連政府部門の組織変更が実施されているとのことだ。だが、著作権料回収の実態としては、だんだん回収されるようにはなってきているものの、まだまだ完全にはほど遠いという。
「音楽とAIの現在地 〜そこから広がる音楽と地平〜」では、AI時代の音楽制作・音楽ビジネスの可能性、また音楽関係者は今からどのような意識を持つべきなのかなどについて、音楽とテクノロジーの両分野に精通したゲストによるパネルディスカッションが行われた。ラジオ番組「J-WAVE INNOVATION WORLD」から誕生したAIキャラクター「AI Tommy」に触れながら、作詞・作曲支援、スタジオでミックスする作業(デモ制作)、マーケティング(ヒット予想)など、音楽の制作現場におけるAIの運用実績を紹介。「AIにより作曲家の職が奪われてしまうのでは?」という問いには、AIをツールとして使えないミュージシャンは淘汰されてしまうかもしれないが、ツールとして使うことができれば新しい音楽が出てくる期待があるとした。また、課題としては、AIによる制作物の完成度(精度)や、著作権の帰属先、またAIだけを頼りにするクリエイターが増えることで音楽の多様性がなくなる可能性や、セキュリティの面などが言及された。
なお、朝妻一郎氏と大里洋吉氏によるキーノート「海外ビジネスへの終わりなき情熱」、また「海外デジタル&ソーシャル・マーケティング―攻略へのアプローチ」、一般社団法人日本音楽制作者連盟共催セミナー「中国における日本アーティストのプロモーションとライブ事情」については、詳細レポートを後日掲載する予定。
3日間を通して開催されたショーケースでは、計41組のアーティストが国内外バイヤーに向けてパフォーマンスを披露。初日には2つの会場でショーケースが開かれ、例年より多くのアーティストがパフォーマンスの機会を得た。特別企画として開催された音楽とテクノロジーをテーマにしたライブイベント「Music×Tech Showcase」では、透過型スクリーン「Wonder Screen」やアロマを演出に使用したアーティストパフォーマンスが披露され、立体音響の体験、また、オーディオビジュアルツール「TouchDesigner」に関するセミナーなども行なわれ、来場者たちに新たな音楽体験を提供していた。
ライター:坂本 泉(Izumi Sakamoto)
ロンドン在住、フリーランスのライター/エディター/フォトジャ
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