音楽レーベルはライセンス契約を再考する時代に。Bandcampがディストリビューション機能を強化
インディーズアーティストやプロデューサー、レーベル向けに、ファンへのコンテンツ配信を支援するオンライン音楽サービス「Bandcamp」は、ライセンス機能を強化している。
Bandcampは新たに「テリトリー・ライセンス」機能を、レーベル・アカウントおよびProアカウントユーザー向けに提供開始した。この機能は、レーベルやアーティストが国外で作品をリリースする際の「テリトリアル・ライセンス」を実現可能にする。
コンテンツを配信するレーベルは、各国のディストリビューション・パートナーにコンテンツを販売するライセンスをBandcampの設定画面上からワンクリックで付与することができる。他地域での購入が実現した際には、ディストリビューションパートナーと売上を分配するレベニューシェアが行われる。
通常であればライセンス手続きに要する時間や同意するまでの手間がかかる。Bandcampの新機能ではこれらの負荷を減らせるため、レーベルはリリースタイミングを見逃すことなく、ディストリビューションの地域を拡大できるメリットがある。
当然ながら、自社のBandcampページでもコンテンツを販売することも引き続き可能だ。そのため、レーベルは自社サイトでの配信に加えて、パートナーとのディストリビューションという新たな収益源が確保できる。
無視できないレーベルサービスの存在
Bandcampはレーベル向けの有料サービス「Bandcamp for Labels」を提供することで、これまでは手間のかかっていたコンテンツ販売や物販ビジネスの収益性と効率性を向上させてきた。
自社サイトに加えて、Bandcampを利用するインディーズレーベルは数多い。R&S RecordsやSub Pop、NINJA TUNEなど名門レーベルはほんの一部だ。
Bandcampでは、コンテンツごとに価格を設定できるなど、ユニークな機能を提供してきた。レーベル向けサービスでは、ビジネス面の簡素化や、支払い方法の選択、サイトカスタマイズのオプションといったレーベルビジネスを支援するツールが提供されているのが特徴だ。
そして、これらの機能は、最大15アーティストを抱えるレーベルは月額20ドル、それ以上のアーティストロースターの場合は50ドルで利用が可能になる。
音楽ストリーミングサービスに代表されるプラットフォームがアーティストに開放され始めた昨今の音楽業界では、レーベルの役割や必要性が頻繁に議論されている。
とりわけ、ビジネスの持続性や収益源の確保といった課題や、従来の業務内容が時代遅れになるという現実問題は、日本を含めて世界中のレーベルオーナーやスタッフが悩まされるところだ。
さらに、アーティストがレーベルに所属することのメリットやシナジーも今まで以上に議論されるトピックとなった。
チャンス・ザ・ラッパーやBTSなど、大きなレーベルには所属せずに小規模なチームを軸にした活動で成功を収めるアーティストの例は世界的に後を絶たない。
このような課題を突きつけられたレーベルにとって、ライセンス契約の強化や、独自のディストリビューション網の確保、高い収益分配は、レーベルビジネスを拡大させ続け、アーティストにさらなる対価を提供する上で再考するべきポイントとなっている。
例えば、音楽ストリーミングの世界的普及によって音楽市場の消費動向が変われば、その国や地域で生まれるビジネスも大きく変わってくるため、従来のCD時代には安定していたライセンス契約やサブライセンス契約ももはや時代遅れとなってしまう。レーベルはこうした世界情勢を読み取り、契約を結び直したり、交渉を行う必要に迫られている。
このような課題を解決するため、世界の多くのインディーズレーベルたちは、「レーベルサービス」を強化するサービスを活用することで、マネタイズの新たな活路を見出している。
インディーズレーベルを代表する業界団体Merlinが積極的に世界各地のプラットフォームとデジタルライセンス契約を結んだり、PIASやKobaltのAWALといったインディーズレーベルやアーティスト向けサービスと世界中のレーベルたちがパートナーシップを組み始めていることは、音楽ストリーミング時代に起きている一つの新しい兆候と言える。
2017年、BandcampはデジタルダウンロードやCD、アナログレコード、カセット、物販などを含む売上が2桁成長し、ロイヤリティの累積分配額は2億7000万ドル(約3045億円)に到達した。12カ月で参加するレーベルやアーティストに分配された金額は7000万ドル(約79億円)と、無視できないインパクトを持つ。
音楽ストリーミングの台頭以降、アーティストやレーベルは作品や活動に対して、どのような契約を締結すればいいか、既存の業界構造では実現できない収益とクリエイティブコントロールを保持するための新たな局面を迎えている。
記事提供:All Digital Music