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デヴィッド・バーンがスポティファイを批判、ネットで話題に

コラム All Digital Music

デヴィッド・バーンが音楽ストリーミングの「 Spotify 」を批判、ネットで話題に

img via The Guardian

トーキング・ヘッズなど前衛的バンドやソロキャリアで成功してきたアーティストのデヴィッド・バーン(David Byrne)が、音楽ストリーミングサービス「Spotify」(スポティファイ)を批判するエッセイを英国ザ・ガーディアン紙で公開しました。

Spotify
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「The internet will suck all creative content out of the world」(インターネットは世界中から全てのクリエイティブなコンテンツをダメにする)という、現代に挑戦的なタイトルの長文では、デヴィッド・バーンがなぜ音楽ストリーミングサービスのSpotifyがミュージシャンにとって不利益になるのか、なぜSpotifyのようなモデルが音楽やアートにとって良くない影響を及ぼすのかについて、力説しています。

特に気になった発言を取り上げてみました。

まず冒頭でSpotifyに反対する行動として、数人のアーティスト例を出して、自身も反対していると主張します。

「I’ve pulled as much of my catalogue from Spotify as I can.
(レディオヘッドのトム・ヨークが自身のカタログをSpotifyから引き上げたことを例に上げ)私も自分のカタログを出来る限るSpotifyから引き上げた」

このエッセイでは、デヴィッド・バーンはSpotifyが新しいビジネスモデルであることを認めていながらも、現状ではアーティストにとってSpotifyを収入源にすることは不可能であると述べます。

「Not surprisingly, streaming looks to be the future of music consumption – it already is the future in Scandinavia, where Spotify (the largest streaming service) started, and in Spain.
当然の事ながら、音楽ストリーミングは音楽消費の未来のカタチになりそうです。北欧やスペインでのSpotifyの成功がそれを物語っています。」

「For a band of four people that makes a 15% royalty from Spotify streams, it would take 236,549,020 streams for each person to earn a minimum wage of $15,080 (£9,435) a year.
4人組のバンドがSpotifyによる15%のロイヤリティ料で暮らしていくためには、2億3654万9020回再生されなければ、年間の最低賃金の1万5080ドル(9,435ポンド、約147万8744円)には届きません。」

ミュージシャンは収益源を確保するために、テクノロジー以外の道を見つけなければならず、また自分を含め過去に成功しているミュージシャンであればその分だけ有利な立場にいることも認識しています。

「Some of us have other sources of income, such as live concerts, and some of us have reached the point where we can play to decent numbers of people because a record label believed in us at some point in the past.
私達の中でも(音楽ストリーミング以外で)ライブ・コンサートなどその他の収益があるアーティストがおり、そして、レコード会社が過去に私達を信じてくれたおかげで、そこそこの人の前で演奏できるほどになりました。」

「Spotifyで新しい音楽と出会うことは、不可能でしょ」とテクノロジーに疑問を投げかけます。

「I also don’t understand the claim of discovery that Spotify makes; the actual moment of discovery in most cases happens at the moment when someone else tells you about an artist or you read about them – not when you’re on the streaming service listening to what you have read about (though Spotify does indeed have a “discovery” page that, like Pandora’s algorithm, suggests artists you might like)
私はまたSpotifyによる音楽との出会いに疑問を感じます。音楽と出会う本当の瞬間は、知り合いがアーティストについて教えてくれたり、あなた自身がアーティストについて読んだ時であって、音楽ストリーミングサービスであなたが読み聞きした音楽を聴いている時ではありません(しかしSpotifyには「Discovery」ページがあり、Pandoraには好きそうなアーティストをレコメンドしてくれるアルゴリズムがあります)」

「There is also, I’m told, a way to see what your “friends” have on their playlists, though I’d be curious to know whether a significant number of people find new music in this way.
また、聞いた話ですが、「友人」が作ったプレイリストを閲覧できる方法もあるようですが、はたして一体どれくらいの人がこのやり方で新しい音楽を見つけているのでしょうか?」

