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Spotify、音楽制作のマーケットプレイス「SoundBetter」買収。音楽からの収益化や人材不足問題に挑む音楽系スタートアップと、Spotifyの思惑

コラム All Digital Music

Spotifyは、フリーランスの音楽プロデューサーやシンガー、作曲家、エンジニアなど音楽のプロに楽曲制作の仕事を発注できる、音楽クリエイター向けのマーケットプレイス「SoundBetter」を買収した。

https://soundbetter.com

SoundBetterは音楽プロデューサーや作曲家、エンジニアなど、音楽制作に関するプロフェッショナルやDIYクリエイターが利用するプラットフォーム。登録者数は世界176カ国18万人以上にのぼり、グラミー賞受賞経験のあるプロも参加している。

SoundBetterは音楽制作に必要な人材をクラウドソーシングする。曲やアルバムを制作したいアーティストが、必要なチームメンバーを探す時や、曲のクオリティを上げたい時など、SoundBetterを使いフリーランスのプロに仕事を発注することができる。

アーティストは、SoundBetterに登録しているプロから制作にかかる見積もりや報酬、楽曲の提案を受け、合意すれば依頼することができる。
 

SoundBetter

需要の高い人気ある人材では、「音楽プロデューサー」「女性/男性シンガー」「ミックスエンジニア」「作曲家」「ビートメイカー」「マスタリング・エンジニア」「セッションミュージシャン」だ。

その他にはトップライナー(ボーカル専門の作曲家)や、サラウンド5.1chミキサー、サウンド・デザイナー、映画作曲家などの人材が見つけられたり、弦楽器や管楽器、打楽器、クラシック音楽の演奏家など、パフォーマンスから技術的なスタッフまで、音楽制作のあらゆる過程で求められる人材を供給する。

カニエ・ウェストのプロデューサー、Hoobastankのドラマー、ジャミロクワイのギタリスト、ビヨンセのソングライター、ジョー・コッカーのベーシスト、ハービー・ハンコックのエンジニア、モリッシーのギタリスト、ザ・キラーズのミキシングエンジニア、ジョージ・マイケルのマスタリング・エンジニアなどもSoundBetterに登録している。

SoundBetter共同創業者でCEOのシャカール・ジラド(Shachar Gilad)は同社のサービスをこう説明する「もし日本にいるアーティストが、LAの作曲家を起用したいと思った時や、ドイツのアーティストがニューヨークのグラミー賞受賞経験あるエンジニアにミックスを依頼したい時、ロサンゼルスのクリエイターがハンガリーの弦楽四重奏団にストリングスを演奏してほしいと思った時、SoundBetterは録音から配信までのギャップを補完します」

 

音楽クリエイターの収益源となるマーケットプレイス

2012年に設立されたSoundBetterのビジネスモデルは2通りとなる。制作の仕事を発注した際に発生するコミッション料。もう一つはクリエイター向けの月額59ドルのサブスクリプションプラン。音楽家やクリエイターは仕事の受注が増えるように、自分自身をプロモーションすることがサブスクリプションで可能になる。

SoundBetterのマネタイズ戦略は近年、成長している。設立から同プラットフォームでミュージシャンやプロデューサーが得た収益は1900万ドル(約20億円)以上にのぼる。

さらに2018年10月には、2017-2018年にかけてミュージシャンやプロデューサーの収益額が1200万ドル(12億円)だったと発表された。このことからも、過去数年でSoundBetterを通じた制作の依頼や発注が増加していることが伺える。

SoundBetterは買収後もプラットフォーム運営を続ける。今後は「Spotify for Artists」の下に加わることが決定しているが、具体的なプランは発表されていない。

Spotifyは今回の買収について「SoundBetterは評価を大事にする音楽制作の世界において、タレント発掘、プロジェクト管理、決済システム、レビューシステムのツールを提供し、透明性と信頼を向上させてきました。今回の買収で、Spotify for Artistsを使うアーティストは、コラボレーターを探したり、優れた楽曲を制作したり、新たな収益源を獲得するために、SoundBetterの存在を知ることができるでしょう」と説明する。

SoundBetterはこれまでFoundry Groupや500 Startups、著書「リーンスタートアップ」のエリック・リース(Eric Ries)氏などから出資を受けてきた。Spotifyは買収額を発表していない。

Spotifyはこれまでも、アーティストの収益化の拡大を目指した取り組みを幾つか行い、他社との差別化を図ってきた。

特に近年は、アーティストがSpotifyにディストリビューターやレーベルを経由することなく直接楽曲をアップロードできる、独自の「ディスレクト・ディストリビューション」機能を限定的に提供してきた。これまで直接楽曲がアップロードできるのは、SoundCloudやYouTubeなど一部のプラットフォームに限られてきた。
 

Distrokid

またディストリビューターである「Distrokid」に出資し、外部パートナーとの連携も強化して、アーティストの楽曲リリースと、ロイヤリティ分配からのマネタイズを支援する戦略を強めてきた。

しかし今年に入りSpotifyは、ディレクト・ディストリビューションを終了することを発表。楽曲リリースはDistrokidやThe Orchard、CD Baby、FUGA、EmuBands、Believeなどのディストリビューターの利用を促している。
 

Spotify ディストリビューター

SoundBetterはアーティストのマネタイズ支援で、今までSpotifyが強めてきた戦略に合致するしつつも、方向転換を図ったとも見える。

大きな違いは、これまでの戦略ではストリーミングに限定したマネタイゼーションを目指していた。一方でSoundBetterのようなサービスは、楽曲リリースやコラボレーションを迅速化かつ促進するだけでなく、新たなマネタイズの手法や収入源を確保するための副業的なサービスとしてもアーティストに貢献する。

またSpotifyでは今後、レーベルと契約するアーティストの作品だけでなく、レーベル契約もしないDIYアーティストやインディペンデント・アーティストの曲が爆発的に増加することが予想される。

Spotifyは既存の音楽業界に対して利益をもたらすだけが彼らの存在価値ではなくなってきている。才能ある無名のアーティストや、新しく音楽を始めたばかりのクリエイターのような、音楽業界の外から生まれる音楽クリエイターに対しても耳を傾け、音楽からの収益性という課題に取り組む必要がある。

Spotifyで楽曲を配信するアーティストが、自分の作品を作り続ける傍らで、他人の楽曲にコラボレーションしたり裏方として参加し、マネタイズに繋げる。音楽制作の現場と手法は、ソフトウェアのサブスクリプションや、電子決済や契約書のデジタル化などで、驚くほどの速度で制作から配信まで進行できるようになった。楽曲数と再生数がグローバル規模で伸びれば、楽曲制作に関わるクリエイター同士が世界中でつながり、コラボレーションし、自分たちでマネタイズできる仕組み作りは新しい音楽ビジネスの領域としてさらに成長するだろう。


 

jaykogami
記事提供All Digital Music

Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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