Spotifyや音楽テクノロジー最大のデメリットとして、アーティストを長期的に支援する保証がどこにもないと言っています。

「the core issue is about sustainability; how can artists survive in the long term beyond that initial surge of interest?
問題の中心は持続性です。アーティストはどのようにすれば最初の興味関心の波を超えて長期的に生き残れるのでしょうか?」

「The major labels are happy, the consumer is happy and the CEOs of the web services are happy. All good, except no one is left to speak for those who actually make the stuff.
メジャーなレコード会社、消費者、ウェブサービスのCEOはハッピーになれます。全てが順調です。実際にコンテンツを作っている人間達を代弁する人が誰もいないことを除いては。」

現状のテクノロジーが続く限り、いくらSpotifyからのロイヤリティ料を交渉できたところで、それがアーティストをやしなっていくための大きな収益源になることはないという結論に辿り着きました。

「Musicians might, for now, challenge the major labels and get a fairer deal than 15% of a pittance, but it seems to me that the whole model is unsustainable as a means of supporting creative work of any kind. Not just music.
ミュージシャンは今だけメジャーなレコード会社にたかって、15%というわずかな額を引き出せるでしょう。しかし私は(Spotifyのような)このビジネスモデルはクリエイティブな作品を支援していくためには長続きしないと思えます。それは音楽だけではありません。」

幾つか気になった批判を挙げてみました。デヴィッド・バーンは新しいテクノロジーによって得するのは、大手レコード会社とウェブサービスの経営陣とそして無料で音楽コンテンツを入手できるようになった消費者だということを主張しています。デヴィッド・バーンの主張は、アーティストの観点で書かれて、非常に現実的な論点を付いています。ですが、肝心の結論とソリューションが有耶無耶なまま残されています。

この手の議論で難しいところは、全体を俯瞰的に解釈し納得できるように説明することが不可能ということで、ウェブサービス側とアーティスト側と双方で合意できるほど、Spotifyのようなビジネスモデルが成熟していないと言えます。

事実にもデヴィッド・バーンはアーティストに最適なソリューションを提供することができていません。

この議論を読んで思ったことが2つあります。1つ目はインターネットの進化は消費者の文化にも影響を与えていることです。ストリーミングや「Discovery」などネットの機能的側面から音楽を見ると、アーティストにとって短期的には不利益のように見えてきます。しかし、ネットが新しい市場を作っている事実は無視できません。それによって音楽の聴き方も新しく生まれ変わろうとしています。

2つめは、Spotifyは音楽を保有することから音楽にアクセスしたいという消費者ニーズの変化にあったサービスを提供しているという事実です。ユーザーの行動が変化することで、音楽に対する価値観が変わり、Spotifyのようなテクノロジーがその価値観と現実をつなぐプラットフォームを提供しています。消費者の考えや価値観が変わることは誰にも止められないことですよね。だからその変化を補完するテクノロジーが生まれることは必然的ですし、アーティストでもその恩恵を受けている人達も現に存在しています。

デヴィッド・バーンはTED Talkで建築が音楽の進化に与えた影響について語ったこともあるほど、音楽と文化を熟考するアーティストの一人です。彼ほど音楽の歴史と社会について考えられる人が、インターネットの進化が音楽文化に与える影響を短期的にしか読み取れなかったのは、残念に思えます。ですが、声に出して議論を始めない限り現状から一歩も抜けだせません。それがアーティスト本人であればあるほど影響力が高く、一般人にも主張が届き易くなります。そういった議論を繰り返すことで、一般消費者の間にも主張が沸き起こるはずです。音楽ファンが本当に音楽が好きなら、自分たちが聴く音楽についてもっと考えようという想いもデヴィッド・バーンのエッセイには込められているのではないでしょうか?

■記事元http://jaykogami.com/2013/10/4473.html


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